女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part12
203 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:23:09 ID:WLA
僕、ずっと寝てた。
起きたら、辺りが真っ赤になってて。あ、夕方だって思った。
けど、ママも社長さんもいない。
あれー?って思った。
ここにいてって言われたけど、気になったから、車から出たの。
遊園地の中に行くと、しーんとしてた。
ママは多分、スタッフルームにいるんじゃないかって思って、そこまで行ったの。
でもね、鍵、かかってた。
不安だった。
ママー、しゃちょうさーん、どこなのー、って。声を出しながら歩いた。
そしたらね、その、噴水のところ、分かる?
うん、この目の前の。
そこにね、青いふにゃふにゃがいたんだ。
トウメイ?うん、透明だったよ。変な奴だった。
でももっと変なのは、そのトウメイの傍に社長さんの着ていたジャンパーが落ちてたことなんだ。
ジャンパーだけじゃないよ。全部。ズボンも、シャツも、パンツも落ちてた。
いたた。なんで急にぎゅってするの?
…なんでもない? そう?
でも、女の体、ふわふわして温かいし、このまましててもいいよ。
204 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:28:58 ID:WLA
僕、ちょっとびっくりした。
ふわふわは、浮かびながらこっちに来たの。
なんだろう、これ。動物かなあ、って思って。
触ろうと手を伸ばしたの。
そしたら、
「だめ!」
って、いきなり手をつかまれた。
ママだった。
「コマリ、おいで!」
って、ママは僕を抱っこして走った。 頭から血が出てた。
ねえ、ママ、どうしちゃったの?社長さんは?ほかのひとは?
ママ、何も答えなかった。
走って、走って、駐車場まできて、車に乗り込んだ。
青いふわふわが、増えてた。3匹になって、こっちに向かってきてた。
「なんで、どうして」
ママ、泣いてたんだ。
「…なんでなのよ…」
泣かないで、って言った。それで、頭撫でてあげた。
「コマリ、…ごめんね、もう社長さんと焼肉、行けなくなっちゃった」
ママ、目が溶けてなくなりそうなくらい泣いてた。
205 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:33:01 ID:WLA
ねえ、ママ。あれなに?
「…」
こっちに来てるよ
「コマリ。あれに触っちゃ、絶対に駄目。分かった?」
うん。
「大丈夫。ママが守ってあげるから。いい、シートベルトして。行くわよ」
しゃちょうさんたちは?
「…後から、来るのよ」
そっか
で、僕、シートベルトした。そのとき、ママの手に青いお水が着いてるのに気づいたんだ。
拭いてあげようと思って、手を伸ばした。
そしたら
「あ、…あ」
急にね、ちゃぷちゃぷ音がしてきたんだ。
バケツにお水を入れて、かき回したみたいな音。
ママ?
ママのほうを見ようとしたら、
ぱーん、って大きな音がした。
ママの顔、なかった。
冷たい水が、僕の体中にかかった。
206 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:39:50 ID:WLA
ママがぐらって体を倒して、半開きのドアから外に倒れた。
ママ!って叫んだけど、何も言わなかった。
駐車場の上に、ママ、倒れて動かないの。
ママ、ママ、って揺さぶったけど、なんか、変なんだ。
体がね、ぶにょぶにょになっていって。青くなっていって。
それで、…あの青いふわふわしたのになった。
触っちゃ駄目、って、ママが言っていたやつだよ。
僕、ひって叫んでドアを閉めた。
ふわふわ、4匹に増えて、車を取り囲んでた。
怖くて、怖くて、悲しくて、僕、車の中でぼろぼろ泣いた。
夜になっても、泣いた。
ふわふわがいつの間にかどこか行っても、泣いた。
それで、いつの間にか目を閉じてた。
うん。
寝たのかな。
ううん。
死んでた。
目を開けると、僕、ここに立ってたんだ。
体が煙みたいになってた。 そう、ユウレイみたいに。
そこから、ずーっとここにいるんだ。
ずーっと、一人で。
うん。
一人で。
207 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:45:11 ID:WLA
女「…」
コマリ「おしまい」
コマリは言うと、私のお腹にほお擦りをした。
女「…」
言葉が出ない。
