むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
322:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 00:51:46 ID:OVSWlYCIKk
大人2の妻「おまえだけでも無事で良かったよ…」ニコッ
ルーボイ「」ウルッ
大人2の妻「……」
ルーボイ「ぅ……」ブワァッ
大人2の妻「おいで、ルーボイ」
ルーボイ「ひっく…えぐ……」スタスタ
大人2の妻「これからは寂しい思いをするかもしれないけど、強く生きようね…?」ダキッ
ルーボイ「うぁぁ………」ポロポロ
大人2の妻「いっぱい泣きな。あたしはもう渇れちゃったから、泣いてあげられないんだよ…」ヒシッ
ルーボイ「なんでだよ…。父ちゃんの…ばかやろー!!」ポロポロ
大人2の妻「……」ナデナデ
323:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:50:04 ID:TbIaTri9k.
――村長の家――
パッチ「ルーボイくんのお父さん、死んじゃったんですか…?」
村長「あぁ。その件なんだが、君たちは本当に何も知らないのか?」
パッチ「知りません。ボクらは遊びに行ってましたから…」
ダン「あれだけ言い聞かせたにも関わらず、な」
パッチ「……」シュン
村長「まぁいい。実は旅の人が教えてくださってね。
教会に用があって森を歩いてたところで、たまたま二人の骸に出くわしたらしい」
パッチ「旅の人って…?」
ガチャッ
旅人「俺のことさ」
パッチ「」ビクッ
旅人「ん?君はさっきの…」
324:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:52:48 ID:NaSHqV57P6
旅人「奇遇だねぇ?」ニコッ
パッチ「あ、あぁ……」アタフタ
村長「どこかで会われたので?」
旅人「まぁ。教会に向かう道すがらね」
村長「なんと…やはり教会に行ってたのか?」
パッチ「違います!ボクは…」
旅人「森にカリアムの花を取りに行ってた。そうだろ?」
パッチ「は、はい…」
旅人「ところで君と一緒にいた少年は?」
パッチ「え?」
旅人「あの子だよ、ほら〜?頭巾を被った子がいただろ?」
パッチ「あ……」
パッチ「(カロルくんの事だ…)」
325:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:55:38 ID:TbIaTri9k.
ダン「頭巾だと?まさか…!」
旅人「心当たりが?」
ダン「あぁ。おそらく村に忍び込んだ例のホビットだろう。
息子たちはそいつに騙されてんだ」
旅人「ほっほーう?なぁるほどねぇ?」ニヤリ
パッチ「ち、ちが…」
村長「それはどういう事だ!?」
パッチ「」ビクッ
ダン「……」
村長「子供とはいえ、村人までがホビットに毒されたなどと知れれば、いよいよタダでは済まんぞ!?」
ダン「だから…さっさと、あのホビットも宣教師も始末するべきだと言ったんだ!
それをあんたがモタモタやってるから…!」
村長「モタモタも何も話し合ったのは昨日の夜だろう!?
そんな早急に対応出来るか!」
ダン「し、しかし…!」
村長「…いつからだ?」
ダン「……昨日の朝です。あの宣教師に連れられて…」
村長「なるほどな。お前が焦っていたのも納得だ…」
ダン「申し訳ない…」
326:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 16:59:03 ID:NaSHqV57P6
村長「……どうしたものか」
旅人「あぁ〜。もういいかな?」
村長「はっ!す、すみませんな。内々の話で止めてしまいまして…」
旅人「いやいや、結構結構クックドゥルドゥーですよ」
村長「は?」キョトン
シーン
旅人「あらま。ウケなかった?
結構結構コケコッコーと思わせてクックドゥルドゥーと言うジョークだったんですがね?」
村長「は、はぁ…?」
村のおばさん「お、おほ。おほほ…。お、おもしろいジョークですこと…」ヒクヒク
テパ「(なに言ってんだ、こいつ?)」
327:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:02:51 ID:NaSHqV57P6
旅人「まぁジョークはこの辺にしておいて、パッチ君って言ったかな?」
パッチ「は、はい」ドキッ
旅人「君はなぜホビットの少年といたんだい?」
パッチ「そ、それは…」
旅人「それはって事は、やはりホビットだったのか」
パッチ「あ…ち、違います!」
旅人「今さら隠しても無駄だよ〜?」
ダン「正直に言うんだぞ?」
パッチ「ただの友達です…」
旅人「」ニヤリ
パッチ「」ゾクッ
旅人「ところで取りに行ったお花はどこにあるんだい?」
パッチ「」ハッ
旅人「手には持っていないみたいだし、ポッケの中かなー?」
パッチ「あ、歩いてて落としたみたいです…」ドキドキ
旅人「ホントにぃ?」ジロジロ
パッチ「は、はい」プイッ
328:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:06:15 ID:TbIaTri9k.
旅人「ふーん。そういえばお父さん?」
ダン「なんだ?」
旅人「今日は何か特別なイベントはありますかな?たとえば誕生日とか…」
パッチ「」ギクッ
ダン「……いや、ないな?」
旅人「そりゃおかしいですな?
