女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part6
104 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:07:19 ID:dox
If the sky that we look upon
Should tumble and fall
Or the mountain
Should crumble to the sea
I won't cry, I won't cry
No, I won't shed a tear
Just as long as you stand
stand by me
Darling darling
Stand by me
Oh stand by me
105 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:12:39 ID:dox
「ソー・ダーリン ダーリン」
「スタンド・バイ・ミー」
女「…ん」
「スタンド・バイ・ミー…」
女「…」モゾ
歌っているのは誰。
小さくて、甘くて、ふうと吹いたら消えそうな声で歌っているのは、誰。
「ダー、リン。ダーリン…」
女「…ん、う」ゴシ
リン「!」ビク
女「ふわ…」
リン「……」
女(…あれ?CDの音しか聞こえない。…こんな声じゃなかったんだけど)
リン「やっと起きたか」
女「あ、…うん」
どうやら、結構な時間昼寝をしていたようだ。
私の生まれた町を出た後、リンは一度も停まることなく車を走らせた。
閑散とした住宅街や田畑が入り混じる、ちょっとした田舎を過ぎて。
リン「…県庁所在地に入った」
女「おお、そっか」
106 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:20:25 ID:dox
頭を上げて外を見てみると、遥か遠くに沈まんとしている赤い太陽が見えた。
もう、夕方だ。
女「すごい、ビルがいっぱい」
リン「まさか、…来たことないのか?」
女「そんなわけ無いでしょ!?地元だよ!?」
でも、最後に来たのはいつだったか。
ああ、そうだ。新しい鞄が欲しくて、お母さんと終末に買いにいったんだ。
ブランド店やオシャレなセレクトショップが立ち並ぶモールで、お財布とにらめっこしながら選んで
女「…あのね、このバッグここの大きなショッピングモールで買ったんだ」
鮮やかな茜色の肩掛けバッグ。 この西日と、驚くほど似た色をしている。
リン「へえ」
女「高かったんだよ?2万くらいした」
リン「そんなに…」
リンはバッグを一瞥すると、鼻で笑った。
リン「そんな風には見えないな」
女「そう?シンプルで好きだな。丈夫だし」
107 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:25:53 ID:dox
女「ねえ、リン」
リン「なんだ」
かつての活気はどこへ行ったのだろうか。
人の気配など微塵もない、赤い街を走る。
女「何処に向かってるの?」
リン「…北」
女「うん、それはもう聞いたけど。…なんで、北?」
リン「行ったことないから」
女「…アテでもあるのかと思った」
リン「現地にいかないと、人間が暮らしてるかどうかは分からないだろ」
女「そうだけどー」
リン「こういう繁華街の近くには、誰かが暮らしてるかもしれないんだ」
女「会ったこと、ある?」
リン「…ああ」
その人たちは、今、どうしてるのかな。
女「…」
睫毛まで赤く染めて、口を結ぶリンに
私は何も言えなかった。
108 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:29:59 ID:dox
バタン
リン「…よし」ギッ
女「お、停めるの?」
リン「今日はここまでにしておく。暗くなってからの移動は、しないほうが良い」
女「ふうん」
リンが車を停めたのは、広大な駐車場だった。
あれ、ここってまさか
女「…プレミアムモール?」
リン「知ってるのか」
女「うん、ここでバッグ買ったって言わなかったっけ?」
リン「さあ」
私の話は、彼にとっては車内で聞き流す音楽と同レベルらしい。
女「ええと、どうするの?」
リン「とりあえずガソリンを補給する」
女「うん」
駐車場の入り口付近には、ガソリンスタンドが完備されているのだ。
リン「結構走ったからな。そこで待ってろよ、入れるから」
女「はーい」
109 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:34:38 ID:dox
ガタン
女「…ガソリン、出るの?」
リン「ああ」
女「へえ、…意外だな」
リン「ガソリンスタンドがあり次第、教えてくれ。こまめに補給するに限る」
