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女旅人「なにやら視線を感じる」
Part7


407 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:19:16.04 ID:fNXhvYIy0
彼女に対する恩をまた仇で――しかも最悪な形で、返してしまった。
もう、俺は、死を以ってその罪を償うしかない。
短剣を抜き、自らの首に構える。 今はもう、迷いは無い。
ぐっと力を込める。
こつん。
何かが頭に当たる感触がした。
枝だろうか、木の実だろうか。 顔を上げてみる。 と。
彼女「何を、やっているんだ」
彼女の手は拳骨。 どうやらそれに叩かれたらしい。
しばらく見つめ合ってから、
俺「ぎゃぁああああぁあ生き返ってるうぅぅうううううっ!!?」
彼女「勝手に殺すな!」

413 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:28:23.62 ID:fNXhvYIy0
彼女は毒にやられて死んでいた、のではなく、単に休んでいただけなようだ。
ヘビ毒による症状――激痛や腫れの広がり、頭痛や吐き気などは認められないとのこと。
あの弓兵がヘビ毒と騙されて偽物を掴まされたという結論に至った。 考えてみれば、
収入の無くなった傭兵如きに致死性の高い毒薬などが買えるわけが無いのだ。
彼女「ただな。 ……血が、止まらん」
俺「……そういうことは早く言ってくれ!」
彼女を抱きかかえ、近くの洞窟まで運ぶことにした。
彼女「は、放せっ! 自分で歩けるっ!」
今回ばかりは言うことを聞けない。 血が止まらないのに歩いては出血量を増やすだけである。
図々しくもこんなことをして彼女に嫌われてしまうかもしれないが、彼女の命には代えられない。
しかしこの、嫌がるような、少し恥ずかしがるような彼女のこの顔、非常にかわいいです。
痛みが少ないこと、血が止まらないことから、矢に塗られていたのは
ヒルの唾液に近いものではないかと考えられる。 直接死に至ることはないものの、
治らない傷口から良からぬ病原菌が入り込んでしまう恐れがあるため処置は急いだ方がいいだろう。

416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:34:01.18 ID:fNXhvYIy0
ある程度の広さのある洞穴を発見し、彼女をそこで降ろした。
彼女「すまん、重くなかったか」
俺「鎧着込んだ状態と比べると空気運ぶようなもんだったよ」
彼女「む……す、すまん」
目が覚めた瞬間斬りつけてきた去年と比べ、彼女も随分しおらしくなったなぁと思う。
あの時の頬の傷は深く、未だに消えていない。 良い記念だし傷の下に日付も彫っておこうか。
という冗談はさておき、とにかく彼女が前言ったように
俺をすっかり信頼してくれているようで、改めて思うが大変喜ばしいことである。

419 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:36:48.46 ID:fNXhvYIy0
さて問題が発生した。 否、発生することは分かっていた。
彼女の頼みにはことごとく「はい」としか返せないイエスマン・俺である。
もちろん「包帯巻くの、手伝ってくれるか」という頼みにもイエスマンは発動してしまったのである。
その頼み、つまりどういうことか。
「正当な理由があるのなら、裸を見せてもいい」 と、そ、そういうことだ。
……いや そういうことっていったいどういうことだってばよ!!
俺「いやちょっと考え直して欲しい! 包帯巻くってことは、
  俺に、その、は、裸を見られてしまうってことだろ! いいのか俺に頼んで!」
彼女「お前は衛生兵に対しても裸を恥らえと言いたいのか?」
俺「ええええええ、あー……うーん……」
な、なるほど、今の俺は衛生兵扱いか。 俺がいるから仕方なく俺に頼んでいるだけか。
そうだね誰かがしなきゃいけないもんね俺が特別ってわけではないよね!!

423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:39:52.33 ID:fNXhvYIy0
ただ一つ、現在ですら半勃起状態の愚息をもつ俺には彼女に言っておかなければいけないことがある。
俺「えっと非常に恥ずかしながら俺も一応男の端くれですので、いざというときは斬って下さって構いません」
彼女「え、あぁ……はは、そうか。 ……まぁ、大丈夫だろう」
大丈夫って。 何が大丈夫なんだ。 彼女が俺に絶大なる信頼をおいているということか?
それはそれで嬉しいのだが、かれこれ長い付き合いになる彼女の裸をまだ一度たりとも見ていない俺が
そのような期待に応えられるかどうかは正直わからない。 いつ息子が爆発するかも分からない。
ああくそう昨日抜いておけばよかったとか今更そんな後悔しても遅いのである。
彼女「包帯、用意できたらナイフも一緒に持ってきてくれ」
俺「ナイフ? まさか俺のn」
彼女「血でへばり付いて脱げない。 服を切る」
非常に残念ながら、包帯の準備はとっくに完了している。
生唾を飲み、深呼吸をする。 腹ァくくれ! さぁ、いざゆかん!!

