むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
261:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:18:06 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――
カロル「二人とも早く来ないかなぁ?」ワクワク
マルク「わんっ!」
カロル「ん?」
ルーボイ「おーい、カロル!遊びに来たぞー!」タタタッ
カロル「あ、ルーボイくん!
…あれ?パッチくんはどうしたの?」
ルーボイ「あいつなら後から来るぜ?
どっちが先に着くか競争してたんだ!」
カロル「そうなんだ…。じゃあボク迎えに行ってくるよ!」
ルーボイ「えー!いいよ、先に遊んでようぜ?」
カロル「そんな…かわいそうだよ…?」
ルーボイ「…じゃあ一人で行けよ。俺は走り疲れたから中で休んでんぞ?」
カロル「うん!」タタタッ
ルーボイ「……たく!いい奴だけど、めんどくさいよなぁ…」
262:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:19:44 ID:n8gUqnX.1k
――村の外――
パッチ「はぁっ…はぁっ…ルーボイくん、早すぎるよ…」
パッチ「先に行っちゃったかな…?」
カロル「パッチくーん!!」タタタッ
パッチ「カロルくん!?」ギョッ
カロル「おはよう!」ニコッ
パッチ「どうしたの!?それにその格好は…?」
カロル「あ、これ?外に出る時はいつも頭巾を被るんだ。
ボクらのことが嫌いな人間も多いから、念のため」
パッチ「そっか…。そうだね…」
263:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:23:30 ID:tYrmy1Mm3k
パッチ「ごめんね、足が遅いから置いてかれちゃって…待たせちゃったかな?」スタスタ
カロル「そんなことないよ?来てくれただけで嬉しいもの!
てっきり道に迷っちゃったかと思って心配したよ?」スタスタ
パッチ「…もしかしてボクの為に迎えに来てくれたの?」
カロル「そうだよ。だって心配じゃない?」
パッチ「あはは…カロルくんはホントに優しいね?
なんでキミみたいな優しいヤツが嫌われるのか分からないよ」
カロル「…決まってるんだってさ。お母さまが言ってた。
だから…しょうがないよ」
パッチ「そうかな?ボクはキミが大好きだよ?
絶対嫌ったりなんてしない」
カロル「パッチくん…」
パッチ「ボクらは何があってもずっと友達だからね?」ニコッ
カロル「うん、ありがと…!」パァァ
パッチ「ううん。どういたしまして!ルーボイくん、待ちくたびれてないかな?」
カロル「大丈夫だよ。ルーボイくんは優しいもの」
旅人「ちょっといいかい?」
カロル「へ?」クルッ
264:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:26:02 ID:n8gUqnX.1k
旅人「やぁ、お出かけかな?」
カロル「あ…一昨日の…」
旅人「ん?」
カロル「な、なんでもないです!」アセアセ
パッチ「……?」
――回想(一昨日の夜)――
母「坊や、さっき家に来た旅人に会ったら逃げなさい?」
カロル「え?なんで?」
母「あの旅人はあたしたちをお金で買おうとしているの。
村人が家を燃やしたのも、あの旅人がやらせたことなのよ…。
出会ったら絶対に逃げなきゃだめ。いい?」
カロル「う、うん…!」
――――
カロル「(お母さまが言ってたのがホントなら逃げなきゃ…!
頭巾のおかげでボクに気付いてないみたいだし…)」
265:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:27:18 ID:n8gUqnX.1k
旅人「キミたち、こんな村の外れで何をしてるんだい?」
パッチ「ボクたち、今からき……」
カロル「パッチくん!行こう?」
パッチ「え?」
カロル「知らない人と話したらいけないってママが言ってたもの」
パッチ「ま、ママ?」キョトン
旅人「しっかり者だねぇ、坊や?
でもおじさん悪い人じゃないんだよ?
そんな風に言われちゃうと悲しいなぁ〜?」
カロル「ね、行こ?」
パッチ「う、うん…」オロオロ
旅人「おじさんね、これから教会に行くんだがキミたちもそうなのかい?」
カロル「」ビクッ
パッチ「……」
旅人「おや、こいつぁひょっとすると大正解?」ヘラヘラ
266:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:30:04 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「違いますよ」
カロル「え…?」
旅人「んー?」
パッチ「ボクたち、これから森に入ってカリアムの花を摘むんです」
旅人「カリアムの花?なんだね、それは?」
パッチ「親愛の花言葉がある桃色のキレイな花ですよ。
ボクらの村では感謝する人にカリアムの花を送るんです。
今日はお父さんの誕生日ですから。ね?カロルくん?」
カロル「う、うん?そうだよ?」
旅人「はぁー!偉いねぇ!おじさん感心したよ!
