料理人と薬学士
Part14
175 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:02:10.41 ID:Fga/dJyAO
南港「大戦の時じゃって有無を言わさなかったのじゃ」
薬学士「すごくワガママな子供みたいだね」
料理人「時々きついな薬学士は」
南港「まあ誰だって女神様なんて者がいたら会って願いを聞いてもらいたいじゃろ?」
南港「聞く耳を初めから持たないと分かっていたら無闇に会いたがる者は居なくなる」
南港「そういう腹積もりなんじゃないかのう?」
南港「儂が南港にいた時も散々無理難題な願い事してくる奴がおってな、逆恨みされたことも一回や二回じゃないのじゃ」
料理人「酷いなそれは」
南港「大抵は儂のまわりの者や南港の人間の王が止めてくれたがの」
南港「じゃから幸せじゃった」
南港「もし大楠のように魔王狩りの進軍経路に国があったら、儂も逃げずに戦ったがの」
南港「儂の場合逃げるのが一番じゃ」
南港「西浜や東磯は居るが、高塔を残して西浜まで進軍しようものなら補給線が持たんしの」
南港「儂一人でも南港の戦力が少なければ危険を犯してまで南港に攻め込むメリットも無くなるしの」
南港「ただ魔王を狩りたいなら聖都から南に行けばわんさとおるし」
学者「高塔にも隠れ住んでいる魔王様が10人くらいいるとか」
176 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:04:11.37 ID:Fga/dJyAO
南港「隠れ住んでいる者は知らんのう」
南港「なんかの、この真っ赤な見た目を隠す魔法も有るらしいのじゃ」
南港「それでも不死だからばれるし、知り合いが出来る前に引っ越ししまくってるんじゃろうな」
学者「なんだか哀れでござんす」
南港「たぶん儂みたいに人間と深く関わりたがる寂しがりじゃあ、ないんじゃな」
料理人「見た目が変わらないのもメリットは有りそうだな」
南港「まあ儂は敵を威嚇出来るし真っ赤でいいがのう」
薬学士「その真っ赤な見た目はやっぱり魔晶石の作用なの?」
南港「と、言うか魔王化すると肉体が標準的な物質から魔力構成物に置き換わって行くのじゃ」
南港「まあ極端な事を言えば儂等は精霊や魔法そのもの、破壊神や魔物などに近い存在なのじゃ」
学者「そのために魔王様の魔晶石が桁違いな力を持つんですかな」
南港「うむ、よく分からんが魔晶石と言うのは記憶媒体とか呼ばれる能力を持っておってな」
薬学士「それならわかる、半精霊化して魔導具にする時は、魔法を記憶させるって言うし」
南港「そうじゃのう、しかし人間を丸ごと記憶出来るとかすごくないか?」
南港「改めてママはすごい魔王だったんじゃな」
177 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:06:31.48 ID:Fga/dJyAO
南港「凄い作り物と言えば、魔力からして人間の作り物だったらしいのう」
南港「まあ昔の失われた技術、禁術となった多くの技は、それはすごかったんじゃろうなあ」
南港「科学とか錬金学と言うらしいが、もう殆ど内容が分からん」
学者「女神様……七魔女様がそういった禁術を管理し封印されているらしいですしなあ」
南港「詳しいことは全く分からんのじゃ」
料理人「それでさ、魔晶石で封印できる破壊神と魔王で封印できる破壊神はやっぱり規模が違うの?」
南港「うむ、儂等の全身の大部分が魔力物質化しておるわけじゃからな」
南港「それは魔物の肉が毒になるのとおんなじじゃが」
南港「それに魔王の魔晶石の場合は人間丸ごと記録して再現するんじゃからそりゃデッカいか、濃い石使っとるんじゃないかのう?」
薬学士「人工精製の魔晶石でそんな規模の物を作れるのかなあ?」
南港「お前秋風の弟子なのに何にも知らんのじゃなあ、儂も知らんけど」
薬学士「魔王化技術については教えてくれないからね、それで一回破門されたしね……」
料理人「そういえばさ、秋風が出て行く前の日にどんな話したの?」
178 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:08:22.99 ID:Fga/dJyAO
薬学士「料理人ちゃんが魔王になりたいと言い出したら止めますか?って聞いたら」
薬学士「いや、できるもんなら勝手にすれば?って言った」
料理人「お互いにストレートに言ったなあ……」
