むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
172:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:12:42 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「たく…!やめていただけませんか、子供に余計な事を吹き込むのは?」
村の大人3「あんたのせいで村は今、混乱してるんだ」
宣教師「……」
村の大人3「おい、行くぞ」
村の子供2「イヤだっつってんだろ!」
村の大人3「いい加減にしろ!」
村の子供2「」ビクッ
村の大人3「こいつはホビットの仲間だぞ!分かってんのか!」
村の子供2「……い、いいじゃんか」ブルブル
村の大人3「はぁ?」
173:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:14:32 ID:cRgOqnAOPY
村の子供2「誰が誰と友達でも、俺たちには関係ない!
俺、いいもん!宣教師様がホビットと友達でも!」
村の子供2「俺は宣教師様が大好きだ!だから人間とか、ホビットとかどうでもいいよ!」
村の子供3「2くん……」ウルッ
宣教師「ふふ…」ニコニコ
村の大人3「お前、自分がなに言ってるか分かってんのか?
そんな考え、誰も認めてくれないぞ!」
村の子供2「別にいい…」
村の大人3「このバカガキ…!」
村の子供3「ぼ、ボクも…ボクも2くんの言う通りだと思う!」
村の大人3「なっ…!お前まで何を!?」ギョッ
村の子供3「ごめん、お父さん…。
でも、ボクはボクだから。友達は自分で決める」
174:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:16:54 ID:cRgOqnAOPY
村の子供2「へへっ!」ニコッ
村の大人3「……!」ギリッ
宣教師「あはははは!」
村の大人3「なっ!あ、あんた、なに笑ってんだ!」
宣教師「ふふ…失礼。ですがあなたの負けですよ。
この子たちの言っている事は正しい」
村の大人3「正しいだと!?
こいつらは薄汚いホビットと人間を同じ天秤で測ってるんだぞ!
それが正しいって言うのか!?」
宣教師「今までのあなたの所業を思い出してごらんなさい。
弱い者を虐げ、悦に浸るあなたと…。
純粋な心で人間に接しようとするホビット、はたして薄汚いのはどちらですかね?」
村の大人3「バカな事を言うな!俺がいつ弱い者を虐げた!?
奴らは昔、癒しの力を奪った罪深い種族だ!
畜生にも劣る存在!俺は正しい行いをしたまでだ!」
宣教師「…どうやら、これ以上は無駄なようですね」
175:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:18:53 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「元はと言えば、奴らの罪深さを伝えてきたのはあんたら教団の人間だろうが!?
それを急に手のひら返しやがって!ふざけんじゃねぇぞ!!」
宣教師「えぇ。今までの私は間違っていました。
これからは世を惑わせる間違いを正そうと思っています」
村の大人3「間違いを正すだと!?
正すも何も間違ってんのはあんただ!」
宣教師「さ、行きましょうか」
村の子供3「え、でも…?」
村の子供2「いいよ、行こうぜ。おっちゃんには何言っても聞いてくんないよ」
村の大人3「待て!」ガッ
村の子供3「ひっ…い、痛いよ」ビクッ
176:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:20:29 ID:cRgOqnAOPY
村の大人3「俺の息子を連れてくなんて許さねぇぞ!
こいつまで薄汚いホビットに肩入れするようになったらどうする気だ!?」
宣教師「おやめなさい、まだ分からないのですか!」
村の子供3「お父さん。離してよ…」
村の大人3「……なんで分からないんだ!
父さんはお前を大事に思ってるからこそ言ってるんだぞ…!?」
村の子供3「…お、お父さん…」
宣教師「……」
村の大人3「お前が今しようとしている事は罪として、この先ずっとまとわりつくんだ!
そうすればお前が不幸になってしまうんだ!」
村の子供3「だ、だけど…」オロオロ
177:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:22:04 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「宣教師様、あんたも知ってるだろう?
ホビットに肩入れした町の話を…!