女「ガソリンないとただの箱だもんね、これ」
リンは慣れた手つきでガソリンを満タンにすると、後部のドアを開けた。
女「車内泊するの?」
リン「山地とかで休むときはそうするけど、今は必要ないだろ」
リン「…モールがあんだから。それとも、車で寝たいのか?」
女「う、ううん」
車内泊かー。
…どうなんだろう。やったことはないけど、異性が近くにいる状態でっていうのは、どうなんだろ。
リン「ほら、荷物取れ」
女「分かった」
リン「必要最低限のものでいいからな」
110 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:41:13 ID:dox
女「モール探索か。わくわくするな」
リン「馬鹿か。危ないかもしれないんだぞ」
女「平気だよ!プレミアムモールってできて1年くらいしか経ってないし、丈夫だもん」
リン「そういうことじゃなくて」
リンの手には、相変わらず無骨なあの物体が握られていた。…二つも。
リン「これ、持っとけ」
女「え、ええ?」
リン「ええ、じゃないだろ。武器くらい持っとけ」
女「いや、でも」
リン「警棒なら軽いし扱いやすい。ボタンを押せば伸びる。伸ばして、殴る。それだけだ」
女「…わ、分かった」
トウメイを倒すのに、私の方法はいささか回りくどいところがあるだろう。
一定の力をこめれば、女の私でもトウメイは倒せる。
…多分。今のところは、そうだ。
リン「それと、懐中電灯。…あとこれ」
女「…ケータイ?」
リン「俺との機器だけに通信できるよう設定してあるやつだ。前流行っただろ」
女「あー…。子どもと親が連絡するのに使うやつか!」
リン「万一はぐれたりしたら、それで連絡してこい。まあ、まず離れるな。面倒だから」
女「勿論」
111 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:48:21 ID:dox
リン「…」
自動扉は、勿論開かない。
リン「壊すぞ」
リンが、細い植物の茎みたいな腕を振り上げた。
…パリン!
女「おお」
リン「怪我するなよ」
警棒がすごいのか、リンがすごいのか。ガラスはあっけなく破壊された。
女「…ちょっと暗いね?」
リン「発電設備が落ちてる可能性があるな。誰も手入れしてない」
リン「…でも、節電のために夕方まで電気を落としてる、という可能性もあるな。とにかく、一階から探すぞ」
女「はーい」
薄暗いモールに、二つの光が浮かび上がった。
リン「お前、来たことあるんだから、ある程度案内はできるだろ?」
女「えっ」
大役な気がする。
女「う、うん。できるよ。ええと」
とりあえず地図つきのパンフレットを手に取った。
女「…一階はね、フードコートとか大型のスーパーみたいになってるんだ」
リン「ここに人がいる可能性は少ないな」
女「え、なんで?」
リン「食料補給や、雑貨を取りにくることはあるだろ。けど、住処にするには適さない」
女「…なるほど」
112 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:52:58 ID:dox
リン「例えば、家具屋とか…。ベッドがある所に人が避難してる可能性は高い」
女「確かに」
リン「あと、シャッターを閉めているところにも注意しろ」
女「リン、頭いいね」
リン「お前がアホなだけだ」
女「…」ガン
リン「とりあえず、ここは後回しにして上の階から探そう」
女「分かった。ええと、二階はファッション関連のお店が多いよ」
リン「まあ、候補だな」
女「3階は雑貨屋さんとか、色々。四階は、シネマとゲームセンターとかかな」
リン「2階から行くか」
女「はい、隊長」
リン「…なんだ、それ」
女「いや、なんか年下なのにめちゃくちゃ頼りになるから」ビシ
リン「なんでもいいが、勝手な行動すんなよ」
女「イエッサー」ビシ
113 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:59:05 ID:dox
本当、モールは何でもある。
買い物も、ご飯も事足りるし、サロンや写真スタジオ、そうそう、入浴施設なんかもあったりするんだっけ。
リン「シャッターは、…閉まってないな」
女「そうだねー」
当時のまま微動だにしないマネキンや、ディスプレイたち。
タッセルクリアが、シャッターを閉める間もなく拡大した証。
女「…うわ、これ可愛いな」
リン「ショッピングに来たんじゃない」
女「でも、ほら、これっ。学校で人気のブランドなんだよね」
リン「…」
心底興味なさそうなリンを尻目に、私の乙女心に火がついた。
女「今なら取り放題なんだよね!すごくない?あ、この夏物のサンダル、高くて買えなかったんだー」
リン「…」
女「ね、取っていっていい?」
リン「答えなきゃ駄目か」
