Part3
71:
1:2012/06/26 00:07:54.57 ID:wrt7sgrAO
タッタッタッ
魔法使い「早朝だと開いている店はほとんどないな」
僧侶「ぜぇ……そうですね……はぁ……」
戦士「おんぶするか?」
僧侶「舐めないで……下さい……」
剣士「ここらへんは森に近くて少し不気味だな」
魔法使い(そういえば私も昨日、ここらで魔王と……)
魔法使い「この辺りだ」ピタ
72:
1:2012/06/26 00:11:28.70 ID:wrt7sgrAO
剣士「おおい、盗賊ー!」
戦士「盗賊ー!でてこーい!」
僧侶「お願いします、姿を見せて下さい!」
カァカァ
剣士「? あそこ、やけにカラスが集まっているな」
戦士「食品廃棄物が捨てられているんじゃないのか?」
僧侶「酒場とかありますからね」
戦士「でもなんか引っ掛かるな。見に行こう」
魔法使い(おかしいな、盗賊はどこに…あのあと動いたか?)
73:
1:2012/06/26 00:15:48.47 ID:wrt7sgrAO
戦士「ほれ、しっしっ」
魔法使い「焼き払おうか」
戦士「……地味に恐ろしいこと提案するな。焼き鳥にしたってうまくないからいい」
剣士「ん?人形か?にしては、大きい――え?」
魔法使い「な、まさか……」
戦士「嘘だろ……盗賊!?」
剣士「ふ、服装は、昨日の盗賊のものだ……」
僧侶「あ…あ……」パクパク
魔法使い「僧侶!しっかりしろ!」
僧侶「い……いやああああぁあぁああぁぁぁぁぁぁ!!」
74:
1:2012/06/26 00:19:21.70 ID:wrt7sgrAO
――魔法使いの宿部屋
スィー バサッ
青年「よう側近。どうだった?」
鷹「どうやら、盗賊なるものが死んだようです」
青年「ほう?」
鷹「しかし、断定はまだ。カラスどもがほとんどの顔を食ってしまいましたので」
青年「所持品を見ればわかりそうだな。盗賊で間違いなさそうだが」
鷹「はい。わたくしもそう思います」
75:
1:2012/06/26 00:23:12.91 ID:wrt7sgrAO
青年「はは、しかしわずか二日三日で二人も死ぬなんてな」
青年「一人目は勇者、二人目は盗賊――か。どういう決まりなのやら」
鷹「犯人は誰かなどとは考えておられるので?」
青年「まだまだだ。情報が足りない」
鷹「はっ。ではもう少し」
青年「まだいい。――奴が帰ってきたみたいだからそちらを優先に聞こう」
ガチャ
魔法使い「……まだいたのか」
81:
1:2012/06/26 22:43:02.97 ID:wrt7sgrAO
青年「ふん。客に対して失礼だな」
魔法使い「そもそも呼んでいない。客は客でも招かざる客だろ」
青年「招かざる客な。なかなかいい響きだ」
魔法使い(なに言っても無駄っぽいな……)
青年「で?何が起きたんだ?」
魔法使い「……分かっているみたいだな、その態度からすると」
青年「どうだろうな?ハッタリかもしれないが?」
82:
1:2012/06/26 22:51:30.74 ID:wrt7sgrAO
魔法使い「……」
魔法使い(全く感情が読めない。さすがは王と言うべきか)
魔法使い「少し待て」コツン
ブォン
青年「ほう、人払いか」
魔法使い「弱めのな。緊急な用事なら通す」
青年「ふむ――昨日から思っていたのだが」
魔法使い「なんだ」
青年「嫌がってる割にはやけに協力的な態度じゃないか。なにか考えているのか?」
魔法使い「……」
魔法使い「あなたの質問を拒否すると後が恐いということと」
青年「相手魔王だしな」
魔法使い「誰かに話さないと、潰れてしまいそうなんだよ…」ギシ
83:
1:2012/06/26 22:55:23.27 ID:wrt7sgrAO
青年「潰れる、とは?」
