「出来、たー……!」
オフィス用の椅子を限界まで倒してのけ反ると、背骨と腰の辺りからばきぼきと嫌な音が鳴った。
うん。リアルだ。
ひとりで納得しながら腕を伸ばしていると、窓口に立っていた結さんが振り返る。
「お疲れ様、今日のノルマは終わりよ」
「死んでるのにドライアイになりそうですよ」
「私だって死んでから書類仕事する羽目になるとは思わなかったわよ」
お腹は空かない、でも眠れる。
肉体はないはずなのに、仕事をすれば疲れるし、物に触れることもできる。
死後の世界というものは、全くおかしな場所だった。
174:🎏 ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/9(月) 11:48:56 ID:c.gYySYfy6
「ホームの方までご案内しましょうか。階段が、ありますから」
過剰に気を遣われるのを、嫌がるお年寄りもいると聞くけれど。
幸いこの人はそうではなかったらしく、穏やかに笑うと静かに首を振った。
「いいえ、ご親切にありがとう。大丈夫よ、手すりで十分上れますから」
そうですか、と俺はつい尻すぼみになりながら引き下がる。
なんだか妙に気恥ずかしい。
相変わらずにこにこと人の好さそうな笑顔をちらりと目にして、俺はもう一度口を開いた。
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