女「…なんで、却下?」
リン「旅に必要なのは機能的な服だけだ。サンダルなんて足が疲れるし、駄目だ。…荷物になる」
女「…いいじゃん、ちょっとくらいさあ」
114 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:08:44 ID:dox
リン「だめ。行くぞ」スタスタ
女「うぐ…」
名残惜しいけど、サンダルをマネキンの足元に置いた。
リン「ざっと見た感じ、人の気配は無いがな」
女「大声で聞いてみようよ。おーい、誰かいませんかー?」
リン「…クリアが感知するかもしれないだろ」
女「あ、…そっか」
リン「はあ。もう少し危機感持て」
女「ご、ごめん」
ブースに光を向けては、戻す。向けては、戻す。
華やかな服に目移りする私とは対照的に、リンは機械的に確認を済ませていった。
女「…お?」
リン「なんだ」
ふと、足が止まる。
和装小物のお店だった。かなり高級だが、若い人むけの商品展開もしていた所だ。
女「ここ、入ったことないんだ」
リン「…」カチ
女「着物とか持ってないし、必要ないもんねー」
リン「行くぞ」スタスタ
女(本当、…つっめた)
先を行くリンに反抗して、私は店に足を踏み入れた。
実は結構、興味がある。和装が似合う少女を目指したいと、日本女子なら皆思うはずだ。
115 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:15:54 ID:dox
女(すご…。色々あるんだな)
木綿のハンカチ、帯止め、浴衣、巾着、下駄…。
本当になんでもある。落ち着いた大人向けのものもあれば、華やかな色合いのものまで。
女「あ」
リン「…なにやってる」
女「うわ、びっくりした!何、リン」
リン「それはこっちの台詞だ。寄り道していいと誰が言った」
女「いいじゃん、ちょっとくらい。それより、見て」シャラ
リン「…なんだそれ」
女「簪だよ、簪!」シャン
リン「…」
女「可愛いなー。このしゃらしゃらした飾りついてるやつとか。夏祭りで着けてみたい」
リン「あのな」
女「リンにはこれが似合いそう」ピト
リン「!」
黒い軸に、牡丹が描かれた丸い飾り板を持つ簪。
彼のきれいな黒髪に刺すと、まるで牡丹を髪にさしているように見える。
リン「ふざけてるのか」
女「リン、髪の毛結んでないし。これで纏めなよ」
リン「女物だろ!」
女「似合ってるって、本当に!」
116 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:23:07 ID:dox
女「ちょっと刺してみていい?」
リン「やだ。やめろ、触るな」
女「まあまあ」クルクル
リン「おい!!」
女「…お、本当に似合ってるよ!いいじゃん」
リン「ふざけ…」
彼は怒って簪を引き抜こうとしたが、ふと手を止めた。
リン「…確かに、髪がうるさくはないけど」
女「でしょ?纏め方覚えたら簡単だよ。付けなよ」
ふむ、と口に手を当て思案顔になる。
実用性とそのほかを足し算引き算しているようだ。
リン「…確かに少し邪魔になっていたしな」
女「切らないの?」
リン「ああ」
女「ふーん。じゃ、せめてこうしてれば?」
リン「…お前の安に乗るのは気が進まないが、まあ、そうする」
女「おお!」
私は改めて、試着用の簪を引き抜いて新しい商品をリンに差し出した。
女「プレゼント、みたいだね」
リン「金も払ってないのに、偉そうにするなよ」
もう一度、彼の髪をお団子にして簪を挿してあげた。
女「うん、かわいい」
リン「手が出そうになる」
女「なんで!褒めてるんだよ?」
いらん、と彼は無表情でそっぽを向いた。
117 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:30:53 ID:dox
揺れる牡丹の絵と、リンの黒髪を見つめる。
リン「結局、この階の収穫はナシだな」
リンはマップを片手に、溜息をついた。
女「じゃあ次は3階だね」
リン「ああ」
停まったエスカレーターを上り、3階を捜索する。
しかし家具屋と寝具店、そのほか目ぼしい店を覗いても、人の気配はなかった。
リン「…いないな」
女「そうだね」
少しの間、沈黙が流れる。
女「…でもさ、入れ違いになってる可能性もあるよね?」
リン「これだけ広いとな」
女「だめもとでさ、アナウンスかけてみない?」
リン「アナウンス?」
女「そう。迷子放送とかしてる放送機器使って、私達はどこどこにいますから、来てくださいって放送するの」
リン「…なるほど」
リン「けど、クリアを刺激することになるぞ?」
女「うん、だから一階で待たない?それで危なくなったら逃げる」
リン「…」
リンの足し算引き算が始まる。 求めた解は
リン「試してみる価値は、あるな」
女「でしょ?」
