少女「君は爆弾に恋をした」
Part1
1 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:13:56.47 ID:Hlak1yFAO
金木犀の強い香りがようやく静まる頃
肌に染みる冷たい風が吹き始める、そんな季節
小学生くらいの子供達が風船を奪い合って僕らの高校のフェンスの外を走り回っている
眺めていると女の子がうっかり風船から手を離した
ヘリウムの風船は気圧に押され空へと舞い上がり
僕の傍らにいたはずの小さな君は
三・五メートルのフェンスの上に立ち、その風船を捕まえていたーー
2 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:16:56.87 ID:Hlak1yFAO
ーー朝ーー
二学期も始まったばかりだと言うのに僕にはやる気が無い
今日も登校時間ギリギリに目を覚ました
どうせグズな自分は遅刻する運命が決まっているのだ
飢えを抑えるために無理矢理口に詰め込んだのはスクランブルエッグ
歯を磨いたら運動が苦手でも走り出さなければならない
間に合わない
漫画なら同じく食パンをかじりながら走る少女とぶつかるようなシチュエーションもあるが
僕は良くも悪くも何事もなくホームルームの時間までに自分の席に辿り着いた
机に汗塗れで突っ伏していると中学からの友達の女達が賑やかに何かの話をしている
話の節々から、転校生が来るという事だけ分かった
僕の数少ない男の友達は女の子が来ると騒いでいるが
どうして自分と縁がないと決まっている女子の事で騒いでいるのだろう、などと酷い事をぼんやり思う
いや、友達がモテないのはこの際どうでもいい
問題は空いてる席が何故か自分の右隣に有ることだ
男「女の子か……」
頭の隅でまだ夢を見ているような感覚がある
だからか、少し漫画のような甘い展開に期待してしまっている
しかし僕も小柄で、友達と同じくモテるタイプではない
3 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:19:05.84 ID:Hlak1yFAO
男「眠い……」
どうせ何も有るわけはない
今は授業が始まる前にどうにかしてこの眠気を処理しておきたかった
しかし、担任の先生と共に入ってきた少女が、その悩みを晴らしてくれた
担任「じゃ、自己紹介して」
先生に促され、少女がトコトコと前に出る
少女「少女と言う。 よろしくお願いする」
言葉遣いこそ妙だが、真っ白なワンピースを纏う彼女は、一足早く舞い降りた雪の妖精のように可愛かった
一気に目が覚めるほどに
教室全体がざわざわと騒がしい
ゆっくりと歩く小さな彼女が何かくすぐったいような雰囲気を放つ
席を縫って彼女が自分の隣まで来た
担任「彼女はまだ制服が来てないので今日は私服だが、いじめないようにな〜」
担任「教科書もまだだから……え〜と、男が見せてやれ」
男「え、はい」
なんだろう
自分は何か悪いことをしたか
いや、何か良いことをしたか
雪の妖精は自分の席に着いてこちらをじっと見ている
男「よ、よろしく」
少女「うん、はい、私もよろしくお願いする」
やっぱり言葉遣いはおかしい
4 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:21:26.06 ID:Hlak1yFAO
しかし可愛い
大きな瞳に白い肌、サラサラの銀髪を片方束ねている
一時間目、彼女が自分の席から体を乗り出すように僕の教科書を覗き込む
女子と席をくっつけていると言うだけで何か悪いことをしている気がする
クラス中の男子に睨まれているような気もするが、自分で決めた事じゃないし
どうしようもない
僕は彼女の甘い香りにドキドキ
触れる度にドキドキ
男(おかしくなりそう)
こんな幸運は何か悪いことの前触れだ
既にクラス中の男子に恨みを買っていてもおかしくない
僕がそっと彼女の顔を見ると、彼女はにっこり笑う
電撃が走る
……やがて休み時間になった
女「ねーねー、少女ちゃんてどこから来たの?」
少女「瀬戸内の島」
少女「……内緒にしていて欲しい」
女「?」
男「?」
女子が彼女を質問責めしているのだが、所々おかしな答えが返ってくる
好きな音楽は何だと聞けば、今まで聞いたことが無い、と言い
趣味は何だと聞けば畳の目を数えることだと言い
好きな物は何かと聞けば核ミサイルと言う
極めつけに
