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従姉に恋をした。

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Part4
121 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:16:21
ふと喫茶店の窓がコンコンと鳴った。
!!
振り向くと芽衣子さんが笑顔で立っていた。
芽衣子さん、早い。
「だれ〜?」
母や義妹が冷やかしの視線を向ける。
「ん。今付き合ってる人」
「ひゅーひゅー」
義弟も冷やかす。古い表現だなオイ。
お父さんが窓越しに「おいでおいで」と芽衣子さんを手招いた。
小走りに芽衣子さんが店に入ってきた。
芽衣子さんをみんなに紹介し、みんなを芽衣子さんに紹介した。
さすがに一昨日から付き合い始めたとは言えなかった。
少しの間、芽衣子さんを交えて話をした。
「それじゃ、お邪魔にならない内に我々は帰りますか。元気でね、健吾君!」
恵子ちゃんが笑顔で俺の腕を叩いた。

122 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:17:22
新幹線の発車時刻まではまだ時間があった。
俺と芽衣子さんはホームのベンチで手を繋ぎながら話をした。
「なるべくマメに帰ってくるよ」
「無理しないでね。遠距離だからって気負わないで。私は大丈夫!」
もっと早くこんな展開になってたらなぁ。行きたくないな、東京。
新幹線がホームに入ってきた。
手を放し、デッキから芽衣子さんを見つめる。
芽衣子さんが何か言いたそうにしていた。俺も…したかった。
ドアが閉まった。
俺はおどけて、窓越しに芽衣子さんに投げキッスを贈った。
ホントにやりゃよかったのに。馬鹿。

123 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:18:39
職場は東京だったが、俺は住まいを横浜に決めていた。
田舎モノの俺にいきなり東京暮らしはハードルが高いとビビッていたのと、
俺の生まれは川崎市だったので生まれ故郷に近いところを選んだからだ。
しかし横浜もとんでもなく都会だった。
新しい職場での仕事は思ったよりもすんなりと入っていけた。
順調な滑り出しに心に余裕が持てた俺は、暇を見つけては色々な場所へと出かけ、
遊び、観て、食べた。

124 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:20:10
そして東京に来て2週間後、俺は芽衣子さんに会いに地元に帰った。
さすがに早っ!とは思ったが、遠距離恋愛なんて初めての経験だったし、
こういうことは男側が努力しなければいけないと思っていた。
なにより芽衣子さんに会いたい。なんの苦もなかった。
芽衣子さんはホームまで出迎えに来ていた。
降り立った俺に芽衣子さんが抱きついてきた。
背の高い彼女の顎が俺の肩に乗っている。俺は彼女の頭を撫でた。
あの早退の時もそうだが、芽衣子さんは俺が思っていた以上に積極的で行動派だった。
付き合い始めてから知る相手の意外な一面というものは良いことも悪いこともあるが、
芽衣子さんのそれは俺を喜ばせることばかりだった。

125 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:21:08
楽しすぎたデートはほんの一瞬に感じた。
帰りもまた、彼女はホームまで一緒に来てくれた。
朝から今まで、ずっとふたりは喋り続けていたが、
新幹線がホームに入ってくると彼女は黙りこんでしまった。
はぁ、行くか…と、ベンチを立つ俺の手を彼女が放さない。
座ったまま、芽衣子さんがじっと俺を見る。
上目遣いをする女性は確信犯だと思う。
俺は彼女の顔に俺の顔を重ねた。
それからも俺は2週間置きに芽衣子さんに会いに行った。
いつのまにかクリスマスがまた近づいていた。


126 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:22:25
クリスマス・イブ。
彼女がいない時の俺は
「ヘン!俄かクリスチャンどもめ!!」
と街行くカップルを妬ましく見つめるが、芽衣子さんがいる今は
「なんて素敵な日なんでしょう」
と穏やかな心でいる。
(単純だなぁ)
新幹線の中で苦笑しながら、彼女へのプレゼントが入ったカバンを一撫でした。