425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:42:02.26 ID:fNXhvYIy0
彼女の肌着姿ですら初めてな俺である。 肌着といっても女性らしくビスチェを着込んでいるわけが無く、
俺はもちろんのこと男が着るような、吸汗性を重視した綿100%のタンクトップであった。
ナイフを持った彼女はそれにビッと切れ込みを入れる。 そしてそのまま真っ直ぐ下におろし、
タンクトップの前面は二分される。 片方ずつ腕を抜き、彼女の上半身は露わになった。
しかし、俺の視線の先は彼女の控えめな乳房でも、鎖骨でも、へそでも、くびれでもなく――
鍛え上げられた身体にある、数え切れないほどの、傷であった。
彼女「だから、大丈夫だと言っただろう」
はっとした。
彼女「私が襲われ、脱がされても……大体、それで終わる」
ここで何かを言わなければならない。 何かをしなければならない。 それは分かっていたのだが。
結局、彼女の水の催促があるまで、何もすることができなかった。 最悪だ、俺。

427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:43:42.89 ID:fNXhvYIy0
水をかけ、血を洗い流す。 傷に滲みるのか彼女は小さな声で呻いた。
矢が刺さっていたのは肩というより胸に近かった。 重要な部分を傷つけてはいなかったものの
防具を装備していなかったために案外深い部分にまで達していたらしく、出血量は多い。
こうやって診ている間にも血はどくどくと溢れ出た。
綺麗(であろう)布を重ね傷口にあてがい、少々きつめに包帯を巻いていく。
見てしまうのは彼女に失礼である事は分かっているのに、どうしても、傷に目がいってしまう。
メイスの類で背中をえぐられた痕、無数の矢傷の痕、肩から深くまで斬り込まれた痕、
背中にも腹部にもある、焼き鏝を押し付けられたような明らかに拷問によるものと思われる痕――
小さいものから大きなものまで、たくさんの消えそうにない傷が残っていた。
彼女「汚いだろ」
視線に気付いた彼女はぽつりと言った。 一瞬だけ包帯を巻く手を止めてしまった。
「そんなことはない」と言ったが、それでは説得力の欠片もない。

429 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:44:16.55 ID:fNXhvYIy0
彼女「気を遣わなくて良い、慣れているし気にしない」
俺「気なんか遣ってない。
   ……他の人がどう思っているのかは知らないけど、俺はこの身体が汚いとは思わない」
俺「確かに傷だらけで『綺麗』と言えるものではないかもしれないけど……
  傷は戦士の勲章というか、一人の人間として頑張って生きてきた証みたいなものだ。
  だから、俺はこれが汚いとなんか絶対思ったりしない。 むしろ、その、ええと……」
「魅力的だ」「美しいとすら思う」
言葉は思いつくのだが、喉の手前で閊えてしまう。
結局言いたかったことは言えずに包帯を巻き終え、
「また明日取り替える」という事務的なことしか伝えられなかった。

430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:45:00.41 ID:fNXhvYIy0
いつの間にか外は暗くなり、秋の気温はどんどん下がっていく。
しかし残党が居るかもしれないという警戒もあり、火を熾すことはできない。
相手に居場所を教えることになる上、またボウガンで狙われたらひとたまりも無い。
彼女は包帯を巻き終えてからすぐ、半ば気絶するかのように眠りについた。
荒かった呼吸は安定してきているものの、失血による体温の低下は否むことが出来ない。
その上地面や石壁の冷たさは俺と彼女のマントごときで防げるとは思えない。
火を熾せない今、彼女の身体を温めるには――……
彼女と俺の現在の関係は「依頼主と傭兵」と、多分「信頼関係のある仲間」とか「友達」。
超えてはならない一線はあるが、彼女は今、寝ている。
「裸で温め合う」
ついに、繰り返された妄想を実践するときがきたのである。

432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:46:43.90 ID:UgANnxkm0
夜這いじゃねえかww

433 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:46:54.06 ID:soMHm7Nc0
もうパンツぬいでいいってこと?