少女「私にあまり近づかない方が良い。 爆発する」
5 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:24:02.17 ID:Hlak1yFAO
不思議ちゃんと言う奴だろうか
少女の話を聞いていて、女は突然笑い出した
女「あっはっは、可愛い!」
女「ね、友達になってよ!」
少女「……友達?」
少女「私のような危険物が恐ろしくないなら、構わない」
やっぱりおかしい
まるで自分は爆弾だと言わんばかりだ
いずれその言動の意味が解るとしても、今は奇異でしかなかった
女「んで男」
男「はい?」
何故か女が突然こちらに振ってくる
女「放課後彼女と出掛けるから男も付き合うように」
……強引だ
昔からこの女はこういう所があった
何か決めると周りの迷惑を考えずに地球の裏側にすら突っ走っていきかねない
クラスの男達の冷たく痛い視線が更に強く突き刺さってくる
貴様は美少女の隣の席と言う幸運だけでは飽きたらず、初デートまでやるつもりか、と
全く全て自分の責任ではない!と教壇に立って叫びたかった
そんな視線を気にもかけず、その後も彼女は僕に肩がぶつかるほど近付いて教科書を覗き込む
サラサラな長い髪が僕の肩に触れる
彼女の可愛さとクラス中の視線の痛さに、一日中気が気では無かった
授業の内容もまるで頭に入らないで、一日が終わる
6 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:26:05.60 ID:Hlak1yFAO
いや、まだ終わりではなかった
女「ほら、行くよ、男、少女ちゃんも」
少女「分かった」
男「し、仕方ないな……」
女の行動は嬉しいが、困る
友「俺も一緒に行っちゃ駄目?」
女「魂だけなら着いてきて良いよ」
友「よっしゃ、幽体離脱、っておい!」
女と友のショートコントに、少女がくすくすと笑う
その場にいた全員がその可愛さに硬直したのが分かった
女友「私も行きた〜い」
女「良いね、いこいこ!」
女友「どこ行く〜?」
女「カラオケ……は歌を知らないらしいから……ゲーセンかな?」
女「仕方ない、友もボディーガードで連れて行くか」
友「いやっほう!」
結局五人でゲームセンターへ向かう事になったらしい
女の決めるまま、僕たちは遊びに行く
結論から言えば、彼女は強かった
強いなんてものでは無かった
ゲームはほとんどパーフェクト
反射神経が人間のように思えなかった
そして
柄の悪い不良が運の悪い友に絡んでいた時
不良A「おうおう、てめえどうしてくれんだよ!」
不良B「あーあ、こりゃ骨が折れてるな」
古臭い恐喝を始めた不良たちに少女が近付いて行く
7 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:28:07.59 ID:Hlak1yFAO
何を思ったか、少女はいきなり不良の手を握る
少女「私は生物学にそこそこ詳しいつもりだが、これは折れていない」
不良A「な、なんだてめぇ……」
不良B「可愛いじゃねーか、お前が俺達の相手してくれんの?」
少女「相手?」
少女は突然不良の腕をその肩の後ろに回して、締め上げる
少女「女と喧嘩したがる男には初めてあったが、分かった」
少女はその場でゲームで見るキャラクターのような動きで不良二人をボコボコに打ちのめした
女友「つ、つよ〜」
女「普通じゃないよ……あの子」
尚も不良に追い討ちをかけんとする少女を、僕と女は必死に止めた
少女「喧嘩を売られたようなので買った。 喧嘩を売っていいのは死ぬ覚悟が有る者だけだ」
女「今時そんなサムライいないよ!?」
男「も、もうそこまでにしてやりなよ!」
女友と友は大分引いている
しかし、すぐに友は持ち前のスケベ心……不屈のスピリットで立ち直った
友「あ、あの、助けてくれてサンキュな!」
少女「怪我はないか?」
男「……なにこの男前……」
友「キュン……」
少女「……」
少女「私が喧嘩に強いことも、内緒にして欲しい」
8 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:30:04.89 ID:Hlak1yFAO
女「?」
女「少女ちゃんってたまに不思議な事言うよね」
少女「?」
少女「そうだろうか?」
女友「今のって何? なんか格闘技やってたの?」
少女「何も」
友「怪力で取り押さえたようにも見えたけど……」
男「き、気のせいだろ」
