むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
127:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:33:22 ID:S6udfti/Vo
宣教師「分かりました」
村の大人3「さすが宣教師様、物分かりが良くて助かります。
ほら!来いっつったら来るんだ!」グイッ
母「や、やめて…!」
少年「そ、そんな…」
宣教師「ただしその親子は置いていきなさい」
村の大人3「なっ…」
宣教師「すでに十分な罰は与えたはずです」
村の大人3「バカなっ!こいつらはホビットだ!
罰に際限なんかあるか!?」
宣教師「私の言う事が聞けないのですか?」
村の大人3「あぁ。聞けねぇな!」
村の大人2「そ、そうでさぁ。こいつらは高値で売れるんだ!」
宣教師「あなたたちの事情は知りません。
私がホビットを管理すると言っているのです」
村の大人3「そんな事が…許されるわけ……」
宣教師「構いませんよ?
従えないと言うのなら司祭様に報告するまでです。
そうなれば我が教団によるこの村への援助は絶たれ、村長の怒りを買うのはあなた方でしょう」
村の大人1「うっ…」
宣教師「それでも一時の富を選ぶというのであればお好きになさい。
三等分した上で家族を養う事を考えれば雀の涙程度の額でしょうがね」
村の大人3「ち、ちくしょう…」スッ
宣教師「最初から言う通りにしていればいいのです」
128:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:35:34 ID:8X2XsZkcTQ
村の大人3「あんた、タダで済むと思うなよ?」
宣教師「噂でもなんでも広めればいい。
心貧しき人間にはお似合いです」
村の大人3「くそっ!覚えてやがれ!」ダッ
村の大人2「あっおい!待てよ!?」ダッ
村の大人1「……宣教師様…俺は悲しいですよ」
宣教師「……」
村の大人1「もう今まで通り村にいられるとは思わない事ですね」ダッ
宣教師「………」
129:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:37:04 ID:S6udfti/Vo
宣教師「」クルッ
母「」ビクッ
少年「宣教師さま…!」
宣教師「大丈夫ですか?」スッ
母「えっ」
宣教師「? どうしました?」
母「手を…差し伸べてくださるのですか?」
宣教師「えぇ。私は神に仕える者。
すべての命を平等に扱いますよ?」ニコッ
母「……あぁ…」ブワァ
少年「うっ…うぇぇ…」シクシク
宣教師「辛かったでしょう…。
今ある悲しみも、痛みも流してしまいなさい。
あなたたちの尊い涙を神は見てくださっています」
母「あぁぁぁぁ……!」ポロポロ
少年「うっ…うぇっ…」ポロポロ
130:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:40:02 ID:8X2XsZkcTQ
少年「宣教師さま、ありがとうございました!」
宣教師「いえ、礼を言われるような事など…」
母「うぅ……」ポロポロ
少年「ほら!お母さまもお礼しなくちゃ!ね?」
母「そうね、ごめんなさい…。
ありがとうございます。本当に感謝しております…」
宣教師「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。
そして同時に、あなたたち親子に謝らなければなりません」
母「そんな…とんでもありませんわ!」
少年「そうだよ!宣教師さまはボクとお母さまを助けてくれたんだ!」
宣教師「……先ほどはキミに酷い言葉をぶつけました。
それに…私は昨日、何もせずに見ていただけです」
母「……」
131:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 19:43:03 ID:S6udfti/Vo
宣教師「ここから上がる煙に私がいち早く気付いていれば、
キミのお母様も、キミもこんな目に遭わずに済んだかもしれません…」
少年「……」ギュッ
母「そんな…お気になさらないでください。
こうなったのは宣教師様のせいではなく、あたしの不注意ですから…」
宣教師「違う…私はこんな事が言いたいのでは…」
母「……?」
宣教師「とりあえず今日のところは私の教会へ泊まりなさい」
母「まぁ!そんな、いけませんわ!
教団の方があたしたちを招けば人々になんて言われるか…!」
宣教師「問題ありません。
教えに背いた私はどのみち破門になります。
そうなれば村人の目はあって無いようなもの」
母「そうなればあなたまで迫害を受けてしまいますわ!?」
宣教師「……それも、問題ありませんよ」
母「えっ?」
宣教師「さ、汚れてしまった衣服やお体を清めなければならないでしょう?