434 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:47:22.91 ID:qjk4kN7Q0
大丈夫
女騎士は俺が暖めた

436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:48:42.31 ID:fNXhvYIy0
結論を言うと、やっぱりそれもできなかった。
臆病者とでも根性なしとでもなんとでも言えばいい。 俺は紳士でありたいのだ。
しかし彼女を温めるという行為をやめたわけではない。
後ろから、彼女を抱き寄せる。 これで一応は温かくなるはずだ。
俺の腕の中で、彼女は静かに寝息をたてている。 それは俺に確かな安心感を与えた。
先ほど見た、彼女の背中。 女性に相応しくない形容詞であるが、筋肉に覆われていたそれは逞しく見えた。
逞しいはずであるのに、今目の前にある背中は何故こんなにも小さく弱弱しく見えるのだろうか。
それは彼女が「女性」だからか。 それとも「彼女」だからだろうか。 それとも、傷だらけだったからだろうか。
少し触れただけでも壊れてしまいそうだった。
彼女の、愛しく小さな背中を抱きしめ、優しく、起こさないように、耳の裏にそっと口付けをした。
「友達」の一線、ちょっと越えてしまったなぁと、後ろの壁に頭をごんとぶつけた。

440 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:50:30.91 ID:fNXhvYIy0
何時間も彼女を抱きつつの見張りを続けていたが、彼女の様子を見る以外にすることがなかった。
残党を懸念してこうやって見張りをしていたわけだが、実は残党など居なかったのではないか。
だとしたら今の数時間非常に無駄な時間を過ごしたことになる。
いや彼女の寝息を聞いたり彼女の体温を感じたり彼女の髪の匂いを嗅いだりする時間が無駄なのではない。
むしろそんな状況で見張りが出来るということは幸せだと言っても過言ではない。
しかし、何の意味もなく警戒し続けるというのは精神的に、非常に疲れるのである。
その緊張の糸を緩めても良いのではないかと考えた。
こうやって彼女を温めることも重要だし出来れば続けていたいのだが
残党が居ないとなればその役目は焚き火に任せることも出来るし、俺には他にもしたいことがあった。

441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:52:36.16 ID:fNXhvYIy0
俺「……ふぅ」
愚息のしつけの時間である。 二人旅となると、どうしてもこのような時間の確保は難しい。
しかし何故だろう、彼女をオカズにしたわけではないというのに彼女に対する罪悪感が半端ない。
その理由は、俺の手に握られている彼女の血に汚れたタンクトップが知っているに違いない。
その後は彼女の服を川で洗濯をしたり、湧き水を確保して蒸留したり、
栄養のある(主に貧血に良しとされる)野草を集めたり、剣にこびりついた血糊をふき取ったりと、
なんだかんだしている間に日が昇り始めた。
今日も天気がよさそうである。
今年はここを通る間に雨が降りそうになることもなく、心から良かったと思う。

445 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:54:07.33 ID:fNXhvYIy0
ナイフで無精髭を剃っていると、洞窟から彼女がもそっと這い出てきた。
四つん這いで、目はぼうっとしている。 こんなかわいい生物がこの世に存在して許されるのか!
そして、その出てきた彼女の第一声が
彼女「あれは、何かの儀式でもやっていたのか?」
俺「生贄の儀式を」
暖をとるため彼女の周りに小さな焚き火を燈したのだが、
それが規則的に並んでいたために面白がってその間に線を引いた。
絵本で見たような、いわゆる魔法陣のようなものである。
彼女「いい歳して何やっているんだ」
尤もな意見である。

446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:55:37.06 ID:fNXhvYIy0
朝食を作っていたのだが、まだ出来上がっていなかったので先に包帯の交換をすることになった。
洞窟に戻ると目の前で彼女が脱ぎ始める。 どんなストリップ・ショウよりも俺を興奮させてしまう。
彼女は衛生兵をはじめとする、目的が治療である者の場合ならば目の前でも抵抗なく服を脱げるのだそうだ。
俺は恥ずかしいことこの上ない。 絶対にB地区とか直視できない。
そこらへんは視界に入れないように気をつけながら、包帯を解き傷口を見た。
完全にとは言えないが、血は止まってきているようだし ひとまず安心する。
尤も傷が塞がるまではまだ時間がかかりそうではあるが。

