Part2
36 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:01:14 ID:
r.c90Svw
続きです。
エルフ「それには及びませんが。しかし、まさかことごとくこちらの手が読まれるとは」
侍「ん? ああ、突きと思わせてからの横薙ぎか。それはどっちかって言うと」
メイドエルフ「あ、あの……」
エルフ「あら? そんなところでどうしましたの?」
メイドエルフ「お部屋の準備が整いましたので、ご報告にと思いまして。そうしたらいきなりお二人が……」
エルフ「あら。ごめんなさい。驚かせてしまいましたわね」
メイドエルフ「ええ、それはもう……」
エルフ「じゃあ、彼を案内して差し上げて。わたくしも部屋に戻ります」
メイドエルフ「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」
侍「わかった。世話になる」
37 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:03:10 ID:
r.c90Svw
夜
侍「馳走になりました」
エルフ母「お粗末様。お口に合ったかしら?」
侍「それはもう。久方ぶりの温かい食事とくればなおのこと」
エルフ「嫌味ですの?」
侍「あ、いやそういうつもりじゃ」
エルフ母「ふふ。侍さんはいつまでこの国に?」
侍「長居はしないつもりです。皆さん以外には、歓迎されていないようですし」
エルフ母「ごめんなさい。それに関しては、私たちでは力になれないから」
38 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:04:39 ID:
r.c90Svw
侍「そう言えば、一つよろしいでしょうか」
エルフ母「はい」
侍「隣国とは、何故緊張状態に?」
エルフ母「それは……」
エルフ「殺されたのですわ。エルフの子が、人間の賊に」
侍「子供が?」
エルフ「国境付近の森……あなたが迷いこんだ場所の近くですわ。親と共に薬草を摘みに行き、そこで襲われた」
エルフ「親は一命を取り留めましたが……子供は間もなく亡くなりました」
侍「……」
39 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:06:12 ID:
r.c90Svw
エルフ「当然こちらは厳重に抗議すると共に、逃げた賊の身柄引き渡しを要求しましたわ」
エルフ「けれど未だに隣国からの謝罪はなく、あろうことか、その事件をでっち上げだとして一蹴する始末」
侍「なるほど。エルフとしゃ、人間への不信と不満が溜っても仕方ないってことか」
エルフ「ええ。元々いい感情を持っていない上に今回の事件。騎士団からも当然、不満は噴出してますわ」
エルフ「隣国領に侵入してでも賊を捕えるべきと主張する者も少なからずいます」
エルフ「ここ最近は、通常はもっと内部でやる演習を国境付近で行う部隊も出始めてますし」
侍「上層部が許可してるのか? かなりのものだな。しかしそうなると」
エルフ「当然、隣国も国境沿いの砦に兵を増員させてきましたわ。確認した限りでは、通常時のおよそ五倍の兵力が集まっていましたわね」
40 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:07:32 ID:
r.c90Svw
侍「言われてみれば、隣国を通ったときなんだか国全体が物々しい雰囲気だったな……向こうも臨戦態勢ってことか」
エルフ「だから今、わたくしたち以外のエルフ族は人間への不信感が最高潮に達していますわ」
エルフ「あなたは出で立ちからして隣国の人間ではないから外を歩いても無事でしたが」
侍「そうだったのか……」
エルフ「そして同時にわたくしもーー」ハッ!
