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少年「ボクが世界を変えてみせる」
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1:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:21:41 ID:apUuk9iOiY
むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。


178:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:25:16 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「あれはまだ10歳だった頃…私は町の裏通りで姿を隠して暮らしていたホビットに出会いました。
子供だった私はホビットに偏見も無く、
いつもお母さんが焼いてくれたビスケットをあげた…。
友達になろうと言い、いっぱい話をして…」

村の大人3「……」

宣教師「運悪くその場面を税の回収に来た王国の兵士に見られていたのです。
そんな事も知らずに今日で町を出るんだと話す少年を、私は見送った…。
あとは知っての通りです。次の日に王国が攻め込み、町は壊滅させられました。
大人は皆殺され、私より8つ大きかった兄も…」

村の大人3「じゃあ、やっぱりあんたはホビットを憎むべきじゃないか?
奴らに出会わなければ悲劇は起こらなかったはずだ」

宣教師「私もそう思っていましたよ。
孤児となった私を拾ってくださった司祭様に憎むべきはホビットだと説かれ、
同じ悲劇を産み出さない為にも私は宣教師となったのですから」

村の大人3「なら、なぜ…?」
179:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:27:30 ID:cRgOqnAOPY
宣教師「皮肉にも、私は何より憎んでいたホビットに会った事が無かったんですよ…
私がビスケットを与えたあの子以外のホビットに、ね」

村の大人3「つまりどういう事だ?」チンプンカンプン

宣教師「朧気に残っていた記憶は楽しく話した思い出だけ。
憎むにはあまりにいとおしく、キレイ過ぎました…」

宣教師「…さまざまな事柄をこじつけられて……。
唯一の拠り所だった司祭様に言われるままに納得させてきましたが、あの少年に出会ってしまった…」

宣教師「あの少年に、記憶の面影を映してしまった…」

村の大人3「だからといって悲劇の引き金があいつらなのに変わりはないだろう」

宣教師「……はたしてそうでしょうか?」

村の大人3「何が言いたいんだ?」

宣教師「悲劇を招いたのは我々人間なのではないでしょうか?」
180:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:28:48 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「はぁ?なんだそりゃ?」

宣教師「ホビットへの偏見と迫害こそが引き金、とは言えませんか?」

村の大人3「何を言ってんだ、ホビットは罪を犯したんだぞ。当然の罰じゃないか」

宣教師「あなたは先ほど、3くんに親として大切に思っていると話していましたが、
たとえば3くんに差別の手が向けられればどうですか?」

村の大人3「な、何があっても守るに決まってるだろう?」

宣教師「それならばあなたたちに傷付けられたあのホビットの親子の気持ちも理解出来るはずです」

村の大人3「……」
181:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:31:10 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「私たちはあまりに傲りすぎた…。それこそが本当の罪なのではないでしょうか?」

村の大人3「あんたは間違ってる、ホビットは俺たちとは違う。忌むべき種族だ」

宣教師「やはり、分かってはくれませんか」

村の大人3「あぁ。俺は認めないぞ、あんな薄汚い奴らをな…」

宣教師「……」

村の子供2「もういいだろ?行こうぜ、おっちゃんは頭でっかちなんだ」

村の子供3「お父さん、ボクも行くよ。止めたって行くからね?」

村の大人3「勝手にしろ、どうせそいつが教団の人間である内は手出し出来ないしな。
だが絶対に約束しろ、ホビットとなんか仲良くするなよ?」

村の子供2「知らねー」プイッ

村の子供3「お父さん、言ったでしょ?
友達になる相手は自分で決めるって!」

村の大人3「…ちっ!なんでこんなバカになっちまったんだか!」

宣教師「では今度こそ行きましょう」

村の子供2「おう!」

村の子供3「うん!」

村の大人3「(ちっ!あの宣教師、早いとこ追い出さなけりゃまずいな…)」
182:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:50:08 ID:Gs0K8eI9OM
――村の外――
村の子供2「久しぶりだな、教会に行くの!」