南港「儂も全く分からんもんな、秋風は魔王化手術を手伝ってたから知っとると思うんじゃけど」
薬学士「どうしても身内を魔王にはしたくないんだろうね……」
南港「彼奴は儂より寂しがりの癖に僻地にこもってた訳で、そりゃ寂しかったろうなあ」
南港「そんな思いを他人にさせたく無かったんじゃろ」
南港「その気の使い方が他人行儀で寂しいのが分からんのかのう?」
南港「なんつーか頭良い癖に頭悪いのじゃ」
薬学士「そういえば、どんな賢者でも自分の知らないことは知らない、それを知ってるのが賢者だ、とか威張ってた」
南港「無知の知か、昔から伝わる賢者の哲学じゃな」
薬学士「オリジナルですらなかったんだねえ」
料理人「薬学士ってたぶん無意識に毒吐いてるんだよね」
薬学士「えっ、えっ、ごめんなさい」
学者「そこは秋風さんに謝るべきですなあ」
薬学士「よく分かんないけどお師匠さまごめんなさい!」
料理人(可愛い)
179 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:10:10.80 ID:Fga/dJyAO
料理人「秋風に言ってやる文句は決まった」
南港「そうじゃな」
薬学士「早く文句言いに行かないとね!」
南港「戦争しとる中に行くのじゃ、十分に気をつけて行かんと」
料理人「そうか、そうだよな」
南港「人間と戦うことは少ないじゃろうけどな」
南港「魔王同士が大魔法撃ち合ってる中入っていったら死ぬしのう」
薬学士「戦争中なんだねえ……」
料理人「こっちには全く情報入ってこないよなあ」
南港「儂も聞くのは事後報告ばっかりじゃ、まあ戦争なんじゃから情報統制は当たり前なんじゃが」
学者「……拙者も聞くのはいつも数日遅れですし発言権も無きゃ軍事には全く関わらせてもらってないですだ」
南港「第三王女なんて一般人と変わらんからのう」
学者「学者だけにがっくし、や〜」
料理人「サクッと行っとく?」
学者「そのうち死んでしまいまっせ拙者」
180 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:12:28.66 ID:Fga/dJyAO
そして舞台は高塔中央区に移る
料理人たちが中央区に辿り着いた後、まず学者が王女に化けた
いや、王女として普通の格好をしただけだが、見たこともない綺麗なお姫様が現れた
学者「さあ、まずは城に参りましょう」
料理人「あんた誰?」
南港「こんな知り合い居たかのう?」
薬学士「化けたねえ」
狩人「綺麗な人だあ」
学者「……拙者も今までバレないように変装していたつもりでやすが酷いでやんす」
料理人「あ、ちゃんと学者だ」
学者「素顔見たことあるでやんしょう」
料理人「まあ冗談だけどね」
薬学士「凄く綺麗だから緊張するよね〜」
南港「儂らは旅装束の汚らしい格好しとるから余計にな」
狩人「うわあ……今更だけどすごく場違いな気がする……」
学者「気にしないでくだせえ、王様って言ってもパパさんは庶民派でやすから」
南港「高塔に来たのはいつ以来かのう?」
南港「三十年ぶりだったかの?」
学者「どっかに残ってるはずですから記録を見てみやしょう」
181 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:14:45.79 ID:Fga/dJyAO
学者「あと、当然でやすが拙者もパパさんの前でこんな喋り方はしやせんので」
学者「笑ったりしないでくださいね?」
料理人「……」
薬学士「……」
南港「ぎゃはっ」
狩人「くっくくっ、南港さん、笑わない、で……、くっ」
学者「……無理っぽいですね」
南港「久しぶりに腹を抱えて笑いたいからさっさと行くのじゃ」
学者「酷うござる……じゃなかった酷いでしっ……噛んだ」
南港「ぎゃははっ」
料理人「ぷっ、まあ、笑わないように気をつけようよ」
学者「では行きますよ、皆様」
南港「いざ、笑いの殿堂に!」
学者「そんな所には行きませんよ……」シクシク
…………
城につくと、先に報告を行っていた騎士が出迎える
知った顔があると落ち着くもので、料理人達は初めて入る城ではあったがあまり緊張はしなくて済んだ
高塔の王は、現在六十代であるが健勝で、雄々しい人物であった
まず学者一人が接見する
学者「ご無沙汰致しております、お父様」
高塔王「うむ、久しぶりだな、息災であったか?」
学者「はい、気を使って下さる方々が居られますので」
学者「お父様のご支援にも、本当に感謝致しております」