リン「どこで放送してるか、分かるか?」
女「インフォメーションのところだよ。こっちこっち」
If the sky that we look upon
Should tumble and fall
Or the mountain
Should crumble to the sea
I won't cry, I won't cry
No, I won't shed a tear
Just as long as you stand
stand by me
Darling darling
Stand by me
Oh stand by me
105 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:12:39 ID:dox
「ソー・ダーリン ダーリン」
「スタンド・バイ・ミー」
女「…ん」
「スタンド・バイ・ミー…」
女「…」モゾ
歌っているのは誰。
小さくて、甘くて、ふうと吹いたら消えそうな声で歌っているのは、誰。
「ダー、リン。ダーリン…」
女「…ん、う」ゴシ
リン「!」ビク
女「ふわ…」
リン「……」
女(…あれ?CDの音しか聞こえない。…こんな声じゃなかったんだけど)
リン「やっと起きたか」
女「あ、…うん」
どうやら、結構な時間昼寝をしていたようだ。
私の生まれた町を出た後、リンは一度も停まることなく車を走らせた。
閑散とした住宅街や田畑が入り混じる、ちょっとした田舎を過ぎて。
リン「…県庁所在地に入った」
女「おお、そっか」
106 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:20:25 ID:dox
頭を上げて外を見てみると、遥か遠くに沈まんとしている赤い太陽が見えた。
もう、夕方だ。
女「すごい、ビルがいっぱい」
リン「まさか、…来たことないのか?」
女「そんなわけ無いでしょ!?地元だよ!?」
でも、最後に来たのはいつだったか。
ああ、そうだ。新しい鞄が欲しくて、お母さんと終末に買いにいったんだ。
ブランド店やオシャレなセレクトショップが立ち並ぶモールで、お財布とにらめっこしながら選んで
女「…あのね、このバッグここの大きなショッピングモールで買ったんだ」
鮮やかな茜色の肩掛けバッグ。 この西日と、驚くほど似た色をしている。
リン「へえ」
女「高かったんだよ?2万くらいした」
リン「そんなに…」
リンはバッグを一瞥すると、鼻で笑った。
リン「そんな風には見えないな」
女「そう?シンプルで好きだな。丈夫だし」
107 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:25:53 ID:dox
女「ねえ、リン」
リン「なんだ」
かつての活気はどこへ行ったのだろうか。
人の気配など微塵もない、赤い街を走る。
女「何処に向かってるの?」
リン「…北」
女「うん、それはもう聞いたけど。…なんで、北?」
リン「行ったことないから」
女「…アテでもあるのかと思った」
リン「現地にいかないと、人間が暮らしてるかどうかは分からないだろ」
女「そうだけどー」
リン「こういう繁華街の近くには、誰かが暮らしてるかもしれないんだ」
女「会ったこと、ある?」
リン「…ああ」
その人たちは、今、どうしてるのかな。
女「…」
睫毛まで赤く染めて、口を結ぶリンに
私は何も言えなかった。
108 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:29:59 ID:dox
バタン
リン「…よし」ギッ
女「お、停めるの?」
リン「今日はここまでにしておく。暗くなってからの移動は、しないほうが良い」
女「ふうん」
リンが車を停めたのは、広大な駐車場だった。
あれ、ここってまさか
女「…プレミアムモール?」
リン「知ってるのか」
女「うん、ここでバッグ買ったって言わなかったっけ?」
リン「さあ」
私の話は、彼にとっては車内で聞き流す音楽と同レベルらしい。
女「ええと、どうするの?」
リン「とりあえずガソリンを補給する」
女「うん」
駐車場の入り口付近には、ガソリンスタンドが完備されているのだ。
リン「結構走ったからな。そこで待ってろよ、入れるから」
女「はーい」
ガタン
女「…ガソリン、出るの?」
リン「ああ」
女「へえ、…意外だな」
リン「ガソリンスタンドがあり次第、教えてくれ。こまめに補給するに限る」
女「ガソリンないとただの箱だもんね、これ」
リンは慣れた手つきでガソリンを満タンにすると、後部のドアを開けた。
女「車内泊するの?」
リン「山地とかで休むときはそうするけど、今は必要ないだろ」
リン「…モールがあんだから。それとも、車で寝たいのか?」
女「う、ううん」
車内泊かー。
