Part19
767 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 00:59:45 ID:
KGujct7k
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少女「兄……さん」
目の前に居るのはあの時と変わらない姿の兄さんだった。
魔王「少女か……。 また、泣かせてしまったな」
表情は変わらない。
少女「なんで……こんな事」
物静かだった兄が、国を滅ぼし、世界を終わらせる程の凶行に走った理由が私にはどれだけ考えでも浮かばなかった。
禁忌に触れた事で暴走してしまったのだとしても……。
何故兄が禁忌を求めたのかが分からないのだ。
魔王「泣かせないように、こうした筈だったのにな……つくづく駄目な兄だ」
768 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:00:44 ID:
KGujct7k
少女「答えてよっ!!」
仰向けに倒れた兄が手を伸ばす。
魔王「これからは、笑って生きてくれ」
頬に指先が触れた。
少女「兄さーー」
崩れ落ちていく指先。
徐々に兄は紫に光る粒子になって崩れていく。
少女「貴方は……馬鹿だよ……」
目の前に居るのは国を滅ぼし、世界を闇へ落とそうとした魔王だ。
だというのに涙が止まらない。
魔王「……何を泣いている?」
粒子化が止まり、兄が訪ねた。
769 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:01:44 ID:
KGujct7k
なんという奇跡だろうか。
少女「兄さん……よか」
魔法使い「離れろ少女っ!!」
兄さんが離れていく?
違う、突き飛ばされたんだ。
誰に?
魔法使いに。
何故?
770 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:02:45 ID:
KGujct7k
魔法使い「ぅああぁぁぁッッ!!」
魔法使いの悲鳴。
粒子化して欠損した兄の手から噴出するどす黒い‘何’か。
どうやら、この世界の何処かにおわす運命を司る神様はどうにも悲劇が好きらしい。
少女「こんなのって……こんなのって酷すぎるよぉ……」
誰でも良い……。
もう、終わらせてくれ。
勇者「少女、二つ程先に謝る、すまん」
771 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:03:56 ID:
KGujct7k
兄だったモノと私の間に立つ勇者。
少女「え?」
勇者「俺はお前の兄さんを殺す。 恨んでくれて構わない。 もう一つはあの技、使うぜ」
勇者が剣を掲げる。
彼の技は勇者としての力を使う。
あの技は元来は勇者という比い希なる生命力があってなせる技であり、魔王の呪いを受けた彼には一発が限度の技だ。
そして彼は僧侶を助ける際に一度使っている。
最悪、その場で絶命してしまうかもしれない。
もし死ななかったとしても、大きく寿命を削られてしまうだろう。
勇者「心配すんな、家族が居なくなるお前を一人にはしねぇから」
そんな根拠は無い癖に……。
そんな真っ直ぐな笑顔を向けられたら信じてしまうじゃないか……。
少女「すべて終わったら……私の家族になってくれ。 ならば許す」
勇者「……分かった。 んじゃ未来の旦那さんの為に笑顔で待っといてくれ」
うん、お前なら。
きっと。
772 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:04:53 ID:
KGujct7k
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少女は無事だろうか?
無我夢中で助けたけれど、僕は生きているのかな?
『憎い』
『悔しい』
『妬ましい』
魔法使い「うぐぁッッ!!」
頭が割れる。 僕の中に、何か違う意志が流れ込んでくる
『消えろ』
『滅びてしまえ』
魔法使い「こっれは……いった……い?」
773 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:05:58 ID:
KGujct7k
『何故彼女が……』
『……妻がなんで死ななくてはならなかったんだ』
『娘を返せッッ!!』
上下左右も分からない。 どこまでが自分かも分からない深闇。
痛い、苦しい、悲しい、寂しい。
774 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:06:37 ID:
KGujct7k
『ああああああああああッッ!!』
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
これは……負の感情?
『こんな世界……無くなってしまえば良い』
そうか……。
これは、深遠だ。
魔術の根底、全ての精神が帰る魂の坩堝。
世界中の負の感情の集合体。
魔王の触れてしまった魔術の到達点だ。
775 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:07:12 ID:
KGujct7k
魔法使い「駄目だ……呑み込まれる」
世界と自分の境目が保てなくなる。
魔法使い「憎い……」
嫌だ……こん……な感情に呑まれ……たくなんかな、いよ……。
『なら君はここに来るべきでは無いよ』
誰?
『君には仲間が居るんだろう?』
『僕には出来なかったけど……君なら出来るさ。 妹の涙を止めてやってくれ』
君は……。
776 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:08:19 ID:
KGujct7k
今回の更新は以上になります。
777 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 03:35:35 ID:tqhXcXRQ
平日の深夜に更新…
おつかれさまです!
778 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 06:15:08 ID:rlytSjQ6
乙
779 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 08:02:31 ID:g.KlkaCA
おつ!ドキドキだね!
