Paer2
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:23:04.50 ID:
+f4lxBXV0
男「わ……」ゾッ
女「な、ビビるだろ?
んでそいつはおもむろに私の首を掴むと、ものすごい力でしめつけ始めた」
男「そ、それで女さんはどうしたんですか……」ガタガタブルブル
女「そりゃ、されるがままだったよ?」
女「だってこんな面白……いや恐ろしい事が起こったら、
人間とっさに反応なんか出来なくなるしな」
男「嘘だ!今面白いって言おうとした!この人自分の命の危機も他人事だよ!」
女「はは、命の危機ね……まあ、言い返す言葉もないわな」
男「で、でも女さんは死ななかったんですね?」
女「そうだな、こうしてここにいる以上はまだ、そういうことになるかな」
女「実際首を絞められても苦しくはあるけどそれだけでよ、
永遠に続く苦痛ってのはまあ、こういうことなんだろうなーと」
男「それで、その罪人さんはどうしたのですか……?」
女「いや、ひとしきり首を絞めた後、満足……ってか納得したのか、
川に向かって歩いて行って、それっきり、だ」
女「これで、私の話はおしまい。……でいいな?」
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:25:27.90 ID:
+f4lxBXV0
男「は、はい……」フゥ
女「どうだ、なんか参考になりそうか?ならねえだろう?うはははは」
男「うーん、あまりにも凄い体験ですので……どうなのでしょう……」
女「ふっはっは、私が素直に協力すると思うなよってこった」
男「ところで、あっちこっちと皆さんが言いますけれど、
やっぱりここと妹達のいる所とでは違う世界なのですかね?」
女「おんなじ世界じゃあねえだろうな。
お前が思い出せない何かの拍子ってやつで、あっちからこっちに意識が飛んでいるんだろう」
男「そして、川の向こうに行った人の意識は、もう妹の世界には戻れない……」
女「まあ、そうなんだろうな」
男「それじゃあ……」
男「それじゃあまるで、この世界は死の国じゃあないですか……」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:27:38.24 ID:
+f4lxBXV0
女「……」
男「女、さん……?」
男「何とか言ってくださいよ……」
男「馬鹿な考えだと、さっきみたいに笑い飛ばしてくださいよ……」
男「女さんっ!」
女「……」
男「そんな……まさか……それじゃあ……」
――お金を握りしめたご老人も――
――手首に傷のあった少女も――
――そして、僕も――
男「もう、死んでいたって、ことですか……?」
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:29:58.99 ID:
+f4lxBXV0
女「……いや、待て。それは多分、正確じゃあない」
男「……は、い?」
女「多分、多分だけれど、私も、男も、まだ死んじゃいないんだ」
男「どうして、そう、思うんです?」
女「だって私たちはまだ川を渡ってはいないじゃないか」
女「多分、資格がないんだ。精神は死の淵に居るが体は生かされている。
植物人間か、寝たきりなのか、意識不明か、そんなんで」
女「これは、まどろみの中の夢みたいなものなんだと思う。
ずっと考えていたんだ、何で私は、川を渡れないのか。何でこんなに宙ぶらりんなのか」
男「女、さん」
女「そして、見てきたんだ。いろんな人間を。
罪人も老人も、若者も、子供も。みんな川へ向かって歩いて行くのを」
女「さっきも言ったように、お前みたいに記憶のない人も居たよ。
そして今みたいに、記憶を取り戻す手伝いみたいなこともしてきた」
男「いや、女さんまともに手伝ってくれていなかったけれど」
女「真面目な話は真面目に聞けっ!」ドゲシ
男「いたいっ!」
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:32:24.12 ID:
+f4lxBXV0
女「んでよ、記憶を取り戻した人は、まあやっぱり意図的に無意識に記憶を無くしてただけあって、
ひどい記憶だったみたいでさ、自暴自棄っぽく川に向かって行っちゃうのがほとんどだったよ」
女「でも、でもな。ほんの一握り、今までに数人だけなんだけれど……」
女「パッと、瞬きの瞬間に眼の前からいなくなっちまうような人も、いたんだよな」
