むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
267:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:33:26 ID:tYrmy1Mm3k
タタタッ
カロル「パッチくん、ありがとね!」タタタッ
パッチ「いいよ、さっきの様子だと何かあるんでしょ?」
カロル「うん、お母さまに言われたんだ。あの人は危ないって」
パッチ「どこかで会ったの?」
カロル「一昨日ね。ボクの家にあの人が迷いこんで来て、お母さまが村の場所を教えてあげたんだ」
パッチ「うん」
カロル「そしたら夜に村の大人たちが家に来て、火を点けたんだ…」
パッチ「……だからカロルくんは教会に住んでるのかい?」
カロル「うん、宣教師さまが助けてくれたの!
大人たちを説得してね!かっこよかったよ!」
パッチ「……そうなんだ。それでなんであの人が危ないんだい?」
カロル「あの旅の人が村の大人に家を教えたんだって。
ボクとお母さまを買うために…」
パッチ「…ちょっと待って、買うってどういうこと?」
カロル「分からない。でも…きっと良い意味じゃないと思う」
パッチ「そうだね。絶対にだめだよ、そんなの!」
カロル「だから早くお母さまに教えなくちゃ!
教会にいたらルーボイくんも危ない!」
パッチ「…あの人、教会に行くって言ってたもんね?」
カロル「うん、急ごう!」
パッチ「うん!」
268:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:35:46 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「それにしたってひどいよ!
大人たちはカロルくんの家を燃やして、その上売ろうとするなんて!」タタタッ
カロル「……」タタタッ
パッチ「もしお父さんまで一緒になってやってたなら、ボクは軽蔑するよ…!」
カロル「……それは違うと思うなぁ」ピタッ
パッチ「え?」ピタッ
カロル「誰かを恨んだり嫌ったりしても何も変わらないし、自分が辛いだけだよ?」
パッチ「でも…カロルくんは我慢できるの?」
カロル「うん。辛いのは慣れっこだもん」
パッチ「そんなの…おかしいよ」
カロル「あはは。そうかもね?
けどパッチくんもルーボイくんも宣教師さまもボクを嫌わないでしょ?
こんな幸せなことってないよ!」
パッチ「カロルくん…」
カロル「お母さまが教えてくれたのは間違ってなかったんだ。
辛くて、悲しくて、やりきれなくても、誰かのせいにしちゃいけないって…」
パッチ「…ごめん。ボクが間違ってたよ」
カロル「ううん。ボクの方こそ突然ごめん。早く行かなきゃね」
パッチ「…うん」
ダッ タタタッ
269:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:38:27 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――
ルーボイ「あいつらおせぇなぁ。なにしてんだろ…?」
母「そうね。宣教師様も戻られないし心配だわ…」アタフタ
マルク「くぅん…」
バンッ
ルーボイ「うわっ」ビクッ
母「きゃっ!」ビクッ
マルク「わぅ?」
カロル「みんな!早く逃げて!?」
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「な、なんだ。お前らかよ!びっくりしたじゃんか!」
母「…逃げてって、どういうことなの?」
カロル「おととい家に来た旅人がここに来るんだ!」
母「なんですって!?」
ルーボイ「はぁ?お前なに言ってんだよ?」キョトン
パッチ「はぁっ…はぁっ…説明は後でするから、カロルくんの言う通りにして!」
ルーボイ「意味が……」
マルク「わんっ!!」
ルーボイ「ひっ!!」ビクッ
マルク「ぐるる…!」
ルーボイ「わ、分かったよ。行けばいいんだろ?」ビクビク
母「荷物を用意する時間も惜しいわ!行きましょ!」ダッ
カロル「おいで、マルク!」ダッ
マルク「わんっ!」ダッ
パッチ「ルーボイくんも早く!」ダッ
ルーボイ「ちょ、ちょっと待てよ!」ダッ
270:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:07:40 ID:PegmcYVJcA
――十数分後――
旅人「おんやぁ〜?」
旅人「こりゃ一体全体どうしたことだ?」キョロキョロ
旅人「せっかく来た客にもてなしはおろか茶も出さない」スタスタ
旅人「おまけにもぬけの殻ときたもんだ?」ハァ
旅人「…おかしいねぇ。俺がここへ来ると決めたのはつい先刻のことだ」
旅人「漏れる筈が無いってのに…」
