高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───開幕。
※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。
649: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:27:13 ID:xwHNq4GmIw
「朝は父さんが連れて行けるから無理しなくていいのに」
ネクタイを締めながら、父さんが苦笑気味にリビングから顔を覗かせる。
以前に比べると少し痩せた気もするが、スーツをきちんと着こなす父さんは息子ながら少し誇らしい。皺のないカッターシャツと整えられた髪は、真面目な父さんのイメージを壊す事なく清潔に保たれている。
「いいよ、通学路の途中だし。父さんはゆっくりしてて」
「うーん……嬉しいけど、無理するなよ?」
「はいはい、行ってきます。……あ、朝ご飯はちゃんと食べろよ」
背後でブー垂れる声がするが、朝から中年の相手をしている時間はない。
朝ご飯の重要さを教えてやりたい衝動を堪えて、玄関のドアに鍵を掛けた。
650: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:27:54 ID:xwHNq4GmIw
背中に弟を負ぶって、手には保育園の荷物と幼い妹。
後ろ指をさされてヒソヒソと哀れみの言葉を囁かれるのにも、もう慣れた。
「橘くんは可哀想だから」
そう言われて、次第に友人とも疎遠になった。
「お母さんが居なくて大変ね」
こう言う奴に限って、家は恵まれていてよかったと優劣に浸っているのではと思えてくる。
俺は自分の事を可哀想だと思った事は一度もないし、妹達にもそうであってほしいと思う。
ただ、願わくば──
願わくば、そんな目で見ない奴らに出会いたい。
俺の家庭の事など知らず、馬鹿な事を言い合って、喧嘩出来るような。そんな友人を持てるのなら。
651: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:28:31 ID:8asKCdS6D2
「お兄ちゃん、いつもご苦労様です」
「いえ、宜しくお願いします。それでは」
子供達の声で賑わう園内で交わされるお決まりの挨拶。
妹達を預けているこの保育園の教諭達は、気さくでなかなか印象がいい。何より、腐る程見てきた哀れんだ目で俺を見ない。
妹達に影響が少ないのは、有難い環境だと言える。
「……ん?」
園内の奥へと入って行く二人を見送って踵を返すと、靴箱の隅で誰かが座り込んでいるのが見えた。
妹と同じくらいだろうか。膝を抱えて泣いている様子の男の子は、何処か昔の俺に雰囲気が似ているように思えた。
652: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:29:19 ID:xwHNq4GmIw
そんな事を考えた所為だろうか。一回り大きい背中が朧気に浮かんで、男の子と重なった。
やがてそれは鮮明となり、俺の前に姿を現す。
「──あ、」
その後ろ姿は、俺だった。
ガキだった頃の俺が、まるでいじけているかのように膝を抱えて泣いている。
「………」
それをぼんやりと眺めながら、俺はただ立ち尽くしていた。
幼い自分の後ろ姿。あの時から、俺は何も変われていないのではないか。
自分の事を悲観して、その原因を他人の所為にする。
自分は何も悪くない、そう言って一番哀れんでいるのは俺自身なのではないか。
653: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:29:58 ID:xwHNq4GmIw
今の俺に言えるのだろうか。
お前は子供なのだと。妹や弟と変わりない、子供なのだと。
──今の俺が、手を差し伸べられるのだろうか。
ふと、掛ける言葉を考えあぐねている俺の背後から、バタバタと駆け寄る音が耳を突いた。
「う、おっ…!?」
ドスリ、と背中に衝撃を食らう。
振り返ると、其処にはつい今し方見送った妹と弟の姿があった。
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「しゃーい!」
言い忘れてた。そう言って、頬を赤らめた二人が満足気な笑みを浮かべて俺を見上げた。
654: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:30:44 ID:8asKCdS6D2
「あれ?どうしたの?」
泣いている男の子に気付いた妹が、弟と二人で歩み寄る。
「お、おかっ…お母さんのとこに行きたいぃっ!」
ひくひくとしゃくり上げながら男の子が言った。
お母さん、お母さんと繰り返し泣く男の子に、妹が手を差し出す。
「私達がいるから、さみしくないよ。遊んでる内にお迎えの時間になっちゃうもん」
男の子は鼻を啜りながら振り返り、不安げに瞳を揺らした。
瞬きをする度に涙が零れ、寂しい、寂しいと訴えかけている。
655: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:31:22 ID:8asKCdS6D2
「本当、に…?」
「うん。本当だよ。弟もそうだよね?」
「あい!」
ほら、と言わんばかりに差し出された妹の手に、男の子の手が重なった。
しっかりと握られた小さな手は、座り込む男の子を立ち上がらせる。
「一緒に行こ」
「うん…!」
子供とは本当に単純なものだ。そう思えど、これではっきりと分かってしまった。
「私達がいるから」
この言葉で幾分か胸が軽くなった俺も、まだまだ単純な子供のようだ。
そして──
656: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:33:06 ID:xwHNq4GmIw
「行ってらっしゃい!」
妹と弟に手を繋がれた、幼い自分が笑っている。
ぐちゃぐちゃに濡れた顔で、少し照れ臭そうに頬を染めて。
「──…行って、きます」
どうやら、救われたのは今の俺だけではないらしい。
子供達は手を繋いだまま、保育園の奥へと駆けて行く。
いつの間にか、小さな俺の姿は消えていた。
657: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:33:42 ID:xwHNq4GmIw
──小さな俺が泣いている。
寂しい、寂しいと訴えて。
素直になれない、男の子。
手を差し伸べているのは誰だ?