女「それってさ、私としては、やっぱり向こうの世界に帰って行ったんだと思うのよ」
女「だから、だからさ」
女「そう、しょげんな、諦めんなよ!って話、だったん、だけ、ど……」
男「プクク……はは……」
女「何をてめえは笑ってんだこの馬鹿!」ゲシッ
男「はは……いたた、あはははは!」
女「……何だよ男、壊れちまったのか!?」
男「あは……いや、ごめんなさい、女さん」ククク
男「女さんがあんまり必死に話してるから、つい……はは」
女「て、てめえ!」
男「ご、ごめんなさい、許して……あははは」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:35:25.04 ID:
+f4lxBXV0
男「だって、今まではちょっと乱暴だったし、そっけなかったからさ、
てっきりどうとでもして僕をはやく追い払いたかったのかと思ってたけれど」
男「思えば女さんは、ずっと僕の事を心配してくれていたんですよね……ありがとう」
女「うぇ!?そ、そんなつもりねえし!礼なんていいよ!うぜえ!」
男「とにかく、記憶さえ戻れば僕は向こうに戻れるんですよね」
女「……それは、そうかもしれないってだけの話だ」
女「それに、記憶が戻ったらこのまま死んだ方がいいって思うかもしれないよ。
多分私たちは、ちょっとの気分の浮き沈みですぐに死ねる、そんな瀬戸際にいるんだ」
男「女さんも、そうなのですか?」
女「どうだろうね、私はあんたみたいに完全に記憶を失ってるわけじゃないし」
男「僕は、出来たら僕も女さんも、一緒に向こうに戻れたらいいと思っているのですけれど」
女「つくづくリア充思考だな、あんたは。
私は戻れなくてもいいから、どっちも幸せになれる事を祈るよ」
男「やっぱり、女さんは優しい人ですね」ニコッ
女「ぅえ!?お、男てめえ、突然変な事言いだすんじゃねえ!」かああ
男「あれ、女さん、顔が真っ赤ですよ?」クスクス
女「う、うるせえ!こっち見んなー!」
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:45:37.88 ID:
+f4lxBXV0
男「ところで、女さんって多分僕と同年代ですよね?」
女「ん?んー、多分な。お前二十歳くらいだろ」
男「そうですかね、確か大学生なのでそれくらいかと。
ちなみに妹は高校一年生の十五歳です」
女「なんで自分より妹のプロフィールのが詳しいんだよ……
ちなみに私は二十五歳くらいだから、多分普通にお前よか年上だな」
男「え、年上だったんですか!それにしては……」
女「ん、若く見えるってか?うはは、褒めても何にも出ねえぞ?」
男「ええ、精神年齢が幼いので若く見えるのですかね?」
女「てめえ、どうやら蹴り入れられるのが癖になっちまったみてえだな……」グリグリ
男「あいた!いたいたい!」
男「あ、何か思い出しそう、なんだこれ!」
女「うわ……こんなシチュで記憶復活とか……生前もMだったとかやめろよ?」
男「違いますって!えーと、これは……」
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 18:56:51.42 ID:
+f4lxBXV0
男『彼女さん、すいません……バイトが長引いてしまって……』
彼女『ううん、大丈夫、全然待っていないよ?』
男『どうもすいません……あ、先輩もご一緒でしたか』
先輩『おう、暇つぶしがてらちょっと授業の話とかをしてたんよ。
……んじゃ、邪魔すんのもなんだし、俺はこれで』
男『あ、はい。ではまた明日』
先輩『おう、じゃあな。彼女もまたな』
彼女『うん、引きとめちゃってごめんね。ありがとう』
男『……はー、いやあ、やっぱり先輩は恰好いいですねえ』
彼女『そうだね、やっぱりゼミでも人気あるよ?先輩君』
男『彼女さんも、そう思います?』
彼女『……バカ、私は男君が一番好きだよ』
男『え、あ、いや!そういうことでは!』かあああ
彼女『くすくす、男君こそ、かわいい妹さんと浮気しちゃだめだよ?』
男『い、妹は妹ですって!……ぼ、僕も、彼女さんが一番、好きです、よ』まっかー
彼女『ふふ、ありがと』
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 19:08:52.10 ID:
+f4lxBXV0
男「どうやら僕の彼女さんは年上の先輩だったみたいですね……って、女さん?」
女「うぜー!!!!うっぜええええええええ!!!
