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さよならいおん「…ありがとうさぎ」
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1: :2011/10/12(水) 18:10:39 ID:DjGow5sBJA
ぼくの名前は
さよならいおん

「さよならいおん」


ぼくはそれしか呟けない




51: はりお ◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:29:55 ID:I94awiT9bk
どうやらねずみさんのお母さんは教育ママらしい。
お腹へった、ペコペコだよ、と繰り返すねずみさん。ぼくはリュックからチーズかまぼこを取り出してスッと差し出した。


ねずみ「えっ、くれるの?」

らいおん「…」コクコク

ねずみ「半分こしようよ!…えへへ、いただきます!」ムシャムシャ

らいおん「…」モグモグ
52: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:30:40 ID:S0L2PoK8to
ぼくにとっては半分こするような大きさではないけど、ねずみさんにはこのチーズかまぼこは大きいのかな? なんだかちょっと楽しい。


ねずみ「ごちそうさまうす!」

らいおん「!」ペコリ


ごちそうさまの代わりにぼくは小さくお辞儀をした。

53: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:31:19 ID:S0L2PoK8to
ねずみ「僕今日は君と一緒にいようかな」

らいおん「!?」

ねずみ「だって家出してきたし!ママだってきっと心配なんかしてないし!」

らいおん「!」ブンブン


ぼくは顔を横にふってから、ねずみさんをひざの上から降ろした。
54: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:31:50 ID:I94awiT9bk
ねずみ「心配してると思う?まだ怒ってるかなあ」

らいおん「…」コクコクブンブン


縦にふったり横にふったり忙しい。ねずみさんはわかってくれたのか、ハァとため息をついてから「帰ってあげようかなあ、ママのために。」と笑った。

55: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:33:10 ID:I94awiT9bk
ねずみ「怒られるの嫌だから、一緒に僕んち行こうよ!」


ねずみさんがぼくの尻尾を見つけてグイッと引っ張る。

ねずみ「ね!一緒に行こうって!」

らいおん「…」コク


公園に居てもつまらないから、ぼくはついていく事にした。誰かと歩くのは久しぶりな気がした。
56: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 08:33:57 ID:I94awiT9bk
ねずみさんはペラペラと沢山の話をする。ぼくはうっすらとそれを聞いていた。
ねずみさんは家族が居て、帰る場所があっていいなと思った。ぼくにはもうどちらもない。あいさつをしないからといって怒る人もいないんだ。
ぼくはちょっとだけ泣きそうになった。

57: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:14:51 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみ「ねえ、君も黙ってないでなんか話してよ!」

らいおん「…!」

ねずみ「?」


ねずみさんがぼくを見上げる。ぼくは好きで黙っているわけじゃない。好きで喋らないわけじゃない。
「さよなら」しか言えないから喋らないんだ。

58: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:15:34 ID:ZcWpf5xQ5g
ねずみ「まあ君が喋らないなら僕が話してるからいいけどね!」


ねずみさんがアハハと笑った。ごめんね。ぼくも話したいんだ。誰かに聞いて欲しいんだ。お母さんのこと、お父さんのこと、こんにちわん君のこととその家族のこと、いきなり追い出されたこと。全部話したいのに、聞いて欲しいのに。
59: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:19:09 ID:7hZUJ7s.K2
ぼくはなんでしゃべれないんだ。もんもんと考えながら夜の道を二人で歩く。ねずみさんは喋りながら。ぼくは頷いたり首を傾げたりしながら。


ねずみ「ここが僕の家!」


ねずみさんの大きな声にハッとして顔をあげる。目の前には二階建ての赤い屋根の一軒家。大きい家に住んでいるんだなあと思った。
60: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:19:59 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみ「入ろう!」

らいおん「!」コクコク


ねずみさんがドアを勢いよくあける。小さく「ただいま」とねずみさんが言うと奥のほうから赤い眼鏡をかけたねずみさんのお母さんが走ってきた。

61: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:21:19 ID:ZcWpf5xQ5g

ねずみ母「おかえりなさい。ママ、心配してたのよ…?」

ねずみ「…ご、ごめんなさい……」


ねずみさんのお母さんがねずみさんを大切そうに抱き締める。優しそうに見えてとっても力強く。

なんだろう、この気持ち。幸せな光景を見てるのにとってもツライ。



62: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:21:51 ID:7hZUJ7s.K2
らいおん「さよならいおん」


ぼくは小さく呟いてゆっくりその場を離れようとした。ねずみさんがそれに気づく。


ねずみ「…さよならいおん?」

らいおん「…」コクコク

ねずみ「さよならいおん!またね!」

らいおん「! さよならいおん…!」

63: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/13(木) 21:23:54 ID:7hZUJ7s.K2
ねずみさんと会話をした。ぼくはちょっと嬉しい。
だけどナゼだかそれ以上にツラくて胸が苦しい。なんでだろう。ねずみさんにはお母さんがいるから?家があるから? わからない。

ひとつだけ確かなのは、ぼくはまた泣きそうだということだ。ぼくはいつから泣き虫になったんだろう。
64: 名無しさん@読者の声:2011/10/14(金) 00:14:28 ID:Rz9dbpSQ4g
紫煙
65: 名無しさん@読者の声:2011/10/14(金) 14:51:16 ID:fKwTipKZmw
しえん
66: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:56:17 ID:qtzPYBHBoM
なんでぼくはひとりなの?
お母さん、お父さん、ぼくは今すごくあなた達に会いたいです。


らいおん「さよならいおん…!さよならいおん…!」


お母さんに教えて貰った「さよなら」をいっぱい言ってみる。切ない。寂しい。苦しい。

67: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:56:45 ID:qtzPYBHBoM
ぼくはいっぱい泣いた。雲がまったくないはずの空。月がぼやけて見えるのはぼくの涙のせいだ。
ぼくは泣きながら走る。帰る場所もないからデタラメにただただ走った。

行き着いた場所は月明かりしかない真っ暗な池だった。

68: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:57:12 ID:qtzPYBHBoM
池の前に柵がある。ぼくはそれを乗り越える。池の真ん中に浮かぶ月に触りたかったから。
こんばんわん君のお父さんがくれた大切なリュックを地面に置いて、ちゃぷんと両足を池にいれる。冷たくて浅い。ちゃぷん、ちゃぷんと歩き続ける。どんどん池が深くなっていく。ぼくが歩くたび、月が揺れていた。

69: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 18:57:59 ID:9OzucEzTfM
わくわくした。でもちょっとだけ怖かった。ぼくの体がどんどん水に浸かっていく。月まであと少しだ。
揺れる月にむかって手を伸ばす。届かない。もう肩の辺りまで水につかっているからとっても寒い。
きっと、もっと水の中を進まなきゃ月には届かないんだ。

70: はりお
◆kd.jynLh5M:2011/10/14(金) 19:00:38 ID:9OzucEzTfM

支援ありがとうさぎです!今日はここまででさよならいおん(・∞・)
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