182 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:16:51.32 ID:Fga/dJyAO
高塔王「うむ、まあお前の兄や姉達にも、お前たち下の兄弟達は自由にさせて欲しい、と頼まれておる」
高塔王「お前の研究成果で得た魔晶石数十個、戦で使われるのはお前も不本意であろうが、助かっておるぞ」
学者「お父様やお兄様のお役に立てて幸いでございます」
学者「ところでお父様、今私の研究を大きく支えて下さっています、薬学士様、料理人様、狩人様、そして南港の魔王様がおいでになっております」
高塔王「……」
高塔王「なに、南港ちゃん来てんの?! 早く言ってよ!!」
学者「ファッ!?」
高塔王「南港ちゃ〜ん!」
高塔王は南港の名を聞くと席を蹴って走り出した
付近にいた側近たちも目を丸くしている
学者「そうか……魔王ほど長生きだとこういう関係があるんでやすなあ」
学者「パパさんが子供返りするとは相当仲良しだったんでござるかな?」
学者「これは見物でやす、拙者も参ろうか!」グヒッ
側近「……」
唖然として石化する側近たちを置いたまま、学者も走って出て行く
183 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:19:23.45 ID:Fga/dJyAO
高塔王は階段を駆け下り、フロアを見渡した
南港「ん、なにやら偉そうな爺さんが降りてきたのじゃ」
料理人「え、あれって……」
南港「なんか見たことあるのう」
料理人「……王様じゃないのか?」
南港「あ、悪ガキ王子じゃ、思い出したわ!」
高塔王「南港ちゃ〜ん!」ダキッ
騎士「」
料理人「……あれ、すっごいフレンドリーな王様だね?」
騎士「あんな王様見たことありません……」
騎士「あんな……あんな……」ククッ
薬学士「はっちゃけてるんだね」
狩人「なんだか一気に緊張が解けて疲れちゃった」
南港「お主前会った時もう結婚しとったじゃろ、奥方に言いつけるぞ?」
高塔王「勘弁してよ〜、いやあ、しかし三十年ぶり?」
南港「儂もそれくらいじゃと思ったが……しかし爺になったのう」
高塔王「南港ちゃんの方が年上じゃん」
南港「はあ、なんか来るんじゃ無かったかのう」
南港「しかし10歳くらいのお主と駆け回ってた頃が懐かしいのじゃ」
高塔王「あの頃はよく釣りに連れて行ってくれたよね」
南港「東磯がお主を気に入っておったからな」
高塔王「東磯くんは今も昔も僕らのガキ大将だからね」
184 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:21:44.42 ID:Fga/dJyAO
南港「ガキ大将のう……」
南港「当時既に百三十くらいだったはずじゃが……」
高塔王「……う〜ん、ジジ大将と言うべきか?」
南港「聞いたことないのじゃ」
学者「パパさん……お父様、皆様にお礼をお願いしやす……します」
高塔王「うぬ、お前も普通に喋っていいぞ!」
学者「そいつぁありがてえ、堅苦しいのはやっぱりしんどいでござる」
料理人「まわりが完全に置き去りになってるんだが」
狩人「突っ込み入れがたいですしね……」
薬学士「ちょっと気を使って欲しいかもね」
料理人「同意するよ」
高塔王「いやあ、いつも娘がお世話になっております」
高塔王「有り難う皆さん、今日はゆっくりとしていって下され」
南港「そう言えばもう王子じゃないんじゃな、今日は酒でも飲んで昔の話でもするのじゃ」
高塔王「うん、それもいいんだけど魔王様と息子たち戦争中だからね、ちょっとのんびり出来ないかも」
南港「迷惑じゃのう」
高塔王「全くだよ、南港ちゃんみたいな魔王ばっかりなら楽なのに、北終は本当にうざったいよ」
高塔王「まあ戦局は硬直、睨み合いになってるからすぐに出るようなことは無いと思うんだけどねえ」
185 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:23:51.27 ID:Fga/dJyAO
南港「儂等も秋風に会うために来たのじゃ、戦局が動く前に会いたいんじゃがのう」
高塔王「うん、それなら配下に案内させよう」
南港「とりあえず今日は一泊するのじゃ」
南港「料理人、ここの城の者と昼飯を作ってくれ」
料理人「ええっ、それは良いのか?」
学者「そんな堅苦しい物作らないでようがす、拙者もお願いしやすぜ」
高塔王「お前も酷い喋り方だな」
学者「今日はパパさんが10歳くらいの時の話を聞きまくりますぜ」
