Part3
51 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:38:49 ID:
kF4YZqcE
女戦士「あわよくばって、普通一気に倒しちゃうんじゃない?」
僧侶「実際に罠にはかかったけど、まだ生きているでしょ?」
「想像でしかないけれど『選ばれし者』を間接的方法で消滅させるだけの力は魔王軍には無いんじゃないかな。
勇者が今まで無事でいられたことくらいしか証明にならないけど」
僧侶「なら、この罠は目的は?――嫌な言い方だけど、足止めをしてまであの村を滅ぼす事に意味は無い」
勇者「"戦力を削ること"が目的ってことか」
僧侶「魔物の拠点ができた時期が丁度あの村を訪れる時期と重なっているしね。
どこかで魔物に尾行されていたのかもしれない。」
「で、もう一つ。この罠、実はかなり無理をして作られているんじゃないかな」
52 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:39:36 ID:
kF4YZqcE
女魔法使い「…制約や制限があるってこと?」
僧侶「うん。魔法の話になるんだけど、普段は魔力を代償に火炎や冷気を召還しているわけじゃない?
幻獣は魔力の代償と、動ける範囲、役割を縛ることで強力な存在となっている」
僧侶「で。繰り返しになるけど『選ばれし者』を魔力の代償だけで消滅させるのは不可能だ。
そこで『強力な封印を施す代わりに、ある条件を満たすと脱出できる』という制約を課す。」
53 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:40:05 ID:
kF4YZqcE
僧侶「『条件を満たすと脱出できる』の部分は言い換えれば『条件を満たさない限り脱出できない』。
壁、床、天井がやたら頑丈なのはそのせいだ。『選ばれし者』の勇者ですら封印できている」
「予想される条件は『ある人物が壁を認識している状態』で『壁を認識せずに前進する』。
進む距離は火矢が見えなくなったあたりまでが妥当かな」
「この条件だけだとAで脱出できているはずだ。
それができなかったのは、脱出の条件を満たす者とそうでない者が互いを"認識"したままだったからじゃないかな。
現れた壁が動く条件に、人の"認識"が関わってると予想されるしね」
「そうして現れる『壁を認識している間は先に進むことができる』という状況。恐らくこれは、ヒントに近いもの」
「一見脱出不能な致命的な罠。そこでヒントをちらつかせ、わざと条件を満たさせる…」
54 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:40:31 ID:
kF4YZqcE
一旦言葉を切る。揺らめく松明の明かりの中、それぞれが思考を巡らせているのが見て取れた。
勇者「…条件を満たせば脱出できそうなのはわかった。だが、この場に残った一人はどうなる?」
僧侶「今言った条件が全て正しいなら、三人が脱出に成功した時点で、封印も解除される」
女戦士「――だったらっ「でも」
言葉を遮って続ける。
僧侶「今回の不安要素は、用いられた術式と、その代償の大きさなんだ」
―――
55 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:41:12 ID:
kF4YZqcE
教会には病魔に蝕まれた患者がやってくる。大抵は毒や麻痺が原因だったが、中には装備品によって『呪われた』者も居た。
昏睡する者。正気を保てない者。常軌を逸した力で暴れまわる者。
解呪の法は唯一つ。解呪の代償をひたすら『呪い』に喰わせること。
聖水で済めばかなり良い方だ。酷い事例だと、捧げた供物に飽き足らず、解呪にあたっていた神父の腕を食いちぎってやっと収まった、という話もある。
僧侶「『呪いとは魔法とは異なる術式だ。魔法が魔力を代償に行使するものなら、呪いは代償に血と魂を欲する』
『人の子の間では決して伝承されることはない。なぜなら、術者本人が代償となるケースが大半を占めているからだ』
『他人を代償に呪いを行使しようと試みた者もいたが、呼び起こした呪いにその身を喰らわれ、毛の一本すら残ることはなかった』」
僧侶「教会で学んだのはこの程度。呪いはその性質から人間は完全には行使できないと言われているんだけど」
勇者「魔物、いや魔王ならその可能性があるってことか」
