Part25
924:
1:2012/08/26 23:32:22.07 ID:2ahOSzHAO
老兵「ぐずぐずしてないで行こうや」
剣士「ごめん」
僧侶「……」
僧侶(今なら、これを……)
僧侶「」スッ
剣士「僧侶?オレの服になにかついてたか?」
僧侶「い、いえ!なんにも付いてませんでしたよ」
剣士「?」
僧侶「行きましょう行きましょう」グイグイ
剣士「お、おお」
925:
1:2012/08/26 23:43:27.10 ID:2ahOSzHAO
――城近くの森
黒髪の男「やっぱ、アレですね父さん」
師匠「なんだ馬鹿息子」
黒髪の男「遠くから見てるだけじゃつまらないですね」
師匠「何を言っとるんだ。ここで見守ろうと言い出したのはおまえだろ」
黒髪の男「確かにそうですけど」
黒髪の男「――あのぐらいのピンチ、乗り越えなきゃ“魔王”じゃないですし」
師匠「あのぐらい、ねぇ…一回『勇者の剣』で刺されてみろ」
黒髪の男「ヤですよ」
師匠「というか刺されろ」
黒髪の男「なんでそんなに厳しいんですか!」
926:
1:2012/08/26 23:52:07.44 ID:2ahOSzHAO
師匠「当たり前だろうが!幼い息子に仕事押し付けおって馬鹿!」
黒髪の男「だってあいつ、情報処理とか自分よりうまいんだもん…」
師匠「補佐としてしばらく手伝って貰っていれば良かったのに」
黒髪の男「……駄目だったんです」
師匠「何がだ」
黒髪の男「あいつが、我を忘れて辺りを血の海にした時。とても恐かったんです」
師匠「……」
黒髪の男「愛情より畏怖のほうが強くなってしまった。…父親失格です」
師匠「もう30年なのか…」
927:
1:2012/08/26 23:58:09.70 ID:2ahOSzHAO
黒髪の男「結局逃げたんですよ。もう自分はあいつに顔向け出来ない」
師匠「出来るだろう」
黒髪の男「……出来ますかね。まだ、もうちょっと時間が欲しいです」
師匠「おまえが間接的とはいえ魔力をやったことを知っている」
師匠「完全に見放されてないって分かれば孫も一安心するだろう」
黒髪の男「見てたんですか」
師匠「見てた」
黒髪の男「あの混血の姉ちゃんは…父さんの弟子ですか」
師匠「そうだ」
黒髪の男「でも30年前、人間に育てさせたほうがいいと言ってませんでした?」
928:
1:2012/08/27 00:08:16.81 ID:IbCiM00AO
師匠「その時はまだ普通の人間とばかり思っていた。暴走しなければ大丈夫だと」
黒髪の男「でもそうじゃなかった?」
師匠「ああ。魔法が使える、成長が遅い」
黒髪の男「魔物の血の効果ですね」
師匠「そう、だから引き取った。あのままじゃ火炙りだった」
黒髪の男「それに、忘れ形見ですからね。父さんの友人の」
師匠「まあな…見過ごせなかったのもある。しかし気になるの」
黒髪の男「この戦いの行方がですか?」
師匠「それもだが――魔法使いは、どのような生き方を選ぶのか」
929:
1:2012/08/27 00:27:00.30 ID:IbCiM00AO
――城内、通路
魔法使い「は―――はぁ、はぁ」
窓を見れば太陽が真上に浮いていた。
もう昼間らしい。
魔法使い「疲れるはずだよ」
壁に背を預け、ぺたりと座り込む。
周りは死体が囲んでいた。
ふと思い、そばに落ちていた剣を手にとった。
刃の部分に魔法使いの顔が写り込む。
魔法使い「なんで……」
羽毛が彼女の頬にまで広がっていた。
背の翼も一段と大きくなっている。
人間から遠のいていく。
かといって完全に魔物にもなれない。
930:
1:2012/08/27 00:36:32.77 ID:IbCiM00AO
魔法使い「……」
頬から首元までなぞっていく。
ふわふわとした柔らかい感触。
魔法使い「中途半端…か…」
もし元から人間だったなら、と想像してみる。
少なくとも、ここにはいないだろう。
今までにあった人と会うことはきっとなかった。
師匠とも。
勇者たちとも。
魔王とも。
魔法使い「私は……私だったから――」
935:
1:2012/08/27 23:35:05.87 ID:IbCiM00AO
――どこかの天井
蝙蝠「ウーン」
蝙蝠は天井からぶら下がり、目の下で起こる様々なことを見ていた。
兵のぶつかりあいだとか。
逃げる兵や、それを追う兵。
あとは豪奢なドレスを着た女性が助けられてたり。
小さな蝙蝠に気づくものはいなかったし、蝙蝠自身も気をつけていた。
人目がないのを確認すると、蝙蝠は飛び出す。
蝙蝠「マオウサマ、ドコカナ」
蝙蝠は何も知らない。
魔王がここに来た意味も、兵達が争う意味も、なにもかも知らない。
936:
1:2012/08/27 23:41:29.47 ID:IbCiM00AO
そんなことはどうだって良かった。
ただ、何処かに行ってしまった魔王を探しているだけだ。
ひとりで旅立とうとする魔王の転移魔法に割り込んだのに深い理由はない。
なんとなくその背中が寂しそうだったから。
それだけの理由で共に転移した。
魔王が蝙蝠に気づかなかったのは魔力が微弱なことと他のことを考えていたからかもしれない。
蝙蝠「サビシイト、ツライヨネェ」
時折休みながらあちこちを飛んでいく。
蝙蝠「ボクモヒトリハ、サビシイモン」
937:
1:2012/08/27 23:47:08.69 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「モシカシタラ、ナイテタリシテ」
金色の瞳から流れる涙は何色だろうかと考える。
蝙蝠「キンイロカナ。ギンイロダッタリシテ」
蝙蝠「ア、デモ」
蝙蝠「タカサンニ、ナカシタッテマチガエラレタラ、タイヘンダ」
蝙蝠「……ソウイエバ、タカサントカ、ココニイナイノカナァ」
魔王の側には必ずいるのだから多分いるだろう。
安直に考えて飛び続ける。
そして、曲がり角から現れた人物にぶつかった。
蝙蝠「アイタ」
魔法使い「ごめ……え、蝙蝠?」
938:
1:2012/08/27 23:52:28.61 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「コンケツ!」
魔法使い「なんでこんなところに」
蝙蝠「エットネ――」
説明中。
説明後。
魔法使い「…じゃあ、蝙蝠も魔王を探しているのか」
蝙蝠「ウン!イッショニサガソ!」
魔法使い「一緒に探そったって…危ないぞ?」
蝙蝠「ナンデ?」
魔法使い「いつ誰に攻撃されるか分からないんだから」
蝙蝠「ダカラ、コンケツモボロボロナノ?」
蝙蝠は魔法使いの平らな胸へ飛び込む。抱き止められた。
魔法使い「ああ。攻撃したりされたりで」
939:
1:2012/08/27 23:55:35.59 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「コンケツ、トリニナッテキテルネ!」
魔法使い「やっぱりそうか…」
蝙蝠「カッコイイヨ!」
魔法使い「はは、ありがとう」
蝙蝠「ボクネ、ソレナリニツヨインダヨ!」
魔法使い「そうなのか…?お前が強い、ねぇ」
蝙蝠「ナメチャコマルゼ。ダカライッショニイコ!」
魔法使い「……」
蝙蝠「イイデショ?」
