女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part4
70 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:26:05 ID:tLU
リンが大きなリュックサクに缶詰やらお米やらを詰め込んでいく様子を、ぼうっと眺める。
女(…リンは、この物資を補給したら出て行くつもりなんだろうか)
女(だろうなあ。旅してるって言ったし…)
女(旅、かあ。一人でなんて大変だな。私には到底できないや)
リン「おい」
女「!あ、はい」
リン「次は電池を補給したい。家電屋は?」
女「あ、こっちだよ」
女(…ふと思ったけどさあ)
女(…私は、どうすべきなの?)
リンを見る。
リン「…」
仏頂面で、恐らく補給リスト?を睨む少年。
女(…ここにいる、のかと思った)
女(というか、それが目的だと、てっきり)
そのまなざしの真剣さから、それはないと今はっきり分かった。
71 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:32:57 ID:tLU
電池、換えの懐中電灯、日用雑貨、タオル、石鹸…
全てを滞りなく補給したリンは、ふむふむと頷いた。
リン「これで最後だ」
女「…洋服屋さん?」
リン「ああ」
女(そろそろ秋だし、衣替えでもするのかな)
リン「…」チラ
女「?…選ばないの?」
リン「それはこっちのセリフだ」
女「は、い?」
リン「お前はさっきから、俺の荷詰めを見ているだけだが、自分の準備はしてるのか?」
女「じゅんび?」
リン「…ああ」
女「何の?」
リンの目が、大きく見開かれた。 黒目がやけに大きくて、子どもみたいな表情になる。
リン「…だから、ここを出る」
女「はあ?」
リン「はあ?」
ここを出る?…はあ?
女「ええと、どういう」
リン「これから寒くなるから、防寒はしっかりしておけ。服は極力、動きやすいパンツスタイルのものな」スタスタ
女「ええ!?」
73 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:38:09 ID:tLU
女「ちょ、ちょっと待ってよ」
リン「…」
冬物のシャツを見ていたリンが、鬱陶しそうに顔を上げた。
女「ええと、私、ここから出るの?」
リン「逆に出ないのか」
淀みない手つきで、必要最低限のものだけカゴに入れていく。
女「で、…」
考えもしなかった。
ここから出る。ひとりぼっちだけど、安全で、工夫すればどれくらいでも生きていけるここを
女「…で、る?」
リン「…」
リンが手を止めて、こちらをじっと見た。
その瞳には、特に何の感情も浮かんでいない。
行くのか?行かないのか? 事実確認だけを伺うような、事務的な光だけが宿っている。
女「…ちょっと」
リン「別に強要はしないが」
女「ごめん、考えさせて」
リン「俺は昼にはここを出る」
女「…」
なんて性急な奴だ。
リン「まあ考えるのもいいが、早めにな。俺はここにいるのは得策ではないと思う」
女「…」
74 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:44:31 ID:tLU
女「…」
リン「必要なものは揃った。もういい」
女「そ、そっか」
結局私は、どの衣類も取らなかった。
リンは、それ以上聞かなかった。
女(…外には、トウメイだっているでしょ)
女(それから、家もないし、野宿だってきっとするだろうし)
危険だ。それに、なにより、…
リン「何してる。早く入れ。閉めれない」
女「あ、…うん」
このぶっきらぼうな異性と、って。ねえ。
家に帰ると、リンは手早く荷造りを済ませた。
少しだけ膨らんだ登山用のリュックサックを背負うと、ちらりとこちらを見た。
リン「…11時半。もう出る」
女「うん」
リン「まあ、元気でやれ」
女「ありがとう」
なんとなく、着いていく。
リン「…何だ?」
女「いや、見送りくらいしようかなと」
リン「いらん」
女「まあ、でも。…いいじゃん」
なんとなく、離れるのが惜しい。