高塔王「うわ、それは恥ずかしいわ」
南港「おねしょが十二まで治らなかったとか?」
高塔王「勘弁してよ南港ちゃん……もう六十だよ……」
料理人「ここの料理長さんはどんなジャンルの料理作るんだろ?」
南港「まあいらぬお世話かも分からんが勉強になるじゃろ?」
料理人「いや、助かるよ、私のは酒場の大雑把な料理だから細やかな料理の技や良さを知っておきたいしね」
薬学士「いつも美味しいけどなあ」
料理人「有り難う」
狩人「僕らはどうしていたら良いんでしょうか?」
騎士「控えの間を用意しています、すぐにご案内致します」
186 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:26:57.11 ID:Fga/dJyAO
南港「儂は少し王と話しておるからの、また後での」
狩人「南港さんと料理人さんが居ないと寂しいですね」
学者「拙者が接しやす、拙者だけに」
料理人「城だから突っ込まないと思って好きにダジャレ言うんじゃないよ?」
学者「後が怖いので控えやす」
高塔王「じゃあ皆で控えの間で紅茶でも飲もう」
高塔王「爺や」
何時の間に居たのか黒ずくめの、爺と呼ばれた執事らしき高齢の男性が、全員を部屋へと案内する
執事「こちらに御座います」
執事の案内で、ひとまず全員で控えの間に移動する
学者「では、料理人さんの案内をお願いします」
執事「承りました」
執事「ではこちらにどうぞ」
南港「……そういや爺っていくつなのじゃ? なんか昔から爺だった気がするんじゃが」
執事「おお、南港様が仰っているのは父で御座います」
執事「私はまだ七十ですぞ」
南港「お、そうか、いつもちょろちょろ走り回る悪ガキ王子に振り回されとった使用人がおったわ!」
執事「左様でございます、いやあ懐かしいですなあ」
執事「では料理人様のご案内が有りますので、後程お話致しましょう」
南港「うむ、なんか楽しくなりそうじゃな」
187 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:30:10.40 ID:Fga/dJyAO
執事「料理長、こちら南港様付きの料理人様です」
執事「何品か作って頂きたいとの事ですのでご協力をお願いします」
その料理長と呼ばれた男には見覚えがあった
剣士「……ああ、あんたか」
料理人「……あら」
剣士「あのスープは旨かったよ」ニヤ
料理人「いや、なんかすみません」
料理人「学者の奴……わざと黙ってたな……」
料理人「しかしあれだけ見事に立ち回ってたから傭兵だと思ったんだが」
剣士「俺は本来忍だからな」
料理人「しのび……忍者?」
料理人「本当にいるんだ」
剣士「初めはそれで食えなかったから料理人をやってたら、あの執事さんに雇われてな、まああのオッサンは人使いが滅茶苦茶荒いんだよ」
剣士「戦えるとバレてからは料理は副料理長に任せっきりで忍として走り回ってた訳だ」
剣士「そして帰ってきたらまた料理長だろ?」
料理人「本当に人使い荒いなあ」
剣士「まあ忙しいのは嫌いじゃ無いし、気楽な国だしいいがね」
剣士「だが戦だ、俺も戦わんとな」
料理人「剣術も教わりたいなあ」
剣士「そりゃ止めとけ、包丁じゃ戦闘スタイルが違うだろ」
剣士「まず包丁で人を斬るなんて有り得ん」
188 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:31:53.16 ID:Fga/dJyAO
料理人「包丁そのものは媒体でしかないよ」
料理人「食材以外はこう、魔力の刃を作ってさ」
料理人「でも魔力の刃じゃ剣を受け止められないから難しいんだよね」
剣士「それは刀も同じだ、受け止めたら折れるからな」
料理人「そう言えば4人と立ち回る時も刀を合わせて無かったね」
料理人「やっぱり教えてよ」
剣士「まあ良いけど、その前に昼飯だ」
料理人「なんと言うか剣士さんにはことごとく負けてるなあ、魔法も使ってたよね」
剣士「いや、料理はあんたの料理の方が好きだが」
剣士「とりあえず前菜から作るぞ、あんたはいつも通り大皿料理なら大皿料理で良いからな?」
料理人「いいの?」
剣士「来賓が多ければそう言うスタイルでやることもあるからな」
剣士「さあ、やるぞ」
副料理長「分かりました、皆持ち場についてくれ」
料理人「よろしくお願いします」
料理人が大皿にいつも通りのサラダや野菜炒めなどを盛り付けると、すぐにメイドたちに運ばれていく