女「こんなに小さくて細いのに……」
少女「私の基礎運動力とは関係ないが爆発時の最大出力は百テラジュールらしい」
女「??」
少女「長崎型原爆より少し強い程度で大したことはないが」
女友「???」
友「それじゃまるで人間じゃないみたいじゃね?」
男「また不思議な冗談言うなあ……」
女「あ、そっか、冗談か」
少女「……」
少女「冗談だ」
女友「あははっ、面白〜い!」
女「ほんと不思議ちゃんなんだから」
少女「すまないな」
その時、彼女が落ち込んだように目を伏せたのを、僕は見逃さなかった
彼女はその後もそんな調子で、だんだんと友達やファンを増やしていく
僕たちは親友になり、彼女と放課後、良く出掛けた
そんなある日、女がいつものように突然言う
女「男、少女ちゃんと付き合えば?」
男「はあっ!?」
女友「あ、お似合いかも〜」
9 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:31:48.80 ID:Hlak1yFAO
そんなハズがない
自分のような万年遅刻ぎりぎりのチビな駄目男が、妖精のような彼女と付き合って良いはずがないんだ
いや、彼女が来てから遅刻は無くなったけど……
少女「男君が良ければ」
恥じらいもせず、彼女は言い放った
僕はそんな彼女たちの勢いに逆らえなかった
男「よ、良ければも何も……いいの?」
少女「男君が良ければ、別に恋愛は禁止されてない」
少女「と、言うか博士も推奨してくれた」
女友「博士?」
少女「お母さんの事だ」
女「あはは、出たね少女ちゃんジョーク」
少女「わはは」
友「ストップスト〜ップ!」
友「少女ちゃんと付き合う権利は全ての男子生徒に有るはず!」
友の宣言に教室中の男子と、何故か眼鏡の女子が賛同して、拍手が起こる
眼鏡「女子にもあるはずだ!」
友「いや、それはねーよ!」
女「そっか、私の彼女にしよっか」
男「待て待て……」
少女「私は男君がいい」
彼女の宣言に、一瞬クラスが真っ暗になったように見えた
その日は一日針の筵でしたよっ
10 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:33:36.43 ID:Hlak1yFAO
ある日の放課後、彼女と僕たちはカラオケに出掛けた
女が彼女にCDやプレイヤーを貸して聞かせていたらしい
彼女は渋々ではあったが、参加
結果から言えば、すごい音痴だった
友「声はすげー可愛いのに」
女「音程もリズムも酷い……」
男「ゲームはあんなに上手いのに……」
少女「……」
彼女はすごく恥ずかしそうに俯く
可愛い
良いんだろうか、こんな可愛い子を彼女にして
女「じゃあ彼女送ってあげなよ」
家路についてから、女が言い出す
はっきり言って自分より彼女の方が喧嘩強いんだけど
でも女の子である事は間違いない
男「分かった」
正直、彼女の家に興味があった
女達と別れ、彼女と二人きりで歩く
少女「女がな、恋バナが出来たら皆ともっと仲良くできると言ったんだ」
少女「あ、あ、言われたからじゃない」
少女「その、君に興味があったんだ」
男「僕に?」
少女「そうだ、聞く所によると自分を僕と呼ぶ男君はレアキャラだと……」
男「ぶっ」
僕は思わず飲んでいた缶コーヒーを吹いた
少女「あ、あ、それだけじゃないんだ、その」
少女「君はいつも私に優しいから……」
11 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:35:41.01 ID:Hlak1yFAO
こんな妖精のような彼女に優しくしない男なんてこの前彼女がボコボコにした不良くらいのものだろう
でも彼女は続ける
少女「いつも教科書を見せてくれて、ありがとう」
少女「いつも遊んでくれてありがとう」
少女「こんな変な私を笑わないでくれて」
少女「ありがとう」
男「……どういたしまして」
思わず顔が真っ赤になるのを感じた
二人で公園に立ち寄ると、子供たちがボール遊びをしている
僕は何となく聞いてみた
男「君は子供好き?」
少女「好きだよ、可愛いな」
男「そっか」
そんな話をしてどうしようと言うのか
いまいち恋人同士になりきれない二人の距離を縮めたかったのかも知れない
しかしこの後、彼女との距離が少し遠くなるような出来事があった
それは子供たちがボールを公衆トイレの屋根に乗せてしまった時
少女「あ」
男「あーあ、あれは取れないな」
僕が頭を掻いていると、彼女が走り出す