夜も深まりましたし、早く教会へ行きましょう」
母「……」ペコリ
少年「宣教師さま…ありがとう!」
宣教師「……!」
宣教師「いえ、気にしないでください」ニコッ
132:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/30(日) 19:58:48 ID:A8xJN2pJRk
人間ってのは、どうしてこう……
つC
133:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/30(日) 20:30:08 ID:JjbL7qVj/A
>>132さん
支援ありがとうございます!
人間の良い部分も悪い部分も書きたいので、中には不快なところも出てくると思いますがお付き合いいただければ幸いですm(__)m
134:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:28:56 ID:hN22NeG0qs
???「はっはっは!」パンッパンッ
???「おらぁ!そろそろ出すぞwww」パンッパンッ
???「ら、乱暴にしないでください…。
苦しいです…。」
これは…さっきの…?
???「なに言ってやがる!望むもんはくれてやったんだ!
しっかり働いてもらわねぇとな?」
母「は、はい。申し訳ありません」
???「……たく!ホビットは客の相手も満足に出来ねぇのかよ」
母「ごめんなさい…。」
違う…これはさっきのじゃない…?
オギャア オギャア
あれはボク…?
135:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:31:07 ID:hN22NeG0qs
母「すみません、子供が泣いてますので…」
???「なにぃ?」
母「お願いします。すぐに泣き止ませますから」
オギャア オギャア
???「うるせぇガキだ。俺が黙らせてやる!」
母「そんな!おやめください!」
???「ならくれてやった食料の半分、返してもらおうか?」
母「なっ…!」
???「ガキのせいで興が削がれたんだ。当然だろうが?」
母「……分かりました。お返します。
どうか息子には手を出さないでください」
???「それから1日延長だ。もちろんタダでな?」
母「はい、分かりました……」
お母さま…なんで…?
なんで、こんな事するの?
ボク、いやだよ。こんなの………
オギャア オギャア オギャア
136:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:34:11 ID:hN22NeG0qs
――教会――
少年「」ガバッ
少年「……」ダラダラ
少年「ここ、どこ?」
ガチャッ
母「あら、目が覚めたのね?」
少年「お母さま?」
母「なぁに?」ニコッ
少年「ここは?」
母「まぁ!寝ぼけてるの?
ここは宣教師様の教会じゃない?」
少年「教会?……あ、そっか」
母「もう!夢でも見てたんじゃないの?」
少年「夢……あ、あぁ…!
いやだ、いやだよ!思い出したくない!!」バッ
母「坊や?」
少年「う、うわぁぁぁあ!!!」ジタバタ
母「ど、どうしたの。坊や!?」
137:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:35:41 ID:JjbL7qVj/A
少年「いやだ、いやだ!いやだぁぁぁああ!!!」
母「坊や……」ダキッ
少年「あ、あ、あぁぁぁぁ!!!」
母「もう、大丈夫よ…。
あれは夢、忘れてしまいなさい」ギュッ
少年「お母さま…」
母「落ち着いた?」ニコッ
少年「ねえ…」
母「ん?」
少年「…ボクが赤ちゃんだった時にも、あんな事してたの?」
母「」ビクッ
138:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:37:36 ID:hN22NeG0qs
母「なにを、いっているの…?」
少年「ねえ、答えてよ。お願い?」
母「……」
少年「なんで何も言ってくれないの?
ねえ、どうして?」
母「坊や、それはね…」
少年「ごめんなさい」
母「えっ」
少年「よく考えたら、お母さまがそんな事するわけないよね?
疑ったりしてごめんなさい」ペコリ
母「坊や…?」
139:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:41:37 ID:hN22NeG0qs
少年「だってお母さまはキレイだもんね?」
少年「汚れてなんかないよね?」
少年「ごめんなさい。二度とお母さまを疑ったりしないよ」
少年「ボク、お母さまを信じてるから!」ニコッ
母「坊や……」
少年「どうしたの。お母さま?」
母「……なんでもないわ」
母「(謝らなきゃいけないのは、あたし……。
ごめんなさい…ごめんなさい…)」
140:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:43:15 ID:hN22NeG0qs
少年「そういえば宣教師様は?」
母「少し出かけるそうよ?」
少年「そっか。じゃあボク、マルクに会いに行こうかな」
母「だめよ、おとなしくしてなくちゃ。
村から離れているとはいえ、いつ人間に会うか分からないわ」
少年「そっか、そうだね。
マルク、ひとりぼっちで寂しくないかなぁ?」
母「大丈夫よ、マルクは利口な子だもの。
ちゃんと自分の生活を送ってるわ?」
少年「そうだよね、ボク我慢するよ」
母「あなたもとってもお利口ね?」ナデナデ
少年「えへへ!」テレテレ
母「………」
141:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:45:44 ID:JjbL7qVj/A
――回想(昨夜)――
母「すみません、お風呂まで頂いてしまって……」
宣教師「お気になさらず。
この教会も所詮は借り物、私の所有地ではありませんのでご自由にお使いください」
母「ありがとうございます。あの子は?」
宣教師「疲れたのでしょう。奥の部屋で寝息をたてていますよ」
母「そう、ですか。そうですよね。
あんな事があったんですもの…」
宣教師「…こちらでお茶でもいかがですか?