あーあーだっまさーれた!これだからなー!リア充は本当に困るわー!」
男「……えーと」
女「お前それぜってえ彼女と先輩デキてるからな!絶対ぜーったい!」
男「え……それはないですって……先輩すごいモテますし、女の子に不自由してなかったですし」
女「あーあーもう舐めてますね。べろんべろん舐めてますね!コレは!
騙される男の典型的なパターンですわー。ターン青!使徒ですわー、コレ!」
男「ときどき良く分かりませんね女さんは……」
女「まあ、断片的に聞く限り性格はいまと変わらないっぽいけど、ちょっと純粋過ぎんなー男は」
男「はぁ……?」
女「まあな、いろんな事を覚悟した方がいいぜってことよ。私も覚悟、するからさ」
男「覚悟……ですか」
女「まあ具体的には、いきなりリア充自慢されてもくじけない覚悟の事だが」
男「なっ!せっかくの格好いいセリフがだいなしに!?」
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 19:23:45.34 ID:
+f4lxBXV0
女「やっぱよー、やな記憶は奥底にあるせいか、なかなか思い出せねえな」
女「良い記憶ばっか思い出すのも、現実逃避の一部なんだろうが……
この調子じゃどうして死んだかを思い出すのもしばらくかかりそうだな」
男「そうなんですかねー……あ、あまり良くない記憶と言えば、
僕はどうやらすでに両親と死別しているらしいのですよ」
女「うお!?いきなり重い話始めるのやめろよ!」
男「おっと、すいませんでした」
女「んだよ、じゃあ向こうにゃ妹さんが一人でいるってことか?
意識不明であろう男の看病をしながら誰にも頼れずに」
男「……そう、なんですかね」
女「あー、まあ好意的に考えりゃあそこに年上の彼女さんも加わるわけか?
なら安心……はできねえか。確定じゃねえしなー」
男「女さんは……なんでそんなに捻くれているのですか……」
女「……お前なー、大の大人が記憶を封印するほどのトラウマだぞ?
どう考えたって考えすぎじゃねーつーの!」
女「とにかくはやく記憶を取り戻さにゃあ話にならんなぁ」
男「……はい」
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 20:54:59.56 ID:
+f4lxBXV0
プルルルル……プルルルル……
妹『おにい、おにいー。おでんわだよう、おかあさんたちかなあ?』
男『きっとそうだよ、ぼくたちが良い子におるすばんしてるかなーって電話してきたんだ』
妹『妹、いいこだったよね?おにい、ちゃんとそういってね?ね?』
男『うん、分かってる。妹ちゃんは良い子でしたーって言っておくよ』
妹『やくそくね!きっとね!妹がいいこにおるすばんできてたら、
おみやげかってきてくれるっておとうさんいってたの!』
男『ふふふ、わかった。まかせて』
プルルル……プル……カチャッ
男『はいもしもし。男で、す……』
男『……はい?はい、はい……え』
男『あの、それでどうすれば……はい、はい……じゃあしつれいします……はい』
妹『おにい?どうしたの?おかあさんたちじゃなかったの?』
男『妹、すぐに病院に行こう』
妹『えーなんで?おるすばんは?』
男『おるすばんはもういいんだ……お母さんたちが、事故にあって……大変だって』
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:09:29.65 ID:
+f4lxBXV0
男「ん、む……」
男「ん、なんだ。僕、寝ていたのか」ムク
男「死んでも眠りにつくんだな……
睡眠って脳の記憶の整理でもあるらしいから、そういう関係なのだろうか」
男「夢、見てたな。多分小さいころの……両親が死んだ時の夢」
男「あれから、もう十年以上経つのか……」
男「妹と一緒に親戚に引きとられて、その家を出て、妹と暮らして」
男「そして、死ぬのかな……妹を、残したまま」
男「……そういえば、女さんの姿が見えない、な」
男「ふらふらとそのへんを歩いているとも考えづらいけれど……」
男「! まさか、麓の川へ行ってしまったんじゃ……」
男「自分は川を渡ることはない、みたいに言っていたけれど、
どこまで本当かも怪しい。第一僕は女さんのことは何も知らないんだ」
