女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part5
84 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:37:43 ID:tLU
あぶない、と叫ぶより早く
足は動いていた。
トウメイはリンが警棒を振りかざした瞬間、今までのは一体?という速さで振り向いて
リン「…!」
頭部のようなものが、ぱっくりと二つに割れた。
女「リン!!!」
リンを飲み込もうと、軟体を伸ばして
女「…っ、やめて!」
リン「おま、っ!」
「っ」
ビシャ
リン「な、に…やってんだ!」
リンの見開いた目、大きく開けた口が、ぼやけて見えた。
目の前がやけに青い。
要するに。
「…ぐ、…」
私はトウメイに頭から食われた。
リン「女っ!!」
その瞬間。
目の前の青が、激しく揺らいだ。
女「…」
まただ。
また、聞こえる。
「…す、けて」
「たすけて」
85 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:41:22 ID:tLU
目を閉じる。
トウメイの体は、温かかった。
それこそ生きた人間の体温と、何ら変わらない。
「このこを助けて」
「このこだけでもいいから」
女「…」
リン「…! …!」
リンが何事か大声で叫んで、私を引っ張り出そうと手を伸ばす。
私の手首を掴んだ彼の目が、一瞬、裂けそうなくらい大きくなった。
女(ああ)
「わたしのあかちゃんを」
女(彼にも、聞こえてるだろうか)
彼女の。…トウメイの声が
「…おねがい」
86 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:45:21 ID:tLU
「困ったな」
え?
何を言ってるの。
あなたが困るんじゃない。一番困るのは私なのに。
「とりあえず、落ち着いてくれ」
落ち着く?なんで?
私のおなかの中には、あなたと私の一部が結びついてできた、新しい命が宿ってるのに?
どう冷静になるっていうの?
「困ったな。…なあ、どうしよう」
それは私が一番聞きたいのに。
責任を取ってくれるって言ったじゃない。だから、私は、あの時…。
「この電話番号は、現在使われておりません」
「この電話番号は、現在使われておりません」
…
どう、しよう
87 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:48:46 ID:tLU
誰か、誰か助けてよ。
おなかの中では新しい命がぼこぼこ元気に動き回ってる。
今更殺せない。
でも、彼が一向に電話に出てくれない。
彼じゃない、この子の、お父さんが。
誰か
誰か助けてよ。
私一人じゃ、どうしようもできないのよ。
産めないよ。 育てられないよ。
「…おかあ、さん」
お母さん、助けて。
「おかあさん…」
「なんね、キョウコ」
「おかあ、さん。あのね、あのね。…ごめ、…んね」
「どうしたんね」
「私、私、産めない。彼が、私とこの子を捨てたの。ねえ、どうしよう。産めないよぉ…」
「…なーに言ってんの」
え?
88 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:53:27 ID:tLU
「産めないわけないでしょ。なんね、父親がいないと子どもは生まれてきちゃならんのか?」
「そうじゃないよ、けど、けど」
「キョウコ。よく聞きなさい」
「…父親なんて、また新しく探せばよか。あんたとその子を受け入れてくれる男ば、探さんね」
「でも、でも」
「それまでお母さんに頼れば良かがね。なにを心配してるとね」
「…」
おかあさん。
「とりあえず、戻っておいで。栄養つくもん食べさせてやるから」
おかあさん。
「…うん…」
「駅まで迎えに行くが。何時がいい?」
おかあさん。
「…あり、…あり、がとう…」
「…ふふ」
「なーに言ってるの、もう。気をつけて来なさいよ」
「…うん」
ねえ、私のあかちゃん。
あなたは良いお婆ちゃんを持ったよ。
私も頑張るからね。 一緒に、生きて行こうね。
89 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:56:57 ID:tLU
