娘さん下さい〜のスレを立てた者だけど。
Part2その日は快晴だった。
久々の休日でずっと寝ていたかったが約束を反故には出来ない。
鞭打って集合場所に向かったよ。
彼女は俺よりも先についていた。
「せんせ!」
ユウが手を振ってきた。
それはまるで彼氏を待つ彼女の様子だった。
「おまたせ」
ユウは首を振る。
俺は指で「行こうか?」の合図を出す。
ユウは頷いた。
駅近くの映画館。
何を見るかは聞いていなかったが当時ヒット上映していた映画
『バタフライエフェクト』だったのを覚えている。
今での好きな映画の十本には入る名作だと思う。
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:13:04.60 ID:+LKYTCjz0
俺塾講師始めるわマジで
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:13:30.28 ID:4QDc0c6v0
でも当時鑑賞したときは彼女の事が気になって映画どころじゃなかったw
聞こえないのに理解できているのかなーってね。
それに補聴器をしていないし。
なんでも大きな音になると補聴器が必要以上に反応してしまって逆に不快になるのだという。
補足すると、私くらいだと補聴器の意味はほとんどない、と最近教えてもらった。
でも必死に見入っていた。
鑑賞後も「おもしろかった」と満足げだった。
字幕だけでも分かるものだなーと関心。
後に音声を消して自宅で映画を見たことがあるが・・正直楽しめなかったw
健聴者にとっては難しい作業なのかしれんw
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:14:58.65 ID:+LKYTCjz0
馬鹿!ユウにとってはそれが映画なんだよ!
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:18:39.48 ID:4QDc0c6v0
デート?中は言葉のみだけではなくジェスチャーも交えて『会話』をした。
周りの視線が最初は気になったがすぐに慣れた。
今もそうなのだが俺と彼女間で手話はあまり使わない。
それは彼女の通う学校が『聴覚口語法』を採用していたから。
一般的な手話法ではなくて精度の高い補聴器を持って耳から言葉を聴き、
そして言葉で伝える手法のこと。
ろう社会では今でも賛否両論あるのだがドラマなんかで見られる手話をしながら話す
(トータルコミュニケーションなんて言われているが)ことはしなかった。
とにかく音声を持ってして人とのコミュニケーションを図ろうとしていた。
今は『人口内耳』なんて便利なものもあるらしい・・。
手術で埋め込むらしいのだが、ユウが失聴した頃には日本であまり普及はしておらず
高額なものになるので彼女はそのオペを行わなかった。
幼少期ならばそのオペを受ければ効果は大らしい。
今は本当に便利な世の中になっているとユウは言っている。
そんな感じで『会話』をするユウに対して初めは理解に欠けて苛立ちもしたがなw
今は造作なく会話できる。
でも喧嘩する時なんかは面白いもんだぜw
背中を向けていても彼女の怒りは俺に伝わるのに俺の言葉は伝わらないw
だから何の効果もないんだw
それを分かって喧嘩のときや都合の悪いとき、彼女は俺の顔を見ない。
手話も見ないw
テラヒドスw
127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:22:33.07 ID:4QDc0c6v0
それはさて置き。
ユウとのデートは当時付き合っていた彼女と会っている時間より楽しかった。
新鮮さもあってだとは思うが、
こうただ手をつないで適当な会話をして、適当な場所で遊んで・・。
って言うのよりもしっかりお互いの顔を見て自分の伝えたいことを身振り手振り口ぶりを駆使して
会話することに心地いい疲れと共に満足感を得られたんだわw
単調な生活がその日だけは楽しいものになったよ。
そして俺は七時過ぎにユウと別れた。
「せんせ、きょうはあそんでくれてありがとう」
高校生になって礼儀も覚えたかw
深々とお辞儀をして帰っていった。
それにもう一つ、
塾にいた頃授業が終わると「ありがとございました」って言ってたんだ。
「ありがとう」って言えなかったの。
最後の「う」が本人は言っているんだろうけど切れるわけ。
「ありがとっ」みたいな感じかな。
それがこの時はちゃんと「ありがとう」って言えていた。
成長しているんだな・・・って何か切なくなった。
いいな・・学生って。
俺はつまらない生活を送っているなって。
誰かが言っていたよな?w向上心のない奴は馬鹿だってw
まさにその通り。すげー自分のやること全てがだるくなった。