僧侶「『呪い』の行使の条件が、血と魂の服従だとしたら。ここに来るまでに倒した魔物、その全てが魔王の文字通りの同胞だとしたら。
―――その血と魂を代償にしていたとしたなら。罠に、魔力で気づけなかったのにも納得が行く」
56 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:42:06 ID:
kF4YZqcE
女戦士「…残った人が、どうなるのかの説明になってないよ」
消え入りそうな声で女戦士が言う。
僧侶「…骨董品のような装備が"呪われている"ことがあるように、『呪い』は術者が消滅しようがそこに刻まれたままだ。
この場合は条件が永遠に満たせぬまま、呪いがこの地の維持で磨り消えるのをただ待つことに」
女魔法使い「そんなのっ!…そんなの、嫌だよ…」
僧侶「……。」
勇者「僧侶ッ…本当に他に方法は無いのかよっ!」
ああ、本当に。
僧侶「いまのところ。今立てた仮説によほどの穴が無ければ」
本当にさ、結局のところ。
勇者「――…四人でっ…四人で魔王を倒すんじゃなかったのかよっ!!」
57 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:42:31 ID:
kF4YZqcE
―――思―――
――眩暈がする。体温が下がる。瞳孔が開く。吐き気がする衝動に駆られる刈られたい。どの口が
言うのか。今すぐにでも臓腑の底から糞のような罵詈雑言を吐きかけたい。ぐっと堪えた。口を真
一文字に閉じた。少しでも開くと、勝手に言葉が飛び出る気がした。「わたしが、残るよ」「ダメ
だよっ!…ま だ、みんなで考えよう?絶対方法が何かあるって!」「――そうだっ俺たちがコン
ナところデ、バラバラ『耳鳴りがする。サッキよりも酷い吐き気だ。咽喉まで汚物が込み上げる。嗚
呼ぁなんでそんなになんで昨日までの####をカガ身に映してサシあげたい手が震える。サッキから
なんで一言もイっていないのに一字一句間違えずに提案したのに結局のところ。####は##を何もイ
っていないのにそうだよな####は何でもワカる/ワカッてしまう結局のところ。###は今も####のま
ま####したのは誰だったのか何で##じゃなく何で何で何で###何か我/そうだよね。そうなるんだ。
そうなんだ よ 。そ う な ん だ ろ う ソ ウ だ ろ う が『そういえよ。そうなんだろ』
結 局 の と こ ろ 。最 終 的 に は 。詰 ま る と こ ろ 。積 ま る と こ ろ 。
世界で最も敬愛するシン友達は、イ ツ モ ド オ リ ニ 、其の腫れ物を切り捨て病を治しました。
―――垢―――
58 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:43:58 ID:
kF4YZqcE
僧侶「…落ち着いてよ、みんな」
吐き出すべきじゃない。嘔吐したところで、吐瀉物以上に価値が無い。
僧侶「人の話はちゃんと聞いてほしいな。あくまで"不安要素"だ」
深呼吸を一つ、二つ。いつも通り、だ。
僧侶「まず一点。代償がとても大きいとは言ったけど、その代償がどこで用いられたのか明確ではないこと」
「『選ばれし者』条件付きとはいえ封印する。この時点で代償の大部分を消耗している可能性だってある」
「持ち込んだ回復アイテムをフルで使い切れば、すぐにでも封印はとけるかもしれない」
僧侶「二点目。呪いの術式に関してはちょっとした知識がある。教会にお世話になっていたころに、
神父さんの目を盗んで禁書棚を覗き見たことがあってね、ははは」
真っ赤な嘘である。あの堅物神父が神学生の目に付く場所に保管するはずがない。
59 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:44:33 ID:
kF4YZqcE
僧侶「そんなわけでこの場にいる誰よりも呪いに関する知識量は多いはずだ」
「それに――」
自分からそんなこと一言も言った覚えはないが。
「みんなの戦力になれないからって残るんじゃない。戦力を二つに分けるんだよ、勇者。
ここから三人が外に出れたとしたらまず拠点のボスを倒さなきゃならない。拠点に攻め込んでから
かなりの時間が経っているから村のほうも心配だ。かといって、ここの封印も強力なものだ。
まず男二人で分かれよう。どんな魔物だろうが、勇者、君なら任せられる。
