Part46
288 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:53:42.77 ID:LAEzTxgP
貴族子弟「彼らの立場からすれば、
いま一番荷が動いているように見えるのは南部です。
南部と関われば、物資の流れが生まれて税金が取れる。
何も自分の所で物を生み出さなくても
物が流れる通路になればお金が落ちてくると云う思惑です」
氷雪の女王「それはそれで、頼りがいがありませんね」
貴族子弟「ええ、まぁ。
……例えば武器の輸出をしたとなれば
あとから聖教会に睨まれるって事もあります。
でも、“武器とは知らず、荷の行き来の途中にあっただけの都市”
であるだけなら、どうとでも言い逃れは出来ますからね。
通商を望んでいる、とは云ってもこちらの傘下に入りたい、
同盟したいと云うほど強く望んでいるのはいくつある事やら」
氷雪の女王「……」
貴族子弟「だが一方、彼ら都市領主は農奴の権利解放については
そこまで目くじらを立ててはいませんよ。都市に住む職人や
ギルドの関係者の殆どは農奴ではないわけですから」
氷雪の女王「そうですね」
貴族子弟「農奴の解放について神経を尖らせているのは、
耕作面積や教会の発言力が大きい国です。
麦の国や楡の国が代表格ですね。湖の国も本来大きいですが、
あそこは湖畔修道会発祥の地だけあって、農奴解放の報せが
早く浸透しました。下からの突き上げもあって、湖の国の
女王はこちらに親しい方へ傾いています」
氷雪の女王「ふむ」
貴族子弟「全般的に云うと、貴族には自信がないのでしょう」
290 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:56:11.95 ID:LAEzTxgP
氷雪の女王「自信、ですか?」
貴族子弟「ええ。貴族の暮らしは税金によってまかなわれて
いるわけで、暮らしの物質的側面以外は、
身分制度によって支えられてるんですよね。
つまり、王によって“お前は有能だ!”と保証されて
農奴や家臣からは“あなた様に従います!”と崇められて、
それで精神的には満たされているわけですよ」
氷雪の女王「……」
貴族子弟「それにたいして、農奴という最下層の、
いわば“身分制度の底”を失ってしまうとどうなるか。
自分自身も世界もがらがらと崩れてしまうのじゃないか?
その辺が不安でならないんでしょう。
見て判るとおり、農奴の解放を達成しつつある
我が通商同盟でだって、
開拓民や農民は、相変わらず税を納めている。
もちろん徐々に仕組みは変わっていっていますけどね。
貴族が居なくなったわけではないのです。
別に農奴解放=貴族は全員死刑なんてことはない。
でも、彼らは自信がないんでしょうねー。哀れなものです」
氷雪の女王「それにしては……」
貴族子弟「はい?」
氷雪の女王「貴族子弟は、貴族なのに随分余裕が
あるように見えますね」
貴族子弟「ああ、それはもちろんですよ」
氷雪の女王「?」
貴族子弟「ぼかぁ、雅を信じていますからね。
連中は貴族のくせに、雅も文化も信じていやしないのです」
292 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:58:09.59 ID:LAEzTxgP
氷雪の女王「文化……」
貴族子弟「歌だの踊りだの芸術だのってのは
決して馬鹿にした物ではないのです。
犬がドレスを着ますか? 猫が絵を描きますか?
熊が詩作をしますか? 豚が歌劇を演じますか?
そんなことをするのは魂を持つ我らだけですよ。
これぞ人間らしいと云うものです。
無駄に見えても、ちゃぁんと意味があるんです。
わたし達がわたし達であり、
わたし達の今日をわたし達の明日につなげるために
文化と洗練は続いていくんですよ。
貴族に生まれたのなら、
それくらい信じないでどうするんでしょうね?