127 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:24:05
いつものようにホームまで出迎えにきていた彼女の手をとり、街へと連れ出す。
昼食をとり、映画を観て、お揃いの来年の手帳を買った。
すっかり陽も落ち、街路樹を覆っているイルミネーションがライトアップされた。
抜かりなく予約しておいた店に彼女をエスコート。前菜が出た時、買っておいたプレゼントを
彼女に渡した。指輪。今思えば恥ずかしいほど定番のクリスマスを演出していたが、
舞い上がっていた俺にそんな意識はない。
彼女からのプレゼントはライターだった。高価なブランド物だ。裏に文字が彫ってあった。
“Do not smoke too much”(吸い過ぎないでね)
「ライターをプレゼントしといてなんだけど…」
恥ずかしそうに俯く彼女。可愛い人だよ、ほんと。
デザートを食べている時、彼女が言った。
「今日は帰らないよね?」
照れたが「うん」と頷いた。
彼女も照れながら微笑んだ。

128 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:25:16
初めて彼女と朝を迎える。もちろん緊張しっぱなしだった。
キラキラした並木道をホテルに向かって歩いていた時、彼女が立ち止まり、ベンチに腰掛けた。
もう少しイルミネーションを見てるのもいい。俺も隣に座った。
彼女がじっと俺を見ながら言った。
「あのね、健吾君に聞きたいことがあるの」
「ん?」
「健吾君、好きな人がいるでしょ?」
へっ?
予期しない言葉に俺はうろたえた。
「い、いるよ。芽衣子さん」なんとか取り繕う。

129 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:27:10
しかし俺の一瞬の動揺を彼女は見逃してくれなかった。
「…今の健吾君の顔ではっきりしちゃった…」
何が起きてるんだ、今。彼女は何を言ってるんだ。
しかし更に彼女が言った一言が、俺をより混乱に陥れた。
「あの従姉の人じゃない?健吾君の好きな人」
もう何がなんだか。
俺は彼女の次の言葉を待つしかなかった。
「見送りに行った時感じたの。あの人に対する健吾君の態度が違う気がしたの。
 何が、というのはうまく言えないけど。あと、目。あの時あの人を見る健吾君の目。
 今、私を見る目と同じだった」
そんな馬鹿な。
あんなちょっとの時間で、芽衣子さんは俺の気持ちがわかったと?
いや、現に当たっているけど、でも、今は!

130 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:28:06
俺は芽衣子さんと付き合うことになった日までのことを正直に話した。
芽衣子さんは黙って聞いてくれた。
冗談じゃない。あれは終わったことなんだ。俺の気持ちはもう…。
俺は懸命になって芽衣子さんに説明した。
なんてこと言うんだ。やめてくれ。たのむよ。
全てぶちまけた俺を見て、芽衣子さんが言った。
「ごめん。今日は帰らせて」
俺は彼女を引き止められなかった。

142 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:26:50
家まで送るという俺の申し出は断られた。
突然ひとりぼっちになった俺は、頭の整理がつかないまま、
今夜泊まる予定になっていたホテルへと向かった。
「お連れ様は?」フロント係りが憎たらしい。
「…後から来ます」
さっさとキーを受け取り、部屋へ。
広いなぁ、ダブルって。
一ヶ月前、知り合いのコネを使って無理してとったこの部屋も、今は何の意味もない。
だったら泊まらなければよかったのだが、知り合いの顔を潰すわけにはいかなかった。
眼下にはさっきのベンチが見えた。こんなに惨めなクリスマスは初めてだ。
ルームサービスで頼んだワインボトルを空けた時、
フラフラに酔った俺は我慢できなくなって芽衣子さんに電話した。
出ない。
諦めて切った5分後、芽衣子さんからメールがきた。
「まだ冷静になれません。ごめんなさい。明日連絡します」
携帯を投げつけ、俺は寝た。

