Part10
380 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:02:28 ID:
LC4zfXdc
少しだけ更新
381 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:03:21 ID:
LC4zfXdc
僧侶「待って下さい、魔法使いちゃん!!」
身体強化の魔法を使い無理矢理僧侶を引きずって行く。
どんな理由があれ、僧侶だけ諦めるのは納得いかない。
少女「どこに行くつもりなんだい?」
勇者の部屋の近くまで行くと少女に呼び止められた。
魔法使い「勇者のところだ!!」
少女「ふむふむ、それは興味深い」
少女の瞳の紫が一段濃くなったように感じた。
382 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:03:32 ID:
LC4zfXdc
僧侶「だから待って下さいと言ってるじゃないですか」
魔法使い「あーもう、僕が納得行かないんだ」
少女「無理強いは良くないよ? どうしても行くというならーー」
少女の指が淡く光り、空中に文字を描く。 描かれた文字は。
【戦争】
少女「戦もやむなし。 だ」
魔法使い「は、上等」
383 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:04:00 ID:
LC4zfXdc
とりあえずこれだけです
384 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 05:13:15 ID:xIUIUd46
乙
420 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:47:06 ID:
owv6FRcA
月明かりの中庭で少女と向かい合う。
魔法使い「まさか君とこういう形で向き合うことになるなんてね」
逆光で少女の顔は見えない。
僧侶「どうか落ち着いて下さい」
少女「ふぅー」
少女が深い溜め息を吐く。
少女「キスした仲じゃないか、お手柔らかに頼むよ?」
確実に笑っている。 顔は見えないし、声の調子も静かだけれども不思議とわかった。
421 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:47:45 ID:
owv6FRcA
魔法使い「いつまでその余裕が持つかな?」
身体を巡る魔力が細部まではっきりと感じ取れる。
今までに無いほど鋭敏な感覚だ。 これがあの時の成果ならば、過去に向き合うだけの価値はあったのだろう。
少女「どうしたの? こないのかい?」
魔法使い「泣きっ面を拝むまで、僕はやめないからね? 〜〜〜」
指先に魔力を込めて少女を見据える。
怪我をさせたい訳じゃない。 行動不能にできればいい。
使うのは炎。 想像し創造するのは炎の牢獄、少女に触れない程度の距離を全方周囲取り囲む。
荒ぶる炎の精霊を完全に意のままの形にする事なんて今まではできなかった。
今ならばその気になれば炎で文章を宙に書く事さえ容易だ。
422 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:48:16 ID:
owv6FRcA
少女「くっふっふ、完全に一段高みに到達したようだね。 人の中では君を凌駕する魔法使いを捜すのはさぞ苦労しそうだ」
魔法使い「降参かい?」
元を正せば売られた喧嘩を買っただけの下らない意地の張り合いだ。
自分の成長も把握できたし頃合いだろう。
少女「才能という蕾が花開き、咲き誇る、美しい光景だ」
一瞬、身体を巡る魔力に違和感を感じる。
少女「ただーー」
少女が炎の格子に迷いなく歩み寄る。
なんだ、なにが起こっている?
少女「私は魔女ーー。 だ」
423 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:49:29 ID:
owv6FRcA
少女が笑った。 空にぽっかりと浮かぶ月のよう口を歪めて。
少女は炎の中に手を躊躇なく入れていく。
まるで霧の中にでも手を突き入れるように簡単に。
格子状だった炎はまるで彼女にじゃれつくかのように彼女の身体を這い回り最終的には小さな音を立てて消えてしまった。
魔法使い「ッ!?」
全身を鷲掴みにされたような不快感。
まるで自分の魔力すべてに茨の蔓を這わされているようだ。
少女「随分と素直な魔力だね、どう流れているか丸裸だよ? だからこんなに簡単に」
魔法使い「くぅ……」
少女「操作を奪われる」
気合いを入れろ、魔法は気持ち一つなんだ。 したり顔の少女に一発入れてやる。
424 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:51:56 ID:
owv6FRcA
少女「あーあ、無駄だよ、他の魔女なら何とかなったかもしれないけど、残念ながら私の徒名は空虚ーー。」
僕の魔力が……消え、た?
