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魔女「ハッピーハロウィン・オーバーナイト」
Part9


204 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 11:58:41.89 ID:IZEJSARdo
男「……っ」
息が上がる。
自分がとんでもなく馬鹿なことをしているとは分かっている。
男(けど……)
ぱしり、と何かが小さく弾けるような音を耳にした。
男「!」
近づくにつれ、空気が変わっていくのが分かる。
男(……確かあそこは、小さな公園があったはずだ)
男「……っ」

205 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 11:59:56.65 ID:IZEJSARdo
男「な……」
呼吸がし辛いほどの重い空気。風が吹き荒れ、木々は震え大きな音を立てている。
辺り一面に響く雷鳴。ぱちぱちと何かが弾けていた。
混沌とした状況の中心に、いた。
男「……っ」
彼女は宙に浮いていた。箒に横向きに乗り、その腕を空に向かって延ばしている。
黒い三角帽と黒いマントが大きくはためく。
魔女「☞☀☁☂☞☪☯☞☀☁☂☞☪☯……」
何かを一心に呟いていた。
彼女の顔はここから見えない。

206 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 12:01:43.08 ID:IZEJSARdo
男(……本当に……彼女は……)
浮いている。間違いない。
だが。
気配が一段と重くなった。
何かが起きる。はっきりと分かった。
それが起きる前に、何かを言わなくては。
男(何を? 何を言えば良い?)
ぱしい、と何かが弾け、眩しい光を見る。
男(……!!!!)

207 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 12:09:29.77 ID:IZEJSARdo
叫んだ。
男「ハロウィンは、もう終わりましたよ!!」
 

208 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 12:10:50.34 ID:IZEJSARdo
魔女の背がびくりと震えた。
男「……」
雷鳴は静まり、暴風はやみ、あたりに漂っていた濃密な気配は消えた。
空を飛んでいた枯れ葉が、静かに舞い落ちる。
魔女「……」
おそるおそる振り返った魔女の顔は、今にも泣きそうだった。

209 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/31(月) 12:16:33.92 ID:IZEJSARdo
続まーす

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/31(月) 14:18:09.82 ID:09cT6NMUO
続け

211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/31(月) 14:53:45.02 ID:gdMm7lKQ0
はよ!

212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/31(月) 21:58:38.35 ID:SJpgacnA0
はよはよ

213 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:25:04.26 ID:Ni+y2sHMo
……
しょんぼりとした様子で、彼女は公園のベンチに座っていた。
三角帽の長いつばに、顔を隠すよう俯く。
自販機で買ったミルクココアを1つ差し出すと、おずおずといった様子で手を伸ばす。
飲みきるまで、お互いに何も喋らなかった。
魔女「……おばには、詰めが甘いとよく叱られたものだ。今になって痛感する」

214 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:26:00.69 ID:Ni+y2sHMo
男「……あなたは」
彼女の肩がびくりと震えた。
男「あなたは本当に魔法が使える魔女、なんですね」
コクンと小さく頷く。

215 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:26:29.11 ID:Ni+y2sHMo
男(まさか……)
魔女「……」
男「それじゃ、あなたが言ってた話は本当だったんですか? 例えば、故郷とか……」
魔女「……ああ。それに嘘はない」
男「……」
二の句をつげないでいると、彼女が口を開いた。

216 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:27:25.59 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……キミが驚くのも分かる」
魔女「私の国は、この世界の地図にはないんだろう?」
魔女「魔法も。魔女という存在も。全て架空のものなのだろう?」
男「……そう、です」
魔女「最初は気がつかなかった。キミと一緒に、この世界の色々なことを見聞きするうちに、それを知った」
男「だったらーー」
どうしてそう言ってくれなかったのか、なんて言葉を口にしそうにして飲み込んだ。
それは、あまりにも自分に都合が良過ぎる台詞じゃないだろうか。
彼女は初めて会ったときから、そう言ってたのだ。

217 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:28:09.29 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……キミは本当に優しいんだね」
魔女「それに比べて、私は随分と卑怯だ」
目を瞑ると、深い呼吸をして告げた。
魔女「私はキミに本当のことを言わなくてはならない」
魔女「どうしてキミに、あんなことを言ったのか」
男(仮装だと嘘をつき、もう会えないと言った理由……)
魔女「……」
魔女「私はもう、ここに来ることはできない。これは本当なんだ」
突然、周囲の温度を感じた。
今夜はこんなに寒い夜だっただろうか。