143 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:28:08
翌朝、フロント係りの顔を見ないようにしながら清算を済ませ、俺はホテルを後にした。
外は快晴。幸せな夜を過ごしたであろうカップルたちが、楽しげに歩いている。
気が滅入る。本当なら俺も仲間だったのに。
ファーストフードの店に入り、俺は芽衣子さんからの連絡を待った。
俺も芽衣子さんも今日は休みをとっていたから、連絡は必ずくる。
そう信じ、俺は携帯と芽衣子さんからもらったライターを両手に握り締めた。

144 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:29:35
一時間後、芽衣子さんからメールがきた。
「電話だと冷静に話せないと思うのでメールで許してください。
 昨日は本当にごめんなさい。健吾君の気持ちを台無しにしてしまったと反省しています。
 でもずっと気になっていたんです。あの従姉さんのこと。
 あの日は健吾君の目が何を意味しているのかわかっていませんでした。
 でも付き合っていくうちに私を見る健吾君の目があの日と同じ目になっていると感じてきました。
 健吾君の目は優しくて、私を大切に想ってくれていることが伝わってきました。うれしかったです。
 でも同時に、私は従姉さんに対して嫉妬するようになりました」

145 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:31:08
すぐに2つ目のメールがきた。
「私は自分でも嫌になるほど独占欲の強い人間です。
 健吾君が100%、私だけを見てくれていると思えなければ安心できないのです。
 健吾君は昨日、もう従姉さんに気持ちはないと言っていたけど、私はどうしても疑ってしまいます。
 健吾君はあの人とは付き合ったわけじゃないし、何もなかったという言葉も信じているけど、
 でもだからこそ、まだ未練がありませんか?
 今、健吾君があの人を見る目と、私を見る目が同じかどうかはわかりません。
 私は健吾君が大好きです。
 だから、本当の健吾君の気持ちを教えてください」

146 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:32:26
ため息が出た。何なんだよ一体。
恵子ちゃんを見る目と芽衣子さんを見る目が同じ?
そんなこと俺にはわからない。自覚無い。
ただ恵子ちゃんを見るといつも辛かっただけだ。
でも芽衣子さんを見るといつも暖かい気持ちになれたんだよ?
確かに芽衣子さんとは受身で始まったし、
その時の俺の心の中にはまだ恵子ちゃんへの想いが残っていたとは思う。
でも今の俺は君との「これから」ばかりを考えてる。
付き合っていけばそれはもっともっと大きくなって、
いつか恵子ちゃんは俺の心からいなくなる。
そのためにも君に側にいてほしい。
それじゃダメなのか?
勝手な言い分なのか?
俺は店を出てひと気の少ない公園に行った。
そして芽衣子さんに電話をしてありのままの気持ちを伝えた。
芽衣子さんは言った。
「少し時間が欲しい」
もう何だかわからなくなった俺は、東京行きの新幹線に飛び乗った。

147 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:34:08
一週間が過ぎた。大晦日。今日は俺の誕生日だ。
俺の仕事は365日、平日と休日の別ない仕事だったが、
転勤してまもないということで職場の先輩が気を遣ってくれ、
この年末年始はまるまる休みとなっていた。
しかしその休みも今は恨めしい。
この間、俺は芽衣子さんに連絡をしなかった。
彼女からも一切連絡はなかった。
夜も昼も、芽衣子さんに言われたことをひとつひとつ考えてみた。
彼女の言うとおり、恵子ちゃんへの想いが顔に出ていたのだろうか。
感情が顔に現れやすい人間だと、自覚はしていた。
怒れば口がとんがり、嬉しければ目尻が下がりっぱなしになる。
しかしそれがこんな結果を招くとは。
なんだかなぁ。このまま年越しかよぉ…。

148 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:35:27
そうやって腐っていたら、午後、宅急便が届いた。
芽衣子さんからだった。
中にはマフラーと手紙が入っていた。
一呼吸して手紙を開ける。
「誕生日おめでとう。
 編み方を勉強する時間がなかったので、マフラーは買ってきたものです。
 でも一生懸命選びました。よかったら使ってね。
 大切な日なのに健吾君の横にいられなくて残念です。
 健吾君が私に側にいてほしいと言った言葉。
 うれしかったけど、私には無理です。
 健吾君が忘れようと努力すればするほど、
 きっと私の従姉さんへの嫉妬心は大きくなります。
 そして嫌な姿をいっぱい健吾君に見せてしまう。私はそれが怖いのです。
 勝手な言い分ですが、健吾君が従姉さんを忘れられる日まで、
 距離を置いて待っていてはダメですか?
 来年は手編みのものをプレゼントしたいです。        芽衣子」