男「……なら何も知らない僕が、どうこうする義理じゃあないのかもしれないけれど……それでも」
男「行ってみよう、川の方へ」
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:17:11.51 ID:
+f4lxBXV0
男「このまま、まっすぐ降りていけば、辿りつくはずなんだ」サクサク
男「いずれ行かなくちゃいけないところだと思ってはいたし」サクサク
男「運が良ければ女さんにも……少女ちゃんにも会えるかもしれないよね」サクサク
男「……ん」サク……
男「何だ、これ?石を積み上げたみたいな……跡?」
男「他にも女さんみたいな人が居て、手遊びでもしてたんだろうか」
男「良く見ると、そこにもあそこにも。至る所にあるんだな、コレ」
男「そういえばどことなく傾斜も緩くなっているような……」サク……
男「川も近付いているのかな」サクサク
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:31:43.29 ID:
+f4lxBXV0
幼女「うんしょ、おいしょ」カタリコトリ
男「え、あれは、女の子だ……まだ、七、八歳くらいの」
幼女「うんしょ、おいしょ」コトリカタリ
男「石を積み上げてる……さっきの跡は彼女の仕業だったのか」サクサク
男「こんにちわ」
幼女「!!!」ビクビクッ
男「わ!ご、ごめん、突然声をかけたりして。びっくりしたね」
幼女「……!」オドオドビクビク
男「僕は男って言います。怖がらなくて大丈夫。少し君とお話したいんだ」
幼女「……」
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:36:25.96 ID:
+f4lxBXV0
幼女「おに……さん」
男「うん?」
幼女「もうすこし、もうすこしまってください……あとちょっとなんです……
あとすこしでかんせいするんです……」
男「完成?その石の塔の事?」
男「分かった、じゃあ完成するまで待っているよ」
幼女「え……崩さないでいてくれるの……?」
男「え、何でせっかく一生懸命作った塔を壊さなくちゃいけないの……」
幼女「おに、さん……おにさんじゃないの……?」
男「うーん?できればお兄さんとは呼ばれたいけど。おじさんって呼ばれるのには抵抗あるかな」
幼女「そっか……そうだったんだ。分かった、おにいさん。ちょっとまっててね、もうすぐおわるからね」
男「ゆっくりやっていいんだよ。焦って崩れたら大変だからね」
幼女「……うん!」
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:48:19.80 ID:
+f4lxBXV0
幼女「おにいさんは」カタリコトリ
男「ん、なあに?」
幼女「おにいさんは、川の向こうへ行く人なの?」コトコトリ
男「うーん、どうなんだろ。おにいさんは自分の事が良くわかんないんだよねえ」
幼女「ふーん、へんなの」カタコト
男「君は、川の向こうへは行かないんだね」
幼女「うん、幼女はここで石さんを積むの。こうして反省しているの」
男「反省……?」
幼女「そう。私はお父さんとお母さんより先に、死んじゃったから。いっぱい悲しませたから……」コト
男「……っ」
幼女「ここでこうして石を積むの。石を積んで塔が出来たらはなまるで、もう一度お父さんたちに会えるんだって」
幼女「でもね、これは罰だから、簡単じゃいけないの。だから、完成しそうになるとおにさんが邪魔しに来るの。」
男「おに、さん……?」
幼女「そう」
幼女「鬼さん」
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 21:59:34.19 ID:
+f4lxBXV0
幼女「でもおにいさんが居るからかな、今日は鬼さんが来ないみたい」コト
幼女「うふふ、楽しみだなあ、お父さんとお母さんに会うの。早く会いたいなあ」カタ
男「幼女、ちゃん……」
幼女「うふふ、お母さんに会えたらいっぱいだっこしてもらって。
お父さんに会えたらいっぱいなでなでしてもらうんだ。たのしみだなあ、うれしいなあ」コトリ
幼女「ありがとうね、おにいさん」コト
男「……う、ん」
幼女「よいしょ……と」