あの悲劇をもう一度引き起こす気か!?」
宣教師「…もちろん知っています。
私はあの悲劇の町で生まれましたから」
村の大人3「なっ…!なら、なんでだ!?
あの町の生き残りなら誰よりもホビットを憎むはずだ!」
宣教師「えぇ。憎んでいましたよ。
つい先日まではホビットこそが悪だと信じていました」
村の大人3「だったら…!」
宣教師「しかしあの悲劇を引き起こしたのもまた、私です」
村の子供2「えっ」
村の大人3「なんだと…?」
178:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:25:16 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「あれはまだ10歳だった頃…私は町の裏通りで姿を隠して暮らしていたホビットに出会いました。
子供だった私はホビットに偏見も無く、
いつもお母さんが焼いてくれたビスケットをあげた…。
友達になろうと言い、いっぱい話をして…」
村の大人3「……」
宣教師「運悪くその場面を税の回収に来た王国の兵士に見られていたのです。
そんな事も知らずに今日で町を出るんだと話す少年を、私は見送った…。
あとは知っての通りです。次の日に王国が攻め込み、町は壊滅させられました。
大人は皆殺され、私より8つ大きかった兄も…」
村の大人3「じゃあ、やっぱりあんたはホビットを憎むべきじゃないか?
奴らに出会わなければ悲劇は起こらなかったはずだ」
宣教師「私もそう思っていましたよ。
孤児となった私を拾ってくださった司祭様に憎むべきはホビットだと説かれ、
同じ悲劇を産み出さない為にも私は宣教師となったのですから」
村の大人3「なら、なぜ…?」
179:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:27:30 ID:cRgOqnAOPY
宣教師「皮肉にも、私は何より憎んでいたホビットに会った事が無かったんですよ…
私がビスケットを与えたあの子以外のホビットに、ね」
村の大人3「つまりどういう事だ?」チンプンカンプン
宣教師「朧気に残っていた記憶は楽しく話した思い出だけ。
憎むにはあまりにいとおしく、キレイ過ぎました…」
宣教師「…さまざまな事柄をこじつけられて……。
唯一の拠り所だった司祭様に言われるままに納得させてきましたが、あの少年に出会ってしまった…」
宣教師「あの少年に、記憶の面影を映してしまった…」
村の大人3「だからといって悲劇の引き金があいつらなのに変わりはないだろう」
宣教師「……はたしてそうでしょうか?」
村の大人3「何が言いたいんだ?」
宣教師「悲劇を招いたのは我々人間なのではないでしょうか?」
180:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:28:48 ID:REyqDbJZgQ
村の大人3「はぁ?なんだそりゃ?」
宣教師「ホビットへの偏見と迫害こそが引き金、とは言えませんか?」
村の大人3「何を言ってんだ、ホビットは罪を犯したんだぞ。当然の罰じゃないか」
宣教師「あなたは先ほど、3くんに親として大切に思っていると話していましたが、
たとえば3くんに差別の手が向けられればどうですか?」
村の大人3「な、何があっても守るに決まってるだろう?」
宣教師「それならばあなたたちに傷付けられたあのホビットの親子の気持ちも理解出来るはずです」
村の大人3「……」
181:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/2(水) 23:31:10 ID:REyqDbJZgQ
宣教師「私たちはあまりに傲りすぎた…。それこそが本当の罪なのではないでしょうか?」
村の大人3「あんたは間違ってる、ホビットは俺たちとは違う。忌むべき種族だ」
宣教師「やはり、分かってはくれませんか」
村の大人3「あぁ。俺は認めないぞ、あんな薄汚い奴らをな…」
宣教師「……」
村の子供2「もういいだろ?行こうぜ、おっちゃんは頭でっかちなんだ」
村の子供3「お父さん、ボクも行くよ。止めたって行くからね?」
村の大人3「勝手にしろ、どうせそいつが教団の人間である内は手出し出来ないしな。
だが絶対に約束しろ、ホビットとなんか仲良くするなよ?」
村の子供2「知らねー」プイッ
村の子供3「お父さん、言ったでしょ?