「えー、次はー、××ー。××ー」
がたん ごとん
「…あ」
ぼこん
「今、蹴ったね?」
「…ふふ。元気だねー」
私、決めたよ。
もう迷わないよ。
「きゃあああああああああ!!!」
ぱーん
「…な、なに?」
なに、あの音。
あの人、頭がない。
ちょっと、…なに、これ。
頬っぺたに、水がかかって。
なに
なに、これ
あかちゃん、
せっかく、 いっしょに
おかあさんにも おうえんしてもらったのに
いや
90 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:01:30 ID:tLU
「…あかちゃん」
女「…」
ゆっくり、目を開ける。
「あかちゃん、…守れなかった」
ああ、そうか。
この大きく肥大したお腹は、妊婦の証なんだ。
白い塊は、きっと
「あかちゃん、まもれなかったよ…」
女「ううん」
女「あなたは十分頑張ったよ」
女「辛かったね」
「…」
女「もう、休んでいいんだよ」
「本当に?」
女「うん。赤ちゃんとお母さんとでさ、一緒にゆっくり休みなよ」
「…」
視界が揺らぐ。 水の温度が、ゆっくりゆっくり下がっていく。
「あ」
「ありが、とう」
女「どういたしまして」
トウメイの頭部が、弾けた。
体が投げ出され、しりもちをつく。
女「…った」
リン「女!!」
女「あ、ごめん。大丈夫」
91 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:05:15 ID:tLU
リン「…今の、今の何だよ」
女「…」
トウメイの体が、さらさらした水となって、あふれた。
女「…おやすみ」
後には、小さな水溜りが残った。
リン「…」
女「…リンにも、見えた?」
リン「ああ」
女「…」バサ
女「久しぶりにやったな。…結構疲れるんだ、これ」ゴシゴシ
リン「あの、声と映像は。…まさか、こいつの」
女「うん。生前の、一番強い記憶」
リン「…」
女「妊婦さんだったんだね。かわいそうに」
92 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:09:55 ID:tLU
コツ コツ
リン「…なんで黙ってた」
女「はい?」
リン「さっきのは、…お前のやったことだろ?」
女「ええと、トウメイの記憶を見たこと?」
リン「そうだよ!俺がやつらに触ってもあんな反応はなかった!」
女「やっぱそうなんだ…」
リン「何だよ、さっきのは!?」
女「わ、私に言われても分かんないよ!ただ、触ったらああなるんだもん」
リン「いつもそうか?あんな風に生前の記憶を?」
女「そうだよ。で、終わったらああやって溶けて消えるの」
リン「…信じられん」
女「私だって最初はびっくりしたよ…」
リン「…ますます怪しいな、お前」
女「え!?いやいや、そんな」
リン「でも、まあ。使える」
リン「触れたら即成仏ってわけだ。俺がわざわざ叩ききるまでもないんだな」
女(もしかして、私を盾にしようとしてる?)
93 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:14:11 ID:tLU
女「で、でもね。あれすごく疲れるんだ」
リン「ふうん?」
女「終わったら悲しい気分になるし、頭も痛くなってくる」
リン「…どういうことだ。お前だけ…」
女「分かんない」
リン「…」
リン「まあ、いい。攻撃で殺すよりあっちのほうが寝覚めもいいからな」
女「あ、そうだよ。だから私、そうやってトウメイを倒してた」
リン「便利な能力だな。足手まといにはならなさそうだ」
女「…ど、どうも?」
リンは少し表情を和らげた。
リン「…生前の記憶か」
リン「そういうもの、無いかと思ってた」
女「…そう思っても不思議じゃないよ」
ただうごめき、こちらを飲もうとしてくる物体。
…人の、成れの果てだ。
94 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:18:37 ID:tLU
リン「お前のいた商店街と違って、外は結構クリアでまみれてる」コツ
女「うん」
リン「だから、気をつけろ。避けるのが一番だ」
女「…そうだね」
振り返って、ホームを見る。
あの妊婦が、きっと、お母さんにも赤ちゃんにも会えず死んでいった場所。
女「…」
私は彼女を救えたんだろうか?