そして、トイレの屋根に飛び乗る
唖然とした
人間の跳躍力じゃ無い……
やがて天井からボールがいくつか落ちてくる
彼女が顔を出した
少女「君たちのボールはあった?」
金木犀の強い香りがようやく静まる頃
肌に染みる冷たい風が吹き始める、そんな季節
小学生くらいの子供達が風船を奪い合って僕らの高校のフェンスの外を走り回っている
眺めていると女の子がうっかり風船から手を離した
ヘリウムの風船は気圧に押され空へと舞い上がり
僕の傍らにいたはずの小さな君は
三・五メートルのフェンスの上に立ち、その風船を捕まえていたーー
2 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:16:56.87 ID:Hlak1yFAO
ーー朝ーー
二学期も始まったばかりだと言うのに僕にはやる気が無い
今日も登校時間ギリギリに目を覚ました
どうせグズな自分は遅刻する運命が決まっているのだ
飢えを抑えるために無理矢理口に詰め込んだのはスクランブルエッグ
歯を磨いたら運動が苦手でも走り出さなければならない
間に合わない
漫画なら同じく食パンをかじりながら走る少女とぶつかるようなシチュエーションもあるが
僕は良くも悪くも何事もなくホームルームの時間までに自分の席に辿り着いた
机に汗塗れで突っ伏していると中学からの友達の女達が賑やかに何かの話をしている
話の節々から、転校生が来るという事だけ分かった
僕の数少ない男の友達は女の子が来ると騒いでいるが
どうして自分と縁がないと決まっている女子の事で騒いでいるのだろう、などと酷い事をぼんやり思う
いや、友達がモテないのはこの際どうでもいい
問題は空いてる席が何故か自分の右隣に有ることだ
男「女の子か……」
頭の隅でまだ夢を見ているような感覚がある
だからか、少し漫画のような甘い展開に期待してしまっている
しかし僕も小柄で、友達と同じくモテるタイプではない
3 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:19:05.84 ID:Hlak1yFAO
男「眠い……」
どうせ何も有るわけはない
今は授業が始まる前にどうにかしてこの眠気を処理しておきたかった
しかし、担任の先生と共に入ってきた少女が、その悩みを晴らしてくれた
担任「じゃ、自己紹介して」
先生に促され、少女がトコトコと前に出る
少女「少女と言う。 よろしくお願いする」
言葉遣いこそ妙だが、真っ白なワンピースを纏う彼女は、一足早く舞い降りた雪の妖精のように可愛かった
一気に目が覚めるほどに
教室全体がざわざわと騒がしい
ゆっくりと歩く小さな彼女が何かくすぐったいような雰囲気を放つ
席を縫って彼女が自分の隣まで来た
担任「彼女はまだ制服が来てないので今日は私服だが、いじめないようにな〜」
担任「教科書もまだだから……え〜と、男が見せてやれ」
男「え、はい」
なんだろう
自分は何か悪いことをしたか
いや、何か良いことをしたか
雪の妖精は自分の席に着いてこちらをじっと見ている
男「よ、よろしく」
少女「うん、はい、私もよろしくお願いする」
やっぱり言葉遣いはおかしい
4 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:21:26.06 ID:Hlak1yFAO
しかし可愛い
大きな瞳に白い肌、サラサラの銀髪を片方束ねている
一時間目、彼女が自分の席から体を乗り出すように僕の教科書を覗き込む
女子と席をくっつけていると言うだけで何か悪いことをしている気がする
クラス中の男子に睨まれているような気もするが、自分で決めた事じゃないし
どうしようもない
僕は彼女の甘い香りにドキドキ
触れる度にドキドキ
男(おかしくなりそう)
こんな幸運は何か悪いことの前触れだ
既にクラス中の男子に恨みを買っていてもおかしくない
僕がそっと彼女の顔を見ると、彼女はにっこり笑う
電撃が走る
……やがて休み時間になった
女「ねーねー、少女ちゃんてどこから来たの?」
少女「瀬戸内の島」
少女「……内緒にしていて欲しい」
女「?」
男「?」
女子が彼女を質問責めしているのだが、所々おかしな答えが返ってくる
好きな音楽は何だと聞けば、今まで聞いたことが無い、と言い
趣味は何だと聞けば畳の目を数えることだと言い
好きな物は何かと聞けば核ミサイルと言う
極めつけに
少女「私にあまり近づかない方が良い。 爆発する」
