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少年「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:21:41 ID:apUuk9iOiY
むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。


267:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:33:26 ID:tYrmy1Mm3k
タタタッ

カロル「パッチくん、ありがとね!」タタタッ

パッチ「いいよ、さっきの様子だと何かあるんでしょ?」

カロル「うん、お母さまに言われたんだ。あの人は危ないって」

パッチ「どこかで会ったの?」

カロル「一昨日ね。ボクの家にあの人が迷いこんで来て、お母さまが村の場所を教えてあげたんだ」

パッチ「うん」

カロル「そしたら夜に村の大人たちが家に来て、火を点けたんだ…」

パッチ「……だからカロルくんは教会に住んでるのかい?」

カロル「うん、宣教師さまが助けてくれたの!
大人たちを説得してね!かっこよかったよ!」

パッチ「……そうなんだ。それでなんであの人が危ないんだい?」

カロル「あの旅の人が村の大人に家を教えたんだって。
ボクとお母さまを買うために…」

パッチ「…ちょっと待って、買うってどういうこと?」

カロル「分からない。でも…きっと良い意味じゃないと思う」

パッチ「そうだね。絶対にだめだよ、そんなの!」

カロル「だから早くお母さまに教えなくちゃ!
教会にいたらルーボイくんも危ない!」

パッチ「…あの人、教会に行くって言ってたもんね?」

カロル「うん、急ごう!」

パッチ「うん!」
268:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:35:46 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「それにしたってひどいよ!
大人たちはカロルくんの家を燃やして、その上売ろうとするなんて!」タタタッ

カロル「……」タタタッ

パッチ「もしお父さんまで一緒になってやってたなら、ボクは軽蔑するよ…!」

カロル「……それは違うと思うなぁ」ピタッ

パッチ「え?」ピタッ

カロル「誰かを恨んだり嫌ったりしても何も変わらないし、自分が辛いだけだよ?」

パッチ「でも…カロルくんは我慢できるの?」

カロル「うん。辛いのは慣れっこだもん」

パッチ「そんなの…おかしいよ」

カロル「あはは。そうかもね?
けどパッチくんもルーボイくんも宣教師さまもボクを嫌わないでしょ?
こんな幸せなことってないよ!」

パッチ「カロルくん…」

カロル「お母さまが教えてくれたのは間違ってなかったんだ。
辛くて、悲しくて、やりきれなくても、誰かのせいにしちゃいけないって…」

パッチ「…ごめん。ボクが間違ってたよ」

カロル「ううん。ボクの方こそ突然ごめん。早く行かなきゃね」

パッチ「…うん」

ダッ タタタッ
269:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:38:27 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――

ルーボイ「あいつらおせぇなぁ。なにしてんだろ…?」

母「そうね。宣教師様も戻られないし心配だわ…」アタフタ

マルク「くぅん…」

バンッ

ルーボイ「うわっ」ビクッ

母「きゃっ!」ビクッ

マルク「わぅ?」

カロル「みんな!早く逃げて!?」

パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー

ルーボイ「な、なんだ。お前らかよ!びっくりしたじゃんか!」

母「…逃げてって、どういうことなの?」

カロル「おととい家に来た旅人がここに来るんだ!」

母「なんですって!?」

ルーボイ「はぁ?お前なに言ってんだよ?」キョトン

パッチ「はぁっ…はぁっ…説明は後でするから、カロルくんの言う通りにして!」

ルーボイ「意味が……」

マルク「わんっ!!」

ルーボイ「ひっ!!」ビクッ

マルク「ぐるる…!」

ルーボイ「わ、分かったよ。行けばいいんだろ?」ビクビク

母「荷物を用意する時間も惜しいわ!行きましょ!」ダッ

カロル「おいで、マルク!」ダッ

マルク「わんっ!」ダッ

パッチ「ルーボイくんも早く!」ダッ

ルーボイ「ちょ、ちょっと待てよ!」ダッ
270:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:07:40 ID:PegmcYVJcA
――十数分後――

