むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
228:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:07:20 ID:iqCPsQL3wQ
>>227
支援を頂けるなんて感激です!
ありがとうございます!
カロルはお風呂でのぼせただけなのでご心配なく!
229:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:11:16 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「申し訳ありません…」ペコリ
母「いえいえ、あなたのせいではないのよ?
頭を上げてください?」
宣教師「いえ、目の前にいながらのぼせてしまったカロルくんに気付けなかった私の不注意です…」
母「…あなたと一緒だからって無理をして入っていたこの子も悪いのよ。
本当に気にしないでちょうだい?」
カロル「ん…」パチッ
母「あ、目が覚めたのね?具合はどう?」
カロル「あたま…ボーッとする…」ポーッ
母「当たり前よ、さっきまでのぼせてたんだから。
具合が悪いなら早いとこ寝ちゃいなさい?」
カロル「はーい…」スクッ
宣教師「私がベッドまで連れていきましょう。
さ、おぶってあげますから掴まってください」スッ
カロル「うん…」ギュッ
母「わざわざすみません…」
宣教師「とんでもないです。
元はと言えば私の責任なのですから」
母「ありがとうございます…」ペコリ
宣教師「いえ、大丈夫ですか。カロルくん?」
カロル「うん…平気……」ウツラウツラ
母「坊や、お母さんは寝るけど悪化したらすぐに言うのよ?」
カロル「うん…分かった…」ポーッ
230:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:14:28 ID:zpo9dpEiuU
――寝室――
宣教師「大丈夫ですか?」
カロル「……はい、1日寝たら治ると思います」
宣教師「そうですか、では私は…」スクッ
カロル「あ…待って」
宣教師「どうしました?」
カロル「絵本…読んでほしい…です」モジモジ
宣教師「絵本、ですか?」キョトン
カロル「はい…」
宣教師「…状態が悪化してはいけませんし、安静にしておいた方が良いのでは…?」
カロル「だって…宣教師様とも、ずっと一緒にはいられないでしょ?」
宣教師「…急にどうしたんですか?」
カロル「…なんとなく、そんな気がして…」
宣教師「……」
231:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:17:01 ID:zpo9dpEiuU
カロル「だから…今のうちにたくさん思い出を作りたいんだ…」
宣教師「……あなたが望むなら、ずっとそばにいてあげますよ?」ニコッ
カロル「…ホント?」
宣教師「えぇ。神に誓って私は嘘をつきません」
カロル「……そっか、ずっと…一緒なんだ…」パァァ
宣教師「ふふ。焦らず、じっくりと同じ時間を辿りましょう?
キミが気付いた時には、思い出の宝箱に抱えきれないほどの輝きが詰まっているはずですよ?」
カロル「…そうかな?」
宣教師「そうですとも。ですから今は体を治す事が先決です。
私はいなくなりませんから、絵本は明日でもいいでしょう?」
カロル「うん、ボク…我慢するよ」ニコッ
232:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:18:33 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「……キミの具合が早く良くなりますように」ギュッ
カロル「…手を合わせるの…?」
宣教師「神のご加護です。
神は誰にたいしても平等な存在。
こうして祈る事で願いを聞き入れてくださるのです…」
カロル「でも…ボクはホビットだよ?」
宣教師「関係ありませんよ。
私たち人間もホビットも同じ実りある大地に産まれた小さな生命の一つ。
同じ時代を生きる命に優劣など無いのだから」
カロル「…宣教師さまがそう言うんなら、そうなんだよね?」
宣教師「……さ、そろそろおやすみなさい?
