高校生の馬鹿馬鹿しくて、
ちょっぴりセンチメンタルな
青春グラフィティ───開幕。
※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。
180: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 21:54:49 ID:uZOnOzXKHk
背格好にそこまで差はなく、幼さ故にゴツくもない。少し遠目から写真を撮れば、これが女装した少年だとは誰も気付かない程度だった。
案外見た目も似ている事も伴って、デジタルカメラの画面に写る僕を、両親揃って姉さんだと信じて疑わなかった。
「可愛いじゃないか。よく似合ってるぞ」
「本当に。お祖母ちゃんも喜ぶわ」
にこにこと笑顔で画面を見つめる両親。そして、不機嫌にブーたれる僕と、少し申し訳なさそうに首を竦める姉さん。
この光景も、最初の内だけだった。
181: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:07:57 ID:uZOnOzXKHk
可愛い、可愛いと写真を見せる度に褒めちぎる両親に、いつしか僕は味を占め、喜びを感じるようになっていった。祖母から洋服が届く度に心が踊り、自分なりに可愛らしいポーズまで考える始末。
果てには、胸の内で淑やかな女性を演じるようになっていった。
姉さんの罪悪感も、回数を重ねる毎に減っていったように思う。
表向き渋々といった表情を浮かべる僕の着ている服を、剥ぎ取るように脱がせてくるようになった。
この“姉さんの身代わり女装”は、僕が小学校を卒業するまで続く事となり、その頃には既に手遅れの状態になっていた。
僕は、可愛いものが大好きな乙女心というものが何たるかを、理解してしまったのだ。
182: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:21:17 ID:uZOnOzXKHk
しかしながら、僕だって常識くらいは弁えているつもりな訳で。
男という性別に生まれたからには、スカートやブラウスをそう気兼ねなく身に付けられる筈がない事くらいは理解している。
梅川さんと付き合っているのだって、恋愛対象が女の子であると認識しての事だし、それに関しては抵抗もない。僕は別に性別に疑問を抱いている訳ではなく、至って普通の人間なのだ。
その心に、僅かばかりの乙女心を隠し持っている事以外は。
183: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:37:29 ID:uZOnOzXKHk
***
「どうしたの、ぼーっとして」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
流れる風のように涼やかで美しい声が、僕を現実に引き戻す。そういえば、梅川さんと下校途中だったのか。
僕の頭の中と言えば、数日前からあのメイド服の事でいっぱいだった。我ながら、とんだ変態趣味である。
「それでね、私にもメイドの格好をしろと言うんだけれど…」
「メイド…?」
184: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:52:07 ID:ydXzZUk3ko
何とも魅力的なその響きに、僕の思考は停止する。まだ僕を惑わそうと言うのか、憎い奴め。
「断ろうと思うの。あの格好で人前に出るのは、やっぱり恥ずかしいわ」
「そう、勿体ない……」
桃山くんになら。そう言って頬を染める梅川さんの表情に、思考停止中の僕が気付く筈もない。
僕の視線は沈みゆく太陽へと流れていた。さようなら、太陽さん。さようなら、メイド服……。
185: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:54:19 ID:uZOnOzXKHk
「こんな事なら、学校に置いて来ずに持って帰ってくるんだったわね。そうしたら、桃山くんにだけ着て見せてあげられたのに」
悪戯っぽく笑みを浮かべた梅川さんの頬が、夕焼けに染まる。物寂しげなオレンジ色の光さえ、彼女と重なれば美しく───…待て。今、何と言った。
学校に、置いてきた?何を?メイド服を?
それじゃあ、あのメイド服は今、誰も居ない教室で寂しく置いてきぼりになっているというのか。
186: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:59:18 ID:uZOnOzXKHk
「桃山くん?どうしたの?」
そう言って首を傾げる仕草までもが愛らしく、僕にストップを掛ける。待て、早まるな、と。
「ちょっと考え事……いや、忘れ物をしたのを思い出したんだ」
しかし、僕の衝動はもう抑えがきかない。この先、こんなチャンスはもう二度とやって来ないかもしれないのだ。そう思うだけで、僕は居ても立ってもいられなかった。
あのメイド服に触れるチャンスは、今日しかない──。
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