コマリは、ここで死んだ。コマリのお母さんも、知人も。
5年もの間、彼はここで、煙の体を繰っていたのだ。
コマリ「ねえ、これどうしよう」
コマリが月明かりに手を透かす。
コマリ「僕、どうなるんだろうね。このままずっと、ここにいるのかな」
女「…」
コマリ「何でか知らないけど、遊園地の駐車場から外にも行けないんだ。寂しかった」
女「…そうなの」
コマリ「…お母さんに会いたい」
女「…」
言葉が、出ない。
自縛霊、の類なのだろうか。
女「ねえ、コマリ」
コマリ「んー?」
女「これから、…どうしたい?」
コマリ「えー?」
208 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:48:35 ID:WLA
コマリ「でも僕、絶対死んじゃってるんだよね」
女「…」
コマリ「だから、ここにいるのは悪いことだよね?テレビで言ってた。ユウレイはジョウブツしなきゃって」
女「…うん」
コマリ「ジョウブツしたら、ママに会える気がするんだ」
女「…」
コマリ「だからね、…もうここからバイバイしたい。もう、ここにいたくない」
コマリの髪をなでる。体と母を失った孤独な、少年の髪を。
女「…ね、コマリ」
コマリ「んー?」
女「私が、手伝ってあげるよ」
コマリ「ジョウブツ?」
女「うん。何か手助けできるかもしれない」
コマリ「本当?」
209 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:59:01 ID:WLA
「待て」
後ろから、機嫌の悪そうな低い声が響いた。
コマリが体を震わせ、振り返る。
女「…リン」
リン「お前な、勝手に行動するな」
ずかずかと大股で歩み寄り、私の腕を掴む。
リン「ガキ。勝手なこと抜かすなよ。俺たちにも予定があるんだ」
コマリ「…」
女「リン!…いいじゃない、可哀相だよ」
リン「甘い。こいつを助けてなにか俺たちにメリットがあるか?」
女「メリットって、そんな」
コマリ「…」
コマリが私の足にしがみつく。昼の強気さはどこへやら、リンを見上げる目は潤んでいる。
リン「…しかも聞いてたろ。ここには最低4匹のクリアがいる」
女「けど」
リン「危険だ」
女「私がなんとかする。だから、協力してあげようよ」
リン「あのなあ」
女「リン!だってこんな、子どもなんだよ?大人気ないよ」
リン「…そうじゃなくて!俺は危険なことに脚を突っ込みたくないんだよ」
女「じゃあ、…リンは車にいれば?私がやるから」
リン「お前もいい加減にしろよ。却下だ」
女「何で!」
210 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)12:06:07 ID:WLA
リン「俺たちが探しているのは生きている人間だ。幽霊にかまってる暇は無い」
女「つめ、…た!だから、私一人でやるってば」
リン「無理だ。死ぬだけだ」
女「じゃあ、リンもついてきてくれればいいじゃない!」
リン「嫌」
ぎゃあぎゃあと水掛け論を繰り返す私達に、コマリがたじろぐ。
私は何が何でも、彼を助けたいと思った。
女「…とにかく私、彼に協力するから」
リン「却下。いいから来い。もうここを出よう」
女「リン、よくそんな血も涙も無いこと言えるね」
リン「お前こそよくそんな感情論で動けるな」
コマリ「…あ、あの」
火花を散らす私達に、申し訳なさそうにコマリが声をかけた。
コマリ「…リン。あのね、お礼ならするよ」
リン「は?」
コマリがふわりと浮き上がり、リンの耳元に口を寄せる。
リン「…」
何事か、耳打ちした。
リン「…!」
リンの目が見開かれる。
コマリ「…どう?」
リン「本当か」
コマリ「…」コクン
リン「分かった。付き合う。…ただし、今夜だけだ」
女「え」
211 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)12:10:06 ID:WLA
ど、どういうことだ。
女「コマリ、何を言ったの?」
リン「言うな。ただ、メリットが見つかった」
女「え…?」
リン「行くぞ」
さっきの態度は一体なんだったのか。リンは先頭を切って歩き始めた。
女「ちょ、何なの?本当に」
リン「無駄口はいいからさっさと済ませよう。いいか、今夜だけなんだからな」
女「はあ…?」
すたすた歩くリンの後ろに、コマリが着いて行く。
呆然としていた私も、置いていかれることに気づいて急いで追った。
女「…で、どうするの」
リン「こいつの体を捜す」
女「体、…」
リン「ああ。どこにあるか、分かるか?」
