女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part13
216 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:57:47 ID:1mE
確かに。隙間から流れ込んできたのは、秋夜の涼しげな風だ。
リン「職員用のか…。なるほど、マップに記載していないわけだ」
大きくドアを開きながら、リンが呟いた。
階段を下りた先に、小さな駐車場入り口が見えた。
女「…ここね」
リン「ああ」
リンが先に行き、金網でできた入り口の扉を開ける。と
リン「…いや。おい、お前ら来るな。…奴らだ」
女「え、…」
心臓がどくん、と脈打った。
リン「…4体もいやがる。…こんな所に集まってたのか」
女「リン。…どうするの」
リン「静かに。…車が3台確認できる。おい、どれがお前の車だ?」
コマリ「…ええと、…小さいやつ」
リン「…。一つは外車、二つは黒と赤の軽自動車。どっちだ」
コマリ「…」
考え込むコマリに、リンはイラついたような視線を送る。
コマリ「…ごめんなさい。分からない…」
リン「…はぁ」
女「リン。…そんな、仕方ないじゃない」
リン「もういい。あいつらがいなくなるまで待つ。それで探せばいいしな」
リンは乱暴に階段に腰を下ろした。コマリは申し訳なさそうに顔を伏せる。
217 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:01:50 ID:1mE
女「リン、トウメイはどこにいるの」
リン「見なくて良い。気づかれたら厄介だ。…駐車場をあてもなくフラついてる」
女「そっか…」
朝が来たら、消えるだろうか。
もし、消えなかったら…?
コマリ「…」モゾ
コマリが身をよじり、私の腕を掴んだ。
女「大丈夫だよ、コマリ。なんとかなるって」
くしゃくしゃと頭を撫でてあげると、コマリは小さく頷いた。
リン「…」
リンはそんな様子を、感情のこもらない目で見つめていた。
何分経っただろうか。
ただぼんやりと、3人階段の最上部に腰掛ける。
欠伸が出た。
リン「…」
そしてリンに睨まれた。
女「…仮眠とっちゃだめ?」
リン「ふざけるな。俺が一番ねむいし疲れてる」
218 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:06:40 ID:1mE
コマリ「二人とも、ごめんね」
女「ううん、いいんだよ」
リン「大体お前が昼間に俺たちをからかわなければ、事は円滑に進んだんだ」
コマリ「…だって。遊んで欲しくて」
リン「くだらない。あれはただ俺たちを馬鹿にしてただけだろ」
女「あー、と。ちょっと、リン。相手は子どもだよ」
リン「知るか。分別の効かない年齢という訳でもないだろ」
女「もう、やめてってば」
コマリ「…」
コマリが薄く桃色に染まった膝を抱えた。
コマリ「…お母さんに、早く会いたい」
リン「…」
リンが首をたれ、忌々しげに溜息をついた。
リン「…ガキが。辛いのは自分ひとりだと思ってる」
女「リン」
リン「俺は。…いや、俺らだって状況は同じだったんだぞ」
女「コマリはまだ、子どもだもん。私達とは全然違うよ」
リン「…」
言ってから、気づいた。5年前、リンは11歳だ。コマリと、そんなに変わらない。
219 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:12:54 ID:1mE
リン「…俺だって親と離れた」
コマリ「…」
リン「女だってそうだろ。…なあ」
女「もう、やめよう」
コマリ「…ぐすっ」
コマリがついに、自分の膝に顔をうずめてしまった。
子どもの空っぽだった心を、“親”というワードが切なくつついたのだ。
女「…コマリ。泣かないで」
リン「泣くな。泣いたってお前の母親は来てはくれない」
女「リンっ」
リン「事実だろ。誰も助けてはくれないんだ。…誰もな」
女「いい加減にして。殴るよ」
ぎゅっと拳を固めると、リンは意外そうに目を瞬かせた。
リン「へえ」
女「…コマリをわざと刺激しないで」
リン「…」
リンは暫く、私の腕にしがみついてすすり泣き始めたコマリを見ていた。
やがて、私の顔に視線を戻す。
リン「会って半日のガキに、よくそこまで感情移入できるな」
女「…」
リン「俺は、…どうとも思わない。残念ながら」
女「リン、…。あなた本当、可哀相だよね。もういい」
私はついにリンに背を向けた。おなかの中に熱い怒りが溜まっていくようだった。
220 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:19:28 ID:1mE
女「コマリ、泣かないで。リンは冷めた人間だからああいうことが言えるんだよ」
コマリの頭をなでながら、優しく言う。