旅人「おんやぁ〜?」

旅人「こりゃ一体全体どうしたことだ?」キョロキョロ

旅人「せっかく来た客にもてなしはおろか茶も出さない」スタスタ

旅人「おまけにもぬけの殻ときたもんだ?」ハァ

旅人「…おかしいねぇ。俺がここへ来ると決めたのはつい先刻のことだ」

旅人「漏れる筈が無いってのに…」

旅人「(開けっ放しの扉…散らかった木の人形。
まだ水滴の残る食器はさっきまで洗われてた証拠だ…)」

旅人「完璧に逃げられてるじゃないか」

旅人「なんでだ?何をまちがえ……」

旅人「」ハッ

旅人「まさか…さっきの子供か?」

旅人「(しかし片方は明らかに人間だったしな…。
ホビットと人間の子供が一緒にいる訳が…)」

旅人「……まぁいいだろ。考えてみても無駄だ。
まずは村に戻るとするかね」

271:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:09:39 ID:cYUoihoiOE
――森――

母「みんな…はぁっ…だいじょうぶ…?」ゼーゼー

カロル「う…うん…」ゼーゼー

パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー

ルーボイ「急になんなんだよ?」ピンピン

マルク「くぅん?」

パッチ「(マルクは犬だから分かるけど、ルーボイくんの体力はどうなってんだろ…?)」ゼーゼー
272:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:12:04 ID:PegmcYVJcA
母「二人はすぐに村に帰りなさい?」

ルーボイ「え…な、なんで?」

カロル「ごめんね…。でもここは危ないから…」

ルーボイ「だぁかぁらぁ!何が危ないんだよ!
教えてくんなきゃ分かんねーだろ!?」プンスカ

母「……怖い人間がいるの。見つかればあなたも怖い目に合うかもしれないわ?
だから今日はお家に帰ってちょうだい。お願いよ…」

ルーボイ「はぁ?意味わかんないよ」

カロル「……」オロオロ
273:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:13:12 ID:cYUoihoiOE
パッチ「ルーボイくん、言う通りにしよ?」

ルーボイ「お前まで何言ってんだよ!?」

パッチ「ボクもその人に会ったんだ。カロルくんが迎えに来た時に…。
正直言って気味の悪い人だった…」

ルーボイ「はぁ!?
じゃあお前らは危ない奴に会ったのに、なんで平気なんだよ?」

パッチ「たまたまだよ。運が良かったんだ」

ルーボイ「みんなおかしいぞ!
さっきから…訳がわかんねーよ!!」

パッチ「…分かんないなら、村に帰ってからちゃんと説明するよ」

ルーボイ「なんだよ、それ?今教えればいいだろ?」

パッチ「もう…!どうして分かってくれないのさ?」

ルーボイ「お前らが訳わかんねーからだろ!?」

カロル「け、ケンカしちゃダメだよ?」オロオロ

パッチ「……」

ルーボイ「ちっ…」ムスッ
274:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:15:53 ID:cYUoihoiOE
母「……ルーボイくん、あなたは大事なことを忘れてるわ?」

ルーボイ「…大事なこと?」

母「あたしと坊やはホビットなの。
あなたたち人間にとって、憎むべき存在なのよ?」

ルーボイ「に、にく…?」キョトン

パッチ「嫌ってるってことだよ…」ボソボソ

ルーボイ「わ、わかってるよ!」プンスカ

母「そう。とても嫌われてるの。
だから、あたしたちを狙う人間も多いわ?
一緒にいると危険な目に遭うかもしれないのよ…?」

ルーボイ「……」

母「もうおしまいにした方がお互いの為かもしれない…」

パッチ「え…」

カロル「……」シュン
275:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:18:43 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「……なんだよ、それ…?
じゃあ…昨日まで遊んでたのはなんだったんだよ…?」

母「……ごめんなさい。
あたしたちの方から近付いておいてわがままだとは思うわ。
でもこれが精一杯なの。これ以上は、もう…」

パッチ「そ、そんな…」アセアセ

ルーボイ「……イヤだ!友達が危ないのに帰れるかよ!?
いきなり終わりにしようなんて、ずるいだろ!!」

母「」ドキッ

パッチ「……!」
276:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:20:52 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「おい、カロル!お前はどうなんだよ!?」