75 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:52:12 ID:tLU
リン「よ、…っと」
ガラ
商店街を抜けると、すぐ駅だ。
リンはそこを目指して歩き、また自分の旅を続けるだろう。
女「…じゃあね、リン。短い付き合いだったけど」
リン「ああ」
女「元気でね」
リン「ああ」
女「…」
リンは振り返らず、シャッターをくぐった。
誰も吸わない、新鮮な外気が流れ込んできた。
錆びた商店街の床に、空間に、アーチに、それから、私の肺の中に。
女「…」
リンは最後に、小さな会釈だけした。
私は、…何だか、これ以上彼の背中を見ていたら、自分が取り返しの着かないことをしてしまったんじゃないか。
…そう思ってしまう気がして
女(…帰ろう)クル
そのときだった。
リン「女」
女「…」
リン「お前は、…平気なのか?こんなところで、一人ぼっちで」
女「…」
思わず振り返った。
しかし彼の姿は見えなかった。 言うだけ言って、満足した。俺は消えるぜ。とでも、言わんばかりに。
76 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:58:58 ID:tLU
女(ひとりぼっちで)
女(…本当だ)
女(ここで、死ぬまで一人?折角、リンが来たのに)
女(こんなチャンスを、みすみす…)
誰でもいいから、傍にいてほしいのに。
そう思ったから、あんな出鱈目な放送までしてたのに。
女「…!」
ガシャン
女「…っ、リ、リン!!」
リン「…」クル
女「…あ、」
リン「なんだ」
女「…っ」
ここから出なくちゃ。
女「…10分で、…準備するからっ」
麻痺した頭でも、分かってる。
このまま一人で生きるのはいや。一人で死ぬのはいや。
女「…だから、…待ってて…」
リン「…」ハァ
リン「…ゆっくりでいい」
リン「防寒具。タオル、懐中電灯、日用雑貨…。あとはどうしても持っていきたいもの。それだけ詰めろ」
リン「どうせ、行く先々で補給はできる」
女「…う、うん!」
リン「行け」
女「分かった!」
77 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:05:34 ID:tLU
修学旅行で使おうと思っていた、大きなボストンバッグを引っ張り出した。
それから、お母さんがくれた肩掛けの鞄も。ちょっと高いやつを。
女「…え、っと」
服と、日用品と、それから
女「…」チャリ
家族写真一枚と、お母さんの気に入っていたネックレスと、お父さんの眼鏡の替えを持っていくことに決めた。
女「…よし」
ガチャ
女「……」
ばいばい、私の町。
女「ばいばい、お母さん。お父さん」
バタン
リン「…」
女「リン!」
リン「…」チラ
女「ごめん、遅くなっ…うわ!」ズシャア
リン「馬鹿か」
女「…ご、ごめん」
リン「焦んなくていいって言っただろ。ほら」グイ
女「…ありがと」
リン「ここには当分戻ってこないけど、いいんだな?」
女「うん」
リン「…そうか。じゃあ、着いて来い。こっちだ」
女「分かった」
久しぶりに真っ向から浴びた太陽は、痛いくらいにまぶしかった。
78 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:09:40 ID:tLU
=駅
女「うわ、…」
なんじゃこりゃ。
リン「お前、本当にひきこもりだったんだな」
女「…お恥ずかしい限りで」
久々に、本当に久々に見た駅は、その、なんというか
女「…自然に帰りつつあるね」
ホームに絡みついたツタ、床の割れ目から生える草、かしいだ電車。
リン「どこもこんなものだ」
女「へ、え…」
リン「足元気をつけろ。またコケるなよ」
女「う。はい」
リン「…この地図見てみろ」
女「うん」
リン「俺は、こっちの山間部から来た。で、ここを経由してまた北上するつもりだ」
女「うん」
リン「それでいいな?」
女「勿論」
リン「結構」
79 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:11:15 ID:WNL
俺こういうのすげぇ好き
長編なの?