村の子供3「前はよく遊びに行ったもんね?」

宣教師「一度大きな犬に出くわしてからご無沙汰してましたしね。
キミがすっかり怯えてしまって、村の外に出るのを嫌がったんでしたっけ?」クスクス

村の子供2「怯えてない!」プンスカ

宣教師「本当ですか?もしかしたら今日も出るかもしれませんよ?」

村の子供2「別にいいよ、怖くねーもん!」

ガサッ

村の子供2「」ビクッ

村の子供3「あはは!子猫が通っただけだよ?」

子猫「にゃー」ニャーニャー
183:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:54:05 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「な、なんだ…」ホッ

宣教師「ふふ、大丈夫ですか?」クスクス

村の子供2「だ、大丈夫だし!」

村の子供3「かわいい猫だね、こっちおいで!」

子猫「にゃー!」スリスリ

村の子供3「あはっ!いい子だねぇ」ナデナデ

村の子供2「そんなのいいから早く行こうぜ」

村の子供3「そんなのなんて言い方したらかわいそうだよ?
こんなにかわいいのに。ねー?」ナデナデ

子猫「ごろにゃーん」ゴロゴロ
184:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:56:20 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「もういいだろ?」ムスッ

宣教師「まぁまぁ。いいじゃないですか。
動物との触れ合いは心に安らぎを与えてくれます。すごくいい事なんですよ?」

村の子供3「2くんも撫でてみなよ、喉を撫でてあげるとゴロゴロ言うよ?」

村の子供2「俺はいいよ…」

村の子供3「あれ?もしかして怖いの?」ニヤニヤ

宣教師「なるほど、そういう事でしたら仕方ありませんね?」クスクス

村の子供2「はぁ!?なんでそうなんだよ!?」

村の子供3「なら触れるでしょ?ほら!」スッ

子猫「にゃーすでにゃーす」ニャーニャー

村の子供2「う…分かったよ」ダキッ

子猫「」ジー

村の子供2「」ドキドキ

子猫「」ジー

村の子供2「」ナデリ

子猫「うにゃー」ゴロゴロ

村の子供2「あ、あは…」ツツー

「ワンッ!!」

村の子供2「うわあぁぁぁぁああ!!?」ビクッ

子猫「にゃっ!」タタタッ
185:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:59:22 ID:Gs0K8eI9OM
犬「はっ!はっ!はっ!」ハッハッ

村の子供2「はぁっ…はぁっ…!?」ドキドキバクバク

宣教師「おや、この前の……?」

村の子供3「ああ、びっくりした!」

村の子供2「」ドキドキバクバク

村の子供3「大丈夫?」

村の子供2「あ、あぁ…」

犬「はっ!はっ!」タタタッ

宣教師「ん?」

犬「」クンクン

村の子供3「宣教師様になついてるね!」

宣教師「これはなついてるのでしょうか…?
しきりに匂いを嗅いでいますが?」

村の子供2「もう行こうって!夕方になっちゃうよ!」

村の子供3「まだお昼だよ?」

宣教師「そうですね、道草ばかり食うのもなんですから行きましょうか」
186:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:01:29 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「ねえ、宣教師様。あの犬付いてくるよ?」スタスタ

宣教師「そうですね、服に気になる匂いでも付いていたんでしょうか?」スタスタ

犬「ワンッ!」スタスタ

村の子供2「」ドキドキ
187:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:03:21 ID:f..8jqvYIw
――教会――
宣教師「結局教会まで付いてきてしまいましたね」

犬「ワンッ!」

村の子供3「きっと宣教師様になついてるんだよ!」

村の子供2「」ドキドキ

宣教師「とりあえず入りましょうか」

村の子供2「このまま入ったら犬も入ってきちゃうじゃん!」

犬「ワンッ!」

村の子供2「お、俺イヤだぞ?」ドキドキ

犬「クゥン…」クーンクーン

村の子供3「そんなこと言ったらかわいそうだよ」

村の子供2「う……」ズキッ

宣教師「まぁ一応、借り物の教会は清潔に保ちたいので外で待たせておきましょうか」

村の子供3「えー!入れてあげようよ?」

犬「ワンッ!」

宣教師「だって野良ですよ?どこで何触ってるか分かんないじゃないですか?」

村の子供3「宣教師様って意外とシビアなんだね…」

宣教師「当然です。衛生面はしっかりしなければ」キッパリ

村の子供3「(て言うかボク、さっきまで普通に触ってたんだけど…)」

犬「クゥン…」クーンクーン

村の子供2「」ホッ
188:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:05:58 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「ごめんね?」ナデナデ