450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:57:20.36 ID:fNXhvYIy0
新しい当て布に交換し、また包帯を巻き直す。
後ろから巻いているため、彼女の両の脇から腕を通して包帯を左手から右手に受け渡すのだが
その瞬間俺の腕に、彼女の胸の、筋肉ではない部分に、そしてその先端に、触れそうになってしまう。
今こんなことを考えてしまうのは下劣で不純であることは重々承知なのだがこれは意識せざるを得ない。
少しでも手の位置を変えればダブルクリックの後揉みしだくことなど簡単にできてしまうのである。
そんな誘惑にも耐えられるのは俺が紳士であるからに他ならない。
俺ほどになれば彼女の髪をクンカクンカするだけで我慢することができるのだ。
昨日彼女は「身体を見れば萎える」ような事を言ったが、実際に萎えた奴居るのかよ。
こんな魅力的な身体を前にして萎えた糞野郎が居るのかよ! 馬鹿じゃねーのか!!

454 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:59:49.69 ID:fNXhvYIy0
「俺特製薬草スープ」が完成した。 椀によそい、彼女に手渡す。
瞬間、彼女は眉間に皺をよせた。 しばらく睨めっこをした後、恐る恐るスプーンで掬い、口に運ぶ。
彼女「……お前これ味見したか」
俺「はははもちろん。 する訳がない」
彼女「飲んでみろ。 生きた虫を噛締めた味がするぞ」
俺「お断る。 どんな味だよそれ。 あ、でもほら良薬口に苦しって言うし」
彼女「いい事を教えてやる毒薬もまた口に苦い!!」
俺「うわやめr…………ッ!! ッッ!!」
スープの入った椀を無理やり口につっこみ、俺に飲ませた。
顔が緑色に変色しかけた。 なんだこの味わ!! これが虫の味なのか!!
熱いわ不味いわ苦いわでとにかく大変だった。 豆とキノコがせめてもの救いである。
それでも、彼女はなんだかんだで具だけでも食べてくれた。
味はともかくとして、これは身体に良いに違いないから、とのこと。
もちろん俺も食べた。 彼女にだけ罰ゲームを与えるわけにはいかないからである。

460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:03:02.02 ID:fNXhvYIy0
 旦
賑やかな朝食を済ませてから、目的の町に足を向けた。
背負って行こうかと提案されたが丁重に却下させてもらった。
これ以上こいつに迷惑をかけたくはなかった。
こいつに迷惑をかけたくはなかった、のだが。
しばらく歩いて正午過ぎ、休憩をとってから、立ち上がることができなくなった。
吐き気がするほどの眩暈と発熱――朝は、なかったはずなのだが。
背負われ、近くの洞穴に運ばれた。
結局迷惑をかけてしまっているではないか。
馬鹿か、私は。

461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:04:02.18 ID:fNXhvYIy0
目を閉じていると、突然額に冷たい感覚が走った。
驚いて見てみると、どうやら男が水でしぼった布を乗せてくれたようだ。
目の上に乗せる。 ひんやりとしていて、気持ちいい。
傷口から病原菌が入り、体内の抗体とそれらが絶賛奮闘中なための発熱ではないか
というのが男の考えであった。 解熱剤はあるが、それなら無理に飲まないほうがいい、とのこと。
私「……すまない、お前には迷惑をかけてばかりだ」
ボサボサ頭「なんで謝るんだ、俺が謝りたい位なのに。
       俺の目さえあれば俺を庇って矢を受けることも今こうして苦しむこともなかった」
私「それでも……、すまない」
ボサボサ頭「……」

462 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:06:01.42 ID:soMHm7Nc0
ちょっと!パンツはきかけたけどまたぬいでいいの?

463 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:07:09.35 ID:OFBg4nsF0
ネクタイと靴下はちゃんと着けとけよ

467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:09:13.08 ID:fNXhvYIy0
ボサボサ頭「……包帯、どうしよう。 これ以上悪くなる前に、巻き直す?」
私「いや、大丈夫だ。 ……お前は私の身体に触れること、嫌がらないのか」
ボサボサ頭「嫌がる理由が見つからないけど」
私「そうか。 ……ふふ、私を脱がそうとした奴らは皆、
  私を汚物のように見るというのに…… お前は、優しいのだな」
ボサボサ頭「汚b……酷い奴が居たもんだな」
私「そんなのばっかりだ。 傭兵も、貴族も、弟王子も」
ボサボサ頭「え、おっ、王子ィ!? 王子って国の? なんで……」
私「性欲の捌け口にするためだ」
ボサボサ頭「そうじゃない、そういうことは、王子だからって許されることなのか!?」
私「王子だから、だ。 それに強姦でもない。 契約の下での"和姦"だ」
ボサボサ頭「なっ――」