80 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:15:58 ID:tLU
女「リンは、どうやってここまで来たの?」
リン「ん?」
女「歩いて?」
リン「んなわけあるか」
女「まさか、電車で?」
リン「…」
お前馬鹿か。 言われなくても視線は口より多くを語る。
女(でも、わざわざ西口にまわってるけど…。どこ行くのよ)
とうの昔に雑踏の絶えた駅に、再び二人の靴音が響く。
女(…静か。それに、綺麗かもしれない)
リン「…」コツ
女「うわ」ドン
リン「…」ジロ
女「ご、ごめん。だって急に止まるから」
リン「…静かにしろ」
女「え?」
81 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:21:13 ID:tLU
シャキン、と彼の下げた手の中で音がした。
女「…え、な、何?」
リン「だから静かにしろって」
女「いやいや、なんで急に警棒」
リン「…」
空気が、変わった気がした。
女(…寒い)ゾワ
リン「いいか、…俺の後ろを着いて来い。離れるなよ」
女「う、…うん」
警棒を手にしたリンが、さっきよりずっとゆっくりとした歩調で、足を進める。
リン「…」
動く気配すらないエスカレーターを覗き込み、またゆっくり、音を殺して歩く。
女「…ねえ、リン?」
リン「だから、…。黙れ」
女「ご、ごめ」
コツン
リン「…!」バッ
リンがすばやく振り向いた。 彼の束ねていない、肩まである黒髪が、私の頬にかかる。
コツン。
暗い駅のホームのむこうから、音がする。
82 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:26:55 ID:tLU
女「…」
コツ ピシャ
リン「…くそ。やっぱり、いるか」
この音を、…私は聞いた事がある。
コツ ピシャ
ピシャ ピタ
女「…あ」
線路を横切って、体を揺らしながら、青く鈍く光りながら、
現れたのは
「…」
女「…トウ、メイ」
リン「下がれ!」
それは相変わらず、半透明で青くて、ぷよぷよした質感で。
つるんとした体をしている。
お腹が以上に大きくて、水を湛えたその中に、白い脂肪の塊のような物が浮かんでいる。
女「…こっち、…来る…」
リン「のろい。…倒せる」
83 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:32:35 ID:tLU
トウメイの形は、個体によって全く違う。
私が商店街で会った数匹も、一匹はクモのような足を持ってたり、一匹はただの丸い塊だったり…
このトウメイは、少し崩れた人間のような形だった。
少なくとも、不恰好な二足歩行ができる。
リン「…」
リンが警棒を硬く握り締めた。 手の色が、いつもよりずっと白くなる。
「…ぁ」
ビシャ
リン「…いいか、俺が奴のほうへ走って行って攻撃する。お前は、ここにいろ」
女「…で、でも」
リン「動きが遅いから大丈夫だ。すぐ終わらせる」
「…ぅ、ー」
ビシャ
リン「…っ!」タッ
リンの体がしなり、猫のように走り出した。
トウメイは、頭部のようなものを、少し傾けて彼を見る。
女(…遅い)
リンが警棒を振りかざした。
「…ぁああ…」
女「…!」
リンが大きなリュックサクに缶詰やらお米やらを詰め込んでいく様子を、ぼうっと眺める。
女(…リンは、この物資を補給したら出て行くつもりなんだろうか)
女(だろうなあ。旅してるって言ったし…)
女(旅、かあ。一人でなんて大変だな。私には到底できないや)
リン「おい」
女「!あ、はい」
リン「次は電池を補給したい。家電屋は?」
女「あ、こっちだよ」
女(…ふと思ったけどさあ)
女(…私は、どうすべきなの?)
リンを見る。
リン「…」
仏頂面で、恐らく補給リスト?を睨む少年。
女(…ここにいる、のかと思った)
女(というか、それが目的だと、てっきり)
そのまなざしの真剣さから、それはないと今はっきり分かった。
71 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:32:57 ID:tLU
電池、換えの懐中電灯、日用雑貨、タオル、石鹸…
全てを滞りなく補給したリンは、ふむふむと頷いた。
リン「これで最後だ」
女「…洋服屋さん?」
リン「ああ」
女(そろそろ秋だし、衣替えでもするのかな)
リン「…」チラ
女「?…選ばないの?」
リン「それはこっちのセリフだ」
女「は、い?」
リン「お前はさっきから、俺の荷詰めを見ているだけだが、自分の準備はしてるのか?」
女「じゅんび?」
リン「…ああ」
女「何の?」
リンの目が、大きく見開かれた。 黒目がやけに大きくて、子どもみたいな表情になる。
リン「…だから、ここを出る」
女「はあ?」
リン「はあ?」
ここを出る?…はあ?
