「出来、たー……!」
オフィス用の椅子を限界まで倒してのけ反ると、背骨と腰の辺りからばきぼきと嫌な音が鳴った。
うん。リアルだ。
ひとりで納得しながら腕を伸ばしていると、窓口に立っていた結さんが振り返る。
「お疲れ様、今日のノルマは終わりよ」
「死んでるのにドライアイになりそうですよ」
「私だって死んでから書類仕事する羽目になるとは思わなかったわよ」
お腹は空かない、でも眠れる。
肉体はないはずなのに、仕事をすれば疲れるし、物に触れることもできる。
死後の世界というものは、全くおかしな場所だった。
172:🎏 ひととせ ◆EOQ3BRAmq.:2012/1/9(月) 11:47:49 ID:c.gYySYfy6
「ええと、発行は二週間でよろしいですね。亡くなったのが……?」
俺は書類に目を凝らす。
達筆すぎて字が読めなかった。
お婆さんは俺の様子に気付くと、合点がいったという風にああ、と声を上げた。
「そうね、若い人には読みにくいですものね。自宅ですよ、国分寺の」
「すみません、ありがとうございます」
恐縮で肩身が狭い。
俺はぺこぺこと頭を下げながら切符を手渡す。
お婆さんの萎びた手が、それを大切そうに包み込んだ。
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