コマリ「駐車場」
ん?…たしかに駐車場に車はあったけど、この小さい少年の姿など、どこにもなかった。
212 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:09:48 ID:1mE
リンが少し考え込む。
リン「…確かか?」
コマリ「…」
コマリの目が泳ぎ、手がふらふらとさ迷った。
女「コマリ、覚えてない?」
コマリ「うん、ごめん。…よく、分からないんだ」
リン「自分の体なのにか」
女「リン」
コマリ「…ごめんね。あのね、ママが死んじゃった所まではよく覚えてるの。けど、…」
女「いいんだよ、気にしないで」
コマリ「…」
リン「といっても、だ。俺たち昼間にあらかた探し回ったしな」
女「確かに」
リン「…アトラクションの中で、見るのが不可能だったって言えば…。観覧車くらいか」
女「そうだね。あの個室を全部見て回るってのは、…」
リン「その鍵のかかってるスタッフルームっていうのは、どうだ」
女「違うよ。だってコマリがお母さんを探してる時にかぎはかかってたんでしょ」
思考が煮詰まる。
213 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:41:18 ID:1mE
リン「…ん」
懐中電灯でマップを照らし、考え込んでいたリンがふと顔を上げた。
リン「…この、小さな敷地は何だ?」
女「え?」
リン「ほら、この、入り口とは魔逆のほうの」
本当だ。駐車場と対になった、何も書いていない四角のエリアがある。
女「…多分、従業員以外立ち入り禁止の区域だった気がする」
リン「そこには行ってないよな?」
女「!そうだよ、確かに」
リン「行こう」
コマリ「うんっ」
広大な遊園地の敷地を横切り、塀のたった最終地点までたどり着く。
白い壁には、「職員用」と書かれたドアがあった。
リン「なるほど。こんな所が」
女「コマリ、覚えてる?」
コマリ「えと、…入り口!ママがいつも通ってた」
女「ああ、職員用の出入り口なんだ…」
リン「…ちっ。やっぱり、鍵が」
女「あー…」
214 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:46:32 ID:1mE
リン「蹴破ってみる」
女「あ、危ないよ?」
リン「問題ない。一発だけ」ブン
ガンッ
リン「…いける。軋んだぞ」
女「マジか!」
コマリ「がんばれ、リン!」
リン「うるさい」ブン
ガン、ガン、とリンの強靭な足から繰り出された蹴りが、壁全体を揺らす。
数回の打撃の後、リンは一番力を込めた蹴りをお見舞いした。
…ガン!!
女「…開いた!」
リン「はあ。…いてぇ」
女「すごいじゃん、リン!ナイスナイス」ユサユサ
リン「…」
げっそりしたリンが、うざそうに私の手を払った。
リン「…暗いな」
中は部屋になっている。暗いが、長机とイスが何脚か目視で確認できた。
女「スタッフルーム?」
リン「いくつかあるうちの一つだな。休憩専用かもしれない」
女「コマリ、おいで」
コマリ「うん」
215 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:51:19 ID:1mE
リンの懐中電灯の光を頼りに、中へ入る。
靴の下でぱきぱきと何かを踏み割るような音が聞こえた。
リン「…これだけか?」
コマリ「ええと、…どうだったかな」
中に目ぼしいものはなかった。流し台、ロッカーと、それからさっきのイスと机のみだ。
リン「職員の更衣室、か」
女「こんな所には、…いないよね?」
一応ロッカーを全て開けて確認したが、勿論全てが空だった。
リン「待て。…もう一つ扉がある」
女「あ、本当だ」
入ってきたほうとは逆の扉。リンが身長に近づき、ノブを回す。
…キィ。
リン「開いてる」
女「…本当?」
リン「俺が先に中を確認するから、合図したら来い」
リンの半身がドアの隙間に消える。
私とコマリは、手を繋いだまま息をつめた。
リン「…おい、駐車場だ」
女「え!」
僕、ずっと寝てた。
起きたら、辺りが真っ赤になってて。あ、夕方だって思った。
けど、ママも社長さんもいない。
あれー?って思った。
ここにいてって言われたけど、気になったから、車から出たの。
遊園地の中に行くと、しーんとしてた。
ママは多分、スタッフルームにいるんじゃないかって思って、そこまで行ったの。
でもね、鍵、かかってた。
不安だった。
ママー、しゃちょうさーん、どこなのー、って。声を出しながら歩いた。
そしたらね、その、噴水のところ、分かる?