カロル「……」

ルーボイ「本当にいいのかよ!?」

カロル「い、いい。だって…しょうがないもん」

ルーボイ「うるせぇ!このウソつき!!」

カロル「」ビクッ

ルーボイ「せっかく友達になったのに、これで終わりなんて絶対イヤだからな!?」

カロル「……」

ルーボイ「言ったろ!
ホビットとか、人間とか、知らねーしどうでもいい!友達だって!」

ルーボイ「遊んだこと無いって言ってたじゃんか!
だから…いっぱい遊びたいって…言ってたじゃんか!
なのに…今さらホビットだからとか、そんなんで…!」ポロポロ

カロル「」ウルウル

カロル「うん…」グスッ
277:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:25:27 ID:cYUoihoiOE
カロル「ボクも、友達だって思ってる…」グスッ

ルーボイ「それなら…ちゃんと…」グシグシ

カロル「けど…安心して?
ボクとお母さまは平気だから」

ルーボイ「なっ…!まだわかん……」カッ

カロル「ボクを信じて?
友達は、友達を裏切らない…絶対に」

ルーボイ「おまえ…」

カロル「また一緒に遊ぼ?今度はボクから会いに行くよ!」ニコッ

ルーボイ「」グッ

パッチ「…ルーボイくん」ニコッ

ルーボイ「分かったよ、もういいよ!お前なんか知らねー!」

カロル「あ…」シュン

ルーボイ「…約束だからな!」

カロル「え?」

ルーボイ「破ったら、もう遊んでやらないからな!」

カロル「…うん、約束!」ニッコリ

パッチ「ほんと素直じゃないなぁ…」ニヤニヤ

ルーボイ「うるせー!!」プンスカ

マルク「わんっ!」シッポフリフリ
278:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:30:05 ID:PegmcYVJcA
パッチ「じゃあ、またね!」

カロル「うん!」

ルーボイ「またな!絶対遊びに来いよ!」

カロル「もちろん!」

マルク「」シッポフリフリ

カロル「」ニコニコ

母「良かったわね、いいお友達に恵まれて?」ニコッ

カロル「うん…」

母「目まぐるしい4日間だったけど、坊やの笑顔がたくさん見れてお母さんも嬉しいわ?」ニコニコ

カロル「えへへ…」テレテレ
279:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:31:21 ID:cYUoihoiOE
母「ふふ…今夜の寝床を探しましょうか?」

カロル「…宣教師さまはどうするの?」

母「あ、そういえばそうね…。
どうしましょう。どこに行かれたかも分からないし…」

カロル「まだ教会にあの旅人がいたら宣教師さまが危ないよ…」オロオロ

母「教会の近くは行けないし、探すにしても動き回ると見つかる可能性があるわね…」

カロル「ボクが探しに行くよ!頭巾を被ったらバレなかったから!」

母「なに言ってるの!ダメに決まってるでしょ?
パッチくんも言ってたじゃない?運が良かっただけって!」

カロル「でも心配だよ…」シュン

母「気持ちは分かるわ?けど焦っても何も生まれない。そうでしょ?」

カロル「はい…」

母「(本当にどうしたら…)」
280:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:34:07 ID:PegmcYVJcA
マルク「わんっ!」

母「あら、どうしたの?」

カロル「……?」

マルク「わんっ!わんっ!」ピョンピョン

母「お腹が空いちゃったのかしら?」

マルク「」ブンブンブンブン

母「違うの?」

マルク「」コクコク

カロル「もしかして、マルクが探してくれるの?」

マルク「はっ!はっ!」コクコク
281:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:44:17 ID:PegmcYVJcA
母「気持ちは嬉しいけど…」