149 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:36:29
読み終えた俺の頭に疑問が湧いた。
芽衣子さんがまだ俺を想ってくれているのはわかった。
独占欲というコンプレックスがあって、嫌な姿を俺に見せたくないという気持ちも理解できる。
過去に何かあったのかな。そんな姿は見たことなかったから相当抑えていたのだろう。
気づいてやれなかった俺が鈍感だったんだ。
でもね芽衣子さん。
俺が恵子ちゃんのことを完全に忘れたと、誰が、どう判断するの?
君の勘が鋭いことはよくわかった。
俺が口先だけで「忘れた」と言ってもすぐに看破されるだろうことも。
かと言って本当に忘れたとしても、そのことは君に伝わるのだろうか?
君の勘は、それを受け入れてくれるのかい?
2002年も笑顔で終われなかった。

150 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:37:32
年が明けても、相変わらず俺は悶々としていた。
(一生の間に、俺は何回「悶々」とするんだろう)
笑いたくなった。
どうしてよいものかわからなかったから、芽衣子さんへの連絡はずっと出来ないでいた。
この頃の俺は仕事も忙しくて精神的にも参っていた。
追い詰められた心と頭が、芽衣子さんへの不満を生み出す。
忘れようが忘れまいが、今の俺たちには一緒にいることこそ必要なんじゃないの?
芽衣子さんは考えすぎだ!
…自分こそ、いつも理屈で恋愛を考えていたくせに。

151 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:39:37
その頃、俺は会社の女の子とよく飲みに行っていた。
そのコ・新藤 明日香さんは別の会社から俺の職場に出向していた人で、
同じ部署の仕事仲間だった。
仕事も優秀で、サバサバとした性格は付き合いやすく、
また住まいも俺と同じ横浜だったので、よく帰りがけに一杯やった。
男女ふたりが飲みに…とは言っても話す内容はいつも仕事のことばかりで
色気のある会話は別段無かった。
しかし回数を経るごとに彼女の態度が変わってきた。
俺に気があるような態度、仕草が目立ってきた。
俺も芽衣子さんと膠着状態にあったので、そんな彼女のアプローチを甘受した。
だが決定的な言葉は言わせず、言わずのノラリクラリ。
芽衣子さんの存在も新藤さんには言わなかった。
いい気になっていた。
今思い出すに、実にいやらしいヤツだったと思う。


152 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:40:21
2月に入ってまもなく、仕事中、新藤さんが俺に小声で言った。
「来週の金曜日、帰りに食事しません?」
その日はバレンタイン・デー。
「大塚さんに予定がなければですけど…」
俺はOKした。

153 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/18(金) 08:41:30
バレンタイン・デー当日。
会社から少し離れた喫茶店で待ち合わせした俺と新藤さんは、
地元のほうが終電を気にしなくていいからと、横浜に移動した。
「明日はふたりともお休みだから、朝まで飲みましょうね(笑)」
丁度いいウサ晴らしになると、俺も「望むところさ〜」と軽く返した。
彼女のお気に入りだという店に案内された。
店内はカップルだらけ。
ここに来て突然、俺は自分に動揺した。
なにしてんだ俺!? いや、なにしようとしてんだよ、俺!?
乾杯の後、新藤さんがチョコの包みを出しながら言った。
「付き合ってくれますか?」
その言葉を遮るかのように俺は言った。慌てふためいていた。
「ごめん新藤さん、ごめん!
 ここまで来ておいて、こんなこと言うのはおかしいし矛盾してるけど、
 ごめん、俺、付き合っている人、いるんです!ごめんなさい!」
ワッ、と彼女が泣き出した。

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