次に女戦士。精神的にも疲弊してしまっていることだから、勇者に面倒をみてもらいなさい。
そして女魔法使い。二人だけじゃ心配だ。その魔力で、二人のサポートに回ってもらいたい。
最後に――
勇者「僧侶、お前は全力で解呪にあたってくれ。――そうだろう?」
僧侶「そうだよ、そのとおりだよ勇者。ははは」
―――
60 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:45:21 ID:
kF4YZqcE
準備にそれほど時間はかからなかった。
解呪に備え多量のアイテムが欲しいところではあった。
が、仮説が間違っていたときや更なる罠が仕掛けられていた場合に備え、持ってきた物資を四分割する。
封印の外に出る三人が戦闘準備を整えたところで、声をかける。
僧侶「それじゃ、確認するよ」
自分は壁を見続けてこの場に居座る。残りの三人は、全員がこちらを見ないようにして前進する。
壁を見続けるのはおよそ五時間。これは、この封印の中に更に条件付けがされていた場合への保険。
封印から脱出できたら、まずは拠点の制圧。然る後、村へ向かい安全を確保する。
こちらは五時間が経過した時点から解呪を開始。今ある食料の量から見て、一週間もてばいいほうだろう。
61 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:46:19 ID:
kF4YZqcE
僧侶「そういうわけで、あの村で一週間だけ待ってほしい。それ以上戻ってこなかったら――
――三人だけで、旅を続けてほしい」
「この旅の目的は魔王を倒すことだ。一刻も早く世界に平和が訪れて欲しい。それは四人とも同じはずだ。
…勇者、繰り返しになるけど、君なら任せられる」
勇者「…言われなくたって、必ず魔王を倒してみせるさ。
だけど僧侶、その時はお前も一緒だ。一週間で戻って来い」
女戦士「アタシも待ってるからねっ!ぜったい、戻ってきてよ!」
女魔法使い「僧侶くんのこと、信じてるから…だから…待ってるから」
頷き、笑顔を作ってみせる。
僧侶「ははは」
短時間だが、女魔法使いに自分の呪いに関する知識を話しておいた。
聡明な彼女なら、自分以上に理解し、魔物の用いる呪いに対抗することもできるようになるだろう。
やれるだけのことはやった。後は、それが正しい方法であることを祈ろう。
―――
62 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:47:18 ID:
kF4YZqcE
僧侶「あーそうだ。勇者、これ持ってて」
結び目をつけた糸の片端を勇者に持たせる。
僧侶「条件になってる認識がどの程度の範囲なのかわからないけど、この程度なら大丈夫じゃないかなって。
こっちは後ろを振り返るわけにはいかないから脱出が成功できたか否かの確認にね。
もし10mを越えても脱出できないようなら、糸は捨てちゃっていいから」
勇者「男同士が糸で結ばれるとかおぞましいな」
女戦士「んー、もう既に似たようなもんなんじゃない?」
からかうように言う。脱出の糸口が見えたことで元気を取り戻せたようだ。
63 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:48:07 ID:
kF4YZqcE
僧侶「それじゃ、後よろしくね」
言って、壁に向き直り座る。おう、とだけ勇者がこたえ、足音が響く。
1、2、3、4歩。糸はまだ繋がっている。5、6、7、8歩。
9、10、11、12歩。もしや方法を間違えたのではと不安になる。
13歩。女魔法使いが何か言ったようだったが、聞き取れなかった。
僧侶「…。」
それきり、足音は無くなった。糸をたぐりよせると結び目よりも手前で綺麗に切れていた。
大きく息を吐く。成功かどうかもわからないが、次に進めたのは確かだ。
目の前の壁を睨みつける。三人の無事でも祈りながら、時間を潰すとしよう。
.
64 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:48:34 ID:
kF4YZqcE
―――回―――
――なぁ知ってる?お城の神官が、すげえ神託を授かったんだって。
なんでも、神様が魔王を倒すための力を誰かに授けてくれるんだって。
噂なんかじゃねえよ。酒場の情報屋からちゃんと買った情報だっつの!