ひっく、ひっくとしゃっくり上げる彼が、可哀相でならなかった。
女(よく感情移入できるな、じゃないわよ)
生きてる人間以外には冷めた態度なんて、どうかしている。
自分の境遇が厳しかったのは、分かる。リンもリンなりに、想像を絶する辛さもあったろう。
…何も聞かせてはくれないけれど。
でも、だからこそ、他人には優しくすべきなんだ。
女「…」ポフポフ
コマリは涙を流し続けた。
リン「…」
リンは秋風に髪をなびかせながら、だんまりを決め込んでいる。
と。
リン「おい」
肩越しに声をかけられた。
女「…」
無視する。
リン「おいって」
リンの手が肩に触れた。
女「何。触んないで冷血人間」
リン「…様子がおかしい」
女「え?」
リン「クリアの動きがおかしい。…集まっている」
221 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:25:26 ID:1mE
女「本当に」
コマリを抱いたまま振り向くと、リンはすでに立ち上がっていた。
リン「…まずいな」
女「リン。…どうなってるの」
リン「こっちに来る」
月が高い。夜明けまでは長い。
私は唾を飲み下した。
リン「…多分そのガキの泣き声を聞きつけたな」
コマリ「…っ」
女「そん、な」
リン「もうバレてる。確実だ」
コマリ「ごめんな、…さい」
リン「謝られても遅いし、何の解決にもならない」
リンがポケットから黒い手袋を取り出し、両手にはめた。
リン「迎え撃つ。お前らは邪魔だから後ろの部屋に入っておけ」
女「…でも」
リン「ぐずぐずするな」
女「4体だよ?リン一人じゃ」
リン「いいから。…さっさとしろ」
222 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:31:25 ID:1mE
唇を引き結んだ。警棒を伸ばして立つリンの背中を、見つめる。
リン「…」
しっしっと、犬でも追い払うように後ろ手を払うリン。
女「私がやる」
背中に声をかけた。
リン「いい」
女「…私だって戦えるよ」
リン「この間だって俺に助けられてた」
女「確かに、トウメイに武器を振るうのは抵抗があるよ。人間だったものだもん。でも」
リン「記憶を読めば助けてやれる、っていうことか?」
はん、とリンが冷たく笑った。
リン「何の正義感なんだ、それ?誰が頼んだ?もうアレは人じゃない。処分するだけだ」
女「でも、何かを伝えたくてさ迷ってるんだよ」
リン「それはお前の主観だ。資料でも読んだだろ。あいつらは、仲間を増やしたいんだ」
リン「お前のお人よしに付き合う義理はない。下がれ」
女「…っ」
胸が痛かった。
リンは、トウメイを障害物としか考えてなくて。
それに、私の事は…
女「信用してないんだね」
リン「…」
女「…ねえ、会って数日だけど、信用してって言うのは、駄目なことかな」
223 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:36:22 ID:1mE
ぴしゃ、と水音がした。
リンはトウメイから目を離さない。
女「…コマリ、部屋に入ってて」
コマリ「でも」
女「大丈夫だから」
リン「ふざけるな、お前も」
バタン
リン「…馬鹿。何がしたいんだ」
女「私もやるって、言ってるの」
リン「いい加減にしろよ。あのな、信用するとかしないとか、そういう問題ですらない」
リン「俺が処理するのが一番現実的で安全だからだ。わざわざお前を危険にさらす意味は無い」
女「でも、私お荷物は嫌だもん」
リンのほうへ近づき、同じ位置に立つ。
リン「最後の警告だ。下がれ」
女「うるさい。リンの馬鹿。友達を助けるのは当たり前でしょ」
リンの口が、開いた。
リン「ともだ、ち?」
女「ん」
トウメイが、金網からにじみ出るようにこちらへ向かってきている。
私は警棒を抜いた。
使わなくても、握っていると安心する。
224 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:41:40 ID:1mE
リン「…」
リンの表情が、ぽかんとしたまま固まっている。
女「何か変なこと、言った?」
リン「…俺とお前は友達なのか?」
女「うん」
リン「いつから」
女「会った時から」
ぴしゃ、 ばしゃ。
トウメイが軟体を伸ばし、階段を登ってくる。
リン「…」
リン「お前さ」
女「うん」
リン「…」
リン「…一緒に、…してくれるのか」
女「うん」
リン「俺のせいでケガするかもしれないぞ。守ってやれないかもしれないぞ」
女「大丈夫。そんなことより、私が何もしないでリンが傷つくほうが嫌だ」
リン「…」
女「私、変かなあ。会って3日のリンに、ここまでするって」
リン「変だ」
ぱしゃ、ぴしゃ。
女「そっか、変か」
女「…でも、リンだって。私を守ってくれたし、危険から遠ざけようとしてくれてるじゃない。会って3日なのに」