リン「おい、行くぞ」
女「…うん」
水溜りが、もれた光を反射して、控えめな光を放っていた。
リン「…よ、っと。よし、いいぞ。クリアはいない」
女「おお、…って、駐車場?」
リン「ああ」チャリ
女「!」
あれ。まさか、あの駐車場に停まってる、綺麗な車は。
リン「荷物後部座席に入れろ。早くな」カチャ
女「ええええええ!?」
95 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:23:01 ID:tLU
リン「うるさい。クリアが来たらどうすんだ」
女「いや、え?く、車?」
リン「何か問題でも?」
…灰色の3部座席まである車。 家族のいる家庭に人気だったやつだ。CMでよく見た。
女「…リンが、運転すんの?」
リン「当たり前だろ」
飄々と言う。
女「めんき…」
免許、といいかけてやめた。この世界に法律などもはや存在しない。
女「…大丈夫なの?」
リン「いやならお前は走って着いてきたっていいんだぞ」
女「う、…」
かなり不安だ。いや、でも車体はぴかぴかだし、無事故ではあるんだろう。
リン「ほら、荷物」
女「…」
バム
リン「助手席に乗れ。シートベルトつけろよ」
女(…スピード狂とかじゃありませんように)
97 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:30:57 ID:tLU
どるん、と長く聞かなかったエンジン音がして、車が微動した。
リン「…じゃ、行くぞ」
女「…」
リン「あのなあ、俺は安全運転なほうだぞ」
女「う、うん」
小さく舌打をして、リンはハンドルを切った。滑らかな振動が、足の下から伝わってくる。
なるほど、…確かにリンの運転は見事なものだった。いや、まだ縁石から離れただけだけど。
リン「…とりあえず、北な。あ、そうだ」
女「ん?」
リンがふとブレーキを踏み、こちらに体を向けた。
リン「これから、よろしく」
白くて長い指を持つ手が、差し出される。
女「…!」
女「よ、よろしく。ふつつかものですがっ」
まともに触れた、リンの手。…他人の手は、予想していた以上に温かかった。
リン「なんだそれ」
ふん、と鼻で笑い、リンは手をひっこめた。そのまま運転を再開する。
女(…ああ)
これから彼と、二人で旅をするんだな。
当たり前のことが今更強く感じられて、思わず下を向いて、それから
…彼にバレないように、私は小さく微笑んだ。
98 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:32:18 ID:tLU
とりあえず出会い編終了です。
お付き合いありがとうございました。
また日を置いて書いていくと思いますので、よろしく!
99 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:43:21 ID:WNL
乙!
100 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:47:06 ID:XIw
1さん、お疲れ様です。
何だか昔読んだ新井素子作品を彷彿とさせる世界観ですねぇ。
“小説家になろう”とかで掲載する予定はないんですか?
101 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:51:18 ID:Up3
面白い!続きまってます!
一旦お疲れ!
103 :名無しさん@おーぷん :2015/09/09(水)20:29:18 ID:c0C
このまま終わってもいい位上手く纏まってるな
あぶない、と叫ぶより早く
足は動いていた。
トウメイはリンが警棒を振りかざした瞬間、今までのは一体?という速さで振り向いて
リン「…!」
頭部のようなものが、ぱっくりと二つに割れた。
女「リン!!!」
リンを飲み込もうと、軟体を伸ばして
女「…っ、やめて!」
リン「おま、っ!」
「っ」
ビシャ
リン「な、に…やってんだ!」
リンの見開いた目、大きく開けた口が、ぼやけて見えた。
目の前がやけに青い。
要するに。
「…ぐ、…」
私はトウメイに頭から食われた。
リン「女っ!!」
その瞬間。
目の前の青が、激しく揺らいだ。
女「…」
まただ。
また、聞こえる。
「…す、けて」
「たすけて」
85 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:41:22 ID:tLU
目を閉じる。
トウメイの体は、温かかった。
それこそ生きた人間の体温と、何ら変わらない。
「このこを助けて」
「このこだけでもいいから」
女「…」
リン「…! …!」
リンが何事か大声で叫んで、私を引っ張り出そうと手を伸ばす。
私の手首を掴んだ彼の目が、一瞬、裂けそうなくらい大きくなった。
女(ああ)
「わたしのあかちゃんを」
女(彼にも、聞こえてるだろうか)
彼女の。…トウメイの声が
「…おねがい」
86 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:45:21 ID:tLU
「困ったな」
え?
何を言ってるの。
あなたが困るんじゃない。一番困るのは私なのに。
「とりあえず、落ち着いてくれ」
落ち着く?なんで?
私のおなかの中には、あなたと私の一部が結びついてできた、新しい命が宿ってるのに?
どう冷静になるっていうの?