明日もルーボイくんとパッチくんが遊びに来ますから」
カロル「うん…!」
宣教師「ふふ。おやすみなさい…」
カロル「…はい。おやすみなさい」
バタンッ
233:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/11(金) 22:22:24 ID:iqCPsQL3wQ
バタンッ
宣教師「(…明日、司祭様にお話しましょう)」
宣教師「(ホビットへの歪んだ価値観を…)」
宣教師「(この世界の間違いを正すために…)」
宣教師「(私たちは…過ちを繰り返しすぎた…)」
宣教師「(たとえ、それが彼を裏切ることになろうと、犠牲が無ければ平和は生まれない…)」
宣教師「ふふ…」クスッ
宣教師「我ながら、私たち人間は…悲しい生き物ですね…」
宣教師「……」クルッ
宣教師「おやすみなさい、カロルくん。どうか良い夢を…」
宣教師「」スタスタ
234:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:26:42 ID:TbIaTri9k.
カロル「」スヤスヤ
カロル「ん…」ムニャムニャ
カロル「」パチッ
カロル「あさ…?」
トントン トントン
カロル「」グー
カロル「……朝ごはん」スクッ
235:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:27:54 ID:NaSHqV57P6
ガチャッ
カロル「おはよう。お母さま」
母「あら、起きてきたのね?具合はどう?」トントン
カロル「もう大丈夫だよ。すっかり良くなったみたい」
母「そう。気を付けなくちゃだめよ?」トントン
カロル「平気だよ、ボク大きなケガも病気もした事ないもん」
母「またそんな事言って…」トントン
カロル「ホントだよ?いつもすぐに治っちゃうんだ」
母「たまたまでしょ?
それにたとえ本当にそうでも体は大事にしなきゃだめ!」トントン
カロル「はーい…」
236:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:28:48 ID:TbIaTri9k.
母「さ、ごはんの用意が出来たわよ?」
カロル「わぁ…!おいしそう!」パァァ
母「てっきり体調が悪いと思ってたから…喉を通りやすいスープにしてみたの!」
カロル「へぇ…これって何が入ってるの?」
母「さぁ…?名前は分からないけど緑色のお野菜だったわよ?」
カロル「やっぱり!スープが真緑だからそうだと思った!」
母「ふふ。スープの色で中身を当てるなんて坊やは名探偵ね?」ニコッ
カロル「えへへ!」ニコリ
237:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:31:08 ID:TbIaTri9k.
バァンッ!!!
宣教師「いやいやいやいや!野菜はたいてい緑色ですよ!?
それにスープは野菜の色になるとは限りません!」
宣教師「だいたいトントンいってましたけど、どこで包丁使ったんですか?
今朝の献立はスープのみのはずですよね?
煮詰めるなり出汁を取るなり、作業から読むなら普通グツグツとかコトコトとかじゃないんですか?」
宣教師「しかもそのスープ、具が無いじゃないですか?
なんです?野菜本体を使わずにエキスだけ絞ったんですか?
新鮮なみずみずしいお野菜をシンプルに生搾りでいただこうと?」
宣教師「それ以前に自分で把握していない食材を他人に振る舞うのですか?
あなたそれでも親ですか?
しかもそれらの食材はすべて私の所有物ですよね?」
宣教師「いい加減言わせてもらいます。
あなたのそれは料理ではない!
自然界への冒涜です!」
宣教師「己の無駄にした食材、その亡骸たちの前で悔い改め、調理器具を二度と手にしないと誓いなさい!」ビシィッ
――扉の前――
宣教師「(と、ツッコみたい…)」
宣教師「私、独りでなにやってるんでしょう……」ハァ
238:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:33:57 ID:NaSHqV57P6
ガチャッ
カロル「あ、宣教師さま!おはようございます!」
宣教師「おはようございます」
母「朝ごはんが出来上がってますよ?
たんとおかわりしてくださいね!」
宣教師「あ、ありがとうございます…」ヒクヒク
――数分後――
カロル「」ペロリッ
カロル「ごちそうさま!」ニパッ
カロル「ボク、マルクと遊んでくるね!」タタタッ
母「はいはい。いってらっしゃい」ニコニコ
宣教師「(あれを完食出来る彼の舌と胃袋が欲しいです…)」ハァ
239:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:36:15 ID:NaSHqV57P6
宣教師「」ゼーゼー
母「宣教師様、息が上がっているみたいだけど大丈夫ですか?」
宣教師「わ、私は神に仕える者…この程度の試練で音を上げる訳には…うぅ…」ズズ
母「し、試練?お食事がですか?」キョトン
宣教師「あ、いや…なんでもありませんよ」アセアセ
母「そ、そう。あ、食べ終わったのね?