旅人「(開けっ放しの扉…散らかった木の人形。
まだ水滴の残る食器はさっきまで洗われてた証拠だ…)」
旅人「完璧に逃げられてるじゃないか」
旅人「なんでだ?何をまちがえ……」
旅人「」ハッ
旅人「まさか…さっきの子供か?」
旅人「(しかし片方は明らかに人間だったしな…。
ホビットと人間の子供が一緒にいる訳が…)」
旅人「……まぁいいだろ。考えてみても無駄だ。
まずは村に戻るとするかね」
271:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:09:39 ID:cYUoihoiOE
――森――
母「みんな…はぁっ…だいじょうぶ…?」ゼーゼー
カロル「う…うん…」ゼーゼー
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「急になんなんだよ?」ピンピン
マルク「くぅん?」
パッチ「(マルクは犬だから分かるけど、ルーボイくんの体力はどうなってんだろ…?)」ゼーゼー
272:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:12:04 ID:PegmcYVJcA
母「二人はすぐに村に帰りなさい?」
ルーボイ「え…な、なんで?」
カロル「ごめんね…。でもここは危ないから…」
ルーボイ「だぁかぁらぁ!何が危ないんだよ!
教えてくんなきゃ分かんねーだろ!?」プンスカ
母「……怖い人間がいるの。見つかればあなたも怖い目に合うかもしれないわ?
だから今日はお家に帰ってちょうだい。お願いよ…」
ルーボイ「はぁ?意味わかんないよ」
カロル「……」オロオロ
273:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:13:12 ID:cYUoihoiOE
パッチ「ルーボイくん、言う通りにしよ?」
ルーボイ「お前まで何言ってんだよ!?」
パッチ「ボクもその人に会ったんだ。カロルくんが迎えに来た時に…。
正直言って気味の悪い人だった…」
ルーボイ「はぁ!?
じゃあお前らは危ない奴に会ったのに、なんで平気なんだよ?」
パッチ「たまたまだよ。運が良かったんだ」
ルーボイ「みんなおかしいぞ!
さっきから…訳がわかんねーよ!!」
パッチ「…分かんないなら、村に帰ってからちゃんと説明するよ」
ルーボイ「なんだよ、それ?今教えればいいだろ?」
パッチ「もう…!どうして分かってくれないのさ?」
ルーボイ「お前らが訳わかんねーからだろ!?」
カロル「け、ケンカしちゃダメだよ?」オロオロ
パッチ「……」
ルーボイ「ちっ…」ムスッ
274:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:15:53 ID:cYUoihoiOE
母「……ルーボイくん、あなたは大事なことを忘れてるわ?」
ルーボイ「…大事なこと?」
母「あたしと坊やはホビットなの。
あなたたち人間にとって、憎むべき存在なのよ?」
ルーボイ「に、にく…?」キョトン
パッチ「嫌ってるってことだよ…」ボソボソ
ルーボイ「わ、わかってるよ!」プンスカ
母「そう。とても嫌われてるの。
だから、あたしたちを狙う人間も多いわ?
一緒にいると危険な目に遭うかもしれないのよ…?」
ルーボイ「……」
母「もうおしまいにした方がお互いの為かもしれない…」
パッチ「え…」
カロル「……」シュン
275:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:18:43 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「……なんだよ、それ…?
じゃあ…昨日まで遊んでたのはなんだったんだよ…?」
母「……ごめんなさい。
あたしたちの方から近付いておいてわがままだとは思うわ。
でもこれが精一杯なの。これ以上は、もう…」
パッチ「そ、そんな…」アセアセ
ルーボイ「……イヤだ!友達が危ないのに帰れるかよ!?
いきなり終わりにしようなんて、ずるいだろ!!」
母「」ドキッ
パッチ「……!」
276:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:20:52 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「おい、カロル!お前はどうなんだよ!?」
カロル「……」
ルーボイ「本当にいいのかよ!?」
カロル「い、いい。だって…しょうがないもん」
ルーボイ「うるせぇ!このウソつき!!」
カロル「」ビクッ
ルーボイ「せっかく友達になったのに、これで終わりなんて絶対イヤだからな!?」
カロル「……」
ルーボイ「言ったろ!