男「完成、した?」
幼女「うん、あと1つ!これでお父さんお母さんに会える!」
男「うん、良かった。いっぱい褒めてもらうんだよ……」
幼女「ありがとう、おにいさん!」コト
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 22:11:47.51 ID:
+f4lxBXV0
女「おう、男。どこ行ってたんだ?」
男「それはこっちのセリフですよ、女さん」
女「ああ?珍しく生意気だな!……ん、なんかあったのか?」
男「……ちょっと、川のほうへ行ってきました」
女「あー、川か。じゃあ塔を見たのか」
男「ええ、やっぱり、あんなに小さい子も死んだらここに来るのですね」
女「しかも子供にまで会ったのかよ。どうだった?」
男「良い子でしたよ。運が良かったみたいで、塔を完成させて消えてゆきました」
男「ふと女の子が意識から外れた瞬間、居なくなっていましたよ。
……さようなら、も言えなかった。」
女「……ま、これでいいんだよ。
消えた人間がどうなるかは分かんねーけど、きっと悪いようにはされないさ」
男「そう、ですよね」
女「そうだよ、きっと。そう信じるしか、ないさ」
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 22:28:11.05 ID:
+f4lxBXV0
女「実はさー、なんて言ったらいいのか。さっきまで私、生き返ってたんだよね」
男「は!?な、なんですって!?」
女「まあぶっちゃけると、私病弱でさ。生まれてこの方、病院から出たことねーのよ」
男「え……っと」
女「物心ついた時にゃあもういったりきたりしててさ、言葉も半分くらいここで覚えたと言っても過言でないかな」
女「子供らに交じって石を積んでたこともあったんだぜ。ま、今思うと笑いごとじゃねえけど」
女「正直、向こうじゃ体も満足に動かせねーし、こっちじゃ何をしても自由だし」
女「最近は、別に戻らなくてもいいかなーとか考えてたんだけどさ」
女「久し振りに向こうに戻って思ったよ」
男「……」
女「私、青春したい」
男「……は?」
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 22:41:59.76 ID:
+f4lxBXV0
女「ずるい、と、思っちゃった。同じくらいの年の子が彼女も居て妹も居て友達も居て、
それなりに不幸だけどそこそこ幸せに過ごしてるって聞いちゃって」
女「無責任かも知れないし、辛い事があったからここでこうして出会っているんだけど、それでも」
女「やっぱり、ずるいよ。リア充」
男「女、さん」
女「だから、だからさー、無理にとは言わないけどさ」
女「もし男が辛い記憶を取り戻して、それでもまだ向こうに戻りたいと思ってくれるのならさ」
女「私に、会いに来てよ」
女「大体眠ってるし、たまに起きてもボケッとしてるし、体も不自由だし、いつ死ぬか分からないんだけどさ」
女「良かったら、できれば、気分が悪くなかったら……」
女「わ、私と、友達に、なって、くれません、か……?」
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 22:50:19.30 ID:d2vIDiXb0
これはまた、クラシックなツンデレだな
いいぞ
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 22:52:21.14 ID:
+f4lxBXV0
女「……とか、なんとか」かあああ
女「……うー……おい、なんとか言えよ、男……」
男「なんだ、そんなことだったんですか」けろり
女「な!そんな事とはなんだよ、せっかく私が下手に出てだなあ!」
男「だって僕、女さんとはもう友達なんだとばかり思っていました」ニコリ
女「!」
男「でも、ここから無事に戻れたら、女さんに会いに行くというのはいいですね。
僕、ますます戻りたくなっちゃいましたよ」
女「じゃあ、友達になって、くれるのか?」
男「もちろん」
女「格好いい同級生とか紹介してくれるんだよな!?」ズイッ
男「え」
女「お洒落な女の子とかでもいいぞ。んで、流行りの俳優が出てるつまんねードラマの話とかするんだ!