うん、この目の前の。
そこにね、青いふにゃふにゃがいたんだ。
トウメイ?うん、透明だったよ。変な奴だった。
でももっと変なのは、そのトウメイの傍に社長さんの着ていたジャンパーが落ちてたことなんだ。
ジャンパーだけじゃないよ。全部。ズボンも、シャツも、パンツも落ちてた。
いたた。なんで急にぎゅってするの?
…なんでもない? そう?
でも、女の体、ふわふわして温かいし、このまましててもいいよ。
204 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:28:58 ID:WLA
僕、ちょっとびっくりした。
ふわふわは、浮かびながらこっちに来たの。
なんだろう、これ。動物かなあ、って思って。
触ろうと手を伸ばしたの。
そしたら、
「だめ!」
って、いきなり手をつかまれた。
ママだった。
「コマリ、おいで!」
って、ママは僕を抱っこして走った。 頭から血が出てた。
ねえ、ママ、どうしちゃったの?社長さんは?ほかのひとは?
ママ、何も答えなかった。
走って、走って、駐車場まできて、車に乗り込んだ。
青いふわふわが、増えてた。3匹になって、こっちに向かってきてた。
「なんで、どうして」
ママ、泣いてたんだ。
「…なんでなのよ…」
泣かないで、って言った。それで、頭撫でてあげた。
「コマリ、…ごめんね、もう社長さんと焼肉、行けなくなっちゃった」
ママ、目が溶けてなくなりそうなくらい泣いてた。
205 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:33:01 ID:WLA
ねえ、ママ。あれなに?
「…」
こっちに来てるよ
「コマリ。あれに触っちゃ、絶対に駄目。分かった?」
うん。
「大丈夫。ママが守ってあげるから。いい、シートベルトして。行くわよ」
しゃちょうさんたちは?
「…後から、来るのよ」
そっか
で、僕、シートベルトした。そのとき、ママの手に青いお水が着いてるのに気づいたんだ。
拭いてあげようと思って、手を伸ばした。
そしたら
「あ、…あ」
急にね、ちゃぷちゃぷ音がしてきたんだ。
バケツにお水を入れて、かき回したみたいな音。
ママ?
ママのほうを見ようとしたら、
ぱーん、って大きな音がした。
ママの顔、なかった。
冷たい水が、僕の体中にかかった。
206 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:39:50 ID:WLA
ママがぐらって体を倒して、半開きのドアから外に倒れた。
ママ!って叫んだけど、何も言わなかった。
駐車場の上に、ママ、倒れて動かないの。
ママ、ママ、って揺さぶったけど、なんか、変なんだ。
体がね、ぶにょぶにょになっていって。青くなっていって。
それで、…あの青いふわふわしたのになった。
触っちゃ駄目、って、ママが言っていたやつだよ。
僕、ひって叫んでドアを閉めた。
ふわふわ、4匹に増えて、車を取り囲んでた。
怖くて、怖くて、悲しくて、僕、車の中でぼろぼろ泣いた。
夜になっても、泣いた。
ふわふわがいつの間にかどこか行っても、泣いた。
それで、いつの間にか目を閉じてた。
うん。
寝たのかな。
ううん。
死んでた。
目を開けると、僕、ここに立ってたんだ。
体が煙みたいになってた。 そう、ユウレイみたいに。
そこから、ずーっとここにいるんだ。
ずーっと、一人で。
うん。
一人で。
207 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:45:11 ID:WLA
女「…」
コマリ「おしまい」
コマリは言うと、私のお腹にほお擦りをした。
女「…」
言葉が出ない。
コマリは、ここで死んだ。コマリのお母さんも、知人も。
5年もの間、彼はここで、煙の体を繰っていたのだ。
コマリ「ねえ、これどうしよう」
コマリが月明かりに手を透かす。
コマリ「僕、どうなるんだろうね。このままずっと、ここにいるのかな」
女「…」
コマリ「何でか知らないけど、遊園地の駐車場から外にも行けないんだ。寂しかった」
女「…そうなの」