218 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:29:44.54 ID:Ni+y2sHMo
魔女「私は、魔法の力でこの場所にやってきた」
魔女「ここにいられるのは一日だけ。それが過ぎれば、帰らねばならぬ」
魔女「……そういう約束だ」
魔女「再び、ここに来れるかは分からない」
魔女「……だから」
男「仮装だと嘘を?」
魔女は目を伏せた。

219 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:30:43.40 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……」
魔女「私の世界は、キミたちにとっては御伽噺のようなものなのだろう?」
魔女「はろうぃんも、皆それが架空だと割り切った上で楽しんでいるようだった」
魔女「そのような虚構の世界が本当に存在すると知ったところで、キミに良い影響を及ぼすとは思わなかった」
魔女「……もう、二度と会うこともないのに」
男「……」

220 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:32:20.02 ID:Ni+y2sHMo
そうかもしれない。
例えば、異世界は実在する! などと声を高らかに主張する人がいるとして僕はその人をどういう目で見るだろうか。
男(それに僕は夢見がちだ)
男(その存在に、魅せられて。振り回されて。現実が疎かになるかもしれない)

221 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:33:21.73 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……すまない」
彼女はほとんど泣きながら言った。
男「いえ、それだったら。僕も、言っていることは分かりますしーー」
魔女「違う。今のも、真実じゃないんだ」
男「え?」
魔女「今のことを考えたのも事実だ。だが。それは建前だ」
魔女「自分自身を騙すための」
魔女「キミのためによくないと、そういう嘘をついた。自分に」

222 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:34:32.80 ID:Ni+y2sHMo
魔女「キミに嘘をついた本当の理由。これを知ってしまったら。キミは私を軽蔑するかもしれない」
魔女「だが、私は言わなくてはならぬ」
男(……いったい)
魔女「私は、私は。臆病で卑怯だった。私が憧れる偉大さとはかけ離れていた」
魔女「私は……」
魔女「ただ、怖かった」
魔女「私が本当の魔女だとキミに知られることが怖かったんだ」

223 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:35:25.03 ID:Ni+y2sHMo
魔女「この世界で、魔女は架空の存在だということに気がついた」
魔女「それと同時に、そのことも知った」
魔女「……はろうぃんというお祭り。皆で仮装をするというお祭り……」
魔女「このはろうぃんというお祭りでは、恐ろしくて気味が悪い存在に仮装をするんだろう?」
魔女「この世界で魔女は」
魔女「幽霊や吸血鬼と同じ、忌むべき恐ろしい存在なのだろう?」

224 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:37:18.22 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……キミと一緒に行ったおばけやしき、という処」
魔女「あの時、私は幽霊や魔物を恐れたのではない」
魔女「私が恐れたのは、魔女の姿。この世界での魔女たちの恐ろしい造形」
魔女「この世界で、抱かれている魔女への印象」
魔女「それを直視することができなかった」

225 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:38:53.92 ID:Ni+y2sHMo
魔女「私が仮装だと思っているから、キミも優しく接してくれる」
魔女「もしも」
魔女「もしもキミが私を本当の魔女だと知れば」
魔女「この世界にはいないはずの恐ろしい存在だと知ってしまえば」
魔女「そうしたら、キミはいったいどんな目で私を見るのだろう」
魔女「私に優しく微笑んでくれる、キミはいったいどんな……」
魔女「……」
魔女「それを考えるだけで怖かった」

226 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:40:17.90 ID:Ni+y2sHMo
魔女「私は、本当の私が、傷つくのを恐れたんだ」
魔女「だから、偽者の私が嫌われるならそれで、良かった」
魔女「……」
魔女「それが、本当のことを言わなかった理由だ」
魔女「私は自分の臆病さのために、キミに嘘をついた。キミにひどいことを言った」
魔女「とても卑怯な、行いだった。……とても。とてもとても」
魔女「謝っても、許してもらえるとは思わない」
魔女「……だが、すまない……」