少女「森羅万象総てを虚無と帰す【空虚の魔女】だ。 君の魔力は辺りに散ってしまったんじゃないか?」
その夜空よりも濃い、艶のある黒髪をかきあげる少女はやはり魔女だ。
人の身では到達し得ぬ純然たる魔の結晶。
少女「楽しい夜会は始まったばかりだ、さぁ年頃の娘達のように色恋話で大いに盛り上がろうじゃないか。 所謂、‘がぁるずとぉく’って奴を、ね?」
こんなガールズトークがあってたまるか。
425 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:53:22 ID:
owv6FRcA
良いように馬鹿にされたばっかじゃ僕のプライドもなにもあったもんじゃない。
魔法使い「〜〜」
少女「このままなら無理だね、何回やっても君の魔力は丸見えなんだから」
ならどうする?
魔力の流れを知られないようにする?
いや、それは無理だ。 やり方に検討すらつかない。
じゃあ魔力を使わない?
殴りかかるなんてスマートじゃない、却下だ。
少女「どうしたんだい? 難しい顔してるけど」
魔法使い「生憎なんだけど、ガールズトークをするような友達が今まで居なかったからね、〜〜ッ!」
魔力の流れが見えも対応出来ないくらいの早さなら?
放ったのは僕が扱う魔術の中でもっとも速さのある閃光の魔法だ。
426 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:53:43 ID:
owv6FRcA
少女「速さだけじゃどうにもならないよ」
光球は少女に近づくにつれ、毛糸の塊が解けるように散らばっていく。
少女「さて、降参かい?」
冗談はよしてよね。
魔法使い「まだガールズトークを始めたばかりじゃないか」
僧侶の気持ちも、少女の真意も分からない。
少女「盛り上がるようなネタはまだあるんだろうね?」
魔法使い「興奮して眠れなくなるようなとっておきの話をしてあげるよ」
やれるだけのことは、しておかなきゃね。
427 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 14:06:13 ID:
owv6FRcA
今回の更新は以上となります。
プロットが無くなったので構成を思い出しながらの作業の為時間がかかりました。
一度書きためてるときに幻の宇宙ロボットものになりかけたのは内緒です。
430 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 17:00:18 ID:N3AZf6TI
作者さん乙!
433 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/14(木) 09:01:01 ID:Kq3sY8Q.
おお来てた
続きも楽しみに待ってるよー
447 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:01:39 ID:
TsjRKeIE
さて、次の策を練ろうか。
正攻法でも奇襲でも通じないなら絡め手で墜とすだけ、だ。
僧侶「争いは……て、聞こえてませんね。 発端は私なのに」
魔法使い「〜〜」
先ずは閃光の魔法を撃つ。
少女「ふふ、諦めが悪いね」
有効範囲から僅かに外れた所で発動。
魔法使い「〜〜」
少女「目眩ましかい?」
……その通りだよ。
狙いは後方。
熱線の魔法で噴水を狙う。
蒸発する噴水の水、飛散する瓦礫。
魔法使い「さて、あと数手、気づかなければ詰みだよ?」
少女「何をしようと魔法じゃ私には勝てないぞ?」
448 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:02:38 ID:
TsjRKeIE
よし、気づいていないな。
視界は既にほぼ無いに等しい。
僕の狙いは一つ。
頭上だーー。
少女「ん?」
魔法使い「〜〜〜」
水蒸気を頭上で凍らせて、ただ落とすだけ。
魔力は凍らせた時点で解く。
魔法使い「林檎が木から落ちるのは魔法ではないからね」
少女「……やるね」
氷の塊が少女の上に落ちた。
449 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:03:16 ID:
TsjRKeIE
魔法使い「これぐらいじゃ、ダメかな」
少女「危うく本の栞になるところだったよ」
彼女は間一髪の所で氷塊を避けていた。
どうも思考の端に引っかかる違和感。
ものは試し、だね。
魔法使い「〜」
地面に向け爆発の魔法を放つ。
爆発の際に大小様々な土塊などが飛び散る。 それを避ける少女。
違和感は徐々に膨らんでゆく。
450 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:03:49 ID:
TsjRKeIE
少女「一体君は何が狙いなんだい? 私を砂だらけにした所でどうしようもないだろう」
魔法使い「〜」
次は土塊を地面から創造して攻撃する。
少女「だから無駄だと言ってる」
魔法は、少女の前でただの土に戻される。
ーー違和感は確信に変わっていく。
魔法使い「君、魔法が使えないんじゃないか?」
少女「……ふふん」
451 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:04:48 ID:
TsjRKeIE
少女「根拠は?」
魔法使い「君自身は、一度も魔法を使ってない」
魔力を介した攻撃はすべて無効化する癖に、視界を塞がれても魔法を使わずに対応していた。