侍「ん?」
エルフ「い、いえ。何でも」
エルフ母(……)
41 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:08:52 ID:
r.c90Svw
廊下
侍「遅くなったが、すまないな。あんな上等な部屋」
エルフ「客人をもてなすのに、物置部屋をあてがうわけなどないでしょう。気にする必要はありませんわ」
侍「そうか。なら、遠慮なく休ませてもらうか」
エルフ「そうなさって。ところで」
侍「ん?」
エルフ「ずっと聞きそびれていたのですけど。昼間の手合わせについて」
エルフ「あなた、何故わたくしの手をあっさり読めましたの? わたくし、こう見えても剣術の大会で優勝した経験もあるのですが」
侍「そうだな……これは率直な意見だが」
エルフ「はい」
42 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:10:11 ID:
r.c90Svw
侍「その剣、お前の体格で振るうには扱いづらくないか?」
エルフ「え?」
侍「標準的なロングソードより、一回り大きいだろ。体格で男に劣る女が振るうには、その剣は適さない」
エルフ「それは……」
侍「足や体捌きの速さは大したものだが、その剣の大きさが攻撃の瞬間の速度をわずかに殺している」
侍「その殺された速度分、相手に余裕を与えてしまっているんだ」
エルフ「そう、でしたの……」
侍「まあ、余裕と言っても刹那に過ぎないけどな」
エルフ「その刹那の瞬間に対応できる人が相手なら、わたくしの不利は否めませんわね。あなたとか」
侍「そうだな。その欠点を無くしたいのなら、もう少し小振りな得物に変えたほうがいい」
エルフ「……検討しますわ。もう遅い時間ですし、わたくしはこれで。アドバイスに感謝します」
侍「おう」
侍(検討するとは言ってたけど、微妙な表情だったな。あの剣に思い入れでもあるのか?)
43 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:12:58 ID:
r.c90Svw
翌日
コンコンコン
メイドエルフ「おはようございます。お客様、お食事の用意が整ってございます」
シーン
メイドエルフ「? まだ寝てるのかしら。お客様、失礼いたします」
ガチャ
メイドエルフ「……あら? いない?」
44 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:14:58 ID:
r.c90Svw
庭
侍「…………」
エルフ「ーーあら。早起きですのね。また黙想?」
侍「……ああ。日課でな。朝の澄んだ空気の中でやると、心身が引き締まる」
エルフ「それも鍛練、というわけですわね」
侍「そういうこと。で、お前は何してるんだ?」
エルフ「わたくしはお仕事。昨日は非番だと言ったでしょ?」
侍「そうか。気を付けてな」
エルフ「どうも。あなたこそ、日中出かけるのでしたら気を付けなさい。いらぬトラブルに巻き込まれないように」
侍「肝に命じておこう」
45 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:17:00 ID:
r.c90Svw
城
エルフ兵A「ふわ〜ぁ」
エルフ兵B「口くらい閉じろ。任務中だぞ」
エルフ兵A「任務ったって門番だろ。誰も気にしたりしないって」
エルフ兵B「通行人はそうだろうが、そろそろあいつが来る頃だ」
エルフ兵A「ああ、あいつか。いちいち口うるさいからなぁ」
エルフ兵A「言ってることは正論なんだが、あいつに言われるとどうもこう、素直に聞く気にならないというか」
エルフ兵B「気持ちはわからんでもないが」
エルフ兵A「お前はよくあいつの命令素直に聞けるな」
エルフ兵B「不満はあるけど、隊長だからな。いくらあんなのでもーー」
エルフ「あんなのでも……何かしら?」
エルフ兵A・B「!」
46 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:17:52 ID:
r.c90Svw
エルフ兵B「……いえ、なんでもありません」
エルフ「……何か問題は」
エルフ兵B「特に何も」
エルフ「そう。交代まで気を抜きませんように」
エルフ兵B「はっ」
エルフ「……」
エルフ兵A「……行ったな」
エルフ兵B「ああ」
エルフ兵A「はぁ。なんで俺たちが従わなくちゃならないんだか。人間の血が混ざった奴なんかに」
47 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:19:27 ID:
r.c90Svw
エルフ実家
侍「ハーフ?」
エルフ母「ええ。私と人間の男性との間に生まれた娘。それがあの子なんです」
侍「じゃあ、彼女が街中などで時折見せた影のある表情は」
エルフ母「昔からです。あの子が白眼視されるのは」
メイドエルフ「……」
エルフ母「この屋敷をご覧いただければおわかりの通り、私の家は国内でも指折りの名家でした。そして、それがいけなかった」
侍「有名であるがゆえに、彼女の出生についても広く知られてしまったと?」
エルフ母「ええ。元々さほど大きくはない国。今となっては、そのことを知らぬ者はいないでしょう」
侍「そのことを隠したりは?」
エルフ母「初めから無理だったのです。私とあの子の父との出会いについては長くなるので省きますが」
エルフ母「外の地で彼と出会い、別れてこの国に帰ってきた時、既に出産間近でしたから」
侍「……それは隠しようがないですね」
49 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:21:14 ID:
r.c90Svw
エルフ母「はい。それでも、あの子が赤ちゃんの頃はまだよかった」