魔法使い「…仕方ないなぁ。文句は受け付けないからな」
蝙蝠「ワァイ、アリガトウ!」
940:
1:2012/08/28 00:01:58.17 ID:Kid2apjAO
魔法使いの腕のなかに収まっていると眠気が襲ってくる。
言葉すくなになると「マイペースすぎるだろ」と苦笑する声が上から降ってくる。
蝙蝠「……コンケツノツバサハ」
魔法使い「うん」
蝙蝠「オオキイネ。トバナイノ?」
魔法使い「飛べる…のかな」
蝙蝠「トベルヨ。ソンナオオキイツバサナラ、ドコダッテ」
魔法使い「飛んだことないから。どうなんだろうね?」
蝙蝠「コンケツナライケルヨ」
魔法使い「はは、ありがとう」
946:
1:2012/08/28 22:16:30.81 ID:Kid2apjAO
――通路
「衛生兵!早く!」
「負傷者が出たぞ!」
側近「強いというより……しぶといな」ハァハァ
マスター「さっさと降伏すればいいものを」ハァハァ
側近「どうやら自らの意思で退却はできないらしいぞ?」
マスター「なに?」
側近「あの魔物みてみろ。両足なくしてショック状態だ」
マスター「…よく冷静でいえるんだな……」
側近「生きてきた時間が違う。ほら、身体が痙攣しているくせにまだこちらへ来るぞ?」
マスター「………っ、なぜ……」
947:
1:2012/08/28 22:22:54.55 ID:Kid2apjAO
側近「やつらから魔術を感じる」
マスター「魔術?なんの?」
側近「自分は魔王さまではないから詳しくは分からないが…操りの魔術だ」
マスター「……なんだそれ」
側近「文字通り人を操るんだよ。催眠みたいなもんだ」
側近「『ひたすら前進せよ』とか言われたんじゃないか?」
マスター「そんな――操るなんて出来るものか」
側近「ちょっとの心の緩みさえあればコロリと従うさ」
側近「元からある忠誠心に上乗せした、というのも考えられる」
948:
1:2012/08/28 22:27:44.50 ID:Kid2apjAO
マスター「……」
側近「これだけ大人数の術を解除するのは難しい」
マスター「そうか」
側近「解除している間に攻撃されたら一溜まりもないだろう?」
マスター「そうだな」
側近「だから…やつらには敵になったことを悔やんでもらうしかない」
マスター「……」
側近「躊躇いが出たか」
マスター「いいや。みんな戦っているんだ」
マスター「個人の感情で仲間を殺したくはない」
側近「流石だな。見直した」
マスター「はははっ、魔物に言われるなんてな」
949:
1:2012/08/28 22:33:13.93 ID:Kid2apjAO
魔大臣「側近!」
側近「どうした!」
魔大臣「兵にも疲れが見えている。どうする」
側近「二陣と入れ換えだ。一陣はしばらく休ませる」
魔大臣「了解!」
側近「トロールたち、疲労は?」
トロール「ないけどそろそろ血止めがほしイ」
トロール2「矢の盾はいいけド、矢じりを抜いてくレ」
側近「衛生兵、トロール達にも処置を!」
魔大臣「…しっかし、いつ終わるんだろうなこれ」
側近「終わるさ。――大臣は敵に回しちゃいけないのを敵に回したからな」
950:
1:2012/08/28 22:43:26.21 ID:Kid2apjAO
――どこかの階段
後ろから追いかけられていた。
剣士「ちくしょう!よりによってここでか!」
老兵2「走れ!槍を持ってるぞ」
僧侶「容赦がないですね!」
剣士「僧侶、悪いがしばらく全力ダッシュだ!」
僧侶「はい!」
剣士「じいさん達も―――なにやってるんだ?」
剣士が振り返ったとき、老兵二人は立ち止まり後ろ――下を見据えていた。