キミらのご両親も、さぞ喜ばれることだろう?」
パッチ「ありがとうございます。じゃあボクらはこれで」ペコリ
カロル「さようなら」ペコリ
旅人「あーボクちゃんたち、心配はいらないと思うが教会には近付いちゃいけないよ?
あそこはホビットを飼う悪い宣教師さんがいるからねぇ」
パッチ「」タタタッ
カロル「」タタタッ
旅人「あらま、無視されちまったか?
ま、いいだろ。どうせ目的のホビットとは関係ないんだしな。
急がず焦らずゆったり歩いてこうかね」スタスタ
267:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:33:26 ID:tYrmy1Mm3k
タタタッ
カロル「パッチくん、ありがとね!」タタタッ
パッチ「いいよ、さっきの様子だと何かあるんでしょ?」
カロル「うん、お母さまに言われたんだ。あの人は危ないって」
パッチ「どこかで会ったの?」
カロル「一昨日ね。ボクの家にあの人が迷いこんで来て、お母さまが村の場所を教えてあげたんだ」
パッチ「うん」
カロル「そしたら夜に村の大人たちが家に来て、火を点けたんだ…」
パッチ「……だからカロルくんは教会に住んでるのかい?」
カロル「うん、宣教師さまが助けてくれたの!
大人たちを説得してね!かっこよかったよ!」
パッチ「……そうなんだ。それでなんであの人が危ないんだい?」
カロル「あの旅の人が村の大人に家を教えたんだって。
ボクとお母さまを買うために…」
パッチ「…ちょっと待って、買うってどういうこと?」
カロル「分からない。でも…きっと良い意味じゃないと思う」
パッチ「そうだね。絶対にだめだよ、そんなの!」
カロル「だから早くお母さまに教えなくちゃ!
教会にいたらルーボイくんも危ない!」
パッチ「…あの人、教会に行くって言ってたもんね?」
カロル「うん、急ごう!」
パッチ「うん!」
268:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:35:46 ID:n8gUqnX.1k
パッチ「それにしたってひどいよ!
大人たちはカロルくんの家を燃やして、その上売ろうとするなんて!」タタタッ
カロル「……」タタタッ
パッチ「もしお父さんまで一緒になってやってたなら、ボクは軽蔑するよ…!」
カロル「……それは違うと思うなぁ」ピタッ
パッチ「え?」ピタッ
カロル「誰かを恨んだり嫌ったりしても何も変わらないし、自分が辛いだけだよ?」
パッチ「でも…カロルくんは我慢できるの?」
カロル「うん。辛いのは慣れっこだもん」
パッチ「そんなの…おかしいよ」
カロル「あはは。そうかもね?
けどパッチくんもルーボイくんも宣教師さまもボクを嫌わないでしょ?