下からおだてられないと貴族を続けていけないのなら
とっとと商人にでも軍人にでもなってしまえばよいのに。
生まれただけで貴族面しているから、これっくらいのことで
動揺するんですよ。
“事はすべてエレガントに運べ”と祖母も云ってました」
氷雪の女王「……ふふふっ」くすくす
貴族子弟「女王陛下だってそう思いますよね?」
氷雪の女王「ええ、本当に。ああ、おかしい。くすっ」
貴族子弟「今後はいかがしましょう」
氷雪の女王「赤馬の国を頼みます」
貴族子弟「では」
氷雪の女王「ええ、もちろん。
事はすべてエレガントに運びなさい」
314 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 23:48:26.86 ID:LAEzTxgP
――鉄の国、王都宮殿、護民官詰め所
軍人子弟「うわぁぁぁあああ!?」
鉄国少尉「ど、どうしたんでありますか? 護民卿!」
軍人子弟「限界でござるよう」 がたがた
鉄国少尉「しっかりしてくださいよっ」
軍人子弟「拙者軍人なのにっ。軍人なのにっ」
鉄国少尉「わたしだって軍人ですってば」
軍人子弟「落ち着くでござる。拙者落ち着くでござるよ」
鉄国少尉「ゆっくり深呼吸でも」
軍人子弟「ひっひっふーひっひっふー」
鉄国少尉「それは妊婦では?」
軍人子弟「ひぃぃぃ、書類がぁ」がくがく
鉄国少尉「錯乱しすぎです、護民卿!」
軍人子弟「その“護民卿”というのが諸悪の根源でござるよっ。
拙者一介の軍人にて、街道防衛部隊指揮官だったはずなのに」
鉄国少尉「軍人が功を上げて階級が上がるのは当然じゃないですか」
軍人子弟「それがなんで卿なんてつくでござるかっ!」
鉄国少尉「それは、ほら。
鉄の国は軍人貴族で構成されてますから。
基本的に行政職は全員軍人ですし。
将官以上は全員部署を持って国の仕事しませんと。
“軍人は戦争の時しか仕事していないので、
平時は行政の仕事をすべし”というのが鉄の国のモットーです」
軍人子弟「ひぃぃ、騙されたでござるぅ!?」
320 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 23:53:55.40 ID:LAEzTxgP
鉄国少尉「まぁまぁ、現実をみすえてくださいよ」
軍人子弟「書類怖い書類怖い」ぶるぶる
鉄国少尉「そんなに怖い物ですかねぇ」
軍人子弟「書類間違えるとぶたれるでござる。
騎士殿が拙者を剣の腹でぶつでござるぅ。
学士どのが鉄定規でぶつでござるぅ。
椅子に座れなくなるでござるよ。
トイレで泣くでござるよ」ぶるぶる
鉄国少尉「何か過去にあったのかなぁ……」
軍人子弟「そっ、そんなことはないでござるよっ」がばっ
鉄国少尉「まぁ、落ち着いてくださいよ。茶でも飲んで。
書類が怖いのなら、俺が読んで聞かせますから。
なんせ子弟殿にほれこんで、あの峠からずっと
ついてきたんですからね」
軍人子弟「有り難いでござる。拙者挫けそうでござった……」
鉄国少尉「んで、まぁ。死ぬほど沢山書類があるわけですが」
軍人子弟「ぐふっ」
鉄国少尉「目下のところは、これ。
これ一枚解決すれば書類の半分は解決しますよ」
軍人子弟「……どういう案件でござるか?」
鉄国少尉「ぶっちゃけ、“人が増えてるからどうにかしろ”
という王様からの命令書ですよ」
322 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 23:57:17.77 ID:LAEzTxgP
軍人子弟「はぁ? 人が増えたら良いではござらんか」
鉄国少尉「まぁ、良いことですけどね。
人が増えれば食べ物だって一杯作れるし、
戦争した時だって強いですから」
軍人子弟「で、ござるよね」
鉄国少尉「でも、とりあえずの所は問題が山積みな訳です。
そもそも何でこの国にここまで移民が来ているかって云うと
食料が豊富で農奴の解放が進んでいる三ヶ国通商同盟のなかで、
中央に対して国境線が比較的近いのが
冬の国と我が鉄の国だからですよね」
軍人子弟「そうでござるな」
鉄国少尉「しかし、そこでやってくる移民っていうのは
殆どが逃亡農奴や、貧しい開拓民で、
財産なんてろくに持っていなかったりするわけです。
たとえ財産を持っていた場合でも、一家族で他国へとやってきて
いきなり食っていくのは相当に難しいですよね」
軍人子弟「そう言えばそうでござるなぁ」
鉄国少尉「今まではそういた移民は冬の国や氷の国にも
お願いしたり、あちこちの村にちょっとずつ
引き受けて貰ったりして分散の処理してきたんですが、
それも限度を迎えているわけで」
軍人子弟「ふむふむ、それでどうしたんでござるか?」