剣士「馬鹿、早く逃げないと。せっかく引き離したんだから…」
老兵2「アホウ、こっちで足止めするからさっさと行け」
僧侶「そんな!」
951:
1:2012/08/28 22:48:13.52 ID:Kid2apjAO
老兵3「どうせ老い先短いんだ。なら戦って死んだ方が名誉だ」
僧侶「名誉って―――」
老兵2「行け。どちらにしろ足がもう使い物にならん」
老兵3「こういうときに体調悪くなるんだとはなぁ」ヒッヒッヒ
僧侶「駄目です!みんなで生き残って、それで」
剣士「行こう僧侶。じいさん達に失礼だ」
僧侶「でも!」
老兵「……すぐ行く」
老兵2「おう、そしたら酒を飲もうや」
老兵3「あっちに酒はあるんだろうかな」
剣士「…ありがとうな!でも生きれたら生きろよ!」グイ
僧侶「そんな、駄目ですって、どうか――」
952:
1:2012/08/28 22:53:16.27 ID:Kid2apjAO
剣士に引っ張られ、僧侶たちが上へと登っていくのを見届けた。
老兵2「優しいな」
老兵3「不安になるほどにな」
老兵2「……しかしどうする?」
老兵3「本当だな。敵が数人ならこんなことしないが」
老兵2「何て言ったって足音だけで二十三十だもんなぁ」
老兵3「こうなるとこの先に国王さまがいるのは確かみたいだな」
老兵2「だな」
老兵3「全員死ぬより…ここで二人、食い止めて死んだ方が良いな」
老兵2「全くだ」
953:
1:2012/08/28 22:56:17.32 ID:Kid2apjAO
老兵3「やっと妻のところにいける」
老兵2「やっと娘に会える」
ワーワー
老兵3「お出ましだ。覚悟はいいか」
老兵2「もちろんだ」
老兵3「じゃ、若い世代に後は託して、何も考えずに戦うか」
老兵2「そうしよう。最後だ、楽しもうぜ」
そして、激突した。
954:
1:2012/08/28 23:02:16.12 ID:Kid2apjAO
……
魔法使い「――激闘だったんだな」ピチャピチャ
階段に広がる血と、転がる肉片をできるだけ踏まないようにしながら階段を登っていく。
蝙蝠「スゴイチノニオイ」
魔法使い「ああ」
蝙蝠「アトカタヅケ、タイヘンソウダネ」
魔法使い「それは勝者になってからの悩みだな」
蝙蝠「コンケツ、マケルノ?」
魔法使い「まさか、負けないさ。負けないけど油断はしてはいけない」
蝙蝠「ユダンタイテキ!」
魔法使い「その通り」
蝙蝠「ヒノヨウジン!」
955:
1:2012/08/28 23:06:26.41 ID:Kid2apjAO
魔法使い「マッチ一本?」
蝙蝠「アバンチュールノモト!」
魔法使い「ごめん、何言ってるかよく分からない」
蝙蝠「コンケツ、コイハネ、チョットノキッカケデモエアガルンダヨ」
魔法使い「へ、へぇ……」
蝙蝠「コイヲシタラ、テニオエナインダッテ!」
魔法使い「誰から聞いたんだそんなこと…」
蝙蝠「マオウジョウデ、タクサンキイタ!」
魔法使い「変なこと吹き込むなよ魔王城の面々…」
蝙蝠「スキナヒトノタメニハ、ナンデモヤルンダヨ!」
956:
1:2012/08/28 23:10:36.85 ID:Kid2apjAO
魔法使い「駄目だ暴走してるわこの子」
蝙蝠「コンケツモ、モエガッテルデショ?」
魔法使い「なんで私が人体発火現象を巻き起こしているんだ?」
蝙蝠「チガウヨ、ハナシノナガレニノロウヨ」
魔法使い「はぁ…。恋に燃え上がってるか?私」
蝙蝠「バッチリダヨ!」
魔法使い「うーん……誰に?」
蝙蝠「……」
魔法使い「えっ、なんでそこで黙るんだ」
蝙蝠「タカサン、クロウシテルンダネ」
魔法使い「そんなしみじみと言われても」