俺はダメダメだと鬱になった。
こうゆう状態って急に来るものなのな。
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:24:12.23 ID:4QDc0c6v0
決してユウのせいなんかじゃない。
自分が弱かったんだと思う。
彼女とのデート後、しばらくしてから俺は仕事を無断欠席することが多くなった。
すぐに会社はクビになった。
そりゃそうだわな。別にいいし・・なんてふざけた考えをしていた。
貯金は結構あった。
それを崩しながら堕落した生活。
パチンコ、スロット、競馬に、競輪・・。
吸わなかったタバコも吸うようになった。一気に部屋が黄色くなる。
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:26:33.22 ID:4QDc0c6v0
そして付き合っていた彼女には仕事をやめたことは伝えていなかった。
会うことになるとスーツで向かった。
意外にもバレないw
つーか俺に関心がなかったんだわな、この頃既にw
でもユウには気づかれた。というか目撃された。
ユウと遊んでから半年くらい経ってからかな。
ボサボサ頭のスウェット姿でパチンコ屋から出てしばらくすると肩を叩かれた。
その日は負けていて苛立っていたので「ああ?」なんて低い声で振り向いた。
すると少し怯えた様子のユウがそこにはいた。
たぶん俺の表情さえもひどかったんだと思う。
「せんせ、やすみ?」
構うなと思ったが、あの日遊んだきり会うことも連絡することもなかったユウの手前、
邪険には出来なかった。
136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:30:58.72 ID:4QDc0c6v0
「やすみ」
「そんなかっこうでみっともないよ」
カチンときた。ガキに説教される覚えはないと思ったからね。
タバコを取り出して火をつける。
ふとユウを見るとタバコをふかすジェスチャーをする。
しかも驚きと疑問の顔で。
「わるいかよ」
ユウと話すときの癖で大きく口を開けてしまった。
煙が彼女に掛かる。
「す、すまん・・」
ユウは咽ながら首を振る。
「せんせ、しごと・・」
何かを言いたげだった。
「へいじつ、さいきんよくみる」
「え?」
「しごとやめたの?」
俺はユウの顔を見ずにタバコを吸った。何も言えない。
こんなだらしない男に勉強を教えてもらっていたのかと幻滅されてんだろうなって思って
ユウを見ることが出来なかった。
俺チキン。
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:32:16.65 ID:4QDc0c6v0
「せんせ」
タバコの火をサンダルの裏で消して彼女を見る。
「べんきょ」(小文字の後の母音発声は今でも困難な模様w)
「は?」
「おしえて」
俺は手を横に振った。嫌だよ。
「えいご」
「は?」
「えいごをおしえて」
彼女はバッグからプリントを取り出した。英語のテキストだった。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:35:12.50 ID:4QDc0c6v0
俺はテキストを受け取り中身を見た。
懐かしいな・・、大学受験を思い出す。
「ため?」
ため?ああ・・ダメ?って聞いてるのか。
なんかユウの発音に可笑しくなった。
馬鹿にしているわけじゃない。なんかユウと接していると面白いんだわw
俺は人差し指を上に向けて「いっかいだけ」と言った。
ユウは頷いた。
そして数日後、俺は初めてユウの家に出向くことになった。
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:36:52.89 ID:GuuuJ6JXO
ユウさんを下さい。俺に。
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:36:10.33 ID:4QDc0c6v0
別に彼女の家に行くわけでもないのに
俺は久しぶりに髪を切ってユウの家に向かった。
地区は同じだが駅を背に反対側に位置する俺とユウの家。
その方面に行くのは何度しかない。
着いた先は四階建てのアパートだった。
俺の住んでいるボロアパートなんかよりは断然マシだが結構年季が入っている。
ユウの家の玄関前に立ちチャイムを鳴らす。
出てきたのは母親だった。
「どうも」
「お忙しいところすいませんね」変わらず低姿勢なお母さん。
俺は言われるがままに中に通された。
家の中は綺麗に整理されていた。無駄なものが置かれていない。
俺の実家とは大違いだ。
ユウはリビングでテレビを見ていた。
違和感を覚える。テレビ?聞こえるの?