鉄国少尉「そこで護民卿が解決すると」
軍人子弟「ほほう! ……それって拙者じゃござらんかっ!」
330 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 00:05:14.66 ID:GDf918.P
鉄国少尉「そもそも護民卿ってのは民を護る役ですからね」
軍人子弟「ううう」
鉄国少尉「まぁ、さっきの話も問題ですが、
貧しくなって食い詰めた開拓民が溢れれば、
窃盗や略奪などの問題も起きてきます。
色んな国からやってきた人々は、文化も生活習慣も違いますから、
地元民とトラブルを起こすケースもありますよ。
ここにある山のような書類は、そういった苦情が多いんです。
もちろん、我ら護民卿の部隊が、酷い物については
対処しているわけですが、受け皿を作らないと苦情の量は
減らないんですよ」
軍人子弟「それは、その通りでござるな」
鉄国少尉「……」
軍人子弟「……」
鉄国少尉「どうです?」
軍人子弟「うーん。……師匠の教えでも、いくつかのケースは
学んだんでござるが……。開拓民、でござるかぁ」
鉄国少尉「……」
軍人子弟(確かにやっかいでござるねぇ。
場合によっては暴動なんてことも起きかねないでござるし、
何よりも、無秩序に開拓を行った場合、防衛上の飛び地が
無数に出来る恐れもあるでござるし……)
331 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 00:07:32.41 ID:GDf918.P
軍人子弟「ギルドはどうでござるか?」
鉄国少尉「ギルドですか?」
軍人子弟「鉄工ギルドは、徒弟として受け入れてくれたりは
しないでござるかね?」
鉄国少尉「はぁ、それは聞いてみますね。
ギルド評議会で良いのかな。
……それにしても徒弟ですから、
多くて5人とか10人の世界じゃないでしょうかね……」
軍人子弟「で、ござるか。とすると、そもそもの工房を
こちらで用意して、職人を招聘して教えて貰うとか。
……工房よりも大規模になるでござるかねぇ」
鉄国少尉「工房ですか?」
軍人子弟「いやいや、違うでござるね。……うーん。とりあえず」
鉄国少尉「とりあえず?」
軍人子弟「希望者は全て軍で雇用するでござるよ」
鉄国少尉「はぁ!?」
軍人子弟「だって、“軍人は平時は行政の仕事をする”のでござろう?
それなら兵科を新設するでござる。工兵の下に。
平時は農業を営む、半農半軍の組織を作るのでござるね。
軍務は、とりあえず5年。5年つとめれば、適当な金額と
農地を与えると云うことで設立できるでござろう」
鉄国少尉「軍で、ですか」
334 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 00:09:13.10 ID:GDf918.P
軍人子弟「妻子連れであっても受け入れ可能なように、
年齢規制も広げるでござる。
氷の国に近い荒れ地や森林に送り出して開墾を
お願いするでござるよ。
あのあたりであればそうそう戦にも巻き込まれぬ内側だし
河もあれば丘もあるでござろう? 人手さえあれば
優良な放牧地とのうちになるはずだと聞いてござった」
鉄国少尉「支援体制は? 食料などはどうするんですか?」
軍人子弟「軍人でござるから、当然国家からの支給を
すべきでござろうね。
この件については直接、鉄腕王に奏上するでござる。
ただ、馬鈴薯の生育速度を上手に使えば3年で
十分に元は取れるでござろう」
鉄国少尉「はぁ」メモメモ
軍人子弟「軍内部にも開拓民出身、開拓民の子弟だった
軍人は多く在籍しているでござろう?」
鉄国少尉「それはもう。わたしがそうだったくらいですからね」
軍人子弟「7人ばかり集めて、この計画の問題点と、
課題を洗い出しておいて欲しいでござる。
それから修道院への協力要請を。
前回も思ったでござるが、やはり従軍の医療者を
どうにかすべきでござるね。
医療兵、という科の新設も検討するでござるよ。
そうすれば、新しく開拓をした村を結ぶ巡回路を
設定するだけで、疫病を早期発見したり傷病者の元へ
訪れる事が出来る仕組みも作れるはずでござる」
335 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 00:12:11.63 ID:GDf918.P
軍人子弟「加えて、街道整備でござるね」
鉄国少尉「街道、ですか?」
軍人子弟「街道の有無で、行軍スピードに
倍の差がつくことも珍しくはないでござる。
特に我が国および、三ヶ国は歩兵が多いでござるからね。
物の流れも、人の流れも街道に左右されるでござろう?