「困ったな。…なあ、どうしよう」
それは私が一番聞きたいのに。
責任を取ってくれるって言ったじゃない。だから、私は、あの時…。
「この電話番号は、現在使われておりません」
「この電話番号は、現在使われておりません」
…
どう、しよう
87 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:48:46 ID:tLU
誰か、誰か助けてよ。
おなかの中では新しい命がぼこぼこ元気に動き回ってる。
今更殺せない。
でも、彼が一向に電話に出てくれない。
彼じゃない、この子の、お父さんが。
誰か
誰か助けてよ。
私一人じゃ、どうしようもできないのよ。
産めないよ。 育てられないよ。
「…おかあ、さん」
お母さん、助けて。
「おかあさん…」
「なんね、キョウコ」
「おかあ、さん。あのね、あのね。…ごめ、…んね」
「どうしたんね」
「私、私、産めない。彼が、私とこの子を捨てたの。ねえ、どうしよう。産めないよぉ…」
「…なーに言ってんの」
え?
88 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:53:27 ID:tLU
「産めないわけないでしょ。なんね、父親がいないと子どもは生まれてきちゃならんのか?」
「そうじゃないよ、けど、けど」
「キョウコ。よく聞きなさい」
「…父親なんて、また新しく探せばよか。あんたとその子を受け入れてくれる男ば、探さんね」
「でも、でも」
「それまでお母さんに頼れば良かがね。なにを心配してるとね」
「…」
おかあさん。
「とりあえず、戻っておいで。栄養つくもん食べさせてやるから」
おかあさん。
「…うん…」
「駅まで迎えに行くが。何時がいい?」
おかあさん。
「…あり、…あり、がとう…」
「…ふふ」
「なーに言ってるの、もう。気をつけて来なさいよ」
「…うん」
ねえ、私のあかちゃん。
あなたは良いお婆ちゃんを持ったよ。
私も頑張るからね。 一緒に、生きて行こうね。
「えー、次はー、××ー。××ー」
がたん ごとん
「…あ」
ぼこん
「今、蹴ったね?」
「…ふふ。元気だねー」
私、決めたよ。
もう迷わないよ。
「きゃあああああああああ!!!」
ぱーん
「…な、なに?」
なに、あの音。
あの人、頭がない。
ちょっと、…なに、これ。
頬っぺたに、水がかかって。
なに
なに、これ
あかちゃん、
せっかく、 いっしょに
おかあさんにも おうえんしてもらったのに
いや
90 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:01:30 ID:tLU
「…あかちゃん」
女「…」
ゆっくり、目を開ける。
「あかちゃん、…守れなかった」
ああ、そうか。
この大きく肥大したお腹は、妊婦の証なんだ。
白い塊は、きっと
「あかちゃん、まもれなかったよ…」
女「ううん」
女「あなたは十分頑張ったよ」
女「辛かったね」
「…」
女「もう、休んでいいんだよ」
「本当に?」
女「うん。赤ちゃんとお母さんとでさ、一緒にゆっくり休みなよ」
「…」
視界が揺らぐ。 水の温度が、ゆっくりゆっくり下がっていく。
「あ」
「ありが、とう」
女「どういたしまして」
トウメイの頭部が、弾けた。
体が投げ出され、しりもちをつく。
女「…った」
リン「女!!」
女「あ、ごめん。大丈夫」
91 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:05:15 ID:tLU
リン「…今の、今の何だよ」
女「…」
トウメイの体が、さらさらした水となって、あふれた。
女「…おやすみ」
後には、小さな水溜りが残った。
リン「…」
女「…リンにも、見えた?」
リン「ああ」
女「…」バサ
女「久しぶりにやったな。…結構疲れるんだ、これ」ゴシゴシ
リン「あの、声と映像は。…まさか、こいつの」
女「うん。生前の、一番強い記憶」
リン「…」
女「妊婦さんだったんだね。かわいそうに」
92 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:09:55 ID:tLU
コツ コツ
リン「…なんで黙ってた」
女「はい?」
リン「さっきのは、…お前のやったことだろ?」
女「ええと、トウメイの記憶を見たこと?」
リン「そうだよ!俺がやつらに触ってもあんな反応はなかった!」
女「やっぱそうなんだ…」
リン「何だよ、さっきのは!?」
女「わ、私に言われても分かんないよ!ただ、触ったらああなるんだもん」
リン「いつもそうか?あんな風に生前の記憶を?」
女「そうだよ。で、終わったらああやって溶けて消えるの」
リン「…信じられん」
女「私だって最初はびっくりしたよ…」
リン「…ますます怪しいな、お前」
女「え!?いやいや、そんな」
リン「でも、まあ。使える」
リン「触れたら即成仏ってわけだ。俺がわざわざ叩ききるまでもないんだな」
女(もしかして、私を盾にしようとしてる?)