画面を見ると英語字幕の映画を鑑賞していたのだ。
すげーwと感心した。
146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:40:29.96 ID:4QDc0c6v0
俺の訪問に気づき
「せんせ」と言うと停止ボタンを押して立ち上がった。
「こっち」
俺はユウに腕をつかまれて彼女の部屋に連れて行かれた。
すぐにユウの母親がお茶を持ってきてくれた。そして出て行く。
女の子の部屋に入るなんて初めてだった。
しかも女子高生の。なんか落ち着かない。
部屋もまた綺麗だった。
映画のポスターがニ枚張ってあった。
違った意味でセンスがいいww
「トレインスポッティング」のポスターだったw
そして隣には「バッファロー66」のポスターww
本当に女子高生かよwと思った。
そのポスターについて触れたのはつい最近。
「すきなんたからしょがないてしょ」(好きなんだからしょうがないでしょ)だってw
好きになる理由はいらないってかw
152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:44:35.38 ID:4QDc0c6v0
英語を教えると言っても彼女に教えるところはほとんどなかった。
だってほぼ満点に近いものだったから。
学校の宿題をただ一緒に解いては見せ合っていくだけ。
俺のほうが間違っているなんてこともある。
俺いる意味あんの?wってくらい。
そしてその日は終わった。
二時間で一万も頂いた。
タダでいいと言ったのだが母親は言って聞かなかった。
渋々それを受け取る。
帰り際に玄関先でユウに「せんせ、まいしゅ、おしえて?」と言われた。
絶対言われると思った。
でも『教える』ってのは嫌いじゃないし。
ユウと過ごす時間も嫌いじゃない。
俺は「はいはい」といった感じでおkを出した。
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:46:28.52 ID:4QDc0c6v0
相変わらずユウの家に行く日曜日以外はダラダラと過ごしていた。
でも身だしなみは人並みに整えるようになったし、転職サイトも覗く(だけ)ようにはなっていた。
そして何度目かの家庭教師訪問の日。
二月くらいだっけか。
俺はユウの母親と話す機会も持つことになった。
いつも通りユウにはテキストの問題を解かしていた。
テキストの巻末の入試問題に挑戦ってのを時間を計ってやらせていた。
俺は「トイレを借りるね」と言って部屋を出る。
人の家で小の方とは言え気兼ねしたが我慢がならずトイレを借りた。
そこで気づいたのだがトイレにはびっしりと紙が張られていた。
映画のワンフレーズだと分かった。
一文が書かれておりその下には映画の名前。
相当な映画好きなんだなと思って出た。
するとリビングで洗濯物を取り込んでいた母親と目が合った。
俺はトイレのお礼を言うとすぐに部屋に戻ろうとした。
「男さん、ちょっといいですか」
母親に手招きをされた。
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:50:01.86 ID:4QDc0c6v0
「はい・・」
何かクレームか?
俺は一切手を出してはいないが・・。
そんな不安に駆られて近づくと椅子に座るように言われた。
「失礼します」
「ユウの調子はどうですか?」
「家庭教師なんかいらないくらいですよw」
あはははと笑うのは俺だけだった。
あれ?まずいこと言った?