この際、街道を新設したり、古い街道の拡張をすべきでござろう」
鉄国少尉「どこにそんな金が?」
軍人子弟「これについては、
氷の国と冬の国に無心しにいくでござるよ」
鉄国少尉「はぁ……?」
軍人子弟「鉄の国だけではなく、まずは大街道の整備を
三ヶ国横断でやるでござる。そうすれば、交易も便利になるし
人同士の交流も自然に起きるでござろう?
鉄の国の財布も楽でござる」
鉄国少尉「それはそうかも知れませんが」
軍人子弟「さらに前後して、鉄工所を作るべきでござるか」
鉄国少尉「鉄工所……?」
軍人子弟「大規模な鉄工房でござるよ。職人を育てるにも
働きながら育てられた方が良いでござろう?
国営の機構を作って、武具の補充も目指すべきでござろうね」
鉄国少尉「お気づきでしょうが」
軍人子弟「なんでござる?」 きょとん
鉄国少尉「莫大に仕事が増えましたね」
軍人子弟「ひぃぃ、騙されたでござるぅ!?」
392 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 14:56:25.56 ID:GDf918.P
――開門都市、小さな月桂樹の神殿
土木子弟「なんだよ、つく早々」
奏楽子弟「参拝よ、参拝」
土木子弟「なんだよ。神殿か? お前そんなに熱心だったっけ?」
奏楽子弟「別にそんなでもないけど。
せっかく音楽の神様の神殿もあるもんだからさ」
土木子弟「そうなのか?」
奏楽子弟「『開門都市』っていえば、神様の多い聖地だからね」
土木子弟「そっか」
奏楽子弟「一応その庭で商売しようってんだから
挨拶くらいしかないと気分悪いじゃない?
別に参拝くらい損する訳じゃないしさ」
土木子弟「そりゃそうかぁ」
奏楽子弟「さっ。きりきり歩くっ」
てくてく、てくてく
土木子弟「それにしても、神殿多いな」
奏楽子弟「そうねー。街を囲む丘には全部神殿有るんだって」
土木子弟「そうなのか、そりゃすげぇ」
奏楽子弟「大きいのは片目の神の神殿、雷霆の神の神殿、
光明神、欺きの神、闇の神ってあたりだけどね〜」
土木子弟「で、音楽の神ってのは?」
393 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 14:57:23.40 ID:GDf918.P
奏楽子弟「じゃん!! ここでーっす」
土木子弟「これ、神殿じゃなくて祠じゃん」
奏楽子弟「ぶーぶーっ! どっちだって同じじゃない」
土木子弟「建築の様式上、明らかに違うだろ」
奏楽子弟「信じる心の貴賎はないのよっ」
土木子弟「たいして信じてもないくせに」
奏楽子弟「さっ。軽く掃除しててよ」
土木子弟「お前はどうするの?」
奏楽子弟「奉納に一曲弾くっ」ぴしっ
土木子弟「で、俺は肉体労働?」
奏楽子弟「そのとーり♪」
土木子弟「まぁ、いいんだけどね」
奏楽子弟 〜♪ 〜〜♪
土木子弟「それにしても、あいつ本当に音楽馬鹿の本馬鹿に
なっちゃったなぁ。学んでいる時は色んな教科やってたのに」
奏楽子弟 〜♪ 〜〜♪
土木子弟「人のこと云えないか。俺だって土木好きだもんな」
ざしゅざしゅっ
奏楽子弟 〜♪ 〜〜♪
土木子弟「……せっ、っせ。結構土貯まってるなぁ」
394 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 14:59:08.54 ID:GDf918.P
――開門都市、小さな月桂樹の神殿の前
奏楽子弟 〜♪ 〜〜♪
土木子弟「んっと。こんなもんか」
土木子弟「それにしても……神殿か。見事なもんだなぁ。
二本の河と都市を囲む九つの丘、その丘の上に立つ神殿」
土木子弟「この都市を考えついたのは、相当な才覚の持ち主だぞ」
土木子弟「特に神殿が良いな。
どの神殿も優美な胸壁があるじゃないか」
土木子弟「えーっと。ん? まてよ。
どっかに紙あったかな、無いか。……地面でいいや」
がりがり
土木子弟「防壁、防壁内通路、胸壁だろー。
これって神殿って云うよりは砦みたいだよな。
形が美しいからそう見えないけど。
参拝路を支援物資搬入路だと考えれば、開放型の防御線なのか?