780 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 19:46:55 ID:VeMJPbmQ
数字はカウントダウンかな。乙
781 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:27:44 ID:
cuS1vHJs
更新します
2
782 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:29:37 ID:
cuS1vHJs
魔法使い「絶対に呑まれてたまるか……。 確かに世界は、悲しみに溢れてる。 でも、きっと……」
魔法使い「勇者が、みんなが護ろうとしている世界が滅びるべきなんて間違ってるッッ!!」
冷え切った身体に暖かい物が触れる。
それはまるで手を引いてくれているようだ。
783 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:30:35 ID:
cuS1vHJs
『大丈夫』
『世界は美しい』
『ありがとう』
『護りたい』
これは、世界の根底……誰かを愛する優しい気持ちの集合体だ。
暖かい。
優しい声。
力強い声。
「戻ってこい」
意識が緩やかに微睡んでいく。
極寒の闇の中に、優しい光が灯る。
それは、徐々に明るく、力強くこの世界を照らしていく。
勇者「戻ってこい、魔法使い」
784 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:31:37 ID:
cuS1vHJs
光が全てを包み込む。
余りの明るさに思わず目を瞑る。
勇者「……大丈……夫か?」
魔法使い「勇……者?」
目を開けると、そこには勇者がたっていた。
僧侶「大丈夫ですか?」
僧侶も居る。
戦士「無事……なようだな」
戦士も居る。
勇者「さぁ……最、後の仕……上げだ……」
勇者、君はボロボロじゃないか……。
785 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:34:06 ID:
cuS1vHJs
空には全てを呑み込むような極黒の塊が浮いていた。
ソレは、聞くだけで心臓を鷲掴みにされたような恐ろしい声で叫ぶ。
魔王「なに故……もがき生きるのか……我こそは全てを滅ぼすもの……全ての命をわが生贄とし絶望で世界を覆いつくしてやろう……滅びこそわが喜び……死にゆくものこそ美しい……」
絶望が形を為し、全てを終わらせようと胎動を始めた。
今にも空を、大地を喰らい尽くそうと無尽蔵に触手を伸ばし、顎を広げている。
魔王「さあわが腕の中で息絶えるがよい」
勇者「勝手に言ってろよ」
魔王の言葉を遮る力強い声。
既にその身体は動く事さえ奇跡だというのに。
勇者は臆さずに、凛として言い放った。
786 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:35:14 ID:
cuS1vHJs
少女「もう止めろ勇者、死んじゃうだろ」
勇者は不敵に笑う。
勇者「俺は死なねーって、みんなが居るしな」
戦士「どうするつもりだ?」
勇者「魔法使い、ゴーレムと戦った時の奴、できるか?」
なる程。
魔法使い「任せてくれ」
できるできないじゃあないよ。
やるしかないんだろう?
魔法使い「柄にもなく、燃えちゃうね」
787 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:36:42 ID:
cuS1vHJs
勇者と手を繋ぐ。
空いた方の手は戦士の手を握る。
勇者は空いた手を僧侶と繋ぐ。
勇者「細かい事は相変わらず苦手だからさ、俺は全力でやるだけだ」
魔法使い「任せてくれ、必ず決めてみせる」
僧侶「魔法使いちゃんは魔力の操作に集中してください。 私は最後の一滴まで魔力を絞り出します」
戦士「何があっても俺が気を保つ、勇者は御雷の精霊との交渉に集中してろ」
勇者「ありがとうな」
手を強く握りしめられる。
僕も、強く握り返す。
魔王「滅べ。 我に刃向かう愚かなる人間よ」
勇者「いっくぞぉぉぉぉぉォオオッラアァアアアッッ!!」
788 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:37:52 ID:
cuS1vHJs
不思議な事に、不安や恐れは微塵もなかった。
在るとすれば、満ち足りた幸福感。
僕……私はこの人たちに出会えて幸せだった。
人って、こんなにも暖かいんだったね。
頭上に広がっている鈍色の分厚い雲に穴が空き、光が漏れだしていく。
光が漏れていく。
雲の合間から紫電が疾走る。
魔王「憎いぃぃ……憎いぃぃぁあああああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」
天と地を結ぶ神聖なる御雷の柱が、魔王を包み込んだ。
魔王の声が虚空へと消えていく。
これで、僕達の長いようで短かった旅は終わりを迎えた。
789 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:41:09 ID:
cuS1vHJs
魔法使い「……」
勇者「終わった……みたいだな」
僕達は、空を見上げていた。
世界を包んでいた、絶望の象徴だった鈍色の分厚い雲。
それが晴れていく。
陽光は、世界の果て隅々にまで優しく降り注いだ。
戦士「美しいな……」
僧侶「まるで勇者様の髪みたい、綺麗で、何処までも透き通るような蒼ですね……」
あぁ、世界は美しいね。
この空の下。
人は、喜んだり、悲しんだり、憎んだり、愛したりして生きていくんだと思うと、世界を堪らなく愛おしく感じるよ。
790 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:41:58 ID:
cuS1vHJs
少女「僧侶の手前……我慢しようと思ったのだが、我慢できそうもないな」
勇者「ん? ってうわっ!?」
仰向けで空を見上げている勇者に少女は飛び込んだ。
少女「勇者……ありがとう……ありがと……う、うわぁぁああんっ!!」
少女は勇者の胸板に顔を押し付けて幼子のように声を上げて泣いている。
勇者「お、おい!?」
少女「出会ってくれてありがとう……手を差し……伸べ……れてありがと……ぐすっ……にい……ひっく……あり……とう」
嗚咽混じりの感謝は最後には聞き取れないくらいに少女は泣きじゃくる。
勇者「うん……うん」
勇者は最初こそ戸惑っていたものの、優しく少女の頭を撫でながら彼女に相槌をうっていた。
791 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/20(木) 01:42:53 ID:
cuS1vHJs
僧侶「……」
その光景を少し悲しそうな顔で僧侶は眺める。
やれやれ。
魔法使い「そういえば」
僧侶「?」
僧侶の前に立ち、触れるか触れないか程度に唇を重ねた。
生意気なことにこの乳袋は背が高い。 ので、めいいっぱい背伸びをしなくてはならないのが非常に不愉快だ。
僧侶「え? え?」
魔法使い「約束したでしょ?」
昔ママが言ってた気がする。
大切な人が出来たらキスをしなさいって。 それが人なんだって。