おれが選ばれちゃったりしないかなー。力を授かれたらいいよなー。
…今のまんまじゃきっと足りないって。だいじなものを守るにはさ。
もしおれが選ばれたら、みんなのことは絶対に守ってみせるよ――
―――想―――
65 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:49:27 ID:
kF4YZqcE
―――【壁の前】―――
八本目の蝋燭は、もう燃え尽きる寸前。大雑把な計測だが、大体これで五時間だろう。
完全に消える前にカンテラに火を移し、明かりを確保する。
できるだけ燃料は節約しておきたかったが、やっておきたいことを済ませてしまおう。
まずは、ずっと気になっていた後ろを振り返る。
――相変わらずの黒一色が、そこにはあった。三人の姿が見えないことに安堵し、自分の置かれた状況に落ち込む。
僧侶「まぁ、時間はあるんだし、気楽にやりますかね」
呟き、随分と軽くなった荷物を担ぐ。
まずは、この場が一人になったことで、封印に変化が現れないか調べよう。
僧侶「…変化無しかぁ」
A、Bを再び試してみたが、変化はみられなかった。
みみっちく蝋燭を折って使ったことは影響してないと思う。
僧侶「ま、そりゃそうか。誰か一人残すような仕掛けにしないとな」
66 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:50:14 ID:
kF4YZqcE
そう、戦力を削るためには――
僧侶「……んん?」
戦力が削れたことになるのだろうか。…決して自虐ではない。
あの村に着くタイミングは魔王軍に知られていた。こちらを魔物に調査されたのだろう。
――ならば、こちらの戦力だって理解しているはずだ。
規格外の勇者はともかく、女戦士の剣の腕も凄腕と呼べるものだし、女魔法使いの魔力は今では底が知れない。
対して、自分にはそのどちらも無い。
魔力は元々適正が低いせいか雀の涙。なんとか工夫してやりくりしてはいるが、溢れるような魔力の前には霞む。
鍛えてはいるが、腕っ節もそこまで強いわけじゃない。精々そこらの一般兵に毛が生えた程度だろう。
僧侶「ハァー…」
自虐じゃないつもりなのに、現状をおさらいするだけで泣けてくる。
でも、だからこそ。
67 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:50:55 ID:
kF4YZqcE
僧侶「なんで条件に、性別を加えなかったんだ…?」
このパーティにとって二人はかなりの戦力。そちらを欠く方が痛手であることは確実だ。
士気を下げる目的だとしても、今頃は美談めいた仲間の犠牲に酔っていることだろう。無駄に熱血してるに違いない。
僧侶「性別を条件指定するのに、そんなにコストがかかるのか?」
一般に制約は縛るほど強大な力を行使できるようになる。が、今回の制約に用いられた"条件"は逆に縛るほどに力は弱まるはずだ。
例えば脱出の条件を『全員が死亡しないと脱出できない』とすると、実質消滅させることになり、それ同等のコストが必要になる。
性別指定の場合はどうだろうか。『残る人物は女でなくてはならない』
…この場合、自分と勇者の二人だけだったとしたらそもそも罠にかかることすらないと思われる。
しかし、パーティの構成は男2:女2。全員を巻き込めば、罠は発動するだろう。
一応、『残る人物=封印され続ける人物』を指定することにはなるから、相応に力は弱まるとは思うが…
僧侶「『選ばれし者』を対象外にするから用いなかったのか?いやでも、その割りにはヒントめいた条件も残している」
そもそも、本当に二人を狙いたいのなら別の罠を作るか…いやしかし二人はいつも勇者と行動しているし…
夥しい数の同胞の命を散らしてまで、魔王は一体何を――
68 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:51:35 ID:
kF4YZqcE
僧侶「――あ"ーダメだわからん。疲れた寝る!おやすみ!」
ここにくるまでの戦闘と、無い頭を酷使したことで疲れてしまっていた。
魔王には何か別の目的があるのかもしれないが、ここを出られなくては知ったところで意味が無い。
外套を被り、床に転がる。カンテラの火を消すと目をあけていても黒しか映らなくなった。
何はともあれ体と頭を少し休めよう。起きたら、また続きを考えよう――
.
69 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:52:05 ID:
kF4YZqcE
―――回―――
魔物の出現を報せる鐘が響く。どよめく人々。両親に手をひかれて避難場所である教会の地下へと降りる。
地下には既に大勢の人々が避難していた。その中に勇者と女魔法使いの姿を見つけ、ほっとする。
…不意に、大砲の振動が地下室に響く。本格的な戦闘が始まるまで、もう幾許も無いだろう。
と。
女戦士の姿が何処にもない。三人で手分けしてみても、両親にせがんで探してもらっても、居ない。
彼女は前回の襲撃で両親を亡くしていた。他に身寄りの無い彼女を親達は引き取ろうとしたが、彼女は断った。
自分の家はここだと言い張り、一人で生きていけると泣き喚き、自分を人質に脅迫までした。
仕方なく、親達や三人が手伝いに行くこと条件に、彼女はその家で一人で暮らしていた。
嫌な汗が背中を落ちる。何らかの原因で、警鐘を聞き逃してしまったのか。
絶対に外にでるなと言いつけられていた。でも、じっと待つこともできなかった。
勇者と二人で監視の目を盗んで抜け出し、誰も居ない街中へと飛び出して行った――
―――想―――
70 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:52:58 ID:
kF4YZqcE
目を覚まし、手探りでカンテラに火を灯す。映し出された光景は、相変わらず変化がなかった。
硬い床の所為で背中が痛む。今は朝だろうか。ここでは時刻を知る術が全く無いことに、今更ながら気付かされる。
僧侶「まぁ、どの道一週間持つかってとこだし…大体把握できればいいか」
極々質素な食事を摂る。拠点と村が近いこともあり、食料は最低限しか用意してこなかった。
水ですら水筒に入っている分しかない。道中聖水を撒いてきてしまったのを、今更ながらに後悔した。
…後悔してもしょうがない。手元にある材料でなんとかするしかない。
僧侶「さて、早速始めますか」
.
