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3センチメンタル・ヤング・ピーポー
[8] -25 -50 

1: :2012/1/28(土) 22:24:39 ID:kbMCzVk3I2

高校生の馬鹿馬鹿しくて、

ちょっぴりセンチメンタルな

青春グラフィティ───開幕。



※登場人物が増える予定の為、名前を付けています。




161: ◆UTA.....5w:2012/2/8(水) 21:42:28 ID:qL3BUknhLU

僕達のクラスの催し物は、仮装喫茶店という何とも心惹かれるものだった。各々で衣装を用意し、それを身に纏って接客をする。
僕がメイド服を着る、唯一のチャンスだった。

釈明しておくが、僕は決してコスプレが好きな訳じゃなければ、メイドさんに萌えるオタクという訳でもない。
ただ、あの衣装を着たかっただけなのだ。あの滑らかな曲線を描くパフスリーブの黒いワンピースに、フリルが施されたエプロン、髪飾りに勝るとも劣らないホワイトブリム──恐らくこれから先、僕には縁がないであろう代物。
ただ、それをこの身に纏ってみたいだけなのだ。


162: ◆UTA.....5w:2012/2/8(水) 21:54:48 ID:As22E0pO8E

***


「桃山くんのメイドさん、私は少し見てみたかったな」

オレンジ色に照らされて愛らしく微笑むこの子は、同じクラスの梅川さん。僕の彼女である。

がさつな他の女子とは違って、彼女はとてもたおやかだ。清楚で淑やかな彼女こそ、大和撫子と呼ぶに相応しいと僕は思う。

「梅川さんこそ、裏方なんて。きっと、凄く似合うと思うのに」

ふと、脳裏に彼女の姿を浮かべて口元を緩める。僕の脳の奥で、エプロンドレスを纏った梅川さんは恥ずかしそうにはにかんでいた。
可愛い。間違いなく可愛い。僕が彼女なら、迷う事なく袖を通すというのに。


163: ◆UTA.....5w:2012/2/8(水) 22:11:25 ID:XZM9R81ObI

それなのに梅川さんときたら困ったように眉を寄せて、僕にこう言った。

「私には似合わないわ」

ふわり、風に揺れる黒い髪はレースカーテンのように柔らかく流れる。憎たらしい言葉を発する唇は桜色。伏せられた睫毛は、マッチ棒を乗せられる程に長い。
これ程までに、美少女という言葉が当て嵌まる少女が居るのだろうか。

そんな彼女が、一体何を謙遜する事があるのだろう。僕なんて、男という性別を乗り越えてでも袖を通したいと思っているのに。
人の気も知らないで、まったく失礼な女子である。


164: ◆UTA.....5w:2012/2/8(水) 22:21:42 ID:ki46t9YtMY

「どうして着たがらないのかしら……あんなに可愛いのに」

長い影を伸ばして去って行く梅川さんの後ろ姿を見つめながら、溜め息混じりに呟いた。
思わず口をついて出た言葉に、慌てて口元を押さえる。キョロキョロと辺りを見渡して周りに人が居ないのを確認すると、自然と安堵の吐息が洩れた。

──僕には、誰にも言えない秘密があるのだ。

「アタシの気持ちなんて、誰にも分からないのよね…」

僕の秘密。それは、まごうことなく、この隠された裏の顔である。


165: ◆UTA.....5w:2012/2/8(水) 22:25:25 ID:JlaWwk8fx.

これにて投下終了します。
突然の小説体で読みづらいかとは思いますが、お付き合い頂けると幸いです。

此処まで読んで下さってありがとうございます!


166: 名無しさん@読者の声:2012/2/9(木) 09:04:59 ID:t/3Pct9RoE
文体変わりすぎてビビったww
支援!支援!
167: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:11:16 ID:jNoOxKjX8o

>>166
驚かせてしまってすみません、衝動が抑えられずにやってしまいましたw
この話が終わったらいつもの文体に戻りますので、どうかそれまでお付き合い下さい。


間が空いてしまってすみません。投下します。


168: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:17:03 ID:Q7te1ItLPI

僕がこうなってしまったのにも、それなりの理由がある。

クラスの女子も言っていたように、僕には姉が一人居る。
一昨年の文化祭、当時中学三年生だった姉は、体育館のステージの上で王子様を演じていた。男子生徒を差し置いての、クラスの女子達の熱烈なラブコールによるものだったらしい。
結果、姉には多くのファンがつき、卒業式ではスターばりに囲まれる事となった。

すらりと高い身長に、中性的な顔立ち。男も羨む学園の王子様──それが僕の姉であり、僕がこうなってしまった最大の原因である。


169: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:25:50 ID:Q7te1ItLPI

「お姉ちゃん、お祖母ちゃんから荷物が届いているわよ」

母さんのその一言に、姉さんはあからさまに表情を歪めて頭を掻いた。普段からポーカーフェイスな姉にこんな顔をさせるものと言えば、一つしかない。

父方の祖母からの贈り物。中身はずばり、洋服だ。

「うっ……」

贈り物の包装を解いた姉さんが、苦虫を噛み潰したような顔で仰け反った。


170: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:49:47 ID:jNoOxKjX8o

「姉さん、どうしたの?」

凡その予想は付いているにも関わらず、白々しく僕は問う。箱の中身が見たいからだ。

「……これを見てくれ、弟よ」

指先で摘まれながら箱の中から現れたのは、淡い桃色のワンピース。襟元にまでフリルが施されており、何とも女の子らしい代物だった。

──わあ、可愛いー!