剣士「手際が見事だな、包丁使いも上手いじゃないか」
料理人「いやいや、それはお世辞でしょ」
剣士「いや、本心だ」
南港「大戦の時じゃって有無を言わさなかったのじゃ」
薬学士「すごくワガママな子供みたいだね」
料理人「時々きついな薬学士は」
南港「まあ誰だって女神様なんて者がいたら会って願いを聞いてもらいたいじゃろ?」
南港「聞く耳を初めから持たないと分かっていたら無闇に会いたがる者は居なくなる」
南港「そういう腹積もりなんじゃないかのう?」
南港「儂が南港にいた時も散々無理難題な願い事してくる奴がおってな、逆恨みされたことも一回や二回じゃないのじゃ」
料理人「酷いなそれは」
南港「大抵は儂のまわりの者や南港の人間の王が止めてくれたがの」
南港「じゃから幸せじゃった」
南港「もし大楠のように魔王狩りの進軍経路に国があったら、儂も逃げずに戦ったがの」
南港「儂の場合逃げるのが一番じゃ」
南港「西浜や東磯は居るが、高塔を残して西浜まで進軍しようものなら補給線が持たんしの」
南港「儂一人でも南港の戦力が少なければ危険を犯してまで南港に攻め込むメリットも無くなるしの」
南港「ただ魔王を狩りたいなら聖都から南に行けばわんさとおるし」
学者「高塔にも隠れ住んでいる魔王様が10人くらいいるとか」
176 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:04:11.37 ID:Fga/dJyAO
南港「隠れ住んでいる者は知らんのう」
南港「なんかの、この真っ赤な見た目を隠す魔法も有るらしいのじゃ」
南港「それでも不死だからばれるし、知り合いが出来る前に引っ越ししまくってるんじゃろうな」
学者「なんだか哀れでござんす」
南港「たぶん儂みたいに人間と深く関わりたがる寂しがりじゃあ、ないんじゃな」
料理人「見た目が変わらないのもメリットは有りそうだな」
南港「まあ儂は敵を威嚇出来るし真っ赤でいいがのう」
薬学士「その真っ赤な見た目はやっぱり魔晶石の作用なの?」
南港「と、言うか魔王化すると肉体が標準的な物質から魔力構成物に置き換わって行くのじゃ」
南港「まあ極端な事を言えば儂等は精霊や魔法そのもの、破壊神や魔物などに近い存在なのじゃ」
学者「そのために魔王様の魔晶石が桁違いな力を持つんですかな」
南港「うむ、よく分からんが魔晶石と言うのは記憶媒体とか呼ばれる能力を持っておってな」
薬学士「それならわかる、半精霊化して魔導具にする時は、魔法を記憶させるって言うし」
南港「そうじゃのう、しかし人間を丸ごと記憶出来るとかすごくないか?」
南港「改めてママはすごい魔王だったんじゃな」
177 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:06:31.48 ID:Fga/dJyAO
南港「凄い作り物と言えば、魔力からして人間の作り物だったらしいのう」
南港「まあ昔の失われた技術、禁術となった多くの技は、それはすごかったんじゃろうなあ」
南港「科学とか錬金学と言うらしいが、もう殆ど内容が分からん」
学者「女神様……七魔女様がそういった禁術を管理し封印されているらしいですしなあ」
南港「詳しいことは全く分からんのじゃ」
料理人「それでさ、魔晶石で封印できる破壊神と魔王で封印できる破壊神はやっぱり規模が違うの?」
南港「うむ、儂等の全身の大部分が魔力物質化しておるわけじゃからな」
南港「それは魔物の肉が毒になるのとおんなじじゃが」
南港「それに魔王の魔晶石の場合は人間丸ごと記録して再現するんじゃからそりゃデッカいか、濃い石使っとるんじゃないかのう?」
薬学士「人工精製の魔晶石でそんな規模の物を作れるのかなあ?」
南港「お前秋風の弟子なのに何にも知らんのじゃなあ、儂も知らんけど」
薬学士「魔王化技術については教えてくれないからね、それで一回破門されたしね……」
料理人「そういえばさ、秋風が出て行く前の日にどんな話したの?」
178 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:08:22.99 ID:Fga/dJyAO
薬学士「料理人ちゃんが魔王になりたいと言い出したら止めますか?って聞いたら」
薬学士「いや、できるもんなら勝手にすれば?って言った」
料理人「お互いにストレートに言ったなあ……」
南港「儂も全く分からんもんな、秋風は魔王化手術を手伝ってたから知っとると思うんじゃけど」