「ユウはね、本当に男さんが好きなんですよ」
「はい?」
「変な意味じゃなくて。小学生頃、私にも見せないような笑顔でユウは塾から出てきました」
「はぁ・・」
「塾が楽しいって、あの日初めてそんな言葉を口にしました。『楽しい』なんて初めて聞きましたよ」
「特別変わったことはしてませんでしたけどw」
「そこなんです」
「はい?」
「私でさえ最初の頃は難聴者であるが故に娘とうまく接することが出来なかった。
でも男さんは普通に接してくれた。ユウはそんなことを言っていました」
「あ・・でも僕も補聴器を見て、『聞こえないんだっけ?』なんて尋ねてしまいました・・」
「知ってますよ。最初はその点でユウも不信に思っていたんでしょうが男さんの授業、
会話が本当に楽しかったみたいです」
確かに、それ以降は彼女の難聴に対してこの時までに触れたことは一切なかった。
「ユウは五歳の時に・・」
そこで母親は口を閉じた。
「すいません。こんな話をしてしまって・・」
「話してくれませんか?」
ユウの事がもっと知りたいと、素直に思っていたね。
母親は思い出すかのように話してくれた。
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:51:22.86 ID:4QDc0c6v0
以下にはユウの過去を書く。
俺はこの一連の話で一つの転機を見出した。
だからユウとの事を書くにあたってこの話は必要不可欠なんだ。
分かってください・・。
167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 15:54:18.93 ID:4QDc0c6v0
俺は当時ユウは生まれつき耳が聞こえないものだと思っていた。
というか耳が聞こえない人に対する認識がそれだった。
でも最初に言ったようにユウは五歳のとき聴覚を失った。
ユウの両親は離婚している。
離婚したのはユウが失聴した後、すぐに、だそうだ。
元から不仲だった両親。
その影響もあってユウは塞ぎがちな子だったらしい。
父親はいわゆるダメ親父。
結婚して分かった大量の借金。
仕事も二転三転していたようだ。
特に娘であるユウに八つ当たりをすることもあったという。
そしてXデー。
日常茶飯事の夫婦の口論の最中、父親はユウを突き飛ばした。
その反動でユウは床に思い切り頭をぶつけた。
大丈夫?と駆け寄った母親の胸元ユウは
「やー!!!やー!!!やー!!」と泣き叫んだという。
心配した隣の住人がチャイムを鳴らすほどの大きな声だったという。
そして急に目を閉じて泣き止んだ。揺すっても起きない。
最悪の事態が起こったと母親は救急車を呼んで病院に駆けつけた。
幸い命に別状はなく安心したのもつかの間、母親は離婚届を突きつけたようで。
もちろん養育費の請求も同時にな。
父親は当初断ったようだが裁判の話になるとすぐに承諾をしたらしい。
外傷は特に見受けられなかったユウはすぐに幼稚園へと復帰。
しかししばらくして周囲は異変に気がついたという。
元々無口な子であり、話しかけらても無視をすることもあったようで。
ユウが失聴していることに気がつくのには結構な時間が掛かったみたいだ。
母親はすぐに耳鼻科に駆けつけた。
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:02:49.15 ID:4QDc0c6v0
様々な検査の末の診断。
頭部の打撃、もしくは高度のストレスからか・・。
根本的な原因は分からなかった。
後者であれば『突発的失聴』と言って、最近だと歌手の浜崎あゆみなんかがそうなったよな。
大抵は片耳だけらしいが稀に両耳に訪れることもあるようだ。
物心ついているような人にはこの突発型ははっきりと何時どこで何をやっているときに
聞こえなくなったのかが、分かるらしいので明確だが、
五歳のユウにその判断は出来ない。
見た目は全く変わらない娘が声を聞き取ることが出来なくなっているなんてと。
ひどく落ち込み自分を責めたという。
共働きであったが故に娘に構ってあげられなかったことなど
直接的原因ではないことまでを責めたという。
同時にこれからどうやって生活をしていけばいいのか・・。
最悪の行為にも出ようとしたらしいがそれを思いとどまらせたのはユウ本人だったみたい。
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:04:28.81 ID:4QDc0c6v0
貯金と別れた父親からの養育費。
そして母親の稼ぎで生活は成り立ってはいたが如何せん精神的に限界だった。