たくさん余ってますけどおかわりはいるかしら?」
宣教師「そ、そういえば私は用があるのでした!
申し訳ありませんが席を外させていただきます!」ガタッ
母「そうなの?
じゃあもったいないですから残りはあたしとマルクで片付けちゃいましょ」
宣教師「(ごめんなさい、マルクくん。弱い私を許してください…)」シュン
240:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:38:27 ID:TbIaTri9k.
――教会(玄関前)――
マルク「わぅーん…」ブルブル
カロル「どうしたの、マルク?」
マルク「くぅん…」ションボリ
カロル「ヘンなの?さっきまであんなに元気だったのに…」
ガチャッ
カロル「あれ?宣教師さま、どこか行くんですか?」
宣教師「はい、私は少し出掛けて来ますのでいい子にしていてくださいね?」ニコッ
カロル「はーい!」
宣教師「それから…マルクくん、ごめんなさい」ペコリ
カロル「へ?」
マルク「グルルル…!」
カロル「あっ!マルク!?
なんで宣教師さまを威嚇するの?だめじゃない!」
マルク「くぅん」シュン
宣教師「いえ、いいのです。
私は責められて然るべき罪を犯しました…」
カロル「……?」キョトン
宣教師「では行ってきますね」スタスタ
カロル「は、はい…」
カロル「宣教師さま、どうしたんだろ?」
ガチャッ
母「マルクー!ごはんよー?」
マルク「きゃいんっ!?」ビクッ
241:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:41:02 ID:NaSHqV57P6
――村(パッチの家)――
パッチ「」ドキドキ
パッチ「」キョロキョロ
パッチ「」ソーッ
村の大人3「……」ガシッ
パッチ「」ビクッ
村の大人3「どこに行くんだ?」ギロッ
パッチ「父さん…」
村の大人3「どこに行くんだと言ってるだろ?ん?」
パッチ「べ、別に…。遊びに行くだけだよ?」
村の大人3「教会にか?」
パッチ「ち、ちがうよっ」
村の大人3「はんっ。どうだかな?」
パッチ「ちゃ、ちゃんと日が暮れる前に帰るよ…」
村の大人3「ダメだ。今日から父さんがいいと言うまで家を出るな」
パッチ「え?そ、そんなの…」
村の大人3「母さんとも相談して決めたことだ。いいな?」
パッチ「待ってよ!ボクにはなんの相談もしてないじゃないか!」
村の大人3「……とにかく、おとなしくしてるんだぞ?」
242:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:43:07 ID:TbIaTri9k.
パッチ「ちょっと!ボクの話も聞いてよ!?」
村の大人3「うるさい!子供が親に意見するな!!」
パッチ「」ビクッ
村の大人3「お前はあの宣教師とホビットに騙されてるんだ!
これ以上あいつらの事を考えるな!分かったか!?」
パッチ「」フルフル
パッチ「……宣教師様もカロルくんも、そんなんじゃない」ブルブル
村の大人3「このっ…!」ブチッ
妻3「ちょっとあんた!何を怒鳴ってるの?」
パッチ「母さん…」
村の大人3「ちっ……母さん。俺は仕事に戻るが、パッチを家から出すんじゃないぞ?」
妻3「分かってるわよ。あんたも頭ごなしに怒ったりしたらダメよ?」
村の大人3「あぁ。行ってくる」ガチャッ
妻3「いってらっしゃい」
243:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:46:28 ID:TbIaTri9k.
妻3「さぁパッチ。おとなしく部屋にいるんだよ?」
パッチ「母さんまで…」
妻3「これもおまえの為じゃないか?