彼は、優しいのだ。
225 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:46:04 ID:1mE
リン「…」
青い液状の体が、私達へと手を伸ばす。
リン「…左の1体」
女「え?」
リン「左の1体だけなら、やらせてやる」
女「分かった」
リンが堅く警棒を握り締めた。
リン「3,2,1で突っ込む。いいか」
女「オッケー」
リンの唇が一瞬、戦慄いた。
リン「…3,2」
いち。
リンと私は、同時に地面を蹴った。
226 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:50:08 ID:1mE
リンが目一杯広げた警棒で、右の2体をなぎ倒す。
倒せてはいない。横に傾いだだけだ。
リン「…気をつけろ!固い!」
叫んだが、関係はないのだ。
私に、トウメイの固さや大きさや、速さなんて。
女「…」
ただ、手をふれてやるだけでいい。
細長い形をしたトウメイに向き合い、私はそっと手を伸ばした。
人差し指が青いトウメイの体に触れ、
…言いつけを破ることにはなるが、私は傍にいた大き目のトウメイにも手を触れた。
目の前に、青が広がった。
227 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:56:15 ID:1mE
彼女のことは、出会ったときから好きだった。
まあ、率直に言うとタイプだったのだ。
家計を支えるためにアルバイトを転々とし、ついにここにたどり着いた、彼女。
「実は、5歳になる息子がいまして」
面接の時、はにかむようにして言った。
既婚、か。
それに子持ち。
少しばかり残念だった。
一児の母とは思えないほどの美しさが、彼女にはあった。
それだけじゃない。
彼女の優しさ、仕事に対する熱心さ、子どもへの愛情、
全てを知るたびに、私の心は揺れ動いた。
しかし、揺れるだけだった。彼女には彼女の幸せがある。それで十分だった。
228 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)15:04:08 ID:1mE
彼女の夫が、彼女と子どもに暴力を振るっていると知ったのは
…いつだったか。
恐らく、彼女を雇ってから半年が経とうとしていたとき。
走ってきたコマリくんを抱きとめたときに、ちらりと見えた彼女の背中。
醜い痣があった。
「ぶつけたんです」
彼女は息子を抱いたまま、ぎこちなく笑った。
「イイジマ社長、ハタノさんのことなんですが」
夏限定の短期で雇っていた女子大生が、言った。
「私ぃ、見ちゃったんですよ。ハタノさんの旦那さん」
詳しく聞くつもりはなかったが、嫌な予感がした。
「…駐車場で、何か揉め事してたんです。車の前で」
「それで、…旦那さん、ハタノさんの頬を二発」
息が止まった。
「…殴ったんですよね。ハタノさん、黙って車に乗り込んで、旦那さんと一緒に帰っちゃいましたけど」
「私、びっくりしすぎて動けなくて。前々から、ハタノさんの体に痣があるの、見てたんですけど」
DVか。
小さな独り言を拾い上げ、女子大生は大きく頷いた。
心根の優しい子だった。化粧は濃すぎるが。
229 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)15:08:20 ID:1mE
色々な話を聞いて分かった。
彼女はまだ未成年の頃に、5つ年上の男と結婚した。
男は最初こそ真面目に家庭を守っていたが、ある日その仮面がはがれた。
会社でミスをした。
上司に怒られた。
自分は落ち込んで帰ってきているのに、妻は気が利かず、飯は俺の気分好みでない。
殴った。
気持ちよかったのだろうか。
抵抗しない妻を、難癖つけては何度も何度も。
お前、パート先の大学生と親しくしているんだってな。
変えろ。
おい、帰りが遅い。
変えろ。
妻は自分の所有物だという考えが、腐った頭に繁殖していった。
確かに。隙間から流れ込んできたのは、秋夜の涼しげな風だ。
リン「職員用のか…。なるほど、マップに記載していないわけだ」
大きくドアを開きながら、リンが呟いた。
階段を下りた先に、小さな駐車場入り口が見えた。
女「…ここね」
リン「ああ」
リンが先に行き、金網でできた入り口の扉を開ける。と
リン「…いや。おい、お前ら来るな。…奴らだ」
女「え、…」
心臓がどくん、と脈打った。
リン「…4体もいやがる。…こんな所に集まってたのか」
女「リン。…どうするの」
リン「静かに。…車が3台確認できる。おい、どれがお前の車だ?」
コマリ「…ええと、…小さいやつ」
リン「…。一つは外車、二つは黒と赤の軽自動車。どっちだ」
コマリ「…」
考え込むコマリに、リンはイラついたような視線を送る。