友達になる相手は自分で決めるって!」
村の大人3「…ちっ!なんでこんなバカになっちまったんだか!」
宣教師「では今度こそ行きましょう」
村の子供2「おう!」
村の子供3「うん!」
村の大人3「(ちっ!あの宣教師、早いとこ追い出さなけりゃまずいな…)」
182:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:50:08 ID:Gs0K8eI9OM
――村の外――
村の子供2「久しぶりだな、教会に行くの!」
村の子供3「前はよく遊びに行ったもんね?」
宣教師「一度大きな犬に出くわしてからご無沙汰してましたしね。
キミがすっかり怯えてしまって、村の外に出るのを嫌がったんでしたっけ?」クスクス
村の子供2「怯えてない!」プンスカ
宣教師「本当ですか?もしかしたら今日も出るかもしれませんよ?」
村の子供2「別にいいよ、怖くねーもん!」
ガサッ
村の子供2「」ビクッ
村の子供3「あはは!子猫が通っただけだよ?」
子猫「にゃー」ニャーニャー
183:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:54:05 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「な、なんだ…」ホッ
宣教師「ふふ、大丈夫ですか?」クスクス
村の子供2「だ、大丈夫だし!」
村の子供3「かわいい猫だね、こっちおいで!」
子猫「にゃー!」スリスリ
村の子供3「あはっ!いい子だねぇ」ナデナデ
村の子供2「そんなのいいから早く行こうぜ」
村の子供3「そんなのなんて言い方したらかわいそうだよ?
こんなにかわいいのに。ねー?」ナデナデ
子猫「ごろにゃーん」ゴロゴロ
184:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:56:20 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供2「もういいだろ?」ムスッ
宣教師「まぁまぁ。いいじゃないですか。
動物との触れ合いは心に安らぎを与えてくれます。すごくいい事なんですよ?」
村の子供3「2くんも撫でてみなよ、喉を撫でてあげるとゴロゴロ言うよ?」
村の子供2「俺はいいよ…」
村の子供3「あれ?もしかして怖いの?」ニヤニヤ
宣教師「なるほど、そういう事でしたら仕方ありませんね?」クスクス
村の子供2「はぁ!?なんでそうなんだよ!?」
村の子供3「なら触れるでしょ?ほら!」スッ
子猫「にゃーすでにゃーす」ニャーニャー
村の子供2「う…分かったよ」ダキッ
子猫「」ジー
村の子供2「」ドキドキ
子猫「」ジー
村の子供2「」ナデリ
子猫「うにゃー」ゴロゴロ
村の子供2「あ、あは…」ツツー
「ワンッ!!」
村の子供2「うわあぁぁぁぁああ!!?」ビクッ
子猫「にゃっ!」タタタッ
185:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 20:59:22 ID:Gs0K8eI9OM
犬「はっ!はっ!はっ!」ハッハッ
村の子供2「はぁっ…はぁっ…!?」ドキドキバクバク
宣教師「おや、この前の……?」
村の子供3「ああ、びっくりした!」
村の子供2「」ドキドキバクバク
村の子供3「大丈夫?」
村の子供2「あ、あぁ…」
犬「はっ!はっ!」タタタッ
宣教師「ん?」
犬「」クンクン
村の子供3「宣教師様になついてるね!」
宣教師「これはなついてるのでしょうか…?