ホビットとか、人間とか、知らねーしどうでもいい!友達だって!」
ルーボイ「遊んだこと無いって言ってたじゃんか!
だから…いっぱい遊びたいって…言ってたじゃんか!
なのに…今さらホビットだからとか、そんなんで…!」ポロポロ
カロル「」ウルウル
カロル「うん…」グスッ
277:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:25:27 ID:cYUoihoiOE
カロル「ボクも、友達だって思ってる…」グスッ
ルーボイ「それなら…ちゃんと…」グシグシ
カロル「けど…安心して?
ボクとお母さまは平気だから」
ルーボイ「なっ…!まだわかん……」カッ
カロル「ボクを信じて?
友達は、友達を裏切らない…絶対に」
ルーボイ「おまえ…」
カロル「また一緒に遊ぼ?今度はボクから会いに行くよ!」ニコッ
ルーボイ「」グッ
パッチ「…ルーボイくん」ニコッ
ルーボイ「分かったよ、もういいよ!お前なんか知らねー!」
カロル「あ…」シュン
ルーボイ「…約束だからな!」
カロル「え?」
ルーボイ「破ったら、もう遊んでやらないからな!」
カロル「…うん、約束!」ニッコリ
パッチ「ほんと素直じゃないなぁ…」ニヤニヤ
ルーボイ「うるせー!!」プンスカ
マルク「わんっ!」シッポフリフリ
278:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:30:05 ID:PegmcYVJcA
パッチ「じゃあ、またね!」
カロル「うん!」
ルーボイ「またな!絶対遊びに来いよ!」
カロル「もちろん!」
マルク「」シッポフリフリ
カロル「」ニコニコ
母「良かったわね、いいお友達に恵まれて?」ニコッ
カロル「うん…」
母「目まぐるしい4日間だったけど、坊やの笑顔がたくさん見れてお母さんも嬉しいわ?」ニコニコ
カロル「えへへ…」テレテレ
279:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:31:21 ID:cYUoihoiOE
母「ふふ…今夜の寝床を探しましょうか?」
カロル「…宣教師さまはどうするの?」
母「あ、そういえばそうね…。
どうしましょう。どこに行かれたかも分からないし…」
カロル「まだ教会にあの旅人がいたら宣教師さまが危ないよ…」オロオロ
母「教会の近くは行けないし、探すにしても動き回ると見つかる可能性があるわね…」
カロル「ボクが探しに行くよ!頭巾を被ったらバレなかったから!」
母「なに言ってるの!ダメに決まってるでしょ?
パッチくんも言ってたじゃない?運が良かっただけって!」
カロル「でも心配だよ…」シュン
母「気持ちは分かるわ?けど焦っても何も生まれない。そうでしょ?」
カロル「はい…」
母「(本当にどうしたら…)」
280:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:34:07 ID:PegmcYVJcA
マルク「わんっ!」
母「あら、どうしたの?」
カロル「……?」
マルク「わんっ!わんっ!」ピョンピョン
母「お腹が空いちゃったのかしら?」
マルク「」ブンブンブンブン
母「違うの?」
マルク「」コクコク
カロル「もしかして、マルクが探してくれるの?」
マルク「はっ!はっ!」コクコク
281:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:44:17 ID:PegmcYVJcA
母「気持ちは嬉しいけど…」
カロル「大丈夫だよ、マルクは賢いもの!
きっと宣教師さまを連れてきてくれるよ!」
マルク「わぅんっ!」
母「確かにマルクなら人間に見つかっても平気だし、鼻も利くから探すにはうってつけだけど…。
言葉を話せないから、たとえ宣教師様を見つけても連れて来れるかしら…?」
マルク「ぅー……」ガクッ
カロル「……そうだ!」ポンッ
母「え?」
カロル「手紙を書いてマルクに持たせればいいんだよ!