コマリ「…ごめんなさい。分からない…」
リン「…はぁ」
女「リン。…そんな、仕方ないじゃない」
リン「もういい。あいつらがいなくなるまで待つ。それで探せばいいしな」
リンは乱暴に階段に腰を下ろした。コマリは申し訳なさそうに顔を伏せる。
217 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:01:50 ID:1mE
女「リン、トウメイはどこにいるの」
リン「見なくて良い。気づかれたら厄介だ。…駐車場をあてもなくフラついてる」
女「そっか…」
朝が来たら、消えるだろうか。
もし、消えなかったら…?
コマリ「…」モゾ
コマリが身をよじり、私の腕を掴んだ。
女「大丈夫だよ、コマリ。なんとかなるって」
くしゃくしゃと頭を撫でてあげると、コマリは小さく頷いた。
リン「…」
リンはそんな様子を、感情のこもらない目で見つめていた。
何分経っただろうか。
ただぼんやりと、3人階段の最上部に腰掛ける。
欠伸が出た。
リン「…」
そしてリンに睨まれた。
女「…仮眠とっちゃだめ?」
リン「ふざけるな。俺が一番ねむいし疲れてる」
218 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:06:40 ID:1mE
コマリ「二人とも、ごめんね」
女「ううん、いいんだよ」
リン「大体お前が昼間に俺たちをからかわなければ、事は円滑に進んだんだ」
コマリ「…だって。遊んで欲しくて」
リン「くだらない。あれはただ俺たちを馬鹿にしてただけだろ」
女「あー、と。ちょっと、リン。相手は子どもだよ」
リン「知るか。分別の効かない年齢という訳でもないだろ」
女「もう、やめてってば」
コマリ「…」
コマリが薄く桃色に染まった膝を抱えた。
コマリ「…お母さんに、早く会いたい」
リン「…」
リンが首をたれ、忌々しげに溜息をついた。
リン「…ガキが。辛いのは自分ひとりだと思ってる」
女「リン」
リン「俺は。…いや、俺らだって状況は同じだったんだぞ」
女「コマリはまだ、子どもだもん。私達とは全然違うよ」
リン「…」
言ってから、気づいた。5年前、リンは11歳だ。コマリと、そんなに変わらない。
219 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:12:54 ID:1mE
リン「…俺だって親と離れた」
コマリ「…」
リン「女だってそうだろ。…なあ」
女「もう、やめよう」
コマリ「…ぐすっ」
コマリがついに、自分の膝に顔をうずめてしまった。
子どもの空っぽだった心を、“親”というワードが切なくつついたのだ。
女「…コマリ。泣かないで」
リン「泣くな。泣いたってお前の母親は来てはくれない」
女「リンっ」
リン「事実だろ。誰も助けてはくれないんだ。…誰もな」
女「いい加減にして。殴るよ」
ぎゅっと拳を固めると、リンは意外そうに目を瞬かせた。
リン「へえ」
女「…コマリをわざと刺激しないで」
リン「…」
リンは暫く、私の腕にしがみついてすすり泣き始めたコマリを見ていた。
やがて、私の顔に視線を戻す。
リン「会って半日のガキに、よくそこまで感情移入できるな」
女「…」
リン「俺は、…どうとも思わない。残念ながら」
女「リン、…。あなた本当、可哀相だよね。もういい」
私はついにリンに背を向けた。おなかの中に熱い怒りが溜まっていくようだった。
220 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:19:28 ID:1mE
女「コマリ、泣かないで。リンは冷めた人間だからああいうことが言えるんだよ」
コマリの頭をなでながら、優しく言う。
ひっく、ひっくとしゃっくり上げる彼が、可哀相でならなかった。
女(よく感情移入できるな、じゃないわよ)
生きてる人間以外には冷めた態度なんて、どうかしている。
自分の境遇が厳しかったのは、分かる。リンもリンなりに、想像を絶する辛さもあったろう。
…何も聞かせてはくれないけれど。
でも、だからこそ、他人には優しくすべきなんだ。
女「…」ポフポフ
コマリは涙を流し続けた。
リン「…」
リンは秋風に髪をなびかせながら、だんまりを決め込んでいる。
と。
リン「おい」
肩越しに声をかけられた。
女「…」
無視する。
リン「おいって」
リンの手が肩に触れた。
女「何。触んないで冷血人間」
リン「…様子がおかしい」
女「え?」
リン「クリアの動きがおかしい。…集まっている」
女「本当に」
コマリを抱いたまま振り向くと、リンはすでに立ち上がっていた。
リン「…まずいな」
女「リン。…どうなってるの」
リン「こっちに来る」
月が高い。夜明けまでは長い。
私は唾を飲み下した。
リン「…多分そのガキの泣き声を聞きつけたな」
コマリ「…っ」
女「そん、な」