父さんも母さんもパッチが心配なんだよ」
パッチ「……しらないよ」
妻3「なっ?あんた、母親に向かってその口の聞き方はないでしょうが!」
パッチ「」バタンッ
妻3「晩御飯抜きだからね!?」
妻3「はぁ…なんであぁなったんだか。
それもこれもホビットなんかに関わるからよ。あぁおそろしい!」
244:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:49:42 ID:TbIaTri9k.
――パッチの部屋――
パッチ「……」ションボリ
パッチ「ボクも大人になったら、カロルくんたちをキライになるのかな…?」
パッチ「…そんなのイヤだ」
パッチ「父さんも母さんもヘンだよ…」グスッ
コンコン コンコン
パッチ「?」
ルーボイ「」コンコン
パッチ「ルーボイくん?」ガラッ
ルーボイ「よう!教会に行こうぜ?」
パッチ「え?でも…父さんたちが…」オロオロ
ルーボイ「いいじゃんか!バレなきゃ平気だって!」
パッチ「……」
ルーボイ「なんだよ?行かねぇなら俺だけで行くぞ!」
パッチ「わ、わかったよ!行くよ」アセアセ
245:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/12(土) 22:52:03 ID:NaSHqV57P6
パッチ「大丈夫かなぁ…?」
ルーボイ「大丈夫だよ!俺だって内緒で脱け出したんだぞ!」
パッチ「そ、そうだね。じゃあちょっと待ってて?」
ルーボイ「おう!」
パッチ「これでよし…じゃあ行こうか」ファサッ
ルーボイ「何してたんだ?」
パッチ「一応バレないようにベッドに人形を置いて布団を被せたのさ」
ルーボイ「そんなの意味あんのかー?」
パッチ「何もしないよりいいだろ?ほら!行こうよ!」タタタッ
ルーボイ「あっ!ずるいぞ!待てよ!」ダッ
246:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:23:22 ID:BwFwt3N5iE
――村の外れ――
旅人「で、結果ホビットの親子をその宣教師に奪われちまったと」
村の大人1「あ、あぁ。あの方は教団の人間だからな。迂闊に手を出せねぇんだ」
村の大人2「おい、あんな奴をあの方なんて呼び方すんな!」
旅人「情けないねぇ…。
ちまちま家なんか燃やしてるからだよ?」
村の大人1「面目ない…」
旅人「目の前にニンジンをぶら下げてやったってのにまともに走れねぇ。
それじゃ意味が無いんだよ、馬モドキが」
村の大人1「なっ…!」
村の大人2「だ、誰が馬モドキだと!聞き捨てならねぇぞ!?」
旅人「馬じゃ不服かね?
お前らにはもったいないくらいだと思うがなぁ?」
村の大人1「おい、その辺にしとけよ?」
旅人「なんだ、いっちょまえに腹を立ててんのか?」ヘラヘラ
247:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/13(日) 15:25:38 ID:BwFwt3N5iE
村の大人2「てめぇ!」ガッ
旅人「おい、なんだ。この手は?
服がシワになってしまうだろう?」
村の大人2「あぁ!?」
旅人「困るなぁ?俺の服はそれなりに値を張る上等な絹だ。
貧乏で飯食ってるようなあんたらのぼろ布とは違うんだよ?」
村の大人2「てめぇ、言わせとけば…!」
旅人「ほら、離すんだ。銀貨をあげよう。
卑しい手には服の袖より、金のぬくもりが必要だろう?」
村の大人2「もう我慢ならねぇ!!」バキッ
旅人「…あぁ〜ぁ。やっちゃったねぇ?
俗世に疎い田舎の百姓は野蛮で困るよ」
村の大人1「このクソ野郎、思い知らせてやる…!」ズイッ
旅人「ははは!思い知らされるのは困るなぁ?
きっと痛いんだろうなぁ?」ニヤニヤ
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