93 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:14:11 ID:tLU
女「で、でもね。あれすごく疲れるんだ」
リン「ふうん?」
女「終わったら悲しい気分になるし、頭も痛くなってくる」
リン「…どういうことだ。お前だけ…」
女「分かんない」
リン「…」
リン「まあ、いい。攻撃で殺すよりあっちのほうが寝覚めもいいからな」
女「あ、そうだよ。だから私、そうやってトウメイを倒してた」
リン「便利な能力だな。足手まといにはならなさそうだ」
女「…ど、どうも?」
リンは少し表情を和らげた。
リン「…生前の記憶か」
リン「そういうもの、無いかと思ってた」
女「…そう思っても不思議じゃないよ」
ただうごめき、こちらを飲もうとしてくる物体。
…人の、成れの果てだ。
94 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:18:37 ID:tLU
リン「お前のいた商店街と違って、外は結構クリアでまみれてる」コツ
女「うん」
リン「だから、気をつけろ。避けるのが一番だ」
女「…そうだね」
振り返って、ホームを見る。
あの妊婦が、きっと、お母さんにも赤ちゃんにも会えず死んでいった場所。
女「…」
私は彼女を救えたんだろうか?
リン「おい、行くぞ」
女「…うん」
水溜りが、もれた光を反射して、控えめな光を放っていた。
リン「…よ、っと。よし、いいぞ。クリアはいない」
女「おお、…って、駐車場?」
リン「ああ」チャリ
女「!」
あれ。まさか、あの駐車場に停まってる、綺麗な車は。
リン「荷物後部座席に入れろ。早くな」カチャ
女「ええええええ!?」
95 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:23:01 ID:tLU
リン「うるさい。クリアが来たらどうすんだ」
女「いや、え?く、車?」
リン「何か問題でも?」
…灰色の3部座席まである車。 家族のいる家庭に人気だったやつだ。CMでよく見た。
女「…リンが、運転すんの?」
リン「当たり前だろ」
飄々と言う。
女「めんき…」
免許、といいかけてやめた。この世界に法律などもはや存在しない。
女「…大丈夫なの?」
リン「いやならお前は走って着いてきたっていいんだぞ」
女「う、…」
かなり不安だ。いや、でも車体はぴかぴかだし、無事故ではあるんだろう。
リン「ほら、荷物」
女「…」
バム
リン「助手席に乗れ。シートベルトつけろよ」
女(…スピード狂とかじゃありませんように)
97 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:30:57 ID:tLU
どるん、と長く聞かなかったエンジン音がして、車が微動した。
リン「…じゃ、行くぞ」
女「…」
リン「あのなあ、俺は安全運転なほうだぞ」
女「う、うん」
小さく舌打をして、リンはハンドルを切った。滑らかな振動が、足の下から伝わってくる。
なるほど、…確かにリンの運転は見事なものだった。いや、まだ縁石から離れただけだけど。
リン「…とりあえず、北な。あ、そうだ」
女「ん?」
リンがふとブレーキを踏み、こちらに体を向けた。
リン「これから、よろしく」
白くて長い指を持つ手が、差し出される。
女「…!」
女「よ、よろしく。ふつつかものですがっ」
まともに触れた、リンの手。…他人の手は、予想していた以上に温かかった。
リン「なんだそれ」
ふん、と鼻で笑い、リンは手をひっこめた。そのまま運転を再開する。
女(…ああ)
これから彼と、二人で旅をするんだな。
当たり前のことが今更強く感じられて、思わず下を向いて、それから
…彼にバレないように、私は小さく微笑んだ。
98 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:32:18 ID:tLU
とりあえず出会い編終了です。
お付き合いありがとうございました。
また日を置いて書いていくと思いますので、よろしく!
99 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:43:21 ID:WNL
乙!
100 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:47:06 ID:XIw
1さん、お疲れ様です。
何だか昔読んだ新井素子作品を彷彿とさせる世界観ですねぇ。
“小説家になろう”とかで掲載する予定はないんですか?
101 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)22:51:18 ID:Up3
面白い!続きまってます!
一旦お疲れ!
103 :名無しさん@おーぷん :2015/09/09(水)20:29:18 ID:c0C
このまま終わってもいい位上手く纏まってるな
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