こんな幸せなことってないよ!」
パッチ「カロルくん…」
カロル「お母さまが教えてくれたのは間違ってなかったんだ。
辛くて、悲しくて、やりきれなくても、誰かのせいにしちゃいけないって…」
パッチ「…ごめん。ボクが間違ってたよ」
カロル「ううん。ボクの方こそ突然ごめん。早く行かなきゃね」
パッチ「…うん」
ダッ タタタッ
269:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/14(月) 21:38:27 ID:tYrmy1Mm3k
――教会――
ルーボイ「あいつらおせぇなぁ。なにしてんだろ…?」
母「そうね。宣教師様も戻られないし心配だわ…」アタフタ
マルク「くぅん…」
バンッ
ルーボイ「うわっ」ビクッ
母「きゃっ!」ビクッ
マルク「わぅ?」
カロル「みんな!早く逃げて!?」
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「な、なんだ。お前らかよ!びっくりしたじゃんか!」
母「…逃げてって、どういうことなの?」
カロル「おととい家に来た旅人がここに来るんだ!」
母「なんですって!?」
ルーボイ「はぁ?お前なに言ってんだよ?」キョトン
パッチ「はぁっ…はぁっ…説明は後でするから、カロルくんの言う通りにして!」
ルーボイ「意味が……」
マルク「わんっ!!」
ルーボイ「ひっ!!」ビクッ
マルク「ぐるる…!」
ルーボイ「わ、分かったよ。行けばいいんだろ?」ビクビク
母「荷物を用意する時間も惜しいわ!行きましょ!」ダッ
カロル「おいで、マルク!」ダッ
マルク「わんっ!」ダッ
パッチ「ルーボイくんも早く!」ダッ
ルーボイ「ちょ、ちょっと待てよ!」ダッ
270:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:07:40 ID:PegmcYVJcA
――十数分後――
旅人「おんやぁ〜?」
旅人「こりゃ一体全体どうしたことだ?」キョロキョロ
旅人「せっかく来た客にもてなしはおろか茶も出さない」スタスタ
旅人「おまけにもぬけの殻ときたもんだ?」ハァ
旅人「…おかしいねぇ。俺がここへ来ると決めたのはつい先刻のことだ」
旅人「漏れる筈が無いってのに…」
旅人「(開けっ放しの扉…散らかった木の人形。
まだ水滴の残る食器はさっきまで洗われてた証拠だ…)」
旅人「完璧に逃げられてるじゃないか」
旅人「なんでだ?何をまちがえ……」
旅人「」ハッ
旅人「まさか…さっきの子供か?」
旅人「(しかし片方は明らかに人間だったしな…。
ホビットと人間の子供が一緒にいる訳が…)」
旅人「……まぁいいだろ。考えてみても無駄だ。
まずは村に戻るとするかね」
271:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:09:39 ID:cYUoihoiOE
――森――
母「みんな…はぁっ…だいじょうぶ…?」ゼーゼー
カロル「う…うん…」ゼーゼー
パッチ「はぁっ…はぁっ…」ゼーゼー
ルーボイ「急になんなんだよ?」ピンピン
マルク「くぅん?」
パッチ「(マルクは犬だから分かるけど、ルーボイくんの体力はどうなってんだろ…?)」ゼーゼー
272:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:12:04 ID:PegmcYVJcA
母「二人はすぐに村に帰りなさい?」
ルーボイ「え…な、なんで?」
カロル「ごめんね…。でもここは危ないから…」
ルーボイ「だぁかぁらぁ!何が危ないんだよ!
教えてくんなきゃ分かんねーだろ!?」プンスカ
母「……怖い人間がいるの。見つかればあなたも怖い目に合うかもしれないわ?
だから今日はお家に帰ってちょうだい。お願いよ…」
ルーボイ「はぁ?意味わかんないよ」
カロル「……」オロオロ
273:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:13:12 ID:cYUoihoiOE
パッチ「ルーボイくん、言う通りにしよ?」
ルーボイ「お前まで何言ってんだよ!?」
パッチ「ボクもその人に会ったんだ。カロルくんが迎えに来た時に…。
正直言って気味の悪い人だった…」
ルーボイ「はぁ!?
じゃあお前らは危ない奴に会ったのに、なんで平気なんだよ?」
パッチ「たまたまだよ。運が良かったんだ」
ルーボイ「みんなおかしいぞ!
さっきから…訳がわかんねーよ!!」
パッチ「…分かんないなら、村に帰ってからちゃんと説明するよ」
ルーボイ「なんだよ、それ?今教えればいいだろ?」
パッチ「もう…!どうして分かってくれないのさ?」
ルーボイ「お前らが訳わかんねーからだろ!?」
カロル「け、ケンカしちゃダメだよ?」オロオロ
パッチ「……」
ルーボイ「ちっ…」ムスッ
274:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:15:53 ID:cYUoihoiOE
母「……ルーボイくん、あなたは大事なことを忘れてるわ?」
ルーボイ「…大事なこと?」
母「あたしと坊やはホビットなの。
あなたたち人間にとって、憎むべき存在なのよ?」
ルーボイ「に、にく…?」キョトン
パッチ「嫌ってるってことだよ…」ボソボソ
ルーボイ「わ、わかってるよ!」プンスカ
母「そう。とても嫌われてるの。
だから、あたしたちを狙う人間も多いわ?