468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:10:09.04 ID:fNXhvYIy0
私「騎士団を潰さない代わりに、大人しく所有物になると。 そういう契約だ」
ボサボサ頭「な、んだよ、それ……、そんな一方的なものが契約って言えるのかよ」
私「そんなもんだ。 ……結局、そこまでは至らなかったがな。
  私の身体を見て、私の上から転げ落ちたんだ。 はは、滑稽だ、驚くあの姿、本当に滑稽だった!」
私「所詮、私は駒だ。 権力など無に等しい。 だから、身体を触られても、服を破られても、
  化け物だと罵られても身体を蹴られても顔に唾を吐き掛けられても、何も、できないんだ」
私「……何も、できなかったんだ」
私「私の大切な部下達を、騎士団を盾にされて、何もできなかったんだ」
私「あんな屈辱を受けて、私は、あの糞生意気な餓鬼一人もこの手で殺してやることができなかったんだ!!」

469 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:11:01.69 ID:fNXhvYIy0
私「結局私は、権力の前じゃ何もできない! 私は弱い! 弱い自分が嫌で嫌で仕方ないッ!!」
私「本当に、本当にッ……嫌になった、だから、あの日、お前に……ッ」
私「……すまない、お前は、関係なかった、のに……、
  自分勝、手な、私の我侭に、付き合わせて、迷惑、ばかりかけ、て……ッ」
私「すまない、すまない、本当に、すまない……」
溢れる涙は布に吸収されたが、嗚咽を隠すことはできなかった。
男は、何も言わない。 どんな顔をしているのか。 見ることも出来ない。
嫌われてしまったろうか。 しかしそれでもいい。
男が立ち上がる気配がした。 私の元を離れるのだろうか。
しかし、私が捉えたのは男が歩き去るものではなく、私の身体がふわりと浮き上がるような感覚だった。

471 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:12:04.67 ID:fNXhvYIy0
私「お、おい、何を……」
ボサボサ頭「町に向かう」
私「なら私を置いていけ、もう一緒に行動する必要なんか――うわっ」
ボサボサ頭「こんな汚い場所じゃ破傷風にもなりかねない。 ほら喋ると舌噛むぞ」
私を背負い、有無を言わさずとして走り出した。
辺りはそろそろ日が落ちてくる。 それなのに、私を背負ったまま町に向かおうというのか。
無茶な――
それでも私は、振り落とされないようにしがみ付いた。
薄れていく意識の中、こいつだけはもう手放したくないとひたすらに願い続けた。

500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:46:42.55 ID:fNXhvYIy0
懐かしい温かさに目が覚めると、見覚えの無い部屋だった。
額には濡れた布が乗せられており、それは既にぬるくなっていた。
重い上体を起こす。 と、丁度その時部屋のドアが開かれた。
「あら」と言って現れたのは、あの酒場の、若き女店主であった。
女主人「目、覚めたみたいね」
町には、着いたらしい。
ここは彼女の店の二階の生活スペースで、この部屋は余っていたのだという。
何故、病院でも宿屋でもないのだろうか。

505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:48:46.96 ID:fNXhvYIy0
私「……あいつは」
女主人「あいつ? ああ、自分の部屋で寝てるわよ」
私「自分の部屋? ここにあいつの部屋があるのか」
女主人「そ。 この町に居る時はそこに泊まってるわね、十年ぐらい前から」
知り合いが居ると言われてこの町に来た。 その知り合いというのが恐らく彼女の事だろう。
見た目からして30代といったところだろうか。 左目の泣き黒子が印象的な、美しい女性。
あいつとは十年来の仲だという。 この家にはあいつの部屋もある。
歳は少し離れているが、この女主人はあいつの、……恋人、なのだろうか。