女「ええと、どういう」
リン「これから寒くなるから、防寒はしっかりしておけ。服は極力、動きやすいパンツスタイルのものな」スタスタ
女「ええ!?」
73 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:38:09 ID:tLU
女「ちょ、ちょっと待ってよ」
リン「…」
冬物のシャツを見ていたリンが、鬱陶しそうに顔を上げた。
女「ええと、私、ここから出るの?」
リン「逆に出ないのか」
淀みない手つきで、必要最低限のものだけカゴに入れていく。
女「で、…」
考えもしなかった。
ここから出る。ひとりぼっちだけど、安全で、工夫すればどれくらいでも生きていけるここを
女「…で、る?」
リン「…」
リンが手を止めて、こちらをじっと見た。
その瞳には、特に何の感情も浮かんでいない。
行くのか?行かないのか? 事実確認だけを伺うような、事務的な光だけが宿っている。
女「…ちょっと」
リン「別に強要はしないが」
女「ごめん、考えさせて」
リン「俺は昼にはここを出る」
女「…」
なんて性急な奴だ。
リン「まあ考えるのもいいが、早めにな。俺はここにいるのは得策ではないと思う」
女「…」
74 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:44:31 ID:tLU
女「…」
リン「必要なものは揃った。もういい」
女「そ、そっか」
結局私は、どの衣類も取らなかった。
リンは、それ以上聞かなかった。
女(…外には、トウメイだっているでしょ)
女(それから、家もないし、野宿だってきっとするだろうし)
危険だ。それに、なにより、…
リン「何してる。早く入れ。閉めれない」
女「あ、…うん」
このぶっきらぼうな異性と、って。ねえ。
家に帰ると、リンは手早く荷造りを済ませた。
少しだけ膨らんだ登山用のリュックサックを背負うと、ちらりとこちらを見た。
リン「…11時半。もう出る」
女「うん」
リン「まあ、元気でやれ」
女「ありがとう」
なんとなく、着いていく。
リン「…何だ?」
女「いや、見送りくらいしようかなと」
リン「いらん」
女「まあ、でも。…いいじゃん」
なんとなく、離れるのが惜しい。
75 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)20:52:12 ID:tLU
リン「よ、…っと」
ガラ
商店街を抜けると、すぐ駅だ。
リンはそこを目指して歩き、また自分の旅を続けるだろう。
女「…じゃあね、リン。短い付き合いだったけど」
リン「ああ」
女「元気でね」
リン「ああ」
女「…」
リンは振り返らず、シャッターをくぐった。
誰も吸わない、新鮮な外気が流れ込んできた。
錆びた商店街の床に、空間に、アーチに、それから、私の肺の中に。
女「…」
リンは最後に、小さな会釈だけした。
私は、…何だか、これ以上彼の背中を見ていたら、自分が取り返しの着かないことをしてしまったんじゃないか。
…そう思ってしまう気がして
女(…帰ろう)クル
そのときだった。
リン「女」
女「…」
リン「お前は、…平気なのか?こんなところで、一人ぼっちで」
女「…」
思わず振り返った。
しかし彼の姿は見えなかった。 言うだけ言って、満足した。俺は消えるぜ。とでも、言わんばかりに。
女(ひとりぼっちで)
女(…本当だ)
女(ここで、死ぬまで一人?折角、リンが来たのに)
女(こんなチャンスを、みすみす…)
誰でもいいから、傍にいてほしいのに。
そう思ったから、あんな出鱈目な放送までしてたのに。
女「…!」
ガシャン
女「…っ、リ、リン!!」
リン「…」クル
女「…あ、」
リン「なんだ」
女「…っ」
ここから出なくちゃ。
女「…10分で、…準備するからっ」
麻痺した頭でも、分かってる。
このまま一人で生きるのはいや。一人で死ぬのはいや。
女「…だから、…待ってて…」
リン「…」ハァ
リン「…ゆっくりでいい」
リン「防寒具。タオル、懐中電灯、日用雑貨…。あとはどうしても持っていきたいもの。それだけ詰めろ」
リン「どうせ、行く先々で補給はできる」
女「…う、うん!」
リン「行け」
女「分かった!」
77 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:05:34 ID:tLU
修学旅行で使おうと思っていた、大きなボストンバッグを引っ張り出した。
それから、お母さんがくれた肩掛けの鞄も。ちょっと高いやつを。
女「…え、っと」
服と、日用品と、それから
女「…」チャリ
家族写真一枚と、お母さんの気に入っていたネックレスと、お父さんの眼鏡の替えを持っていくことに決めた。
女「…よし」
ガチャ
女「……」
ばいばい、私の町。
女「ばいばい、お母さん。お父さん」
バタン
リン「…」
女「リン!」
リン「…」チラ
女「ごめん、遅くなっ…うわ!」ズシャア
リン「馬鹿か」
女「…ご、ごめん」
リン「焦んなくていいって言っただろ。ほら」グイ
女「…ありがと」
リン「ここには当分戻ってこないけど、いいんだな?」
女「うん」
リン「…そうか。じゃあ、着いて来い。こっちだ」
女「分かった」
久しぶりに真っ向から浴びた太陽は、痛いくらいにまぶしかった。
78 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:09:40 ID:tLU
=駅
女「うわ、…」
なんじゃこりゃ。
リン「お前、本当にひきこもりだったんだな」
女「…お恥ずかしい限りで」
久々に、本当に久々に見た駅は、その、なんというか
女「…自然に帰りつつあるね」
ホームに絡みついたツタ、床の割れ目から生える草、かしいだ電車。
リン「どこもこんなものだ」
女「へ、え…」
リン「足元気をつけろ。またコケるなよ」
女「う。はい」
リン「…この地図見てみろ」
女「うん」
リン「俺は、こっちの山間部から来た。で、ここを経由してまた北上するつもりだ」
女「うん」
リン「それでいいな?」
女「勿論」
リン「結構」
79 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:11:15 ID:WNL
俺こういうのすげぇ好き
長編なの?