娘に何を話しかけても反応してくれない。
せっかく二人での生活がスタートしたのにと・・。
仕事のない日はボーっと映画を見ることが多くなったようだ。
高校生の頃所属していた映画研究会。
社会人、そして主婦になってからは見る機会も少なくなった映画。
意気揚々と見るのではなくそれくらいしかやる気がなかったという。
このまま心中をしようかと考えながら眺めることが多かったと言っていた。
ある日、ホラー映画を見ていたという。
内容なんて頭に入ってこない。ただボーっと眺めるだけ。
そこにふと腕に重みを感じたという。
おもむろに首を曲げるとユウがしがみついていた。
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:07:26.14 ID:4QDc0c6v0
険しい顔をしている・・が視線はテレビ画面。
「ユウ?どうしたの?」
当然話しかけても答えはない。ないはずなのに
「こわい」
と答えたそうだ。
幼稚園生が見るには恐ろしい映像が流れているのだ。
怯えて当然だ。
映画館なんかでカップル(笑)がホラーなんかを見て彼女が彼氏の腕にしがみつく、
そんなベタなシーン。まさにその状態。怖いから誰かを頼りたい。
ユウが頼ったのは紛れもない・・母親だった。
母親はユウを泣きながら思いっきり抱きしめたという。
この子には私しかいない。
そんな当たり前の考えが当たり前に出来なかった自分を情
けなく思う気持ちと娘を愛おしく思う気持ち。一気に押し寄せたんだと思う。
それから映画を見るたびにトコトコとユウは母親の傍で眺めていたという。
理解しているいないは重要じゃなかったと母親は言う。
そして休みの日は決まって一緒に映画を見るようになった。
ミュートにして、字幕だけを二人で追ったという。
娘と同じ目線でモノをみるようになった。
さらに凄いことに、母親はユウの映画に対する理解の有無は問わずに
娘と見る前に一度ビデオを見て字幕を全て書き写し振り仮名を付けた紙を用意したという。
今の映画好きは母親譲りだったんだなw
190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:14:07.56 ID:4QDc0c6v0
小学校は普通小学校に入学をした。
障害者に対するある程度の理解と内容があったからだった。
それに将来的に「ろう者」と位置づけられるか「難聴者」と位置づけられるかは
今のところどの小学校に通ったかで分類されてしまうらしい。
これは母親の意向が大きかった。
小学校に入学。
低学年1〜3年までは学校の対応もそしてユウ自身の勉強も順調だった。
昨今大学の講義で見られるノートテイクはなかったが黒板に書かれた文字、
そして教科書を目で追えば十分だった。
しかし四年になると勉強の複雑化からクラスに追いつけなくなり軽度のイジメが起こった。
いずれは起こる事態だと母親はそこまであたふたしなかった。
イジメもひどくはなく担任からの注意で収まる程度だった。
しかし勉強がダメ。担任も大変面倒見がいい人だったのだが限界はある。
そして五年生にあがると同時に俺より一年先に例の塾に通いだす。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:21:22.93 ID:4QDc0c6v0
しかし一向に改善されない。
面談の時に渡される学習プラン表には「よく出来ています」「GOOD」なんて書かれているものの
いまいち納得が出来ない。
まぁ、酷いもんだよ。
適当だったもの、あの塾。
しかしユウの母親は気の弱い人なのか、長い目で見ようと思ったのか。
ユウ自身も行きたくないとも言わないので通塾を続行させた。
そして一年が経ち・・未だに四年生の範囲が終わっていない。
さすがに母親は辞めようと思ったと言う。
六年生になり四月分の月謝を払ってしまったので五月から休会をしようと思っていた。
その矢先に俺が登場したわけだ。
「じゅくたのしい」
その一言で母親は満足だったという。
それに自主的に勉強をし始めた娘の姿に感動のあまり倒れそうになったともw
塾から帰ってくるたびに俺のことを話していたと。
聞いていて正直こっぱずかしかったw
中学校も出来るならば公立に行かせたかったようだが。
障害に対する訓練の充実を重視すべきだということからろう学校に入った。
そして今に至る。
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:23:06.88 ID:4QDc0c6v0
俺は一時間弱話を聞いていたと思う。