宣教師「ここにいるのなら、おとなしくしておいてくださいね?」

犬「クゥン…」クーンクーン

ガチャッ バタンッ

犬「……ワンッ」
189:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:08:00 ID:f..8jqvYIw
母「あら、誰か帰ってきたみたいね?」

少年「宣教師さまかな?」パァァ

母「念のためお母さんが見てくるわ、坊やはここにいて?」

少年「え?」キョトン

母「もしかしたら宣教師様じゃないかもしれないでしょ?」

少年「な、ならボクが行くよ」

母「だめよ!いい子だからおとなしくしてなさい?」

少年「イヤだ!お母さまが人間にいじめられたら大変だもん!」

母「お願いだから聞き分けてちょうだい!たとえ教会でも安全とは限らないのよ?」

少年「イヤだ!ボクが行く!」

母「分からない子ね…!」

少年「お母さまが傷付くくらいならボクが傷付いた方がいい!」

母「あたしは嫌よ、坊やが傷付くところなんて見たくないわ!」

ガチャッ

少年「なんで分かってくれないのさ!」

母「分かってくれないのはあなたでしょ!?」

宣教師「あの…お取り込み中ですか?」

母&少年「えっ」
190:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:10:45 ID:Gs0K8eI9OM
少年「やっぱり宣教師さまだ!」パァァ

宣教師「えと、大丈夫ですか…?」オソルオソル

母「え、えぇ。ごめんなさい」

少年「お母さまは心配し過ぎだよ?」

母「まぁ!坊やこそ心配してたじゃない?」

少年「そんな事ないよ!ボクは宣教師さまって分かってたもん!」

母「もう!調子のいい事ばっかり…」

宣教師「」ニコッ

村の子供3「宣教師様…この人たちがホビットなの?」

宣教師「えぇ。そうですよ?」

村の子供2「なんだよ、全然怖くねーじゃん!」

母「? 宣教師様、その子たちは?」

宣教師「私が教えていた村の子供たちです。あなたたちに紹介しようと思いまして…」
191:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:12:58 ID:Gs0K8eI9OM
少年「」ハッ

宣教師「どうしました?」

母「あっそういえば……」

少年「…!」マジマジ

村の子供2「な、なんだよ?」

村の子供3「?」キョトン

少年「やっぱり!この前遊んでくれた子たちだ!」パァァ

村の子供2&3「えっ」

少年「ボクだよ、ボク!覚えてない?」

村の子供2「も、もしかして……!」

村の子供3「この前の女の子!?」

少年「えへへ!覚えててくれたんだね?」ニコッ

村の子供2「」ドキッ

母「……ぼ、坊や…」オロオロ

宣教師「大丈夫ですよ、お母様?」ニコッ

母「でも…」アセアセ
192:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:15:38 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「キミってホビットだったの!?」

少年「あ、うん…内緒にしててごめんね?
ホビットのボクは、嫌いになっちゃうかな…?」オドオド

母「……」アセアセ

村の子供2「べ、別にホビットでもいいし!関係ねーもん!」

村の子供3「そうだよ、ボクらは友達じゃない?」

少年「……!」ウルッ

母「」ポロポロ

宣教師「」ニコニコ

村の子供2「な、なんだよ?みんなして…」アセアセ

少年「ううん…なんでも、ないよ?」ニッコリ

宣教師「ね?言った通りでしょう?」

母「はい。本当に…良かった」グスッ

村の子供2「なんだ?」キョトン

村の子供3「わかんない…」
193:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:17:59 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「それにしても髪切ってるから分からなかったよ」