リン「もうバレてる。確実だ」
コマリ「ごめんな、…さい」
リン「謝られても遅いし、何の解決にもならない」
リンがポケットから黒い手袋を取り出し、両手にはめた。
リン「迎え撃つ。お前らは邪魔だから後ろの部屋に入っておけ」
女「…でも」
リン「ぐずぐずするな」
女「4体だよ?リン一人じゃ」
リン「いいから。…さっさとしろ」
222 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:31:25 ID:1mE
唇を引き結んだ。警棒を伸ばして立つリンの背中を、見つめる。
リン「…」
しっしっと、犬でも追い払うように後ろ手を払うリン。
女「私がやる」
背中に声をかけた。
リン「いい」
女「…私だって戦えるよ」
リン「この間だって俺に助けられてた」
女「確かに、トウメイに武器を振るうのは抵抗があるよ。人間だったものだもん。でも」
リン「記憶を読めば助けてやれる、っていうことか?」
はん、とリンが冷たく笑った。
リン「何の正義感なんだ、それ?誰が頼んだ?もうアレは人じゃない。処分するだけだ」
女「でも、何かを伝えたくてさ迷ってるんだよ」
リン「それはお前の主観だ。資料でも読んだだろ。あいつらは、仲間を増やしたいんだ」
リン「お前のお人よしに付き合う義理はない。下がれ」
女「…っ」
胸が痛かった。
リンは、トウメイを障害物としか考えてなくて。
それに、私の事は…
女「信用してないんだね」
リン「…」
女「…ねえ、会って数日だけど、信用してって言うのは、駄目なことかな」
223 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:36:22 ID:1mE
ぴしゃ、と水音がした。
リンはトウメイから目を離さない。
女「…コマリ、部屋に入ってて」
コマリ「でも」
女「大丈夫だから」
リン「ふざけるな、お前も」
バタン
リン「…馬鹿。何がしたいんだ」
女「私もやるって、言ってるの」
リン「いい加減にしろよ。あのな、信用するとかしないとか、そういう問題ですらない」
リン「俺が処理するのが一番現実的で安全だからだ。わざわざお前を危険にさらす意味は無い」
女「でも、私お荷物は嫌だもん」
リンのほうへ近づき、同じ位置に立つ。
リン「最後の警告だ。下がれ」
女「うるさい。リンの馬鹿。友達を助けるのは当たり前でしょ」
リンの口が、開いた。
リン「ともだ、ち?」
女「ん」
トウメイが、金網からにじみ出るようにこちらへ向かってきている。
私は警棒を抜いた。
使わなくても、握っていると安心する。
224 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:41:40 ID:1mE
リン「…」
リンの表情が、ぽかんとしたまま固まっている。
女「何か変なこと、言った?」
リン「…俺とお前は友達なのか?」
女「うん」
リン「いつから」
女「会った時から」
ぴしゃ、 ばしゃ。
トウメイが軟体を伸ばし、階段を登ってくる。
リン「…」
リン「お前さ」
女「うん」
リン「…」
リン「…一緒に、…してくれるのか」
女「うん」
リン「俺のせいでケガするかもしれないぞ。守ってやれないかもしれないぞ」
女「大丈夫。そんなことより、私が何もしないでリンが傷つくほうが嫌だ」
リン「…」
女「私、変かなあ。会って3日のリンに、ここまでするって」
リン「変だ」
ぱしゃ、ぴしゃ。
女「そっか、変か」
女「…でも、リンだって。私を守ってくれたし、危険から遠ざけようとしてくれてるじゃない。会って3日なのに」
彼は、優しいのだ。
225 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:46:04 ID:1mE
リン「…」
青い液状の体が、私達へと手を伸ばす。
リン「…左の1体」
女「え?」
リン「左の1体だけなら、やらせてやる」
女「分かった」
リンが堅く警棒を握り締めた。
リン「3,2,1で突っ込む。いいか」
女「オッケー」
リンの唇が一瞬、戦慄いた。
リン「…3,2」
いち。
リンと私は、同時に地面を蹴った。
226 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:50:08 ID:1mE
リンが目一杯広げた警棒で、右の2体をなぎ倒す。
倒せてはいない。横に傾いだだけだ。
リン「…気をつけろ!固い!」
叫んだが、関係はないのだ。
私に、トウメイの固さや大きさや、速さなんて。
女「…」
ただ、手をふれてやるだけでいい。
細長い形をしたトウメイに向き合い、私はそっと手を伸ばした。
人差し指が青いトウメイの体に触れ、
…言いつけを破ることにはなるが、私は傍にいた大き目のトウメイにも手を触れた。
目の前に、青が広がった。