人の話をダラダラと聞くのは好きなほうではないのだが聞き入った。
もっと詳しく聞かせてほしい気持ちもあったが
「ユウの方は平気かしら?」という母親の一言で俺が何しにここに来たのかを思い出した。
「すいません!」と言ってユウの部屋に戻った。
「終わった?」
机を見るとユウの頭が乗っていた。
近づいても気づかない。そっと傍に寄って見た。
「すぅ・・すぅ・・」
と小さな寝息を立てている。
あちゃ・・寝ちゃったのかよw
と思いそっとテキストを手に取った。
指定した問題の先もこなしていた。
丸付けするとほぼ満点。
俺が教えていない範囲の問題もほぼ満点。文法、知識的な部分を除いてはね。
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:27:54.82 ID:4QDc0c6v0
ここで疎い俺は気づいた。
考えてみれば英語を教えてなんておかしな話なわけで。
映画を英語字幕で見ることも出来るし結構難しい英語のテキストもなんなくこなしていたしね。
家庭教師なんてのは俺と会う口実だ、たぶん。
(自意識過剰でさーせんw)
ユウは好意以上のものを俺に抱いているのではないかと・・。
でも同時に無理だと思っていた。
歳が離れている。これは表面上の言い訳。
本当は、俺はこの子を支えてあげられるほど強くないってこと。
障害を理解するのとは別の話だ。
しばらくするとユウが目を覚ました。
机に押し付けられたほっぺたが赤くなっていた。
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:32:12.34 ID:4QDc0c6v0
俺はおもわず笑ってしまった。
「ねてた?」
「うん」
俺はテキストを彼女に渡す。
「せんせがこないからたよ」
「ごめん」
俺は彼女に帰ると告げた。
いつものように玄関まで見送ってくれた。
普通は会話をして帰って行くんだけど俺は無言だった。
一度だけ後ろを振り返った。
ユウの姿はない。しかしすぐに何かを抱えて戻ってきた。
「せんせ、これ」
その日はバレンタインデーの数日前。
白い包装に包まれたチョコだった。
「ありがとう」
いつも以上に口をはっきりと開けユウにお礼を言った。
生まれてこの方バレンタインチョコなど貰ったことがほとんどない俺はここでテンションマックスww
になって然るべきところ。
でもこの時は重かった。例え義理チョコだとしても。
ユウは俺の言葉に照れたように笑う。
「せんせ、きょうもありがとう」
「うん」
いつもなら手を振って帰るのにそれ以上は何も答えずに玄関を出てしまったのを思い出す。
224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:35:37.75 ID:UcPsgcP/0
彼女居るのにバレンタイン貰ったことないとか…
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:33:40.44 ID:4QDc0c6v0
家に帰って中身を見た。
『リンツには負けるけれど・・』と小さなメモが。
確かにw
すこし苦かった。でもおいしい。甘くなくていい。
しかし何故か心は晴れない。
考えても無駄だとその日は眠りについた。
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:36:14.54 ID:4QDc0c6v0
俺は次の日曜から家庭教師のバイトを休むようになった。
『転職先を見つけるため忙しくなる』とユウには言った。
ユウに会うことが出来なかった。気持ち的に。
事実、仕事先を見つける動きもみせていた。
そろそろ貯金もやばい・・。
しかしそうはいってもやっぱり探すだけで応募しようとはしなかった家で引きこもることが多くなった。
相も変わらず付き合っていた彼女とは数回会うだけ。
会ってもお互いの笑顔も減った。
性欲なんてのも彼女に対してわかず飯を食っては帰っていくだけ。
「仕事は順調?」といわれても「まぁ」と答えるだけ。
そんな感じでgdgdと過ごして年度も変わり桜も散った五月。
ユウがちょっと時間を作ってくれとメールで寄越してきた。
俺は渋々承諾した。
駅近くの喫茶店で待ち合わせをした。
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:40:34.45 ID:4QDc0c6v0
「せんせ」
ユウはいつも俺より早く到着している。
「どうしたの?」
「しんろのことてそうたんがあるの」