…どうなんだろう。やったことはないけど、異性が近くにいる状態でっていうのは、どうなんだろ。
リン「ほら、荷物取れ」
女「分かった」
リン「必要最低限のものでいいからな」
110 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:41:13 ID:dox
女「モール探索か。わくわくするな」
リン「馬鹿か。危ないかもしれないんだぞ」
女「平気だよ!プレミアムモールってできて1年くらいしか経ってないし、丈夫だもん」
リン「そういうことじゃなくて」
リンの手には、相変わらず無骨なあの物体が握られていた。…二つも。
リン「これ、持っとけ」
女「え、ええ?」
リン「ええ、じゃないだろ。武器くらい持っとけ」
女「いや、でも」
リン「警棒なら軽いし扱いやすい。ボタンを押せば伸びる。伸ばして、殴る。それだけだ」
女「…わ、分かった」
トウメイを倒すのに、私の方法はいささか回りくどいところがあるだろう。
一定の力をこめれば、女の私でもトウメイは倒せる。
…多分。今のところは、そうだ。
リン「それと、懐中電灯。…あとこれ」
女「…ケータイ?」
リン「俺との機器だけに通信できるよう設定してあるやつだ。前流行っただろ」
女「あー…。子どもと親が連絡するのに使うやつか!」
リン「万一はぐれたりしたら、それで連絡してこい。まあ、まず離れるな。面倒だから」
女「勿論」
111 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:48:21 ID:dox
リン「…」
自動扉は、勿論開かない。
リン「壊すぞ」
リンが、細い植物の茎みたいな腕を振り上げた。
…パリン!
女「おお」
リン「怪我するなよ」
警棒がすごいのか、リンがすごいのか。ガラスはあっけなく破壊された。
女「…ちょっと暗いね?」
リン「発電設備が落ちてる可能性があるな。誰も手入れしてない」
リン「…でも、節電のために夕方まで電気を落としてる、という可能性もあるな。とにかく、一階から探すぞ」
女「はーい」
薄暗いモールに、二つの光が浮かび上がった。
リン「お前、来たことあるんだから、ある程度案内はできるだろ?」
女「えっ」
大役な気がする。
女「う、うん。できるよ。ええと」
とりあえず地図つきのパンフレットを手に取った。
女「…一階はね、フードコートとか大型のスーパーみたいになってるんだ」
リン「ここに人がいる可能性は少ないな」
女「え、なんで?」
リン「食料補給や、雑貨を取りにくることはあるだろ。けど、住処にするには適さない」
女「…なるほど」
112 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:52:58 ID:dox
リン「例えば、家具屋とか…。ベッドがある所に人が避難してる可能性は高い」
女「確かに」
リン「あと、シャッターを閉めているところにも注意しろ」
女「リン、頭いいね」
リン「お前がアホなだけだ」
女「…」ガン
リン「とりあえず、ここは後回しにして上の階から探そう」
女「分かった。ええと、二階はファッション関連のお店が多いよ」
リン「まあ、候補だな」
女「3階は雑貨屋さんとか、色々。四階は、シネマとゲームセンターとかかな」
リン「2階から行くか」
女「はい、隊長」
リン「…なんだ、それ」
女「いや、なんか年下なのにめちゃくちゃ頼りになるから」ビシ
リン「なんでもいいが、勝手な行動すんなよ」
女「イエッサー」ビシ
113 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:59:05 ID:dox
本当、モールは何でもある。
買い物も、ご飯も事足りるし、サロンや写真スタジオ、そうそう、入浴施設なんかもあったりするんだっけ。
リン「シャッターは、…閉まってないな」
女「そうだねー」
当時のまま微動だにしないマネキンや、ディスプレイたち。
タッセルクリアが、シャッターを閉める間もなく拡大した証。
女「…うわ、これ可愛いな」
リン「ショッピングに来たんじゃない」
女「でも、ほら、これっ。学校で人気のブランドなんだよね」
リン「…」
心底興味なさそうなリンを尻目に、私の乙女心に火がついた。
女「今なら取り放題なんだよね!すごくない?あ、この夏物のサンダル、高くて買えなかったんだー」
リン「…」
女「ね、取っていっていい?」
リン「答えなきゃ駄目か」
女「…なんで、却下?」
リン「旅に必要なのは機能的な服だけだ。サンダルなんて足が疲れるし、駄目だ。…荷物になる」
女「…いいじゃん、ちょっとくらいさあ」
114 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:08:44 ID:dox