薬学士「どうしても身内を魔王にはしたくないんだろうね……」
南港「彼奴は儂より寂しがりの癖に僻地にこもってた訳で、そりゃ寂しかったろうなあ」
南港「そんな思いを他人にさせたく無かったんじゃろ」
南港「その気の使い方が他人行儀で寂しいのが分からんのかのう?」
南港「なんつーか頭良い癖に頭悪いのじゃ」
薬学士「そういえば、どんな賢者でも自分の知らないことは知らない、それを知ってるのが賢者だ、とか威張ってた」
南港「無知の知か、昔から伝わる賢者の哲学じゃな」
薬学士「オリジナルですらなかったんだねえ」
料理人「薬学士ってたぶん無意識に毒吐いてるんだよね」
薬学士「えっ、えっ、ごめんなさい」
学者「そこは秋風さんに謝るべきですなあ」
薬学士「よく分かんないけどお師匠さまごめんなさい!」
料理人(可愛い)
179 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:10:10.80 ID:Fga/dJyAO
料理人「秋風に言ってやる文句は決まった」
南港「そうじゃな」
薬学士「早く文句言いに行かないとね!」
南港「戦争しとる中に行くのじゃ、十分に気をつけて行かんと」
料理人「そうか、そうだよな」
南港「人間と戦うことは少ないじゃろうけどな」
南港「魔王同士が大魔法撃ち合ってる中入っていったら死ぬしのう」
薬学士「戦争中なんだねえ……」
料理人「こっちには全く情報入ってこないよなあ」
南港「儂も聞くのは事後報告ばっかりじゃ、まあ戦争なんじゃから情報統制は当たり前なんじゃが」
学者「……拙者も聞くのはいつも数日遅れですし発言権も無きゃ軍事には全く関わらせてもらってないですだ」
南港「第三王女なんて一般人と変わらんからのう」
学者「学者だけにがっくし、や〜」
料理人「サクッと行っとく?」
学者「そのうち死んでしまいまっせ拙者」
そして舞台は高塔中央区に移る
料理人たちが中央区に辿り着いた後、まず学者が王女に化けた
いや、王女として普通の格好をしただけだが、見たこともない綺麗なお姫様が現れた
学者「さあ、まずは城に参りましょう」
料理人「あんた誰?」
南港「こんな知り合い居たかのう?」
薬学士「化けたねえ」
狩人「綺麗な人だあ」
学者「……拙者も今までバレないように変装していたつもりでやすが酷いでやんす」
料理人「あ、ちゃんと学者だ」
学者「素顔見たことあるでやんしょう」
料理人「まあ冗談だけどね」
薬学士「凄く綺麗だから緊張するよね〜」
南港「儂らは旅装束の汚らしい格好しとるから余計にな」
狩人「うわあ……今更だけどすごく場違いな気がする……」
学者「気にしないでくだせえ、王様って言ってもパパさんは庶民派でやすから」
南港「高塔に来たのはいつ以来かのう?」
南港「三十年ぶりだったかの?」
学者「どっかに残ってるはずですから記録を見てみやしょう」
181 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:14:45.79 ID:Fga/dJyAO
学者「あと、当然でやすが拙者もパパさんの前でこんな喋り方はしやせんので」
学者「笑ったりしないでくださいね?」
料理人「……」
薬学士「……」
南港「ぎゃはっ」
狩人「くっくくっ、南港さん、笑わない、で……、くっ」
学者「……無理っぽいですね」
南港「久しぶりに腹を抱えて笑いたいからさっさと行くのじゃ」
学者「酷うござる……じゃなかった酷いでしっ……噛んだ」
南港「ぎゃははっ」
料理人「ぷっ、まあ、笑わないように気をつけようよ」
学者「では行きますよ、皆様」
南港「いざ、笑いの殿堂に!」
学者「そんな所には行きませんよ……」シクシク
…………
城につくと、先に報告を行っていた騎士が出迎える
知った顔があると落ち着くもので、料理人達は初めて入る城ではあったがあまり緊張はしなくて済んだ
高塔の王は、現在六十代であるが健勝で、雄々しい人物であった
まず学者一人が接見する
学者「ご無沙汰致しております、お父様」
高塔王「うむ、久しぶりだな、息災であったか?」
学者「はい、気を使って下さる方々が居られますので」
学者「お父様のご支援にも、本当に感謝致しております」
182 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:16:51.32 ID:Fga/dJyAO
高塔王「うむ、まあお前の兄や姉達にも、お前たち下の兄弟達は自由にさせて欲しい、と頼まれておる」