ユウがそう言うと近くに座っていた他の客が数名俺達の方を見るのが分かった。
「だいがくに、すすむのか?」
「よねんせいはむり」
「どうして?」
「はやくしゅうしょくしておかあさんをらくに」
就職・・。痛い響きだった。
それ以上に気になったのが周りの視線。
構わず続けた。
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:41:16.48 ID:4QDc0c6v0
「たんき?」
ユウは頷く。
「どんなしごとに、つきたい?」
「えいご」
「えいご?」
「かいがいえほんのほんやくかに・・」
俺はユウの話を最後まで聞かずに立ち上がった。
俺の正面の席のカップルがコソコソとこちらを見ながら話していたのだ。
驚くユウの手を取りカップルに向かっていった。
「見てんじゃねーよ!バカップル!!」
俺は振り返らずに店を後にした。
むかつく。
心底腹がたった。
ユウは見世物じゃない。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/04(木) 16:42:21.28 ID:4QDc0c6v0
「せんせ?」
「おれのいえではなそう」
その店は俺の家の傍であったから。下心なんかで呼んだわけじゃないぞw
俺は怒りから何も話さずにずんずん突き進む。
ユウの腕を掴んでいるのも忘れて。
気づいたのはユウの手が上に上に移動して俺の手を握り締めたからだ。
小さくて柔らかい手が俺の手を包んだ。
しかし思わず振り払ってしまった・・。
「いや、その・・」
俺はてんぱった・・、さすがに今の態度はどうかしている・・。
「へへ」
ユウが恥ずかしそうに、ちょっと切なそうに笑った。
今でもあの日のことは謝ってない、本当に悪かったと思う。
恋愛系の人気記事
幼なじみが春から大阪の大学に行くらしい
ずっと小さい頃から一緒にいた幼馴染み(♀)が1ヶ月後に大阪の大学に行ってしまうと情報を得た>>1(♂)。高校にはいってからあまり会わなくなり、このままだと成人式まで会えないのでは…と感じて思いで作りのために行動をするためスレを立てて安価から始める。そして……感動青春物語です。
バス停で泣き出した女の子を好きになった
アメリカ人の友達ができた結果wwwww
アメリカに留学した>>1、そこで彼が出会った国籍の違う友人達。そんな中、>>1はとあるアメリカ人と仲良くなり…?家族愛に溢れる大長編アットホームストーリー、オススメです!
ガチでエロゲっぽい状況になった。
この物語は>>1の元に親戚の女の子が家に訪ねてくるシーンから始まる、sneg?女の子慣れしていない>>1は住民のヌクモリティを受け実況プレイをして各所でフラグ回収しつつ複数ルートも発見しながら着々と進んでいく。弟が仕掛けるバッドエンド回避して無事トゥルーエンドへ辿り着けるか…
幼なじみとセクロスしたいんだが
1◆2XbomQws8Iと相手のMさんは近所の幼馴染の高校生。学校も一緒らしい。毎日Mさんに安価メールを送ってる割には保守気味。1はセクロスだけできれば良いという。しかし、体だけの関係を求める事が許さない良心派VIPPERが1とMさんを付き合わせようと作戦を考え中。1とVIPPERの攻防にご期待あれ。
これから彼女つくるwwwww
リア充古田こと>>1が思い付いた電話帳の女の子全員に告白をすれば彼女ができる理論。終始ハイテンション、時に賢者モードで鬼畜安価にも苦境にも負けず理論の証明に励む物語。第二の古田をあなたが是非。
俺のしょうもない思い出を話そうと思う。誰か聞いて
30近くのおっさんの俺の前に現れた超絶かわいい少女しかしそれは俺と同じで曰く付き物件だった。だがその子に恋をしてしまった中二オタ霊能者の運命は…笑いあり涙ありラップ音ありの最恐恋愛コメディ!
近所の女子高生がギター教えてくれとたずねてきた
1人暮らしの男の部屋に、近所の女子高生が母親とたずねて来た。どうやらその女子高生、ギタリストの男にギターを習いたいらしい。ひょんなことから女子高生にギターを教える事になったお話です。
新入社員から寝ぼけたメール来た
新入社員の女の子から>>1に海の日何してました?私は海に行ってました!みたいなメールが来た。しかし海の日は会社が休みではなかった。新入社員の同期にいじめられてるのかな?と思いスレを立てた>>1。なかなかキャラの濃いメンバー達で、楽しく切なく最後は悲しい話もある物語です。
コンビニくんとヤンキーちゃん
ヘタレな報告者が爺ちゃんとの約束を守った時、その行動をちゃんと見ていた女性が現れました。報告者に幸あれ!