5 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:24:02.17 ID:Hlak1yFAO
不思議ちゃんと言う奴だろうか
少女の話を聞いていて、女は突然笑い出した
女「あっはっは、可愛い!」
女「ね、友達になってよ!」
少女「……友達?」
少女「私のような危険物が恐ろしくないなら、構わない」
やっぱりおかしい
まるで自分は爆弾だと言わんばかりだ
いずれその言動の意味が解るとしても、今は奇異でしかなかった
女「んで男」
男「はい?」
何故か女が突然こちらに振ってくる
女「放課後彼女と出掛けるから男も付き合うように」
……強引だ
昔からこの女はこういう所があった
何か決めると周りの迷惑を考えずに地球の裏側にすら突っ走っていきかねない
クラスの男達の冷たく痛い視線が更に強く突き刺さってくる
貴様は美少女の隣の席と言う幸運だけでは飽きたらず、初デートまでやるつもりか、と
全く全て自分の責任ではない!と教壇に立って叫びたかった
そんな視線を気にもかけず、その後も彼女は僕に肩がぶつかるほど近付いて教科書を覗き込む
サラサラな長い髪が僕の肩に触れる
彼女の可愛さとクラス中の視線の痛さに、一日中気が気では無かった
授業の内容もまるで頭に入らないで、一日が終わる
いや、まだ終わりではなかった
女「ほら、行くよ、男、少女ちゃんも」
少女「分かった」
男「し、仕方ないな……」
女の行動は嬉しいが、困る
友「俺も一緒に行っちゃ駄目?」
女「魂だけなら着いてきて良いよ」
友「よっしゃ、幽体離脱、っておい!」
女と友のショートコントに、少女がくすくすと笑う
その場にいた全員がその可愛さに硬直したのが分かった
女友「私も行きた〜い」
女「良いね、いこいこ!」
女友「どこ行く〜?」
女「カラオケ……は歌を知らないらしいから……ゲーセンかな?」
女「仕方ない、友もボディーガードで連れて行くか」
友「いやっほう!」
結局五人でゲームセンターへ向かう事になったらしい
女の決めるまま、僕たちは遊びに行く
結論から言えば、彼女は強かった
強いなんてものでは無かった
ゲームはほとんどパーフェクト
反射神経が人間のように思えなかった
そして
柄の悪い不良が運の悪い友に絡んでいた時
不良A「おうおう、てめえどうしてくれんだよ!」
不良B「あーあ、こりゃ骨が折れてるな」
古臭い恐喝を始めた不良たちに少女が近付いて行く
7 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:28:07.59 ID:Hlak1yFAO
何を思ったか、少女はいきなり不良の手を握る
少女「私は生物学にそこそこ詳しいつもりだが、これは折れていない」
不良A「な、なんだてめぇ……」
不良B「可愛いじゃねーか、お前が俺達の相手してくれんの?」
少女「相手?」
少女は突然不良の腕をその肩の後ろに回して、締め上げる
少女「女と喧嘩したがる男には初めてあったが、分かった」
少女はその場でゲームで見るキャラクターのような動きで不良二人をボコボコに打ちのめした
女友「つ、つよ〜」
女「普通じゃないよ……あの子」
尚も不良に追い討ちをかけんとする少女を、僕と女は必死に止めた
少女「喧嘩を売られたようなので買った。 喧嘩を売っていいのは死ぬ覚悟が有る者だけだ」
女「今時そんなサムライいないよ!?」
男「も、もうそこまでにしてやりなよ!」
女友と友は大分引いている
しかし、すぐに友は持ち前のスケベ心……不屈のスピリットで立ち直った
友「あ、あの、助けてくれてサンキュな!」
少女「怪我はないか?」
男「……なにこの男前……」
友「キュン……」
少女「……」
少女「私が喧嘩に強いことも、内緒にして欲しい」
8 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:30:04.89 ID:Hlak1yFAO
女「?」
女「少女ちゃんってたまに不思議な事言うよね」
少女「?」
少女「そうだろうか?」
女友「今のって何? なんか格闘技やってたの?」
少女「何も」
友「怪力で取り押さえたようにも見えたけど……」
男「き、気のせいだろ」
女「こんなに小さくて細いのに……」
少女「私の基礎運動力とは関係ないが爆発時の最大出力は百テラジュールらしい」
女「??」
少女「長崎型原爆より少し強い程度で大したことはないが」
女友「???」