高塔王「お前の研究成果で得た魔晶石数十個、戦で使われるのはお前も不本意であろうが、助かっておるぞ」
学者「お父様やお兄様のお役に立てて幸いでございます」
学者「ところでお父様、今私の研究を大きく支えて下さっています、薬学士様、料理人様、狩人様、そして南港の魔王様がおいでになっております」
高塔王「……」
高塔王「なに、南港ちゃん来てんの?! 早く言ってよ!!」
学者「ファッ!?」
高塔王「南港ちゃ〜ん!」
高塔王は南港の名を聞くと席を蹴って走り出した
付近にいた側近たちも目を丸くしている
学者「そうか……魔王ほど長生きだとこういう関係があるんでやすなあ」
学者「パパさんが子供返りするとは相当仲良しだったんでござるかな?」
学者「これは見物でやす、拙者も参ろうか!」グヒッ
側近「……」
唖然として石化する側近たちを置いたまま、学者も走って出て行く
183 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:19:23.45 ID:Fga/dJyAO
高塔王は階段を駆け下り、フロアを見渡した
南港「ん、なにやら偉そうな爺さんが降りてきたのじゃ」
料理人「え、あれって……」
南港「なんか見たことあるのう」
料理人「……王様じゃないのか?」
南港「あ、悪ガキ王子じゃ、思い出したわ!」
高塔王「南港ちゃ〜ん!」ダキッ
騎士「」
料理人「……あれ、すっごいフレンドリーな王様だね?」
騎士「あんな王様見たことありません……」
騎士「あんな……あんな……」ククッ
薬学士「はっちゃけてるんだね」
狩人「なんだか一気に緊張が解けて疲れちゃった」
南港「お主前会った時もう結婚しとったじゃろ、奥方に言いつけるぞ?」
高塔王「勘弁してよ〜、いやあ、しかし三十年ぶり?」
南港「儂もそれくらいじゃと思ったが……しかし爺になったのう」
高塔王「南港ちゃんの方が年上じゃん」
南港「はあ、なんか来るんじゃ無かったかのう」
南港「しかし10歳くらいのお主と駆け回ってた頃が懐かしいのじゃ」
高塔王「あの頃はよく釣りに連れて行ってくれたよね」
南港「東磯がお主を気に入っておったからな」
高塔王「東磯くんは今も昔も僕らのガキ大将だからね」
184 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:21:44.42 ID:Fga/dJyAO
南港「ガキ大将のう……」
南港「当時既に百三十くらいだったはずじゃが……」
高塔王「……う〜ん、ジジ大将と言うべきか?」
南港「聞いたことないのじゃ」
学者「パパさん……お父様、皆様にお礼をお願いしやす……します」
高塔王「うぬ、お前も普通に喋っていいぞ!」
学者「そいつぁありがてえ、堅苦しいのはやっぱりしんどいでござる」
料理人「まわりが完全に置き去りになってるんだが」
狩人「突っ込み入れがたいですしね……」
薬学士「ちょっと気を使って欲しいかもね」
料理人「同意するよ」
高塔王「いやあ、いつも娘がお世話になっております」
高塔王「有り難う皆さん、今日はゆっくりとしていって下され」
南港「そう言えばもう王子じゃないんじゃな、今日は酒でも飲んで昔の話でもするのじゃ」
高塔王「うん、それもいいんだけど魔王様と息子たち戦争中だからね、ちょっとのんびり出来ないかも」
南港「迷惑じゃのう」
高塔王「全くだよ、南港ちゃんみたいな魔王ばっかりなら楽なのに、北終は本当にうざったいよ」
高塔王「まあ戦局は硬直、睨み合いになってるからすぐに出るようなことは無いと思うんだけどねえ」
185 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:23:51.27 ID:Fga/dJyAO
南港「儂等も秋風に会うために来たのじゃ、戦局が動く前に会いたいんじゃがのう」
高塔王「うん、それなら配下に案内させよう」
南港「とりあえず今日は一泊するのじゃ」
南港「料理人、ここの城の者と昼飯を作ってくれ」
料理人「ええっ、それは良いのか?」
学者「そんな堅苦しい物作らないでようがす、拙者もお願いしやすぜ」
高塔王「お前も酷い喋り方だな」
学者「今日はパパさんが10歳くらいの時の話を聞きまくりますぜ」
高塔王「うわ、それは恥ずかしいわ」
南港「おねしょが十二まで治らなかったとか?」
高塔王「勘弁してよ南港ちゃん……もう六十だよ……」
料理人「ここの料理長さんはどんなジャンルの料理作るんだろ?」