村の子供2「そうだよ、昨日はもうちょっと長かったじゃんか?」

少年「あはは。分かりにくくてごめんね?
でもアレはカツラだから髪を切った訳じゃないんだ」

村の子供3「えっ」

村の子供2「なんでカツラなんか被ったんだ?ハゲてないのに」

少年「は、はは…ホビットだって思われない為に女の子のカッコをしてたの」

村の子供2「へ?女の子のカッコ?」

村の子供3「まさかキミ…男なの?」

少年「う、うん。実はそうなんだ…」カァァ

村の子供3「えぇ!気付かなかったよ!?」

村の子供2「」ガーン

村の子供3「(あ、ショック受けてる)」チラッ
194:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:20:14 ID:Gs0K8eI9OM
少年「恥ずかしかったけど、お母さまに言われたからしかたなく、ね…」

村の子供2「(俺、ずっと男にドキドキしてたのかよ…)」ズーン

村の子供3「(かける言葉が見つからない…)」

少年「ど、どうしたの?」キョトン

村の子供2「なんでもねーよ…」

村の子供3「どんまい」ポンッ

村の子供2「うるせー!」

少年「……?」

宣教師「ふふ。すっかり仲良しさんですね?」ニコニコ

母「そうですねぇ」ニコニコ
195:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:18:14 ID:iqCPsQL3wQ
――一時間後――
村の子供2「それでさ!俺がググッと竿を引いたらこーんなに大きい魚が釣れたんだぜ!」

少年「えぇ!すごいや!?」

村の子供3「ウソだよ、もっと小さかったじゃない」

少年「そうなの?」

村の子供2「ウソじゃねーよ!ほんとにデカかったんだぞ!」

村の子供3「違うよ、実際はこのくらいでしょ?」

村の子供2「そんなちっちゃくねーっつの!」

少年「あはは。どっちがホントなのかわかんないや」

村の子供2「俺の話がホントなんだよ!こいつがウソ言ってんだ!」

村の子供3「違うよ、ボク嘘つかないもん」

村の子供2「俺が嘘つくみたいじゃんか!」

少年「じゃあどっちもホントだね!」

村の子供2「なんでそうなんだよ!?」ズルッ

村の子供3「あ、あはは。それはちょっと違うと思うなぁ…」
196:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:22:43 ID:zpo9dpEiuU
母「子供っておもしろいわねぇ。さっきまで落ち込んでたと思えば仲良くおしゃべりして…」

宣教師「確かに、あそこまで噛み合っていないのに会話が成立してるんですから不思議ですね」

母「……あの子たちのようにホビットと人間が分かり合えれば、どれだけ救われるかしら」

宣教師「きっと、そうなりますよ」

母「……そうね、そうなってくれたら…」

宣教師「そうなる為の鍵は、次の時代を生きるあの子たちにあります。
私たちは少しでも彼らの安らげる世界を開くきっかけとなりましょう」

母「本当に、いいの?あたし達といればあなたは…」

宣教師「昨晩話し合って決めた事です。
神に仕える者として曲げるつもりはありません」

母「ごめんなさい…」

宣教師「やめてください、私はあなたたち親子の力になりたいだけなのですから…」

母「……あたし、坊やにさんざん人間を憎まないよう言ってきたけれど、本当は自分の憎しみを誤魔化してきただけなのかもしれないわね…」

母「あなたやあの子たちを見ていると、人間はこんなにキレイなんだと思わされるの…」

宣教師「そんな事はありませんよ?
その証拠にあなたの息子さんは、透き通るほどに純粋な心を持っています。
母親であるあなたが穢れ無き愛情を注いだからこそ、憎しみに呑まれず育ってくれたのです」

母「そんな…あたしは……」

村の子供2「ねぇねぇ!腹減ったー!」

母「きゃっ!びっくりした…」
197:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/4(金) 22:25:11 ID:iqCPsQL3wQ
宣教師「そういえばお昼を食べてませんでしたね」

母「あらあら、何か作りましょうか?」

村の子供2「俺、ステーキ食べたい!」

母「す、ステーキは…あるかしら?」

宣教師「す、すみません。お肉は用意してないです…」

母「確かにお野菜しか入ってないわね…」ガサゴソ

宣教師「村の方々の施しで生活していたものですから、あまり高価なお肉などは…」

母「宣教師様らしいですね?」クスクス

宣教師「お恥ずかしい…」
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