227 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)14:56:15 ID:1mE
彼女のことは、出会ったときから好きだった。
まあ、率直に言うとタイプだったのだ。
家計を支えるためにアルバイトを転々とし、ついにここにたどり着いた、彼女。
「実は、5歳になる息子がいまして」
面接の時、はにかむようにして言った。
既婚、か。
それに子持ち。
少しばかり残念だった。
一児の母とは思えないほどの美しさが、彼女にはあった。
それだけじゃない。
彼女の優しさ、仕事に対する熱心さ、子どもへの愛情、
全てを知るたびに、私の心は揺れ動いた。
しかし、揺れるだけだった。彼女には彼女の幸せがある。それで十分だった。
228 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)15:04:08 ID:1mE
彼女の夫が、彼女と子どもに暴力を振るっていると知ったのは
…いつだったか。
恐らく、彼女を雇ってから半年が経とうとしていたとき。
走ってきたコマリくんを抱きとめたときに、ちらりと見えた彼女の背中。
醜い痣があった。
「ぶつけたんです」
彼女は息子を抱いたまま、ぎこちなく笑った。
「イイジマ社長、ハタノさんのことなんですが」
夏限定の短期で雇っていた女子大生が、言った。
「私ぃ、見ちゃったんですよ。ハタノさんの旦那さん」
詳しく聞くつもりはなかったが、嫌な予感がした。
「…駐車場で、何か揉め事してたんです。車の前で」
「それで、…旦那さん、ハタノさんの頬を二発」
息が止まった。
「…殴ったんですよね。ハタノさん、黙って車に乗り込んで、旦那さんと一緒に帰っちゃいましたけど」
「私、びっくりしすぎて動けなくて。前々から、ハタノさんの体に痣があるの、見てたんですけど」
DVか。
小さな独り言を拾い上げ、女子大生は大きく頷いた。
心根の優しい子だった。化粧は濃すぎるが。
229 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)15:08:20 ID:1mE
色々な話を聞いて分かった。
彼女はまだ未成年の頃に、5つ年上の男と結婚した。
男は最初こそ真面目に家庭を守っていたが、ある日その仮面がはがれた。
会社でミスをした。
上司に怒られた。
自分は落ち込んで帰ってきているのに、妻は気が利かず、飯は俺の気分好みでない。
殴った。
気持ちよかったのだろうか。
抵抗しない妻を、難癖つけては何度も何度も。
お前、パート先の大学生と親しくしているんだってな。
変えろ。
おい、帰りが遅い。
変えろ。
妻は自分の所有物だという考えが、腐った頭に繁殖していった。
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
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魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
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男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
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同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
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妹「マニュアルで恋します!」
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きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
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月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
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彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
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魔法使い「メラしか使えない」
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