コマリ「…お母さんに会いたい」
女「…」
言葉が、出ない。
自縛霊、の類なのだろうか。
女「ねえ、コマリ」
コマリ「んー?」
女「これから、…どうしたい?」
コマリ「えー?」
コマリ「でも僕、絶対死んじゃってるんだよね」
女「…」
コマリ「だから、ここにいるのは悪いことだよね?テレビで言ってた。ユウレイはジョウブツしなきゃって」
女「…うん」
コマリ「ジョウブツしたら、ママに会える気がするんだ」
女「…」
コマリ「だからね、…もうここからバイバイしたい。もう、ここにいたくない」
コマリの髪をなでる。体と母を失った孤独な、少年の髪を。
女「…ね、コマリ」
コマリ「んー?」
女「私が、手伝ってあげるよ」
コマリ「ジョウブツ?」
女「うん。何か手助けできるかもしれない」
コマリ「本当?」
209 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:59:01 ID:WLA
「待て」
後ろから、機嫌の悪そうな低い声が響いた。
コマリが体を震わせ、振り返る。
女「…リン」
リン「お前な、勝手に行動するな」
ずかずかと大股で歩み寄り、私の腕を掴む。
リン「ガキ。勝手なこと抜かすなよ。俺たちにも予定があるんだ」
コマリ「…」
女「リン!…いいじゃない、可哀相だよ」
リン「甘い。こいつを助けてなにか俺たちにメリットがあるか?」
女「メリットって、そんな」
コマリ「…」
コマリが私の足にしがみつく。昼の強気さはどこへやら、リンを見上げる目は潤んでいる。
リン「…しかも聞いてたろ。ここには最低4匹のクリアがいる」
女「けど」
リン「危険だ」
女「私がなんとかする。だから、協力してあげようよ」
リン「あのなあ」
女「リン!だってこんな、子どもなんだよ?大人気ないよ」
リン「…そうじゃなくて!俺は危険なことに脚を突っ込みたくないんだよ」
女「じゃあ、…リンは車にいれば?私がやるから」
リン「お前もいい加減にしろよ。却下だ」
女「何で!」
210 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)12:06:07 ID:WLA
リン「俺たちが探しているのは生きている人間だ。幽霊にかまってる暇は無い」
女「つめ、…た!だから、私一人でやるってば」
リン「無理だ。死ぬだけだ」
女「じゃあ、リンもついてきてくれればいいじゃない!」
リン「嫌」
ぎゃあぎゃあと水掛け論を繰り返す私達に、コマリがたじろぐ。
私は何が何でも、彼を助けたいと思った。
女「…とにかく私、彼に協力するから」
リン「却下。いいから来い。もうここを出よう」
女「リン、よくそんな血も涙も無いこと言えるね」
リン「お前こそよくそんな感情論で動けるな」
コマリ「…あ、あの」
火花を散らす私達に、申し訳なさそうにコマリが声をかけた。
コマリ「…リン。あのね、お礼ならするよ」
リン「は?」
コマリがふわりと浮き上がり、リンの耳元に口を寄せる。
リン「…」
何事か、耳打ちした。
リン「…!」
リンの目が見開かれる。
コマリ「…どう?」
リン「本当か」
コマリ「…」コクン
リン「分かった。付き合う。…ただし、今夜だけだ」
女「え」
211 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)12:10:06 ID:WLA
ど、どういうことだ。
女「コマリ、何を言ったの?」
リン「言うな。ただ、メリットが見つかった」
女「え…?」
リン「行くぞ」
さっきの態度は一体なんだったのか。リンは先頭を切って歩き始めた。
女「ちょ、何なの?本当に」
リン「無駄口はいいからさっさと済ませよう。いいか、今夜だけなんだからな」
女「はあ…?」
すたすた歩くリンの後ろに、コマリが着いて行く。
呆然としていた私も、置いていかれることに気づいて急いで追った。
女「…で、どうするの」
リン「こいつの体を捜す」
女「体、…」
リン「ああ。どこにあるか、分かるか?」
コマリ「駐車場」
ん?…たしかに駐車場に車はあったけど、この小さい少年の姿など、どこにもなかった。