この子は確かに『父親の誕生日だから花を送る』と、そう話していたんですが?」
ダン「なんだって……?」
パッチ「……」フルフル
旅人「それから村長、カロルという名前の少年は村人の中にいますか?」
村長「はぁ?カロル…ですか?」
パッチ「」ハッ
――回想(>>262-266)――
パッチ「ボクたち、これから森に入ってカリアムの花を摘むんです」
旅人「カリアムの花?なんだね、それは?」
パッチ「親愛の花言葉がある桃色のキレイな花ですよ。
ボクらの村では感謝する人にカリアムの花を送るんです。
今日はお父さんの誕生日ですから。ね?カロルくん?」
カロル「う、うん?そうだよ?」
――――
329:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:13:46 ID:NaSHqV57P6
パッチ「」ガタガタブルブル
旅人「どうなんです?」
村長「そんな子はいませんが…」
旅人「はっはーん!チェックメイトだ!」パチンッ
村長「どういう意味ですかな?」
旅人「この事件、なんとなく読めてきましたよ…」
村長「はい?」キョトン
旅人「まぁとりあえず今日は遅いんで、これくらいにしましょう」
村長「あ、はぁ。それもそうですな」
パッチ「」ブルブル
ダン「…パッチ。大丈夫か?」
パッチ「う、うん…だいじょうぶだよ…」フルフル
旅人「君も帰ってぐっすり寝なさい。よい子はおねむの時間だよ〜?」ニヤニヤ
パッチ「」ビクッ
ダン「…帰るぞ?」
パッチ「うん…」アセアセ
スタスタ ガチャッ バタンッ
330:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:17:01 ID:NaSHqV57P6
旅人「明日の朝、全員を広場にでも集めといてくださいな」
村長「…分かりました」
村のおばさん「分かりましたって、村長。いいのかい?」ヒソヒソ
村長「仕方ないだろう。外の人間とはいえ、あの方以外に証人がおらんのだから」ヒソヒソ
村のおばさん「あたしゃ、あの旅人が怪しいと思うんだけどね…」ヒソヒソ
村長「犯人ならば、わざわざ知らせに来ないだろう?」ヒソヒソ
村のおばさん「そりゃそうだけど…」ヒソヒソ
旅人「まぁまぁ。ご心配なさらず?
必ず答えを見つけますから、じっちゃんの名にかけてね」
村長「(この人のキャラクターが掴めん…)」
旅人「それじゃおやすみなさいっと」ガチャッ
村長「あ、そこはわしの寝室……」
バタンッ
村長「……」
村のおばさん「あたしらも帰ろうかね?」
テパ「そうッスね。じゃあ村長、失礼しますね」
スタスタ ガチャッ バタンッ
村長「……客人とはいえ、妻と同じ寝間で寝かせていいものなんだろうか…?」ウーン
331:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:20:17 ID:NaSHqV57P6
――森――
ビュービュー
カロル「」ブルブル
母「寒いの?」
カロル「ううん…平気…」ブルブル
母「もう…こんなに震えてるじゃない?」ギュッ
カロル「お母さま…?」フルフル
母「こうしてくっつくと、暖かいでしょ?」ニコッ
カロル「うん…ぽかぽかする…」ヌクヌク
332:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:23:38 ID:NaSHqV57P6
母「思い出すわね?昔はこれが当たり前だったっけ…?」
カロル「初めてお家に住んでからは、ずっと暖かかったもんね?」
母「そうね。たまたま見つけた空き家で、もう何年も暮らしていたんだもの。
旅をしていた頃の事なんて、遠く感じるわね」
カロル「もう…あの家も無いんだね」シュン
母「えぇ。無くなっちゃったわね……」
カロル「マルクと遊ぶのに使ってた枯れ木細工の玩具とか
旅人が捨てた林檎の匂袋とか、お母さまが読み聞かせてくれた絵本とか、思い出がいっぱいあったのに…」
母「……坊やがあたしの為に集めてくれた押し花のアルバムも、おじいさまの遺書も焼けてしまったわ…」
カロル「ボクが友達を欲しがったから…?」
母「ううん、違う。きっと過去は捨てなさいっていう神様の思し召しよ?」
カロル「……?」
333:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:25:25 ID:TbIaTri9k.