しきりに匂いを嗅いでいますが?」
村の子供2「もう行こうって!夕方になっちゃうよ!」
村の子供3「まだお昼だよ?」
宣教師「そうですね、道草ばかり食うのもなんですから行きましょうか」
186:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:01:29 ID:f..8jqvYIw
村の子供3「ねえ、宣教師様。あの犬付いてくるよ?」スタスタ
宣教師「そうですね、服に気になる匂いでも付いていたんでしょうか?」スタスタ
犬「ワンッ!」スタスタ
村の子供2「」ドキドキ
187:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:03:21 ID:f..8jqvYIw
――教会――
宣教師「結局教会まで付いてきてしまいましたね」
犬「ワンッ!」
村の子供3「きっと宣教師様になついてるんだよ!」
村の子供2「」ドキドキ
宣教師「とりあえず入りましょうか」
村の子供2「このまま入ったら犬も入ってきちゃうじゃん!」
犬「ワンッ!」
村の子供2「お、俺イヤだぞ?」ドキドキ
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供3「そんなこと言ったらかわいそうだよ」
村の子供2「う……」ズキッ
宣教師「まぁ一応、借り物の教会は清潔に保ちたいので外で待たせておきましょうか」
村の子供3「えー!入れてあげようよ?」
犬「ワンッ!」
宣教師「だって野良ですよ?どこで何触ってるか分かんないじゃないですか?」
村の子供3「宣教師様って意外とシビアなんだね…」
宣教師「当然です。衛生面はしっかりしなければ」キッパリ
村の子供3「(て言うかボク、さっきまで普通に触ってたんだけど…)」
犬「クゥン…」クーンクーン
村の子供2「」ホッ
188:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:05:58 ID:Gs0K8eI9OM
村の子供3「ごめんね?」ナデナデ
宣教師「ここにいるのなら、おとなしくしておいてくださいね?」
犬「クゥン…」クーンクーン
ガチャッ バタンッ
犬「……ワンッ」
189:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:08:00 ID:f..8jqvYIw
母「あら、誰か帰ってきたみたいね?」
少年「宣教師さまかな?」パァァ
母「念のためお母さんが見てくるわ、坊やはここにいて?」
少年「え?」キョトン
母「もしかしたら宣教師様じゃないかもしれないでしょ?」
少年「な、ならボクが行くよ」
母「だめよ!いい子だからおとなしくしてなさい?」
少年「イヤだ!お母さまが人間にいじめられたら大変だもん!」
母「お願いだから聞き分けてちょうだい!たとえ教会でも安全とは限らないのよ?」
少年「イヤだ!ボクが行く!」
母「分からない子ね…!」
少年「お母さまが傷付くくらいならボクが傷付いた方がいい!」
母「あたしは嫌よ、坊やが傷付くところなんて見たくないわ!」
ガチャッ
少年「なんで分かってくれないのさ!」
母「分かってくれないのはあなたでしょ!?」
宣教師「あの…お取り込み中ですか?」
母&少年「えっ」
190:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:10:45 ID:Gs0K8eI9OM
少年「やっぱり宣教師さまだ!」パァァ
宣教師「えと、大丈夫ですか…?」オソルオソル
母「え、えぇ。ごめんなさい」
少年「お母さまは心配し過ぎだよ?」
母「まぁ!坊やこそ心配してたじゃない?」
少年「そんな事ないよ!ボクは宣教師さまって分かってたもん!」
母「もう!調子のいい事ばっかり…」
宣教師「」ニコッ
村の子供3「宣教師様…この人たちがホビットなの?」
宣教師「えぇ。そうですよ?」
村の子供2「なんだよ、全然怖くねーじゃん!」
母「? 宣教師様、その子たちは?」
宣教師「私が教えていた村の子供たちです。あなたたちに紹介しようと思いまして…」
191:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/1/3(木) 21:12:58 ID:Gs0K8eI9OM
少年「」ハッ
宣教師「どうしました?」
母「あっそういえば……」
少年「…!」マジマジ
村の子供2「な、なんだよ?」
村の子供3「?」キョトン
少年「やっぱり!この前遊んでくれた子たちだ!」パァァ
村の子供2&3「えっ」
少年「ボクだよ、ボク!覚えてない?」
村の子供2「も、もしかして……!」
村の子供3「この前の女の子!?」
少年「えへへ!覚えててくれたんだね?」ニコッ
村の子供2「」ドキッ
母「……ぼ、坊や…」オロオロ
宣教師「大丈夫ですよ、お母様?」ニコッ
母「でも…」アセアセ
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