更に言えば、だ。
魔法使い「君自体の魔力に干渉された時、酷く弱々しかった。 下級魔法が発動する程の量すらないほどに」
少女「なる程、流石だね。 確かに私自身の魔力量は今や、一般人の三分の一も無いだろう」
少女が笑う。 満たされているように。
魔法使い「なぜ?」
少女「愛故に、かな? 場所を移そうか」
452 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:05:27 ID:
TsjRKeIE
少女の私室に通される。
品の良い調度品に囲まれた私室はどうにも居心地が悪い。
少女「僧侶、君も勇者が好きなんだね?」
僧侶「……はい」
少女「即答しないんだね」
暫くの沈黙。
少女「私は彼の事を愛している」
沈黙を破ったのは少女だった。
453 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:06:09 ID:
TsjRKeIE
少女「あぁ、こんな気持ちは初めてだ。 もしかしたら昔々彼と私の魂は一つだったのかもしれない」
胸に手を当てて微笑む少女。 こんな顔も出来るんだ。
優しく笑みを浮かべたその表情は幸せそうに満たされているようでもあり、それでいて切なそうでもある。
少女「彼がいない私は不完全だとさえ思う」
恋愛経験のない僕でも解る。
少女のこの表情は人を本当に愛している時の顔だ。
454 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:06:53 ID:
TsjRKeIE
少女「こんなにも、こんなにも勇者が愛おしい。 細胞の一つ一つが、私が私である為に必要な全てが、彼を愛おしいと叫んでいる」
少女の声は最初、淡々としていたものだったが、徐々に感情の籠もった震え声に変わる。
少女「彼と居ると春の優しい木漏れ日に包まれるようであり、彼の一挙一動は真夏の太陽のように私の心を焦がす。 彼と一時でも離れれば、秋の夕暮れのような寂しさでどうにかなりそうになり、真冬の雪のようにしんしんと想いだけが積もっていく」
少女「勇者は、私にとって世界と同義なんだ」
少女の独白のようなものが終わると、また私室は静寂に包まれた。
魔法使い「それと、君の魔力が少ない理由が繋がらないんだけど」
僧侶「私には分かりました。 勇者の呪い、ですね」
僧侶が俯きながら話す。
少女「聖職者にはわかってしまうんだね。 その通りだ」
455 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:08:19 ID:
TsjRKeIE
今回の更新は以上になります。
沢山の支援、感謝です。
456 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:13:19 ID:Si7SEfZQ
乙
457 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:57:03 ID:EPNW4IQI
よっしゃきてたああああああああああ!乙です!
461 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:09:54 ID:
8vKuy7T6
更新します。
どうやらお隣の魔女の長編が完結されたみたいで、羨ましい限りです。
こちらもなるべく早く完結出来るように頑張りたいと思います。
462 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:11:23 ID:
8vKuy7T6
僧侶「高次元の呪いの解呪にはそれ相応の代償を払わなくてはなりません。 世界を灼き尽くす程の怨恨を込めた魔王からの呪い。 解呪に払う代償は筆舌にし難いものでありましょう」
僧侶は肩を震わせながら言った。
燭台の火が微かに揺らめいて小さな音を立てる。
僧侶「ただ、そんな呪いですら解呪できた貴女が羨ましくて仕方がないのです」
魔法使い「……」
少女「解呪、か。 出来たら良かったんだけどね」
少女はじっと自分の手のひらを見つめる。
少女「僕の持てる全てを捧げても彼の呪いを緩和する程度が精一杯だったよ」
少女は、自嘲気味に笑みを浮かべたまま遠くを見つめた。
463 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:12:26 ID:
8vKuy7T6
僧侶「……」
重苦しい空気の中、夜の色が深みを増していく。
息苦しさを覚える程の無音が、どれほど続いただろうか。
僧侶「私は、神に仕える身です。 信仰を生涯の伴侶とする事に何の迷いもありませんでした」
僧侶が口を開く。
僧侶「戦う術は持たずとも、この世界を救う為の力となれるのであれば喜んでこの身を捧げる覚悟で勇者の旅の供となったのです」
魔法使い「僧侶?」
僧侶「今でもその気持ちは変わりませんーーでも」
464 :
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:13:16 ID:
8vKuy7T6
僧侶「夢みてしまったのです。魔王を倒したその先、平和となった世界で私と共に在ってくれないか、と」
僧侶はそこまで言うと部屋から出て行ってしまった。
早朝。
僧侶の姿は無かった。
魔法使い「勇者、心当たりは?」
勇者「俺だって知りたいさ」
戦士「探しに行かなくてはな、勇者」
戦士の目は厳しさと優しさが同居している不思議な眼差しだった。
父親みたいだ。