友「それじゃまるで人間じゃないみたいじゃね?」
男「また不思議な冗談言うなあ……」
女「あ、そっか、冗談か」
少女「……」
少女「冗談だ」
女友「あははっ、面白〜い!」
女「ほんと不思議ちゃんなんだから」
少女「すまないな」
その時、彼女が落ち込んだように目を伏せたのを、僕は見逃さなかった
彼女はその後もそんな調子で、だんだんと友達やファンを増やしていく
僕たちは親友になり、彼女と放課後、良く出掛けた
そんなある日、女がいつものように突然言う
女「男、少女ちゃんと付き合えば?」
男「はあっ!?」
女友「あ、お似合いかも〜」
9 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:31:48.80 ID:Hlak1yFAO
そんなハズがない
自分のような万年遅刻ぎりぎりのチビな駄目男が、妖精のような彼女と付き合って良いはずがないんだ
いや、彼女が来てから遅刻は無くなったけど……
少女「男君が良ければ」
恥じらいもせず、彼女は言い放った
僕はそんな彼女たちの勢いに逆らえなかった
男「よ、良ければも何も……いいの?」
少女「男君が良ければ、別に恋愛は禁止されてない」
少女「と、言うか博士も推奨してくれた」
女友「博士?」
少女「お母さんの事だ」
女「あはは、出たね少女ちゃんジョーク」
少女「わはは」
友「ストップスト〜ップ!」
友「少女ちゃんと付き合う権利は全ての男子生徒に有るはず!」
友の宣言に教室中の男子と、何故か眼鏡の女子が賛同して、拍手が起こる
眼鏡「女子にもあるはずだ!」
友「いや、それはねーよ!」
女「そっか、私の彼女にしよっか」
男「待て待て……」
少女「私は男君がいい」
彼女の宣言に、一瞬クラスが真っ暗になったように見えた
その日は一日針の筵でしたよっ
10 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:33:36.43 ID:Hlak1yFAO
ある日の放課後、彼女と僕たちはカラオケに出掛けた
女が彼女にCDやプレイヤーを貸して聞かせていたらしい
彼女は渋々ではあったが、参加
結果から言えば、すごい音痴だった
友「声はすげー可愛いのに」
女「音程もリズムも酷い……」
男「ゲームはあんなに上手いのに……」
少女「……」
彼女はすごく恥ずかしそうに俯く
可愛い
良いんだろうか、こんな可愛い子を彼女にして
女「じゃあ彼女送ってあげなよ」
家路についてから、女が言い出す
はっきり言って自分より彼女の方が喧嘩強いんだけど
でも女の子である事は間違いない
男「分かった」
正直、彼女の家に興味があった
女達と別れ、彼女と二人きりで歩く
少女「女がな、恋バナが出来たら皆ともっと仲良くできると言ったんだ」
少女「あ、あ、言われたからじゃない」
少女「その、君に興味があったんだ」
男「僕に?」
少女「そうだ、聞く所によると自分を僕と呼ぶ男君はレアキャラだと……」
男「ぶっ」
僕は思わず飲んでいた缶コーヒーを吹いた
少女「あ、あ、それだけじゃないんだ、その」
少女「君はいつも私に優しいから……」
11 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/10/25(土) 21:35:41.01 ID:Hlak1yFAO
こんな妖精のような彼女に優しくしない男なんてこの前彼女がボコボコにした不良くらいのものだろう
でも彼女は続ける
少女「いつも教科書を見せてくれて、ありがとう」
少女「いつも遊んでくれてありがとう」
少女「こんな変な私を笑わないでくれて」
少女「ありがとう」
男「……どういたしまして」
思わず顔が真っ赤になるのを感じた
二人で公園に立ち寄ると、子供たちがボール遊びをしている
僕は何となく聞いてみた
男「君は子供好き?」
少女「好きだよ、可愛いな」
男「そっか」
そんな話をしてどうしようと言うのか
いまいち恋人同士になりきれない二人の距離を縮めたかったのかも知れない
しかしこの後、彼女との距離が少し遠くなるような出来事があった
それは子供たちがボールを公衆トイレの屋根に乗せてしまった時
少女「あ」
男「あーあ、あれは取れないな」
僕が頭を掻いていると、彼女が走り出す
そして、トイレの屋根に飛び乗る
唖然とした
人間の跳躍力じゃ無い……
やがて天井からボールがいくつか落ちてくる
彼女が顔を出した
少女「君たちのボールはあった?」