俺の手を掴んでくれたのは──
橘少年の憂鬱‐fin.
658: ◆UTA.....5w:2012/5/2(水) 15:39:35 ID:8asKCdS6D2
本当はもっと色々と書いていたのですが、余りにも長くなってしまうので割愛しました。
無理矢理感が否めませんが、これにて投下終了します。
次からは通常営業に戻ります。読んで下さった皆さんに感謝です!
>>639
ちょw泣いちゃいますやんw
皆さんの優しさに甘えてしまいがちですが、そう言って頂けるのは本当に嬉しいです。
応援して下さってありがとうございます!今晩は639さんの愛を抱き締めながら眠りますw
659: 名無しさん@読者の声:2012/5/2(水) 18:26:09 ID:3cviQqCynY
お帰り!
もうメガネも1も大好き!
つCCCCC
660: 名無しさん@読者の声:2012/5/2(水) 20:23:18 ID:WAglpR/xbg
よし、支援だ
続けろ下さい
661: 名無しさん@読者の声:2012/5/2(水) 20:42:45 ID:8bHY3xTgo2
待ってたよぉぉぉ☆
でも、>>1のペースでいいからね♪嫁、頑張り過ぎてキュ〜っときたw
つCCCCC
662: 名無しさん@読者の声:2012/5/4(金) 03:29:28 ID:0StBuOE6ag
橘になら掘られても構わない
割りとマジで
663: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 16:39:45 ID:vGpekRe9Xc
>>659
お待たせしてしまって申し訳ございません。ただいまです!
メガネのみならず私まで…私も659さん大好きです!
>>660
ありがとうございます!
続行させて頂きます(`・ω・´)
>>661
待っていて下さってありがとうございます!甘えてばかりで申し訳ございません…orz
もう少し嫁のターンですw
>>662
メガネなら、もしかするとやりかねないかもしれません。割とガチで。
後方には十分ご注意下さい。
支援ありがとうございます!
投下します。
664: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 16:41:13 ID:iVVTlb76UY
────‐‥
橘「………ん、」パチ
橘「いつの間に寝たんだ?……お陰で、懐かしい夢を見てしまった」
橘「しかし、何だか体が重い!苦しい!」
橘妹「Zzz...」スヤスヤ
橘弟「Zzz...」スピースピー
橘「こいつら…病人の上で寝やがって………ん?」パサッ
橘「濡れた、タオル……取り替えてくれてたのか」
665: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 16:52:37 ID:vGpekRe9Xc
橘「………」
妹&弟「Zzz...」ギュウ
橘「ご丁寧に手まで繋いでくれちゃって。一丁前に、看病してくれていたんだな」
橘「そうか。俺の手を掴んでくれたのは、お前らだったのか…」
橘「……って、だから重い!」
橘(とりあえずベッドに寝かせておくか)
橘「」ゴソゴソ
666: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 17:01:12 ID:iVVTlb76UY
──リビング
橘(そういえば、馬鹿共が揃って上がり込んでいたような…)
ガチャ
鳴海「Zzz...」クカー
桃山「Zzz...」スヤスヤ
篠原「Zzz...」スピー
橘「全員寝てるのかよ!」
橘「ったく、どいつもこいつ、も……」
667: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 17:09:42 ID:vGpekRe9Xc
橘「…片付いてる」
橘「無法地帯と化していたリビングが片付いている…!」
橘「ゴミもちゃんと分別されている」
橘「……何という事でしょう。あの荒れ果てていたリビングが、見違える程綺麗に、過ごしやすくなりました」
橘「割れたお皿はビニールに包んでゴミ箱の中へ。子供達が怪我をしないようにと、匠の優しさ溢れる仕上がりに」
橘「砂漠のように撒き散らされた小麦粉は綺麗になくなり、卸したてのようなフローリングが輝きを放つようになりました」
橘「……」
橘「驚きの余り、ついやってしまった…」
668: ◆UTA.....5w:2012/5/4(金) 17:27:17 ID:vGpekRe9Xc
鳴海「むにゃむにゃ」ゴロン
篠原「…っ…うーん……」←鳴海の手が顔に乗っている
桃山「Zzz...」スヤスヤ
橘「……」
橘「本当、馬鹿な奴らだな」フッ
\ ガチャガチャ バタン! /
橘「む。もうそんな時間か」
橘「そういえば、いつの間にか外も暗いな」
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