227 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 01:41:39.07 ID:Ni+y2sHMo
男「……」
何て言えばいいのか分からなかった。
この感情を何て言えばいいのか。
自慢の外套を掴む彼女の手が、震えていた。
魔女「良い、良いのだ。分かっている」
魔女「わ、私は魔法を使える魔女だし、そのことに誇りも持っている」
魔女「こちらの世界で、忌むべきものとして扱われてても、そういう文化だと思えば仕方がない。仕方がないことだ」
魔女「……ただ、少し。キミがそうなったら少し、嫌だなと思っただけだ」
魔女「大した話ではないのだ。キミが気にすることではない」
魔女「私はただ、少しだけそう思った、だから、それでーー」

228 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:02:32.96 ID:Ni+y2sHMo
魔女の小さな手に触れると、大きく身じろぎした。
おずおずと顔を上げる。
今にも涙がこぼれそうな顔をしていたが、きっ、と口を結んで僕を見た。
男「……正直に言うと、魔女ということを僕はまだ正しく理解できていないと思います」
魔女「……うん」
男「お話の世界の話だと思ってた。そんなの、あり得ないって。そんな馬鹿な話があるかって」
魔女「……」
男「だけど、さっき。ハロウィンが終わったあと。もしかしたら、って思ったんです」

229 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:04:50.48 ID:Ni+y2sHMo
男「……僕は物心ついたときから夢見がちなところがありました」
男「だけど今日はそれで良かった」
男「だから、あなたを探し出せた」
魔女「え……」
男「今。このとき。僕は思うのはたった一つです」

230 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:06:09.30 ID:Ni+y2sHMo
男「あなたが、本物の魔女で良かった」
男「だから、こうしてまた話が出来る」
男「とても、嬉しく思います」
魔女「ぁ……」
男「……これは少し、ズルいですかね?」
男「さっきまで信じてなかったクセに」

231 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:07:37.94 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……き、キミは優しいから、そんなことを言うのだ」
男「嘘は言いませんよ、この期に及んで」
魔女「……ほ、ほんとう、か?」
男「本当ですよ」
魔女「……うそだ」
魔女「だって、私は魔女だし、ここでは嫌われてるって知ってる」
魔女「それに、私の我がままで、強引にキミに一日つき合わせて」
魔女「……それ以上に」
魔女「それ以上に私はキミにひどいことをした。あんな……」

232 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:09:25.59 ID:Ni+y2sHMo
魔女「キ、キミが優しいのは知ってるし、だから。正直なことを言ってくれてかまわない」
魔女「別に、傷つかない……そこまで、弱くはない子だし……」
男「……ハロウィンは昨日。もう仮装の日は終わった。この際、お互い嘘はなしにしましょう?」
魔女「う……」
男「たとえあなたが何であったとしても、僕は今こうしていられて嬉しいです」

233 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:11:08.48 ID:Ni+y2sHMo
魔女「そ、そんな、だって」
魔女「い、今のだって! そうだ! 今のだって! 私は、どこかで、キミに許してもらおうと思って言ってたぞ!」
男「そうなんですか?」
魔女「そ、そうだ! わ、私はズルいぞ! 卑怯なんだ」
魔女「許してくれるんじゃないかって、キミならって。ちょと期待してて、それで、そう……」
魔女「私なんて、自分勝手で、我がままで……なのに……」
男「……」
魔女「……」
魔女「……本当に、キミは嬉しい、の……?」
男「ええ」

234 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:11:40.29 ID:Ni+y2sHMo
魔女「う……」
しばらく黙ったあと。
魔女「ううう、うぇ、えぐっ」
変な嗚咽を漏らした。

235 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:12:25.46 ID:Ni+y2sHMo
ぐすぐすと泣く魔女。
魔女「私は、自分勝手でひどいやつだ。なのに、キミは……」
男「もう言わないでください。それをあなたに言われると、僕が責められなくなるでしょう?」
魔女「……ならもう言わぬ。……存分に責めてくれ。そうして欲しい」グスグス
男「! 本当にあなたは……!」
くそう、可愛い。

236 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:16:34.91 ID:Ni+y2sHMo
……
小さな手の震えは、ようやく治まったようだった。
魔女「あ……」
手を離すと、彼女は小さく声を上げた。
男「すいません。思わず」
魔女「い、いや。良い……いや」
魔女「……別に、もっと触れていてくれても良い」
男「え……」
魔女「い、いや違う! ……今のは嘘だ。すまない、もうキミに嘘はつかぬようにする」
魔女「……本当の気持ちを言おう」

237 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:18:25.85 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……もっと触れていて欲しい」
魔女「……もっと、ぎゅっとだ」
男「……仰せのままに」

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