212 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:09:48 ID:1mE
リンが少し考え込む。
リン「…確かか?」
コマリ「…」
コマリの目が泳ぎ、手がふらふらとさ迷った。
女「コマリ、覚えてない?」
コマリ「うん、ごめん。…よく、分からないんだ」
リン「自分の体なのにか」
女「リン」
コマリ「…ごめんね。あのね、ママが死んじゃった所まではよく覚えてるの。けど、…」
女「いいんだよ、気にしないで」
コマリ「…」
リン「といっても、だ。俺たち昼間にあらかた探し回ったしな」
女「確かに」
リン「…アトラクションの中で、見るのが不可能だったって言えば…。観覧車くらいか」
女「そうだね。あの個室を全部見て回るってのは、…」
リン「その鍵のかかってるスタッフルームっていうのは、どうだ」
女「違うよ。だってコマリがお母さんを探してる時にかぎはかかってたんでしょ」
思考が煮詰まる。
213 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:41:18 ID:1mE
リン「…ん」
懐中電灯でマップを照らし、考え込んでいたリンがふと顔を上げた。
リン「…この、小さな敷地は何だ?」
女「え?」
リン「ほら、この、入り口とは魔逆のほうの」
本当だ。駐車場と対になった、何も書いていない四角のエリアがある。
女「…多分、従業員以外立ち入り禁止の区域だった気がする」
リン「そこには行ってないよな?」
女「!そうだよ、確かに」
リン「行こう」
コマリ「うんっ」
広大な遊園地の敷地を横切り、塀のたった最終地点までたどり着く。
白い壁には、「職員用」と書かれたドアがあった。
リン「なるほど。こんな所が」
女「コマリ、覚えてる?」
コマリ「えと、…入り口!ママがいつも通ってた」
女「ああ、職員用の出入り口なんだ…」
リン「…ちっ。やっぱり、鍵が」
女「あー…」
214 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:46:32 ID:1mE
リン「蹴破ってみる」
女「あ、危ないよ?」
リン「問題ない。一発だけ」ブン
ガンッ
リン「…いける。軋んだぞ」
女「マジか!」
コマリ「がんばれ、リン!」
リン「うるさい」ブン
ガン、ガン、とリンの強靭な足から繰り出された蹴りが、壁全体を揺らす。
数回の打撃の後、リンは一番力を込めた蹴りをお見舞いした。
…ガン!!
女「…開いた!」
リン「はあ。…いてぇ」
女「すごいじゃん、リン!ナイスナイス」ユサユサ
リン「…」
げっそりしたリンが、うざそうに私の手を払った。
リン「…暗いな」
中は部屋になっている。暗いが、長机とイスが何脚か目視で確認できた。
女「スタッフルーム?」
リン「いくつかあるうちの一つだな。休憩専用かもしれない」
女「コマリ、おいで」
コマリ「うん」
215 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)13:51:19 ID:1mE
リンの懐中電灯の光を頼りに、中へ入る。
靴の下でぱきぱきと何かを踏み割るような音が聞こえた。
リン「…これだけか?」
コマリ「ええと、…どうだったかな」
中に目ぼしいものはなかった。流し台、ロッカーと、それからさっきのイスと机のみだ。
リン「職員の更衣室、か」
女「こんな所には、…いないよね?」
一応ロッカーを全て開けて確認したが、勿論全てが空だった。
リン「待て。…もう一つ扉がある」
女「あ、本当だ」
入ってきたほうとは逆の扉。リンが身長に近づき、ノブを回す。
…キィ。
リン「開いてる」
女「…本当?」
リン「俺が先に中を確認するから、合図したら来い」
リンの半身がドアの隙間に消える。
私とコマリは、手を繋いだまま息をつめた。
リン「…おい、駐車場だ」
女「え!」
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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