71 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:53:39 ID:
kF4YZqcE
条件を満たせなくなった以上、脱出できる方法は一つだけだ。
『呪い』の内に残る代償に見合う分だけ、解呪の代償を支払い続ける。
今回は物資に乏しいこともあり、素直に自分の魔力を代償として用いることにした。
床や壁に傷がつけられないので、止血用の布にペンで紋を刻む。座って作業ができるように床に敷いた。
刻んだ紋の中心に指をおいたところで、カンテラの火を消す。
ぼそぼそと詠唱を済ませると、指先から仄かに光が漏れ出し、暗闇に解呪の紋だけが浮かび上がる。
精神を集中させる。なるべく魔力の無駄が無いように、慎重に――
――祈るように。魔力を、ただ注ぎ続けた。
.
72 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:54:26 ID:
kF4YZqcE
―――回―――
勇者の両親は共に国を守る兵士だった。昔は名の知れた冒険者だったらしく、それぞれが隊を率いる身である。
豪胆な性格で、勇者の家に遊びにいくたび髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でられる。
国を守る為に前線で戦うその姿は、幼い頃からの憧れだった。
そんな二人が防衛に尽力していることもあってか、まだ街中に魔物の姿は無かった。
息を切らせながら女戦士の家まで辿り着き、持っていた合鍵で中へと入る。
呼びかけても返事が無いので、手分けして女戦士を探し始めた。
静まり返った室内に城壁の外から雄叫びが響く。
この家にいるとしか考えていなかった。探しながら焦りが募る。ここに居ないとなると、今から探しに行く時間は…
73 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:54:55 ID:
kF4YZqcE
不意に、二階から物音がした。勇者と顔を見合わせ、階段へと向かう。
…入るときに呼びかけても返事がなかった。魔物か、盗賊か。
いつもは軋む階段を、音をたてないよう慎重に上る。顔だけ覗かせて見たが、誰も居ない。
ほっと息をつくと、タンスからごとり、と音がした。再び心臓が早鐘を打つ。
勇者が目配せをし、タンスの扉に手をかける。手近にあった花瓶を武器として構え、扉を開けると――
――両手で耳を塞ぎ、震えながら縮こまる女戦士の姿があった。
―――想―――
74 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:55:40 ID:
kF4YZqcE
僧侶「――ッはぁっ…はぁっ…」
指先から光が消え、少し遅れて布からも光が消える。全身に脂汗を滲ませながら、荒い息をする。
やっとの思いでカンテラに火を灯すと、壁に体重を預ける。
僧侶「はぁ…はぁ……ふぅ…――とりあえずは、ここまでか」
できるかぎりの工夫は施したが、やはり魔力の絶対量が少ない。身体的疲労とはまた違った倦怠感が全身を包む。
息が整ったところで鞄から魔力に効果がある薬草を取り出し、もしゃもしゃと噛む。
ついでに同じく魔力を回復させる香も焚いておいた。
僧侶「………苦いし臭ぇ」
贅沢も言っていられない状況ではあるが、苦いものは苦いし臭いものは臭い。
空腹感を紛らわすために必要以上に噛んでいるせいかもしれない。
魔力回復のために体を休ませながら、それとなく昨日中断した魔王の目的についての考察の続きをしていた。
.
75 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 03:56:17 ID:
kF4YZqcE
―――回―――
酷く怯えた様子の女戦士だったが、勇者の顔を見て取ると、抱きつき、大粒の涙を零し始めた。
しゃくりあげながら、ぽつぽつとこうなってしまった経緯を話す。
家の大事な物をかき集めていたら逃げおくれてしまったこと。
怖くて耳を塞いでいたせいで呼びかける声が聞こえなかったこと。
振動で誰かが入ってきたことには気付いたが、まさか自分たちだとは思わなかったこと。
そして、心配かけてごめん、来てくれてありがとうと言うと、やっとはにかむような笑顔をみせた。
勇者と軽口を叩き、三人で笑う。女戦士の無事がわかって一安心といったところだった。
――ずずん、と響いた重い音で、自分達の置かれた状況を思い出す。女戦士を連れて家を出て、教会への道を急いだ。
―――想―――