506 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:50:49.29 ID:fNXhvYIy0
女主人「で。 貴女は、どういう関係なの? 一緒に旅をしているようだけど」
私「……ただの、旅の護衛として……傭兵として、あいつを雇っていただけだ」
女主人「護衛ね。 それにしては貴女の方が怪我してるみたいだけど。 役立たずなんじゃない?」
私「そんなことはない! あいつは私の為に何でもしてくれた、あいつはいつでも――」
女主人「あら。 ふふ、貴女、あの子のことを好きになったの?」
私「な、何を言う!! あ、貴女は、あいつの恋人ではないのかっ!! そんな事を言って、」
女主人「恋人ぉ?」
きょとん、とした。 しばらく黙った後、急に吹き出し、そして大笑いした。
なんだ、私は何か可笑しなことでも言ったのか? 恋人ではないのか? じゃあ一体なんだと言うのだ。
女主人「ごめんなさいね、あたしのこれ、女装なのよぉ」
言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
理解したところで「はぁ!?」という驚きの声しかでなかった。
女装主人「あーおっかしい、まさかあの子の恋人と間違われる日がくるなんて夢にも思わなかった!」

508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:52:29.73 ID:fNXhvYIy0
女装主人「ま、恋人ではないから遠慮なく話してね。 あの子の事、好きなの?」
私「…………分からない」
女装主人「分からない?」
私「恋愛沙汰にはむしろ批判的で、経験がなかった。
  人を好きになるということが、どういう感情なのか……分からないんだ」
女装主人「そう、じゃあ……貴女は、あの子の事をどう思っているの?
       難しく考える必要はないわ。 思いついた言葉を言うだけでいいの」
私「どう、思っているか……」
私「……最初は、憎たらしいとしか、思っていなかったんだ」
私「それが何度か会ううちに、あいつと話すと気が楽になると気付いた。
  それだけだと思っていたんだが。 半年ほど、会えなくなる時期があった。
  たった半年なのに、会えないだけで、私の心にはぽっかりと穴が空いたような感じがした」
私「多分寂しかったんだ。 だから久しぶりに会ったときは、とても嬉しかった」

509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:53:25.55 ID:fNXhvYIy0
私「あいつは優しすぎる。 どんなに迷惑をかけても笑ってくれる。
  私の傷だらけの身体を見ても『汚くない』と言ってくれた。 嘘でも、嬉しかった」
私「私は、あいつと居るだけで楽しいし、心も満たされるような気持ちになれる」
私「私は、あいつから、離れたくない」
女装主人「……その想いを、あの子に言ったことは?」
私「言えるわけがない。 あいつにとって私は『友人』で『依頼主』だ。
  そんな事を言ってしまって、この関係すら壊れてしまうのが、……怖いんだ」
女装主人「……そう」
女装主人「貴女はあの子の事が好きなのね。 それも、どうしようもないぐらいに」

511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:54:22.75 ID:fNXhvYIy0
「後で薬、持って来るから」と言って女装した店の主人はこの部屋を出て行った。
取り残された私はベッドの上で一人、丸くなる。
……私は、あいつの事が、好きらしい。
そうか、好きだったのか。 私はずっと、あいつの事が好きだったのか。
あいつの事を考えるだけで心が満たされ、そして心が締め付けられるような思いがしたのも、
あいつの事が好きだったからか。
自分の気持ちに気付いてしまった。
――いや、違う。 本当はずっと気付いていた。 ただ認めたくなかっただけだ。
人を好きになることは拠所を求める弱者のすることだと、戦場では邪魔になるだけだと、
人を好きになってしまうと敵に付け入る隙を与えることになるだけだと、弱くなってしまうと、
今までそう思い続けてきた自分を全て、否定してしまうようで――
人を好きになるというのは、こんなにも、辛いことなのか。

515 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:57:47.19 ID:fNXhvYIy0
 旦
現在の俺はすこぶる不機嫌であった。
昨晩――いやむしろ今日の早朝と言える、既に店も閉まってしまった時間に
俺はママの店に転がり込み、彼女の介抱、そして王子と王宮の資料と馬を要求した。
しかしそれが通ることはなく、ママは俺にも寝ろと言うばかりだった。
気に食わなかった俺は力尽くで資料だけでも手に入れようとした。
ママに片腕を外されようが、とにかく、俺は弟王子を、殺してやりたい一心だった。
その思いも虚しく顎に強烈な一発を食らってしまった俺は今までずっと気を失っていた。
肩を固定している包帯を煩わしく思い、それを解いていると、
ノックもせずにママが入ってきた。
ママ「駄目じゃない、解いちゃ」