魔法使い「精神的にだ。身近にいた誰かが死ぬのは、辛い」
青年「……」
魔法使い「ましてや殺人事件だ。……前触れもなく死んでしまう」
魔法使い「ああ、思い返せばそうだな……警戒していたわりには喋りすぎた」
青年「……」
青年「適度に息を抜け。壊れるぞ」
84:
1:2012/06/26 23:00:12.11 ID:wrt7sgrAO
魔法使い「精神的にか?」
青年「精神的にだ」
魔法使い「はぁー……」
青年「なんだ、ため息などついて」
魔法使い「まさか魔王に慰められるなんて思ってもみなかった」
青年「おれも勇者パーティーとここまで話すとはな」
魔法使い「…とりあえず、あなたはあまりこの件にでしゃばらないでもらいたい」
青年「切り替え早いな。おれは邪魔か?」
魔法使い「邪魔というより、物事を変にややこしくさせそうだから嫌だ」
青年「はっはっは、失礼だな殺すぞ」
鷹(その通りな感じがするが言わないでおこう…)
85:
1:2012/06/26 23:16:50.31 ID:wrt7sgrAO
魔法使い「さて、そろそろ行かなければ」スッ
青年「せいぜい頑張って現実に絶望することだな」
魔法使い「…嫌みしか吐けないのかあなたは」
青年「そうじゃないか。犯人など見つけてどうする?死者が蘇るか?」
魔法使い「……あなたのところでは、どう対処するんだ?」
青年「まず殺し合わない。飢饉で共食いはあるが、それも最近はない」
魔法使い「…平和だな、うらやましい」
青年「ま、一部は血気盛んでこまるけどな。ほら行くんだろ」シッシッ
魔法使い「…私の部屋、乗っとるなよ?」コツン ブゥン
青年「今のは解除か。しねぇよそんなこと」
魔法使い「どうだか…」ガチャ
86:
1:2012/06/26 23:27:58.32 ID:wrt7sgrAO
ガチャ
魔法使い「……」
戦士「魔法使い」
魔法使い「僧侶は…?」
戦士「駄目だな。勇者、盗賊で立て続けにあれだったから…引きこもったままだ」
魔法使い「入れてもらえるだろうか」
戦士「どうだがな。アイツ自身に聞かないとどうにも」
魔法使い「…僧侶」
戦士「下に行こう。剣士がさっきからうんうん考えてやがるんだ」
魔法使い「分かった」
88:
1 訂正:2012/06/26 23:57:18.59 ID:wrt7sgrAO
剣士「ううん…」
戦士「ひどい顔だな」
剣士「戦士たちか。一体何が目的で犯人は二人を殺したのか…」
魔法使い「魔物、じゃないのか?」
剣士「勇者はな。でも、問題は盗賊だ」
魔法使い(魔物のセンは変えないか…)
剣士「それに盗賊と戦士の金が消えたことも。盗賊の…死体からは、見つからなかった」
魔法使い「何者かに持っていかれたと?例えば犯人に」
剣士「しかし、必ずしも犯人が持っていったとは考えられない」
剣士「たまたま通りかかった浮浪者が持っていった可能性だってある…」
89:
1 訂正:2012/06/27 07:18:02.25 ID:EMgS/BoAO
魔法使い「…同一人物だろうか?」
剣士「分からん。分かるのは、盗賊には争った形跡があったことだ」
魔法使い「争った」
戦士「形跡?」
剣士「そうだ。手や顔に細かい傷がついていたし、襟首も伸びていた」
魔法使い「…死ぬ前に抵抗をしたのか、盗賊」
戦士「……ひでぇもんだな」
90:
1:2012/06/27 23:15:20.20 ID:EMgS/BoAO
剣士「しかしここで考えてほしい」
魔法使い「何を?」
剣士「盗賊は身のこなし――逃げ足が早いだろ?」
魔法使い「ああ、まあな。“盗賊”だしな」
戦士「それが?」
剣士「勇者と同じく、いきなり襲われたんじゃないかと」
魔法使い「なるほど…追いかけられて捕まるほど間抜けじゃないもんな」
戦士「ふむ…」