いや、開放型とも云えないか……。
古代には防壁で繋がれていた可能性もあるもんな」
土木子弟「そもそもこれらの神殿はどれくらいの
古さの物なんだ? 随分堅牢な作りだけど……」
土木子弟「今考えれば、二本の河川も
護岸工事が為されていたようだし……。
そもそも俺たちが渡ってきたあの船着き場も、
随分高くて都合の良い曲がり角だと思っていたけれど、
古代の堤なのじゃないか?
石だの土塁だのを積んで作ったあとに、長い年月で
土が被さって植物が生えてああなったとか」
中年商人「ふむふむ」
395 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 15:00:54.02 ID:GDf918.P
土木子弟「だとするとー」
がりがり
土木子弟「こっちが北だから、こんなもんかな。
こんな風に街道があるけれど、
本来はこの山を貫く街道があってもおかしくない、っと。
いや、むしろ、南へ延びる動脈が必要なわけで。
そうじゃなきゃ辻褄が合わないだろう。
と、すると、この都市の本来の正門は南門なわけだ」
中年商人「ありますよ」
土木子弟「へ?」
中年商人「その方向には旧道があります」
土木子弟「ホントですかっ?」
中年商人「ええ、山を途中まで登って途切れていますけどね。
ゲートへ向かう新道から分岐してるんですよ」
土木子弟「広さは? 工法は!?」
中年商人「工法は判りませんけれど、
広さは人の身長の3倍弱ってところですかねぇ。
場所によっては石畳になっていますよ」
土木子弟「石畳……」
中年商人「興味があるんですか?」
土木子弟「すごく見たいな! 旧街道かぁ。
途切れている? それは何らかの災害のせいなんじゃないですか。
その災害で途切れて、山を迂回する新道が作られたとすれば
辻褄があうし。新道から旧街道が分岐したのではなく
その逆が正しい物の見方だと思います」
396 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 15:02:14.46 ID:GDf918.P
中年商人「ふむふむ」
土木子弟「あ。すんません。見ず知らずの人を巻き込んで」
中年商人「あー。いえいえ、面白い話が聞けましたからね」
土木子弟「俺は土木子弟。見ての通り角つきの鬼呼族です」
中年商人「わたしは中年商人。この開門都市にやってきた
旅の商人って所ですね」
土木子弟「旅商人さんか。それで道に詳しいんですね」
中年商人「ええ、まぁ。随分あちこちに行きましたから」
土木子弟「それにしても興味深いな」
中年商人「……街路に興味があるんですか?」
土木子弟「ああ、おれは土木屋なんですよ」
中年商人「土木?」
土木子弟「聞き慣れない言葉ですよね。
堤防や街道を造ること、防壁や城を造ること、
水を生かして農業に用いる水利、木を植えたり、
災害に備えて山の形を変えたりもします。
そういう一人の手には負えない、大きなものを造るのが
俺の仕事なんですよ」
中年商人「街道も?」
土木子弟「街道もですね。獣道なんて云う言葉もあるとおり
道なんて放っておいても歩きやすい場所には
自然に出来上がっていくものだけど、
造るとなるとこれはなかなか奥の深い物なんですよ」
中年商人「橋なんてどうです?」
土木子弟「ああ。橋も重要ですね!」
397 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 15:03:44.67 ID:GDf918.P
土木子弟「橋というのは橋梁とも呼ばれて、
人や物が、谷、川、窪地などを乗り越えるための構造物です。
人が渡る物を橋、水を渡す物を水道橋なんて云いますね。
木造の物も多いけれど、石造りの方が主流じゃないかなぁ。
いやまてよ、この時代……。いやもっと先の時代なら
鉄製の物が出現する可能性もあるのかな?
たとえばボルトのような物を……」
がりがり
中年商人「え、あ。いや」
土木子弟「となると、強度面での問題を負荷拡散して……」
がりがり
中年商人「もしもしっ」
土木子弟「あっ! いや、すいません! 話の途中で。
こういう事になるとすっかり夢中になっちゃって」
中年商人「橋と街道に興味がおありなら、
一度わたくしどもの仕事場を見に来ませんか?」
土木子弟「仕事場?」
中年商人「ええ。今まさに、橋を架けようとしているところです」
土木子弟「そうなんですかっ!? どんなです?」
中年商人「さぁ……。
見たこともないような、としか云えませんね。
なにせ、天と地が反転するような場所に橋を架けていますから」