思わず口をついて出そうになった本音を呑み込む。本当は、喉から手が出そうな程に興味津々なのだけれど。


171: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 11:55:47 ID:jNoOxKjX8o

「祖母は一体、私を幾つの子供だと思っているのか……」

「折角お祖母ちゃんが姉さんの為に買ってくれたんだ。有難く頂戴してあげなよ」

僕がそう言うと、姉さんは頭を押さえて項垂れた。やれやれ、と言うように溜め息を吐きながら、ワンピースを箱の中にしまう。

……要らないのなら、僕にください。なんて事は、流石に言えない。


172: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:14:28 ID:jNoOxKjX8o

父方の祖母は年に二度程、こうして姉にプレゼントを郵送してくる。僕にはたまにしかないけれど、そこに不満は特にない。

僕の父さんは四人兄弟の末っ子で、上は全て男の、所謂男兄弟だ。皆、それぞれに結婚をして子供が出来たが、見事なまでに生まれてくるのは男、男、男のオンパレード。
ずっと女の子を欲しがっていた祖母は、末っ子である父さんの子供が待望の女の子である事に、それはそれは喜んだらしい。

そんな訳で、祖母は姉さんを人一倍可愛がり、こうしてプレゼントを送ってくる、という訳だ。
……当の本人はフリルのワンピースなどを一切着ない、学園の王子様だという事も知らずに。


173: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:34:50 ID:jNoOxKjX8o

「あらぁ、着ないの?可愛いのに」

夕飯の支度をしながら、母さんが言った。姉さんの答えは聞くまでもない。

「母よ、私にあんなものが似合うと思うのか」

「じゃあ、そのワンピースどうするの?」

勿体ないわね、と母さん。

貴方の子供なのだから、このワンピースがどうなるのかは安易に想像がつくでしょう。
クローゼットの奥に押し込まれて眠る。これが毎度の贈り物の運命。嗚呼、可哀想なワンピースちゃん。


174: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 12:45:54 ID:Q7te1ItLPI

「…祖母には後で電話で礼を言っておくよ」

「昔は写真に撮って送ってあげてたじゃない。似合ってたわよ?」

トントンと、包丁が俎板を叩く音がリビングに響き渡った。僕と姉さんの視線が静かにぶつかる。
バツが悪そうに眉を潜めて、姉さんがワンピースを手に自室へと引っ込んだ。

「可愛かったのにねぇ、お姉ちゃん。今でもきっと似合うのに」

「そうだね…」

はは、と渇いた笑みが零れる。自分の母親ながら、本当にこの人は抜けていると思う。

祖母に送った写真に写っていた少女。それは、姉さんではなく僕だ。母さんが言うワンピースが似合っていた子は、可愛かった子は──紛れもなく、この僕なのだ。


175: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:02:55 ID:jNoOxKjX8o

物心もつかない内はされるがままになっていたであろう姉さんは、成長するにつれてスカートというものから遠ざかり、気付いた頃にはすっかりパンツスタイルが定番化していた。

姉さん曰く、

「あのような格好は私には不向きだ…」

(勿論、後日談である)だそうだ。
確かに姉さんの性格に、可愛らしい洋服は不似合いだった。それに、祖母の選ぶ洋服はあまりにも少女趣味の度が過ぎている。


176: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:53:53 ID:LVNZjJhq3A

そうして僕が小学三年生になったある日、事件は起きた。
いつものように電話でお礼を言う姉さんに向かって、祖母が言ったのだ。

「そのお洋服を着たお姉ちゃんが見てみたいわ。そうだ、写真を送ってくれないかしら」

「勿論!」

子供ながらに気を遣ったのだろう。姉さんは明るく返事を返して電話を切り、早々に僕へと視線を移し、不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。

「さあ、今すぐ着ているものを脱いでこれを着るんだ」

「えぇぇ!?」


桃山少年、九つの出来事であった──。


177: ◆UTA.....5w:2012/2/11(土) 13:54:51 ID:LVNZjJhq3A

これにて投下終了します。
読んで下さってありがとうございます。


178: 名無しさん@読者の声:2012/2/12(日) 22:23:33 ID:5lBHhuUjtU
皆可愛くて面白いwww
こういうの大好き!!

っCCCCCCCCC
179: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 21:52:24 ID:uZOnOzXKHk

>>178
わーい、Cがいっぱい!そう言って頂けると本当に嬉しいです。ありがとうございます。
とても励みになります(*´ω`*)

投下します。


180: ◆UTA.....5w:2012/2/13(月) 21:54:49 ID:uZOnOzXKHk

背格好にそこまで差はなく、幼さ故にゴツくもない。少し遠目から写真を撮れば、これが女装した少年だとは誰も気付かない程度だった。
案外見た目も似ている事も伴って、デジタルカメラの画面に写る僕を、両親揃って姉さんだと信じて疑わなかった。

「可愛いじゃないか。よく似合ってるぞ」

「本当に。お祖母ちゃんも喜ぶわ」

にこにこと笑顔で画面を見つめる両親。そして、不機嫌にブーたれる僕と、少し申し訳なさそうに首を竦める姉さん。

この光景も、最初の内だけだった。


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