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3センチメンタル・ヤング・ピーポー
[8] -25 -50 

1: :2012/1/28(土) 22:24:39 ID:kbMCzVk3I2

高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───開幕。



※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。




174: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:45:54 ID:Q7te1ItLPI

「…祖母には後で電話で礼を言っておくよ」

「昔は写真に撮って送ってあげてたじゃない。似合ってたわよ?」

トントンと、包丁が俎板を叩く音がリビングに響き渡った。僕と姉さんの視線が静かにぶつかる。
バツが悪そうに眉を潜めて、姉さんがワンピースを手に自室へと引っ込んだ。

「可愛かったのにねぇ、お姉ちゃん。今でもきっと似合うのに」

「そうだね…」

はは、と渇いた笑みが零れる。自分の母親ながら、本当にこの人は抜けていると思う。

祖母に送った写真に写っていた少女。それは、姉さんではなく僕だ。母さんが言うワンピースが似合っていた子は、可愛かった子は──紛れもなく、この僕なのだ。


175: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:02:55 ID:jNoOxKjX8o

物心もつかない内はされるがままになっていたであろう姉さんは、成長するにつれてスカートというものから遠ざかり、気付いた頃にはすっかりパンツスタイルが定番化していた。

姉さん曰く、

「あのような格好は私には不向きだ…」

(勿論、後日談である)だそうだ。
確かに姉さんの性格に、可愛らしい洋服は不似合いだった。それに、祖母の選ぶ洋服はあまりにも少女趣味の度が過ぎている。


176: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:53:53 ID:LVNZjJhq3A

そうして僕が小学三年生になったある日、事件は起きた。
いつものように電話でお礼を言う姉さんに向かって、祖母が言ったのだ。

「そのお洋服を着たお姉ちゃんが見てみたいわ。そうだ、写真を送ってくれないかしら」

「勿論!」

子供ながらに気を遣ったのだろう。姉さんは明るく返事を返して電話を切り、早々に僕へと視線を移し、不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。

「さあ、今すぐ着ているものを脱いでこれを着るんだ」

「えぇぇ!?」


桃山少年、九つの出来事であった──。


177: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:54:51 ID:LVNZjJhq3A

これにて投下終了します。
読んで下さってありがとうございます。


178: 名無しさん@読者の声:2012/2/12(日) 22:23:33 ID:5lBHhuUjtU
皆可愛くて面白いwww
こういうの大好き!!

っCCCCCCCCC
179: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 21:52:24 ID:uZOnOzXKHk

>>178
わーい、Cがいっぱい!そう言って頂けると本当に嬉しいです。ありがとうございます。
とても励みになります(*´ω`*)

投下します。


180: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 21:54:49 ID:uZOnOzXKHk

背格好にそこまで差はなく、幼さ故にゴツくもない。少し遠目から写真を撮れば、これが女装した少年だとは誰も気付かない程度だった。
案外見た目も似ている事も伴って、デジタルカメラの画面に写る僕を、両親揃って姉さんだと信じて疑わなかった。

「可愛いじゃないか。よく似合ってるぞ」

「本当に。お祖母ちゃんも喜ぶわ」

にこにこと笑顔で画面を見つめる両親。そして、不機嫌にブーたれる僕と、少し申し訳なさそうに首を竦める姉さん。

この光景も、最初の内だけだった。


181: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:07:57 ID:uZOnOzXKHk

可愛い、可愛いと写真を見せる度に褒めちぎる両親に、いつしか僕は味を占め、喜びを感じるようになっていった。祖母から洋服が届く度に心が踊り、自分なりに可愛らしいポーズまで考える始末。
果てには、胸の内で淑やかな女性を演じるようになっていった。

姉さんの罪悪感も、回数を重ねる毎に減っていったように思う。
表向き渋々といった表情を浮かべる僕の着ている服を、剥ぎ取るように脱がせてくるようになった。

この“姉さんの身代わり女装”は、僕が小学校を卒業するまで続く事となり、その頃には既に手遅れの状態になっていた。
僕は、可愛いものが大好きな乙女心というものが何たるかを、理解してしまったのだ。


182: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:21:17 ID:uZOnOzXKHk

しかしながら、僕だって常識くらいは弁えているつもりな訳で。
男という性別に生まれたからには、スカートやブラウスをそう気兼ねなく身に付けられる筈がない事くらいは理解している。