そうすれば喋らなくても伝えられる!」
母「……!そうね、いいかもしれないわ!
……あ、ダメよ。持たせようにも…」
カロル「ううん。紐で首に括り付ければ安心でしょ?」
母「…そう都合よく紐があるかしら?」
カロル「ここは森の中だから長いツタとか、丈夫でしなやかな枝を使えばいいよ」
母「……!」ビックリ
カロル「お母さま?」
母「すごいわ?完璧よ、坊やは賢いわね!」
カロル「お、おおげさだよ…?」タジタジ
282:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:46:40 ID:PegmcYVJcA
カロル「じゃあボク、紙とペン持ってるから、さっそく書いちゃうね」
母「あ、待って!あたしも書くわ。一枚ちょうだい?」
カロル「うん!」つ【紙】
カキカキ キュッキュッ
母「括り付けて、と。うん!問題ないわね?」キュッ
マルク「わぅ」コクリ
カロル「マルク、頼んだよ?」
マルク「わんっ!!」キリッ
マルク「」タタタッ
母「無事に連れ帰ってくれるといいけれど…」
カロル「」ギュッ
母「あら、手なんて合わせてどうしたの?」キョトン
カロル「宣教師さまが教えてくれたんだ?
手を合わせて祈ると神様が願いを叶えてくれるって」
母「まぁ…?」
カロル「…宣教師さまがちゃんと帰って来ますように」ギュッ
母「」ニコッ
母「………」ギュッ
283:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:03:34 ID:HNswQRyMvc
――大聖堂(牢屋)――
宣教師「」グッタリ
牢屋番「……」スタスタ
宣教師「」
牢屋番「おい」
宣教師「」
牢屋番「おい、起きろ!」
シーン
牢屋番「ちっ」
カチャカチャ ガチャッ
牢屋番「本来は牢の扉は開けられないが仕方ないか。
おい、起きろ!飯だ!」ユサユサ
宣教師「ん……」
牢屋番「たく!さっさと起きろって言ってんだろ!」
284:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:07:11 ID:2jtQ6Mfo/w
宣教師「ここは…?」ボヤー
牢屋番「なんだ、覚えてないのか?
お前は邪教に堕ちた罪人として牢に入れられたんだ」
宣教師「邪教…。なるほど、私は司祭様に…」
牢屋番「そういうことだ。どうやらお前は司祭様に目をかけられていたようたが、これまでだろうな。
神の教えに背く者を司祭様は許さない。覚悟を決めておけ」
宣教師「その口振りでは、私は始末されるのでしょうか?」
牢屋番「さぁな。殺されはしないだろうが、おそらくなんらかの罰を課せられるだろう」
宣教師「……この服は?」
牢屋番「ん?あぁ、囚人用の簡素な布さ。
罪人に神聖な修道服を着せるわけにはいかんからな」
宣教師「………」
285:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:08:58 ID:2jtQ6Mfo/w
牢屋番「ほら、飯だ。さっさと食え」ズイッ
宣教師「……」
牢屋番「なんだ?不満か?
罪人に飯を用意するだけありがたく思ってほしいもんだがな」
宣教師「いえ、一切れのパンにハムにスクランブルエッグ。食後のミルクまで付いて、むしろ豪勢です」
牢屋番「そんな質素な飯でか?」バタンッ ガチャッ
宣教師「えぇ。施しを受けて生活していると、どうしても倹約しなければなりませんからね…。
食事は野菜とお米でまかない、必要な資材や資料の購入にお金をかけていましたから」
牢屋番「はぁ…そんなもんなのか?」
宣教師「まぁ…そうですね」
286:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:10:56 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「あんた、確かホビットと暮らしてんだろ?」
宣教師「……」
牢屋番「だんまりか。俺からすれば、なんであんな奴らと暮らせるのか分からないがな」
宣教師「……」
牢屋番「早いとこ目を覚ました方がいい。
奴らは狡猾な種族だ。信じるだけ無駄だよ」
宣教師「大きなお世話です…」プイッ
牢屋番「ふん…。食器の片付けもあるんだ。
冷めないうちに皿の上を空っぽにしとけよ?」
宣教師「……」モグ
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