516 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:59:26.50 ID:fNXhvYIy0
ベッドの際に腰掛けるママを睨みつけると、「随分と遅い反抗期ね」と言って溜息を吐いた。
俺「どうして行かせてくれなかったんだ」
ママ「あんなフラフラな状態で行かせられる訳ないでしょ。
   ましてや相手はこの国の王子様。 ……あなたには荷が重過ぎる」
俺「でもあの糞餓鬼を殺さなきゃいけない」
ママ「どんな事情があるのかは知らないけど、
   今自分が出来る事と出来ない事を見誤っちゃ駄目。 だからいつまで経っても坊やなの」
俺「でも」
ママ「私情を挟んでもロクな事にならないのはよく知ってるでしょ? 諦めなさい」
俺「……」

518 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:01:12.84 ID:fNXhvYIy0
俺「……彼女は」
ママ「目は覚めたわ。 今から薬貰いに行くけど、具体的にどんな症状なの?」
不思議なことに、彼女を背負ってここに向かう途中、急に俺にも彼女と同じ症状が現れた。
もちろん俺は毒の矢を食らっていたわけでもないし、その他の雑魚の攻撃を食らった覚えも無い。
菌が進入できる傷口はなかったし、風邪を引いていたわけでもない。
去年と違って全くの健全体であった俺が、何故こうなってしまったのか。
ママ「変なものでも食べたんじゃない?」
変なもの。 心当たりはある。 朝食べた、「俺特製薬草スープ」である。
もう忘れたいというのに、歯の間に詰まったカスがその味をいちいち思い出させる。
しかしそれは不味かっただけで、身体には良いはずだった。
俺「使ったのは薬草だ、確認もした。 それと町で買った豆と木の実、あとキノコ」
ママ「キノコ?」

519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:02:25.53 ID:fNXhvYIy0
俺「昔からこの時期この辺で採れてた、美味しいやつ」
するとママは「あー」と言って目を覆った。
ママ「何年も帰ってきてなかったし、去年もすぐ発っちゃったから知らないのかもね。
   そのキノコ、急に毒性を持ち始めて倒れる人が続出したのよ。 今はもう栽培禁止になってるわ」
なん……だと……
と言うことは、待て。 俺が今こうやって寝ていざるをえない状況になったのも、
彼女が熱に浮かされ大変苦しい思いをしているのも全て、俺のせいだということになる。
俺「……まただまただよもうやだ俺死にたい」
ママ「あんたの死ぬ死ぬ詐欺はもう飽きたわ」
軽くあしらわれ、額を指でトンと押された。 去年まで無かった羽毛の枕に頭がぼすっと埋まる。
「病人は大人しくしてなさい」と水で絞った布を顔にべちゃりと投げつけられた。

522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:04:29.83 ID:fNXhvYIy0
ママ「で。 どういう経緯であなた達が知り合ったのかは知らないけど……やっぱりまだ好きなわけ?」
俺「好きだよ」
ママ「あら。 ふふ、きっぱり言うのね」
俺「好きじゃなきゃこんな熱くならない。物理的にも精神的にも。 彼女のためなら死ねる」
ママ「そんなに好きならいい加減本人に言っちゃえばいいのに。 意気地なし」
俺「……だよなぁ」
ママ「『俺は紳士だ』って言わないのね」
俺「ただ臆病なだけなんだよ俺は……」
ママ「……過去に振られたこと、相当トラウマになってるのね。
   怖いんでしょ、また振られることが。 振られて、今の関係が崩れるのが怖いんでしょ」
黙って頷くと、呆れたように「本当、そっくりすぎて笑っちゃうわ」と呟き溜息を吐いた。
いったい何が、誰にそっくりだというのか。

524 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:06:26.55 ID:fNXhvYIy0
 旦
薬の影響か、ベッドに倒れこんだ瞬間枕に意識を吸い取られるように眠りに落ちてしまった。
そして目覚めた現在、先ほどまでの身体のだるさは全て消えていた。
窓の外を見てみればもう暗くなっていた。 下の階からは酒を飲む賑やかな声が聞こえる。
部屋を出て薄暗い廊下を通り、あいつの部屋の前で立ち止まる。
少し戸惑いながらも扉をノックする、が、返事は聞こえない。
ギィと軋む扉を開けると、窓もなく埃っぽい小さな部屋にベッドがあり、そこにあいつは横たわっていた。
胸が規則的に上下している。 近付いてみると静かな呼吸が聞こえる。
どうやら、まだ寝ているらしい。