エルフ母「問題は、あの子が成長してから今まで……ずっと、途切れることなく続いているあの子への偏見」
侍「……」
エルフ母「あの子を産んだこと。それ自体は後悔していません」
エルフ母「ただその前後で、私がもっと慎重に行動できていたら。そう思えば思うほど、あの子に申し訳なくて」
エルフメイド「ご主人様……」
エルフ母「だというのに、あの子は今まで一言たりとも私を責めたことがないのです」
エルフ母「多感な子供の時分からこれまで、ただの一言も」
侍「ご立派な娘さんではありませんか」
エルフ母「ええ、本当に。ただ、だからこそ……いつかあの子の中の芯が折れてしまわないか、いつも不安なのです」
侍「……」
50 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:21:41 ID:WbFLU4Ow
エルフはいいC
51 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:22:56 ID:
r.c90Svw
城 訓練場
エルフ教官「一番隊から三番隊、二人一組で組手準備!」
エルフ兵達「おー!」
女エルフ兵「隊長! ご指導お願いします!」
エルフ隊長「うむ。いいだろう」
女エルフ隊長「三番隊で余った者は申し出ろ! 私が直々にしごいてやろう!」
エルフ兵「は、はい! お願いします!」
エルフ「……」
女エルフ兵「あ、余っちゃった……どうしよう」
エルフ「あなた、相手がいませんの?」
女エルフ兵「え? あ、はい……」
52 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:24:19 ID:
r.c90Svw
エルフ「でしたらわたくしがーー」
エルフ兵「あ、いたいた! 早くこいよ! 前一緒に組む約束してただろ!」
女エルフ兵「え、でもそっちはもう相手……あ、う、うん! ごめん今行く!」
女エルフ兵(ありがとう。助かっちゃった)
エルフ兵(いいって。三人だと変則的だけど、あれと組まされるよりはマシだろ)
エルフ「……」ハァッ
エルフ「……稽古でもしましょう」
53 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:26:04 ID:
r.c90Svw
侍(警備の穴を縫って侵入し、物陰から一部始終を見たわけだが)
侍「あれを毎日、か……」
メイドエルフ「はい。毎日あんな感じです」
侍「外で聞いた話だと、エルフは誇り高く高潔な種族だってことだったが。噂はしょせん噂だったのかな」
メイドエルフ「返す言葉もございません」
侍「あの面子の中じゃあ、見るからにあいつが一番の使い手なんだけどなぁ。俺が兵士だったら、真っ先に教えを請いに行ってるよ」
メイドエルフ「お嬢様に代わりまして御礼申し上げます」
侍「いいさ。本当のことなんだから。それより一つ聞きたいんだが」
メイドエルフ「何でしょう」
侍「何で君がここにいるんだ?」
メイドエルフ「それをお尋ねになるまで結構延ばしましたね」
54 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:28:22 ID:
r.c90Svw
侍「つまり、彼女が心配で毎日こっそり覗きに来ていると」
メイドエルフ「見守っていると言ってください。まあそういうわけです」
メイドエルフ「何が出来るわけでもありませんが、いざという時はお嬢様に嫌われてでもお助けしようかと」
侍「あー。へたな同情はかえって傷付けるだけだからな」
メイドエルフ「幸か不幸か、まだそういった事態に陥ったことはないのですけどね」
侍「……君は味方なんだな」
メイドエルフ「わたし、孤児なんです」
侍「唐突に何を」
55 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:30:38 ID:
r.c90Svw
メイドエルフ「それで身寄りのないわたしをご主人様が引き取ってくださいました」
メイドエルフ「まだ幼い時分でして、お嬢様が人間とのハーフであると言われてもピンとこなかったんですね」
メイドエルフ「だからそんなこと気にも留めず、連日お嬢様と遊んでいたんです。年齢も近かったですし」
侍「なるほど」
メイドエルフ「今は拾っていただいた恩返しのために、メイドとしてお仕えさせていただいてますけど」
侍「気持ちとしてはまだ友達だ、と」
メイドエルフ「そういうことです」
メイドエルフ「……その経緯がなかったら、もしかしたらわたしも周りの人たちと同じ目でお嬢様を、と思うと自己嫌悪ですけどね」
侍「もし出会いが違っても、君ならそうはならないだろ」
メイドエルフ「何故そう言い切れます?」
侍「そんな自分を想像して自己嫌悪できてるからな。周りの連中は、それを当然だと思っているようだが」
メイドエルフ「自分としては、そんな想像をしている時点でダメダメなんですけどね……。でも、ありがとうございます」
56 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 21:32:26 ID:
r.c90Svw
ちょっとまた書きためてきます。
59 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 22:23:33 ID:H4UFaIYo
支援せざるおえない
60 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/07(水) 22:57:31 ID:WbFLU4Ow
この>>1は出来る子
62 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:47:43 ID:
pPnToBB.