一緒にいると危険な目に遭うかもしれないのよ…?」
ルーボイ「……」
母「もうおしまいにした方がお互いの為かもしれない…」
パッチ「え…」
カロル「……」シュン
275:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:18:43 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「……なんだよ、それ…?
じゃあ…昨日まで遊んでたのはなんだったんだよ…?」
母「……ごめんなさい。
あたしたちの方から近付いておいてわがままだとは思うわ。
でもこれが精一杯なの。これ以上は、もう…」
パッチ「そ、そんな…」アセアセ
ルーボイ「……イヤだ!友達が危ないのに帰れるかよ!?
いきなり終わりにしようなんて、ずるいだろ!!」
母「」ドキッ
パッチ「……!」
276:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:20:52 ID:PegmcYVJcA
ルーボイ「おい、カロル!お前はどうなんだよ!?」
カロル「……」
ルーボイ「本当にいいのかよ!?」
カロル「い、いい。だって…しょうがないもん」
ルーボイ「うるせぇ!このウソつき!!」
カロル「」ビクッ
ルーボイ「せっかく友達になったのに、これで終わりなんて絶対イヤだからな!?」
カロル「……」
ルーボイ「言ったろ!
ホビットとか、人間とか、知らねーしどうでもいい!友達だって!」
ルーボイ「遊んだこと無いって言ってたじゃんか!
だから…いっぱい遊びたいって…言ってたじゃんか!
なのに…今さらホビットだからとか、そんなんで…!」ポロポロ
カロル「」ウルウル
カロル「うん…」グスッ
277:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:25:27 ID:cYUoihoiOE
カロル「ボクも、友達だって思ってる…」グスッ
ルーボイ「それなら…ちゃんと…」グシグシ
カロル「けど…安心して?
ボクとお母さまは平気だから」
ルーボイ「なっ…!まだわかん……」カッ
カロル「ボクを信じて?
友達は、友達を裏切らない…絶対に」
ルーボイ「おまえ…」
カロル「また一緒に遊ぼ?今度はボクから会いに行くよ!」ニコッ
ルーボイ「」グッ
パッチ「…ルーボイくん」ニコッ
ルーボイ「分かったよ、もういいよ!お前なんか知らねー!」
カロル「あ…」シュン
ルーボイ「…約束だからな!」
カロル「え?」
ルーボイ「破ったら、もう遊んでやらないからな!」
カロル「…うん、約束!」ニッコリ
パッチ「ほんと素直じゃないなぁ…」ニヤニヤ
ルーボイ「うるせー!!」プンスカ
マルク「わんっ!」シッポフリフリ
278:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:30:05 ID:PegmcYVJcA
パッチ「じゃあ、またね!」
カロル「うん!」
ルーボイ「またな!絶対遊びに来いよ!」
カロル「もちろん!」
マルク「」シッポフリフリ
カロル「」ニコニコ
母「良かったわね、いいお友達に恵まれて?」ニコッ
カロル「うん…」
母「目まぐるしい4日間だったけど、坊やの笑顔がたくさん見れてお母さんも嬉しいわ?」ニコニコ
カロル「えへへ…」テレテレ
279:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:31:21 ID:cYUoihoiOE
母「ふふ…今夜の寝床を探しましょうか?」
カロル「…宣教師さまはどうするの?」
母「あ、そういえばそうね…。
どうしましょう。どこに行かれたかも分からないし…」
カロル「まだ教会にあの旅人がいたら宣教師さまが危ないよ…」オロオロ
母「教会の近くは行けないし、探すにしても動き回ると見つかる可能性があるわね…」
カロル「ボクが探しに行くよ!頭巾を被ったらバレなかったから!」
母「なに言ってるの!ダメに決まってるでしょ?
パッチくんも言ってたじゃない?運が良かっただけって!」
カロル「でも心配だよ…」シュン
母「気持ちは分かるわ?けど焦っても何も生まれない。そうでしょ?」
カロル「はい…」
母「(本当にどうしたら…)」
280:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/19(土) 18:34:07 ID:PegmcYVJcA
マルク「わんっ!」
母「あら、どうしたの?」
カロル「……?」
マルク「わんっ!わんっ!」ピョンピョン
母「お腹が空いちゃったのかしら?」
マルク「」ブンブンブンブン
母「違うの?」
マルク「」コクコク
カロル「もしかして、マルクが探してくれるの?」
マルク「はっ!はっ!」コクコク
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