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百物語2013

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Part54
184 : ◆UiIW3kGSB. :2013/08/24(土) 03:09:05.77 ID:8Pjhrnqs0
【第五十四話】 キツネ ◆8yYI5eodys 様 「乗り合い」
(1/4)
バイト先の先輩に、とても良い先輩がいます。
その人は面倒見が良く、どこかに行く際にはちょくちょく車を出してくれるんです。
一度、よくドライブしたりするんですか?と訊いてみた事がございます。
その時、先輩はニカッと笑って答えました。
「いやいや、1人で車に乗るのは好きじゃないんだ」
意外な答えに首をかしげる私に先輩は続けます。
「人を乗せるのが好きなんだよね」
そう言って笑う先輩。
なんて良い人なのでしょうか。
これはそんな先輩に纏わるお話でございます。
先輩が車を購入したのは2年前。
バイト代をコツコツ貯めて買った中古の軽自動車でございました。
買った当初は1人で遠出しまくったもんだよ、と。
ではなぜ先輩は1人で車に乗るのが嫌いになったのでしょうか?
―――先輩が言うには、先輩の車には「出る」のだそうでございます。

185 :代理投稿 ◆UiIW3kGSB. :2013/08/24(土) 03:10:37.11 ID:8Pjhrnqs0
(2/4)
先輩が初めて幽霊の類に出くわしたのは、ある山道を走っていた時の事。
大好きなDragon Ashの曲をかけながらノリノリで走っていたそうです。
とある県境に差しかかった頃。
急にカーステレオが止まってしまいました。
どこか変なボタン触ったかな?と思った先輩は車を止めてステレオの操作盤を見ますが、
表示にも音量にも異常は見られません。
ですが、音が出ない。
帰ってから修理に出すか、と思い車を発進させた時でした。
車内のスピーカーから何かが聞こえて参りました。
き……ら、き……ら、ひ……かっ、る……
しばらく耳を澄ましていた先輩は、そこでようやく女の声だと気付きました。
歌っているのは童謡の「きらきら星」。
それを息も絶え絶えに、時折呻きながらか細い声で歌っているのです。
その事に気づいた瞬間、先輩は背筋に悪寒が走ったと言います。
そして、山道を飛ばす先輩がチラリとルームミラーを確認した時でした。
またもや先輩の背中を悪寒が走りまわります。
ルームミラーの中。
後部座席。
そこには、血塗れの長い髪を全身に張り付かせた女が、子供を抱きすくめる様にして座っていたのでございます。
―――ああ、この母親?が子供に歌いきかせていたんだな。
かすれた歌声と呻き声がスピーカーから流れる中、先輩はそんな事を考えていたのだそうです。

186 :代理投稿 ◆UiIW3kGSB. :2013/08/24(土) 03:11:36.30 ID:8Pjhrnqs0
(3/4)
また、ある時の事。
その日、先輩が1人で夜釣りに出掛けていた時の事でございます。
最初の方こそ張り切っていたものの、その日は全く釣れず。
諦めて帰途に着いた先輩は海岸線沿いの道を走っておりました。
ふと、助手席に置いたタバコを取ろうと手を伸ばした矢先。
ズルリ、
と、何かに手を突っ込んだ感触。
助手席に視線を向けたところ。
そこには腐乱して身体がブヨブヨに膨らんだ何かの姿。
視線を上げると、髪が頭皮ごと剥けてぶら下がり、パンパンに膨らんだ顔。
ようやくソレが人の姿だと気付いた先輩は、叫びながら無我夢中で車を走らせたそうで。
どこをどう走ったは覚えておらず、気付いた時には路肩に車を止めて、シートを倒して寝ていたのだそうでございます。
……なぜか、深夜の総合病院前の路肩に。
それ以降、そのブヨブヨと膨れたモノを車の中で見ていないとか。
先輩が言うには、目的地と全然違う場所に車を止めてしまうことが多々あるようで。
そんな時は、車に乗った幽霊の類がいつの間にか居なくなっているとのこと。
また、なかなか降りないのもいるようで。
ある時、トランクに老婆が寝転がっていたのを見た時の事。
真夏で暑いだろうと思った優しい先輩は、トランクを開けておこうとしたそうです。
が。
老婆にひどく睨まれた瞬間、勝手にドアが閉まったそうでございます。

187 :代理投稿 ◆UiIW3kGSB. :2013/08/24(土) 03:13:01.99 ID:8Pjhrnqs0
(4/4)
「あのお婆さんだけは今もトランクに引きこもってるみたいなんだよね」
そう言って、先輩はチラリとバックミラーを見ます。
今でもその老婆以外は入れ替わり立ち替わり、違う誰かが先輩の車に乗っているそうで。
時には複数の人影がバックミラー越しに見えるのだそうでございます。
「でも、不思議なんだよね」
先輩は続けます。
「いやさ、誰か他に人が乗ってると、幽霊出ないんだよねえ」
先輩が車を停車させました。
気付くと私のアパートの前。
送ってくれたお礼を言って、私は降りました。
その時、フッ、と生温かい風が先輩の車に吹き込んでいった気がいたしました。
あ、先輩今は1人で車に乗ってる……
ということは、すれ違いに誰かが乗ったのでございましょうか?
今なら先輩が言っていた意味が分かります。
―――人を乗せるのが好きなんだよね
そう、『人』を。
これを読んでいる皆様の車は大丈夫でしょうか。
バックミラー越しに誰もいませんか?
ひょっとして。
見えていないだけで、停車する度に≪何か≫を乗せていたりはしませんか?
【了】

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