剣士「誰かと待ち合わせをしていて、その誰かか、誰かのバックにいた人物に襲われたんじゃないか?」
剣士「そう思うわけだ」
91:
1:2012/06/27 23:18:41.45 ID:EMgS/BoAO
魔法使い「それはつまり、盗賊は誰かと会う約束をしていたことになるが?」
剣士「それなんだよな。盗賊が見つかったところは確かに密会にはいい」
魔法使い「だが密会する意味が不明だと」
剣士「そうだ」
戦士「…なんか薄汚ねぇことでも話していたんじゃないのか?」
魔法使い「……例えば?」
戦士「知らん。ただ、金を持っていったのも関係するかもな」
剣士「ううん……」
92:
1:2012/06/27 23:21:23.27 ID:EMgS/BoAO
魔法使い「女将さん」
女将「ひゃあ!?」ビク
魔法使い「――いや、そこで聞き耳立ててたのは知ってますって」
戦士「客はまだいなくて良かったな」
剣士「だからこそここまで話せたんだよ」
魔法使い「三人分コーヒーをお願いします」
女将「わ、分かりました」ソソクサ
魔法使い「……僧侶は大丈夫だろうか」
剣士「ああ…」
93:
1:2012/06/27 23:25:21.25 ID:EMgS/BoAO
戦士「ホントか弱いんだなぁあいつ」
剣士「むしろこんな態度をとれてる自分たちが異常なんだよ」
魔法使い(確かに)
戦士「戦争とかで見慣れたからな、こっちは」
魔法使い「……」
女将「はいコーヒー」カチャ
魔法使い「ありがとうございます」
戦士「よくお前らそのままで飲めるな。苦いだろ」ドバドバ
剣士「慣れた」
魔法使い「慣れた」
戦士「ちぇっ、気取ってやんの」
94:
1:2012/06/27 23:36:33.47 ID:EMgS/BoAO
魔法使い「……」ズズッ
戦士「いっそのこと嫌なこと忘れさせてやろうぜ」
剣士「どうやって?」
戦士「どうもこうも、セックスしかないだろ」
剣士「ブーッ!」
魔法使い「…はぁ。僧侶の最初の自己紹介思い出せよ」
魔法使い「“僧侶”は神と契りを交わしたもの。姦淫は御法度だ」
戦士「バレなきゃ問題ないって」
魔法使い「癒しの魔力が低下するけどな。半減か、それ以下だ」
戦士「っ!?」
魔法使い「ちゃんと聞いとけよ……。“僧侶”はそういうのがあるからあまり数がいないんだ」
95:
1:2012/06/27 23:40:45.64 ID:EMgS/BoAO
剣士「一生独身を貫かないといけないんだよな?」
魔法使い「そう。神に背かぬ生き方を一生だ」
戦士「へえぇ。とても俺にはできそうにない」
魔法使い「だから容易にそのようなことを言うな。失礼だ」
戦士「へいへい」
剣士「はぁ……」
魔法使い「私は少し、町を見てくる」
剣士「大丈夫か?」
魔法使い「朝から襲ってはこないだろう。聞き込みをしてくる。それと」
剣士「なんだ?」
戦士「あ?」
魔法使い「第一発見者の家とか出来たら教えてほしい」
96:
1:2012/06/27 23:42:14.97 ID:EMgS/BoAO
剣士「ん。控えておいたんだ」ペラ
魔法使い「ありがとう。昼には戻る」
戦士「俺はどうすっかな…こっちも聞き込みするわ」
剣士「自分も。また報告があったらここで連絡を」
魔法使い「了解。じゃあ後で」
98:
1:2012/06/27 23:48:51.13 ID:EMgS/BoAO
――街
ワイワイ
魔法使い(やはり街も話題で持ちきりか)
魔法使い(…悔しいな。仲間が死んでいくとは)
青年「それは嫌嫌つきあっている仲間ではなくてか?」
魔法使い「!?」バッ
青年「そんな驚いてくれるな。目立つだろ」
魔法使い「…なんなんだ、一体」
青年「怖い顔してんなよ。一人より二人だろ?」
魔法使い「私は一人でも動ける。あなたに助けてもらう筋合いはない」