リン「だめ。行くぞ」スタスタ
女「うぐ…」
名残惜しいけど、サンダルをマネキンの足元に置いた。
リン「ざっと見た感じ、人の気配は無いがな」
女「大声で聞いてみようよ。おーい、誰かいませんかー?」
リン「…クリアが感知するかもしれないだろ」
女「あ、…そっか」
リン「はあ。もう少し危機感持て」
女「ご、ごめん」
ブースに光を向けては、戻す。向けては、戻す。
華やかな服に目移りする私とは対照的に、リンは機械的に確認を済ませていった。
女「…お?」
リン「なんだ」
ふと、足が止まる。
和装小物のお店だった。かなり高級だが、若い人むけの商品展開もしていた所だ。
女「ここ、入ったことないんだ」
リン「…」カチ
女「着物とか持ってないし、必要ないもんねー」
リン「行くぞ」スタスタ
女(本当、…つっめた)
先を行くリンに反抗して、私は店に足を踏み入れた。
実は結構、興味がある。和装が似合う少女を目指したいと、日本女子なら皆思うはずだ。
115 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:15:54 ID:dox
女(すご…。色々あるんだな)
木綿のハンカチ、帯止め、浴衣、巾着、下駄…。
本当になんでもある。落ち着いた大人向けのものもあれば、華やかな色合いのものまで。
女「あ」
リン「…なにやってる」
女「うわ、びっくりした!何、リン」
リン「それはこっちの台詞だ。寄り道していいと誰が言った」
女「いいじゃん、ちょっとくらい。それより、見て」シャラ
リン「…なんだそれ」
女「簪だよ、簪!」シャン
リン「…」
女「可愛いなー。このしゃらしゃらした飾りついてるやつとか。夏祭りで着けてみたい」
リン「あのな」
女「リンにはこれが似合いそう」ピト
リン「!」
黒い軸に、牡丹が描かれた丸い飾り板を持つ簪。
彼のきれいな黒髪に刺すと、まるで牡丹を髪にさしているように見える。
リン「ふざけてるのか」
女「リン、髪の毛結んでないし。これで纏めなよ」
リン「女物だろ!」
女「似合ってるって、本当に!」
116 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:23:07 ID:dox
女「ちょっと刺してみていい?」
リン「やだ。やめろ、触るな」
女「まあまあ」クルクル
リン「おい!!」
女「…お、本当に似合ってるよ!いいじゃん」
リン「ふざけ…」
彼は怒って簪を引き抜こうとしたが、ふと手を止めた。
リン「…確かに、髪がうるさくはないけど」
女「でしょ?纏め方覚えたら簡単だよ。付けなよ」
ふむ、と口に手を当て思案顔になる。
実用性とそのほかを足し算引き算しているようだ。
リン「…確かに少し邪魔になっていたしな」
女「切らないの?」
リン「ああ」
女「ふーん。じゃ、せめてこうしてれば?」
リン「…お前の安に乗るのは気が進まないが、まあ、そうする」
女「おお!」
私は改めて、試着用の簪を引き抜いて新しい商品をリンに差し出した。
女「プレゼント、みたいだね」
リン「金も払ってないのに、偉そうにするなよ」
もう一度、彼の髪をお団子にして簪を挿してあげた。
女「うん、かわいい」
リン「手が出そうになる」
女「なんで!褒めてるんだよ?」
いらん、と彼は無表情でそっぽを向いた。
117 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:30:53 ID:dox
揺れる牡丹の絵と、リンの黒髪を見つめる。
リン「結局、この階の収穫はナシだな」
リンはマップを片手に、溜息をついた。
女「じゃあ次は3階だね」
リン「ああ」
停まったエスカレーターを上り、3階を捜索する。
しかし家具屋と寝具店、そのほか目ぼしい店を覗いても、人の気配はなかった。
リン「…いないな」
女「そうだね」
少しの間、沈黙が流れる。
女「…でもさ、入れ違いになってる可能性もあるよね?」
リン「これだけ広いとな」
女「だめもとでさ、アナウンスかけてみない?」
リン「アナウンス?」
女「そう。迷子放送とかしてる放送機器使って、私達はどこどこにいますから、来てくださいって放送するの」
リン「…なるほど」
リン「けど、クリアを刺激することになるぞ?」
女「うん、だから一階で待たない?それで危なくなったら逃げる」
リン「…」
リンの足し算引き算が始まる。 求めた解は
リン「試してみる価値は、あるな」
女「でしょ?」
リン「どこで放送してるか、分かるか?」
女「インフォメーションのところだよ。こっちこっち」
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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