南港「まあいらぬお世話かも分からんが勉強になるじゃろ?」
料理人「いや、助かるよ、私のは酒場の大雑把な料理だから細やかな料理の技や良さを知っておきたいしね」
薬学士「いつも美味しいけどなあ」
料理人「有り難う」
狩人「僕らはどうしていたら良いんでしょうか?」
騎士「控えの間を用意しています、すぐにご案内致します」
186 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:26:57.11 ID:Fga/dJyAO
南港「儂は少し王と話しておるからの、また後での」
狩人「南港さんと料理人さんが居ないと寂しいですね」
学者「拙者が接しやす、拙者だけに」
料理人「城だから突っ込まないと思って好きにダジャレ言うんじゃないよ?」
学者「後が怖いので控えやす」
高塔王「じゃあ皆で控えの間で紅茶でも飲もう」
高塔王「爺や」
何時の間に居たのか黒ずくめの、爺と呼ばれた執事らしき高齢の男性が、全員を部屋へと案内する
執事「こちらに御座います」
執事の案内で、ひとまず全員で控えの間に移動する
学者「では、料理人さんの案内をお願いします」
執事「承りました」
執事「ではこちらにどうぞ」
南港「……そういや爺っていくつなのじゃ? なんか昔から爺だった気がするんじゃが」
執事「おお、南港様が仰っているのは父で御座います」
執事「私はまだ七十ですぞ」
南港「お、そうか、いつもちょろちょろ走り回る悪ガキ王子に振り回されとった使用人がおったわ!」
執事「左様でございます、いやあ懐かしいですなあ」
執事「では料理人様のご案内が有りますので、後程お話致しましょう」
南港「うむ、なんか楽しくなりそうじゃな」
187 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:30:10.40 ID:Fga/dJyAO
執事「料理長、こちら南港様付きの料理人様です」
執事「何品か作って頂きたいとの事ですのでご協力をお願いします」
その料理長と呼ばれた男には見覚えがあった
剣士「……ああ、あんたか」
料理人「……あら」
剣士「あのスープは旨かったよ」ニヤ
料理人「いや、なんかすみません」
料理人「学者の奴……わざと黙ってたな……」
料理人「しかしあれだけ見事に立ち回ってたから傭兵だと思ったんだが」
剣士「俺は本来忍だからな」
料理人「しのび……忍者?」
料理人「本当にいるんだ」
剣士「初めはそれで食えなかったから料理人をやってたら、あの執事さんに雇われてな、まああのオッサンは人使いが滅茶苦茶荒いんだよ」
剣士「戦えるとバレてからは料理は副料理長に任せっきりで忍として走り回ってた訳だ」
剣士「そして帰ってきたらまた料理長だろ?」
料理人「本当に人使い荒いなあ」
剣士「まあ忙しいのは嫌いじゃ無いし、気楽な国だしいいがね」
剣士「だが戦だ、俺も戦わんとな」
料理人「剣術も教わりたいなあ」
剣士「そりゃ止めとけ、包丁じゃ戦闘スタイルが違うだろ」
剣士「まず包丁で人を斬るなんて有り得ん」
188 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 21:31:53.16 ID:Fga/dJyAO
料理人「包丁そのものは媒体でしかないよ」
料理人「食材以外はこう、魔力の刃を作ってさ」
料理人「でも魔力の刃じゃ剣を受け止められないから難しいんだよね」
剣士「それは刀も同じだ、受け止めたら折れるからな」
料理人「そう言えば4人と立ち回る時も刀を合わせて無かったね」
料理人「やっぱり教えてよ」
剣士「まあ良いけど、その前に昼飯だ」
料理人「なんと言うか剣士さんにはことごとく負けてるなあ、魔法も使ってたよね」
剣士「いや、料理はあんたの料理の方が好きだが」
剣士「とりあえず前菜から作るぞ、あんたはいつも通り大皿料理なら大皿料理で良いからな?」
料理人「いいの?」
剣士「来賓が多ければそう言うスタイルでやることもあるからな」
剣士「さあ、やるぞ」
副料理長「分かりました、皆持ち場についてくれ」
料理人「よろしくお願いします」
料理人が大皿にいつも通りのサラダや野菜炒めなどを盛り付けると、すぐにメイドたちに運ばれていく
剣士「手際が見事だな、包丁使いも上手いじゃないか」
料理人「いやいや、それはお世辞でしょ」
剣士「いや、本心だ」
料理人と薬学士
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