カロル「大丈夫だよ、マルクは賢いもの!
きっと宣教師さまを連れてきてくれるよ!」

マルク「わぅんっ!」

母「確かにマルクなら人間に見つかっても平気だし、鼻も利くから探すにはうってつけだけど…。
言葉を話せないから、たとえ宣教師様を見つけても連れて来れるかしら…?」

マルク「ぅー……」ガクッ

カロル「……そうだ!」ポンッ

母「え?」

カロル「手紙を書いてマルクに持たせればいいんだよ!
そうすれば喋らなくても伝えられる!」

母「……!そうね、いいかもしれないわ!
……あ、ダメよ。持たせようにも…」

カロル「ううん。紐で首に括り付ければ安心でしょ?」

母「…そう都合よく紐があるかしら?」

カロル「ここは森の中だから長いツタとか、丈夫でしなやかな枝を使えばいいよ」

母「……!」ビックリ

カロル「お母さま?」

母「すごいわ?完璧よ、坊やは賢いわね!」

カロル「お、おおげさだよ…?」タジタジ
282:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:46:40 ID:PegmcYVJcA
カロル「じゃあボク、紙とペン持ってるから、さっそく書いちゃうね」

母「あ、待って!あたしも書くわ。一枚ちょうだい?」

カロル「うん!」つ【紙】

カキカキ キュッキュッ

母「括り付けて、と。うん!問題ないわね?」キュッ

マルク「わぅ」コクリ

カロル「マルク、頼んだよ?」

マルク「わんっ!!」キリッ

マルク「」タタタッ

母「無事に連れ帰ってくれるといいけれど…」

カロル「」ギュッ

母「あら、手なんて合わせてどうしたの?」キョトン

カロル「宣教師さまが教えてくれたんだ?
手を合わせて祈ると神様が願いを叶えてくれるって」

母「まぁ…?」

カロル「…宣教師さまがちゃんと帰って来ますように」ギュッ

母「」ニコッ

母「………」ギュッ
283:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:03:34 ID:HNswQRyMvc
――大聖堂(牢屋)――

宣教師「」グッタリ

牢屋番「……」スタスタ

宣教師「」

牢屋番「おい」

宣教師「」

牢屋番「おい、起きろ!」

シーン

牢屋番「ちっ」

カチャカチャ ガチャッ

牢屋番「本来は牢の扉は開けられないが仕方ないか。
おい、起きろ!飯だ!」ユサユサ

宣教師「ん……」

牢屋番「たく!さっさと起きろって言ってんだろ!」
284:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:07:11 ID:2jtQ6Mfo/w
宣教師「ここは…?」ボヤー

牢屋番「なんだ、覚えてないのか?
お前は邪教に堕ちた罪人として牢に入れられたんだ」

宣教師「邪教…。なるほど、私は司祭様に…」

牢屋番「そういうことだ。どうやらお前は司祭様に目をかけられていたようたが、これまでだろうな。
神の教えに背く者を司祭様は許さない。覚悟を決めておけ」

宣教師「その口振りでは、私は始末されるのでしょうか?」

牢屋番「さぁな。殺されはしないだろうが、おそらくなんらかの罰を課せられるだろう」

宣教師「……この服は?」

牢屋番「ん?あぁ、囚人用の簡素な布さ。
罪人に神聖な修道服を着せるわけにはいかんからな」

宣教師「………」
285:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:08:58 ID:2jtQ6Mfo/w
牢屋番「ほら、飯だ。さっさと食え」ズイッ

宣教師「……」

牢屋番「なんだ?不満か?
罪人に飯を用意するだけありがたく思ってほしいもんだがな」

宣教師「いえ、一切れのパンにハムにスクランブルエッグ。食後のミルクまで付いて、むしろ豪勢です」

牢屋番「そんな質素な飯でか?」バタンッ ガチャッ

宣教師「えぇ。施しを受けて生活していると、どうしても倹約しなければなりませんからね…。
食事は野菜とお米でまかない、必要な資材や資料の購入にお金をかけていましたから」

牢屋番「はぁ…そんなもんなのか?」

宣教師「まぁ…そうですね」
286:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/20(日) 20:10:56 ID:HNswQRyMvc
牢屋番「あんた、確かホビットと暮らしてんだろ?」

宣教師「……」

牢屋番「だんまりか。俺からすれば、なんであんな奴らと暮らせるのか分からないがな」

宣教師「……」

牢屋番「早いとこ目を覚ました方がいい。
奴らは狡猾な種族だ。信じるだけ無駄だよ」

宣教師「大きなお世話です…」プイッ

牢屋番「ふん…。食器の片付けもあるんだ。
冷めないうちに皿の上を空っぽにしとけよ?」

宣教師「……」モグ
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sage:


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