母「それ以上に大切な物がこれからたくさん集まるから。
抱えきれなくなってしまう前に捨てなさいって、ね?」
カロル「そうなのかな?」
母「そうよ?現に3人もお友達が出来たじゃない?」
カロル「えへへ。そうだね」ニコリ
母「そろそろ寝ましょう?」
カロル「……宣教師さま、心配だな」
母「明日にもなればマルクも宣教師様を見つけてくれるわ?」
カロル「ホント?」
母「えぇ。今夜は安心して眠りなさい?」
カロル「うん。分かった…」ウトウト
母「おやすみなさい、わたしのかわいいぼうや…?」ナデナデ
カロル「おやすみ…なさい」スヤスヤ
母「……」ギュッ
母「(宣教師さま、どうか無事でいてくださいね?)」
334:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:09:34 ID:8C0o4sgn8A
――夢――
カロル「」タタタッ
カロル「」スッ
カロル「やっぱり!初めて見るお花だ!」パァァ
カロル「押し花にしてアルバムに入れよう!」ゴソゴソ
カロル「ふふ。お母さま、喜んでくれるかなぁ?」ニコニコ
ワンッワンッ グルルルル バウッ キャンッ
カロル「?」
カロル「なんだろ…?」クルッ
カロル「」タタタッ
335:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:10:44 ID:tP/EhEtJvg
カロル「あっ…!」
犬1「ばうっ!ばうっ!」
犬2「ぐるるるる…!」フーッフーッ
子犬「くぅん…」プルプル
カロル「大きい獣が小さい子をいじめてる…」
犬2「わんっ!!」
子犬「」ビクッ
犬1「ばうっ!」ドンッ
子犬「きゃいんっ」バタッ
犬1「がるるる!」ガッ
子犬「きゃんっ」ジタバタ
カロル「……!」ワナワナ
336:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:12:56 ID:tP/EhEtJvg
犬1「ばうっ!」ザッ
子犬「……!」プシッ
カロル「や、やめろ!」バッ
犬2「わう?」クルッ
犬1「」グルルルル
カロル「ぅ……」ビクッ
犬2「わんっ!!」
カロル「(こ、怖くない…怖くない…!)」フルフル
犬1「」ギロッ
カロル「〜〜〜!」バッ
犬1「?」
カロル「……!」フリフリ
犬2「わう?」キョトン
犬1「」キョトン
337:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:13:51 ID:tP/EhEtJvg
カロル「(今だよ!ボクが猫じゃらしで惹き付けてる間に…!)」チラッ
子犬「」ポカーン
犬1「」グルルルル
カロル「(は、早く逃げて!?)」チラッチラッ
子犬「」ハッ
子犬「」タタタッ
カロル「はぁ…。よかったぁ…」ホッ
犬1「ばうっ!」バッ
犬2「あおんっ!」ガッ
カロル「えっ?うわっ」ドサッ
ガブッ バウッ イタイ! イタイヨ!! ガリガリ ワオンッ オカアサマー!!?
338:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:15:42 ID:tP/EhEtJvg
カロル「うぅ…」グッタリ
カロル「いたた…!」ズキズキ
カロル「あ、あの子は…ちゃんと逃げられたかな?」
子犬「」クーン
カロル「え?」キョロキョロ
子犬「あん!」バッ
カロル「わっ!?」ビクッ
子犬「」ハッハッ
カロル「なんだ、キミだったの?」ホッ
子犬「あん!」シッポフリフリ
カロル「あは!そっか。逃げられたんだね?」ニコッ
子犬「」コクコク
カロル「よかったね?ふふ…」
カロル「っ…!」ズキン
子犬「くぅん?」ペロペロ
カロル「ふふ。ありがとう。でもボクは大丈夫だよ?」
339:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:17:44 ID:8C0o4sgn8A
子犬「あぅん…」シュンッ
カロル「悲しまないで?キミのせいなんかじゃないもの?
キミもケガをしてるから、ボクより自分を大切にしてあげて?」ニコッ
子犬「……」ペロペロ
カロル「そうそう。しっかり舐めて傷を治さなくちゃね」ニコニコ
子犬「あんっ!」
340:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:18:36 ID:8C0o4sgn8A
カロル「じゃあボクは帰るね。キミもあの獣たちに見つかる前に帰るんだよ?」
子犬「」クーン
カロル「……ごめん。お母さまが心配するから帰らなきゃ」
子犬「」スリスリ
カロル「だ、ダメ!ちゃんと自分のお家に…」
子犬「」ウルウル
カロル「ぅ…」タジタジ
子犬「」シッポフリフリ
カロル「」キュンッ
カロル「(うぅ…。こんなのズルいよ…。ほっとける訳ないじゃない)」チラッ
子犬「」キラキラ
カロル「」ハァ
カロル「…ボクのお家に来る?」
子犬「きゃんっ!きゃんっ!」ピョンピョン
…………
341:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:20:22 ID:8C0o4sgn8A
――森――
カロル「ん…ふぁぁ…」ノビノビ
カロル「………」
母「」スヤスヤ
カロル「(マルク……)」
母「……ぅん?」
カロル「(なんだろう…。胸がざわざわする…)」
母「早起きねぇ…」ポンポン
カロル「わっ」ビクッ
母「あらあら」クスクス
カロル「あ、お母さま…。おはよう」
母「おはよう。こんなに早起きしてどうしたの?」
カロル「なんでもないよ。目が覚めちゃっただけ」ニコッ
母「そう?まぁ枯れ木の窪みはすきま風に当たって寝心地が良くないわよね」
カロル「あはは。そうかも」ニコニコ
母「なーんてね。嘘はダメよ?」ニヤリ
カロル「」ドキッ
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