○○恰好いいよねー!抱かれてーみたいな!」
男「……それは、どうでしょう……何か後悔してきたかも」ボソ
女「楽しみだなあ!私、これからはめいっぱい協力するからな!」
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 23:45:46.62 ID:
+f4lxBXV0
男「……っ」
女「ん、どした?」
男「なんか突然、お腹に、痛みが……」
女「男、それ……!」
男「……!?」
男「っ……何だ、これ」
男「何で、お腹から、血が、出ているんだよ……!?」ドサッ
女「男!?起きろ、男ーッ!!!
『あなたは、優しすぎたの』
『誰に許可を得て触ってんだよ』
『何で、彼女、さん……せんぱ、い……』
『――事故……妹、が?』
そうか、流石女さんだ。ほとんど女さんの言うとおりだったんじゃないか。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/18(日) 23:58:09.81 ID:
+f4lxBXV0
男「事故……妹、が?」
その時僕はバイトをしていて、ファミレスの厨房に入っていた。
突然かかってきた見知らぬ番号からの電話。
最初はバイト中だし後でかけ直そうかと思ったけれど、
不自然に長いコール時間に言いようのない不安に駆られた僕は、チーフに一言断ると、控室で電話を受けた。
最初は冗談だと思って、次に両親の事が思い返された。
ほとんど上の空で話を聞くと、僕はほとんどそのまま、誰に断ることなくバイトを抜け出し病院に向かった。
目立った外傷はないが、頭部を強く打っているため意識が戻らない。
僕はほとんど気が動転していて、自分が何をしているのか分からなかった。
気づいたら彼女さんに電話していて、良く分からない事をがなり立てていたと思う。
幼いころに両親も失い、最愛の妹までも事故で意識不明の重体だ。
僕にはもう、頼れる人が彼女さんしかいなかった。
その彼女さんが目の前で僕の慕っていた先輩と口づけしあっているのを見るまでは、そう思っていた。
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/19(月) 00:10:30.99 ID:
+f4lxBXV0
男「何で、彼女、さん……せんぱ、い……」
先輩「……は」
彼女「……男、くん」
先輩は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに楽しそうに口元をゆがめた。
彼女さんに回した右手はそのままに、左手だけで煙草をくわえ、器用に火を付けた。
彼女さんはというと、先輩の肩越しに僕を見つけてからは茫然自失。
わなわなと唇を震わせ、僕から目を逸らせずにいた。
そう、だ。僕は、彼女さんに電話を、して。
落ち着くように……落ち着けって、言われて、会おうって言われて。
会って一緒に病院に行こうって、言われて。
待ち合わせ場所に、行くために、いつもと違う道を。
近道を。
先輩「あーあ、見つかっちゃった」
先輩はにやにやと笑みを崩さずに。
何を笑っているんだ、妹が事故に遭ったんだぞ?
何が可笑しい何が可笑しい何が可笑しい!!!
何でにやにや笑っていられるんだ!!?