エルフ「はあっ!」ビュンッ
侍「気合入ってるな」
エルフメイド「ええ。何せ剣術の腕前では騎士団の中でも群を抜いていますから」
エルフメイド「そこらの兵士とは気持ちが違うんです。気持ちが」
侍「みたいだな」
侍(四面楚歌の状況で、よくあそこまで集中できるもんだ)
侍(精神的に過酷な状況にあってもへこたれていない。それもあいつの実力を押し上げている要因か)
侍(しかし、ああもひた向きに稽古しているのに、周りの連中は見向きもしない……)
エルフメイド「ーーあら?」
侍「ん?」
エルフメイド「向こうが何だか騒がしくありません?」
侍「向こう?」
ーーテキシュウ! テキシュウー!
メイドエルフ「え?」
侍「敵襲……まさか」
63 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:49:03 ID:
pPnToBB.
城 軍議室
司令「隣国の軍が動いたと!?」
参謀「はい。国境の警備部隊は既に壊滅。付近の村が二つ占領されました。逃げ遅れた住民の安否は不明です」
司令「おのれ……人間風情が」
エルフ王「……」
エルフ隊長「各騎士団、既に緊急招集を終え待機しています!」
司令「陛下。如何なされますか?」
64 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:50:20 ID:
pPnToBB.
エルフ王「ふむ。敵の情報は?」
参謀「現在偵察を出して情報を集めておりますが、精霊によればかなりの数のようです」
司令「かねてより戦力を砦に集めていたようですからな。始めからこうするつもりだったのでしょう」
エルフ王「こちらも騎士団を展開させよ。ただし、私の命なくして攻撃することは許さぬ」
司令「何ですと?」
65 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:52:05 ID:
pPnToBB.
エルフ王「隣国の部隊に使者を送れ。会談を申し込む」
参謀「陛下御自ら、でございますか?」
エルフ王「無論だ」
司令「なりませぬ! 卑怯な人間共相手にそのようなことをすれば、御身がどのような仕打を受けるか!」
エルフ王「たわけ。最初からそう決めつけていては、避けられる戦も避けられぬ」
司令「しかし!」
エルフ王「戦となれば民を巻き込むのだ。今回襲われた村の数十倍という規模の民を」
66 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:53:27 ID:
pPnToBB.
エルフ王「前回の件や今回の侵攻についても無論抗議はするが、まずは和平の道を探ることが肝要なのだ」
参謀「もし、色良い返事が得られない場合は」
エルフ王「そのときこそ、騎士団の真価が問われるときだ」
司令「……はっ」
司令(甘い……甘すぎる)
67 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/03/08(木) 00:55:03 ID:
pPnToBB.
エルフ実家
エルフ母「出陣命令……」
エルフメイド「はい。お嬢様の部隊も前線まで派遣されることになったそうです」
エルフ母「そう……。隣国が侵攻してきたことは聞いたけど、あの子も……」
メイドエルフ「だ、大丈夫ですよ! お嬢様はお強いんですから!」
エルフ母「確かに剣は達者だけど……」
侍「無礼を承知でお尋ねしますが、彼女は何故、隊長を任されているのでしょうか」
エルフ母「それは……本人は自分の実力が認められたからと言っていましたけど」
侍「本当のところはそうではない?」