80 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:15:58 ID:tLU
女「リンは、どうやってここまで来たの?」
リン「ん?」
女「歩いて?」
リン「んなわけあるか」
女「まさか、電車で?」
リン「…」
お前馬鹿か。 言われなくても視線は口より多くを語る。
女(でも、わざわざ西口にまわってるけど…。どこ行くのよ)
とうの昔に雑踏の絶えた駅に、再び二人の靴音が響く。
女(…静か。それに、綺麗かもしれない)
リン「…」コツ
女「うわ」ドン
リン「…」ジロ
女「ご、ごめん。だって急に止まるから」
リン「…静かにしろ」
女「え?」
81 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:21:13 ID:tLU
シャキン、と彼の下げた手の中で音がした。
女「…え、な、何?」
リン「だから静かにしろって」
女「いやいや、なんで急に警棒」
リン「…」
空気が、変わった気がした。
女(…寒い)ゾワ
リン「いいか、…俺の後ろを着いて来い。離れるなよ」
女「う、…うん」
警棒を手にしたリンが、さっきよりずっとゆっくりとした歩調で、足を進める。
リン「…」
動く気配すらないエスカレーターを覗き込み、またゆっくり、音を殺して歩く。
女「…ねえ、リン?」
リン「だから、…。黙れ」
女「ご、ごめ」
コツン
リン「…!」バッ
リンがすばやく振り向いた。 彼の束ねていない、肩まである黒髪が、私の頬にかかる。
コツン。
暗い駅のホームのむこうから、音がする。
82 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:26:55 ID:tLU
女「…」
コツ ピシャ
リン「…くそ。やっぱり、いるか」
この音を、…私は聞いた事がある。
コツ ピシャ
ピシャ ピタ
女「…あ」
線路を横切って、体を揺らしながら、青く鈍く光りながら、
現れたのは
「…」
女「…トウ、メイ」
リン「下がれ!」
それは相変わらず、半透明で青くて、ぷよぷよした質感で。
つるんとした体をしている。
お腹が以上に大きくて、水を湛えたその中に、白い脂肪の塊のような物が浮かんでいる。
女「…こっち、…来る…」
リン「のろい。…倒せる」
83 :名無しさん@おーぷん :2015/09/08(火)21:32:35 ID:tLU
トウメイの形は、個体によって全く違う。
私が商店街で会った数匹も、一匹はクモのような足を持ってたり、一匹はただの丸い塊だったり…
このトウメイは、少し崩れた人間のような形だった。
少なくとも、不恰好な二足歩行ができる。
リン「…」
リンが警棒を硬く握り締めた。 手の色が、いつもよりずっと白くなる。
「…ぁ」
ビシャ
リン「…いいか、俺が奴のほうへ走って行って攻撃する。お前は、ここにいろ」
女「…で、でも」
リン「動きが遅いから大丈夫だ。すぐ終わらせる」
「…ぅ、ー」
ビシャ
リン「…っ!」タッ
リンの体がしなり、猫のように走り出した。
トウメイは、頭部のようなものを、少し傾けて彼を見る。
女(…遅い)
リンが警棒を振りかざした。
「…ぁああ…」
女「…!」
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