拙い出来映えではありますがお菓子も用意しましたので」
母「おいしそうですわね。もちろん頂きます!」
宣教師「……怪我の具合はどうですか?」
母「宣教師様の手当ての甲斐もあって良くなりましたわ」ニコッ
宣教師「…失礼ですが癒しの力を以てして治せないのでしょうか?」
母「……」
宣教師「あ、いえ。答えにくいようでしたら…」
母「私は、癒しの力なんて持ってません」
宣教師「え…?」
142:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:48:35 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「それはどういう意味ですか?」
母「そのままの意味ですよ?」
宣教師「し、しかしあなたはホビットでは?」
母「えぇ。私はホビットですがそのような力は持っていませんよ?」
宣教師「ですが言い伝えにはハッキリと…」
母「宣教師様、失礼ですが教団に入られて何年になりますか?」
宣教師「かれこれ10年ほどになります…」
母「まぁ!10年も?
ずいぶんとお若いのね!」
宣教師「ふふ。歳は21ですが、私は孤児として司祭様に拾われましてね。
幼い頃から教団にいたのです」
母「そうでしたの…」
143:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:50:43 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「それよりも私が教団に入った年月とお話にどのような関係が?」
母「あぁいけない!そうでしたね。
10年であれば宣教師様がご存知無いのも無理はないですわ」
宣教師「と言いますと?」
母「あれは確か…あの子がまだ赤ん坊だった頃…」
母「忘れもしません、すべてが崩れ去った日……」
144:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:52:09 ID:hN22NeG0qs
――回想(ホビットの集落)――
兵士「ずる賢いホビットめ。
我々の目を盗んで森の奥に集落を作っていたとはな」
兵士「この世界にお前たちの居場所などない!」
母「あぁ…村が焼けている…」
兵士「見つけたぞ!殺せ!
一匹たりとも逃すな!」
父「待て!子供に手を出すつもりか!」
父「せめて、お前たちだけでもっ……!」
メラメラ メラメラ
145:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:54:16 ID:JjbL7qVj/A
母「………」
宣教師「そんな事があったのですか…」
母「あの日、王国の兵士たちが私たちの村を焼き払い、
家族も村の人たちも皆殺しにされてしまいました」
宣教師「……」
母「幸い夫のおかげであたしと息子とお父様は逃げられましたが、
後日、王国の兵士が去ったのを機に様子を伺いましたところ
焼け野原となった村に夫と村人たちの無惨な死体が残っていました」
母「その日からは今日を凌げるかも分からない有り様で…。
元々あたしたちホビットは迫害を受けていましたし、
人間の住む場所で買い物も出来ませんから。
年老いた父とまだ赤ん坊だったあの子を養う為に木の実を探したり、
狩りをしてみたり…時には体も売りました」
母「うふふ。ご心配なさらずとも昨日が初めてではありませんのよ?」
宣教師「申し訳ございません…」
母「あ、ごめんなさい…。そういうつもりで言ったんじゃないんです…」
宣教師「いえ、何も知らず今まであそこの村人達にホビットへの偏見を植え付けたのは私です…」
母「……しかたないですわ、環境がそうさせるんですもの」
146:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/31(月) 20:55:58 ID:JjbL7qVj/A
宣教師「すみません…。話の続きをお願いします」
母「…どこまで話しましたっけ?」
宣教師「そ、それは…その……」カァァ
母「?」
宣教師「あの、か、体を……」
母「」ハッ
シーン
母「あらやだ!ごめんなさい!」アセアセ
宣教師「そ、その…お気になさらないでください」カァァ
母「ほ、ほほほ…続き、話しましょうか?」
宣教師「お、お願いします!」
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