梅川さんと付き合っているのだって、恋愛対象が女の子であると認識しての事だし、それに関しては抵抗もない。僕は別に性別に疑問を抱いている訳ではなく、至って普通の人間なのだ。
その心に、僅かばかりの乙女心を隠し持っている事以外は。


183: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:37:29 ID:uZOnOzXKHk

 ***


「どうしたの、ぼーっとして」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」

流れる風のように涼やかで美しい声が、僕を現実に引き戻す。そういえば、梅川さんと下校途中だったのか。
僕の頭の中と言えば、数日前からあのメイド服の事でいっぱいだった。我ながら、とんだ変態趣味である。

「それでね、私にもメイドの格好をしろと言うんだけれど…」

「メイド…?」


184: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:52:07 ID:ydXzZUk3ko

何とも魅力的なその響きに、僕の思考は停止する。まだ僕を惑わそうと言うのか、憎い奴め。

「断ろうと思うの。あの格好で人前に出るのは、やっぱり恥ずかしいわ」

「そう、勿体ない……」

桃山くんになら。そう言って頬を染める梅川さんの表情に、思考停止中の僕が気付く筈もない。
僕の視線は沈みゆく太陽へと流れていた。さようなら、太陽さん。さようなら、メイド服……。


185: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:54:19 ID:uZOnOzXKHk

「こんな事なら、学校に置いて来ずに持って帰ってくるんだったわね。そうしたら、桃山くんにだけ着て見せてあげられたのに」

悪戯っぽく笑みを浮かべた梅川さんの頬が、夕焼けに染まる。物寂しげなオレンジ色の光さえ、彼女と重なれば美しく───…待て。今、何と言った。

学校に、置いてきた?何を?メイド服を?

それじゃあ、あのメイド服は今、誰も居ない教室で寂しく置いてきぼりになっているというのか。


186: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 22:59:18 ID:uZOnOzXKHk

「桃山くん?どうしたの?」

そう言って首を傾げる仕草までもが愛らしく、僕にストップを掛ける。待て、早まるな、と。

「ちょっと考え事……いや、忘れ物をしたのを思い出したんだ」

しかし、僕の衝動はもう抑えがきかない。この先、こんなチャンスはもう二度とやって来ないかもしれないのだ。そう思うだけで、僕は居ても立ってもいられなかった。
あのメイド服に触れるチャンスは、今日しかない──。


187: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 23:00:25 ID:ydXzZUk3ko

これにて投下終了します。
読んで下さってありがとうございます!


188: 名無しさん@読者の声:2012/2/13(月) 23:05:11 ID:8suo7e3v.U
メイド服の男の娘が居ると聞いて支援しに来ました( ^ω^)っC
189: 名無しさん@読者の声:2012/2/14(火) 12:17:31 ID:/ke9CwsHH2
このオカマ…安定の変態具合であるw
支援( ̄ー ̄)
190: 名無しさん@読者の声:2012/2/14(火) 18:50:47 ID:JLU0toeGlQ
C
191: ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 22:11:14 ID:bpXWVrAic2

>>188
男の娘と呼べる程、外見も中身も伴っていませんがそれでも宜しいでしょうかw

>>189
真面目に自分の性癖を語るなんて、本当に変態ですよね。実は(?)4馬鹿の中で一番の変態は彼なのかもしれませんw

>>190
⊃C⊂ ギュッ


沢山支援を頂けて、只今スーパーハッピータイムです(*´∀`*)
本当にありがとうございます。投下します。


192: ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 22:12:15 ID:bpXWVrAic2


梅川さんが何かを言っていたような気がするけれど、僕の足は止まる事なく学校へと向かっていた。

「……あった」

梅川さんの机に掛けられていた紙袋の中に、それはあった。まるで待ち侘びたと言うように、紙袋の中に納まっている。
それを優しく取出して、そろそろと周りを見渡す。廊下にひょっこり顔を出して人が居ないのを確認すると、滑らかなシフォン生地を目一杯抱き締めて僕は叫んだ。

「あーん、もうっ!可愛いー!」

193: ◆UTA.....5w:2012/2/14(火) 22:57:17 ID:YqGi4onR3Y

抱き締められたメイド服はふにゃりとしなり、その身を預けてくれる。
もしかすると、この子は文化祭で誰にも着て貰う事なく、紙袋の中で眠っているだけの運命かもしれない。

「可哀想にねぇ…」

こんなに可愛いのに。そう呟いて、ふと、いけない思考が脳を渦巻く。
少しくらい着てみても、罰は当たらないのではないか。その方が、このメイド服も喜ぶのではないか。


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