青年「助けるというか、面白そうだからついてくだけだが?」
魔法使い「……あ、そ」
99:
1:2012/06/27 23:54:10.15 ID:EMgS/BoAO
青年「で、どうなんだ?あのパーティーに嫌嫌ついてってないのか?」
魔法使い「…そんなわけないだろ」
青年「どうせ国かなんかに押し付けられたんだろ?」
魔法使い「……」
青年「それか偉い分類に入る個人に脅されたとか」
魔法使い「…あー、自主的なものなら、参加していなかっただろうな」
青年「なら、やはり強制か?」
魔法使い「……もういいだろ、こんな話は」
青年「ふん。そうか」
103:
1:2012/06/28 21:52:50.11 ID:761y9XGAO
青年「お前は」
魔法使い「…まだ続くのか」
青年「勇者をどう思っていた?」
魔法使い「は?」
青年「言葉のままだ。いずれおれと対峙したはずの人間がどういうものかと思ってな」
魔法使い「勇者は……そうだな」
青年「ああ」
魔法使い「馬鹿で己の正義しか見れない、祝福された力がなければちょっと強いだけの人間だった」
青年「…コテンパンだな」
魔法使い「私は見たままを言っているだけだが」
青年「なんだそれは、つまり最悪な男だったのか」
魔法使い「まあ、色欲にはほとほと手を焼いたがな――」
104:
1:2012/06/28 21:58:01.77 ID:761y9XGAO
魔法使い「――多分、“勇者”らしいと言えばらしい男だったよ」
青年「ふむ」
魔法使い「ただもうちょっと周りが見えていれば良かったがな。今更だが」
青年「今更だな。死者に何を言っても始まらない」
魔法使い「やれやれ、だ…。道半ばで死亡など可哀想にもなってきたよ」
青年「生き返らせることはどんな奴ですらも無理だからな」
魔法使い「ああ。昔、道中で死んだ“勇者”が教会で蘇ったという話があったが」
青年「ほう」
魔法使い「なんのことはない、教会にいた“勇者”の素質をもった人間が代わりに出ていっただけだ」
青年「なるほど、尾ひれがついたのか。愉快な噂話だ」
105:
1:2012/06/28 22:26:55.55 ID:761y9XGAO
魔法使い「……愉快かどうかは分からないがな…。おっと、この周辺みたいだ」
青年「ここらは民家が並んでいるんだな」
魔法使い「間違えて破壊するなよ。いいな?」
青年「お前はおれを何だと思っているんだよ。慈悲深い魔王サマだぜ」
魔法使い「……うん。あ、ここみたいだな」
リンリン
老婆「はぁい……あら、どなた?」
魔法使い「こんにちは、突然すみません。…昨日の朝のことをお聞きしたく」
老婆「あら……。つまりあなたは…」
魔法使い「勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」
青年「同じく勇者さまの仲間<パーティー>、サポート役の青年です」ニコ
魔法使い「……」
106:
1:2012/06/28 22:31:45.42 ID:761y9XGAO
老婆「ご丁寧にどうも。ここじゃ立ち話もなんだし、中に入って」
魔法使い「お邪魔します」スッ
青年「お邪魔します」スッ
魔法使い(ごくごく普通の家だな)
老婆「そこに座って少し待って。主人を呼んでくるわ」パタパタ
魔法使い「はい」
青年「」ニコニコ
魔法使い「……」
青年「」ニコニコ
魔法使い「なんのつもりだ、サポート役の青年クン?」
青年「馬鹿正直に魔王ですなんて言えるわけないからな」
魔法使い「だからと言って自分を仲間にねじ込むな」
青年「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」
魔法使い「あなたのせいではないにしろ、事実減ってるけどな」