尻「…はっ!!誰か居るのですか!?」
三蔵「見たところ20代そこらか。いや、肌の張りからすると、17、8かな」
尻「ああ…こんな人里どころか鳥の声さえ聞こえない不毛の地に、とうとう人が…!しかも声から察するに殿方…!」
三蔵「しかし無駄に毛深いな」
尻「ついに…ついにメチャクチャにされちゃうんですね…!この通りすがりの名も知らぬ殿方に性の捌け口にされちゃうんですね私のお尻…!あと毛深いとかヒドイ」
三蔵「うるさい尻だな…いくら仏の教えとはいえ、こんなのも助けるべきなのか…?」
尻「仏の教え…?僧侶さま…なのですか?」
三蔵「うむ。僧だよ。玄奘三蔵。…それにしても毛深いな…特に尻のあ」
尻「やめて!!…こ、これは失礼をしました…!仏に仕えるお方は、そのような煩悩は無いのですね!」
三蔵「いや俺ロリコンだから。女は10歳以下しか認めない」
尻「おい」
三蔵「下の毛とか意味わかんない」
尻「おいこら」
860: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/10(月) 18:28:00 ID:hbHbZCp96o
天子「……賊の討伐、実に大義でありました。この中華の帝として、深く感謝します。んふ、ありがとうね♪」
悟空「えへへ……また撫でられた…♪」
大臣「た、たった七人で、二万の敵を……いやはや、度外の武ですね…!」
八戒「じゃが結局この人数では、誰がどんだけ倒したか、ようわからんかったがの。あ、三バカトップは虎娘じゃが」
沙悟浄「なっさけないねぇ、男のクセに紅一点に遅れをとっちゃって」
羊力大仙「こ、虎力は遠距離に優れてるであるからして、我輩ら二人は一騎討ちの方がであるな!」
鹿力大仙「おいやっぱ俺にも教えろ虎力!あのビームみたいなの!」
虎力大仙「アンタには無理よ、気功術って、気の流れを理解するっていう学門だもん」
小龍「…ところであのプリン、まだありますか?」
三蔵「この面子でボケるのがお前とかやめて小龍」
天子「んふ、お気に召したようで何より。まだまだ沢山ありますよ?さ、お疲れでしょう皆様、後の膳を用意させましたので、ごゆるりと。………玄奘」
三蔵「ん?」
天子「夜を待たずに、発つ気でいるんでしょう?」ボソッ
三蔵「……長居すっと寺にまで呼ばれそうだからな。それはめんどい」
天子「…取経は済んだのに、まだ旅に出るのか…とか、最高僧としての務めを云々とか。そんな野暮ったいこと、お姉ちゃん言いません。でもね、玄奘」
三蔵「…だから抱き締めんなフワッて感じで抱き締めんな」
天子「……朕は貴方の姉であり、家族であるつもりです。貴方の居場所が、此処では無いとしても。…いつでも、帰ってくるんですよ?」
三蔵「………気が向いたらな」
悟空「うわっ、お師匠さまが照れてるキモッ」
八戒「なんじゃその取って付けたよーなツンデレ弟キャラは。気っ色悪い」
沙悟浄「…そ、そうか、フワッと抱き締めれば良いのか、フワッと……こう、肩から、こう」
三蔵「せめて茶化すくらいの可愛げはねーのかお前らは!あと悟浄なにそれ、肩を粉砕する系の技の構えかなんか?そして一番の毒舌が聞こえねぇと思ったらまたプリン食ってんのか小龍!」
861: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/10(月) 18:30:54 ID:hbHbZCp96o
悟空「ふわぁ〜、お腹いっぱいで歩くのダルい眠い…」
三蔵「うっせ歩け。本気でモタモタしてっと寺に連れてかれるんだよ三時間は読経させられるぞ」
八戒「そりゃその場に居るだけでキッツいの。ふぁ……じゃあワシ少し寝るから、あまり揺らすでないぞ小龍」
小龍「…はい。お休みなさいませ」
沙悟浄「また甘やかす……でも良いお義姉様だったよぅ旦那様ぁっ♪アタイこれなら家庭に入っても頑張れるよぅ♪……ちょっと何読んでんだい妻を無視してっ」
三蔵「いや、袈裟のポッケに手紙が……うわ、『勅』って書いてある」
悟空「ちょく?」
小龍「…皇帝の名においての命令、ですね」
三蔵「……何だよ回りくどい、直接言えよ直接……なになに?」
『“勅” 玄奘三蔵法師に、二代皇帝平世が勅を下す。天竺より更に西、西果ての国へ赴くと聞き及び、彼の地での人材を求めるものである。若く壮健な男子を所望す。努々、大臣には悟られぬよう』
悟空「…つまり?」
沙悟浄「西国から男を見繕ってこい、ってコトかねぇ…」
小龍「…曲がりなりにも天子が、勅命で男漁りですか……しかも大臣さんにバラすな、とまで」
八戒「…ふわ……西国の男は、色白で背丈があり……むにゃ……ナニが異様にデカイと聞くからのう……」
三蔵「……二度と帰るかあのクソビッチ!」
虎力大仙「……で、まあ賊の相手は面倒だったけど、美味しい物食べれたし、良い仕事だったわ。あ、これ経費の領収書」
紅孩児「…なんでそんな楽しそうなトコに、僕が居ないの…?よ、呼んでくれても」
虎力大仙「沙悟浄はなかなか話がわかるし、孫悟空は鹿力の相手してくれるし……エロ豚さえ居なきゃ、アイツらと呑むのも悪くないわね」
鹿力大仙「こんど俺様特製の麻婆茄子を食わせてやるって言っちまったからな!どっかで誘わねーと」
羊力大仙「八戒殿に龍神殿、双方とも兵法に明るく知者である。見識の交換は、我輩らの為にもなるであるな」
紅孩児「いずれ上司になる人を無視とか良くないと思うな!良くないと思うな僕!えっ、待って帰っちゃうの?えっ、ちょっ、えーっ!?」
劇終。
862: 名無しさん@読者の声:2014/11/18(火) 06:49:07 ID:QG/0oG8K2g
安定のこーちゃんwwwwwwwwwwwwwww
863: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/18(火) 07:15:38 ID:KuCSaKXNf6
>>1000まで埋まらせるから鼻クソほじりながら応援してね!
864: 名無しさん@読者の声:2014/11/18(火) 20:36:01 ID:6KdyPMHBok
ほら、ほじったのあげるよ!
支援
865: 名無しさん@読者の声:2014/11/19(水) 18:58:27 ID:Xl5E.mQ8IU
よっしゃー!まだまだ支援!!
866: ヨシュア【ファンブックおまけラノベみたいな・前編】 ◆.frSdr10QQ:2014/11/20(木) 19:14:45 ID:kNC9uH3bo.
……長い廊下が続く。古城特有のカビ臭さが鼻につく。
目に映る、紫の絨毯。蛇やら蠍やらを象った燭台。この彫像は毒竜かな。ウチの実家も大概だけど、輪を掛けて趣味が悪いね。魔王の城かっての。
「この先にて、魔王様がお待ちで御座います」
って、そうでした魔王の城でした。
城門からずうっと、僕を案内してくれた筋骨隆々の大男が、そう言って立ち止まる。
「……ここからは、一人で行けって事かな?」
僕の当然の問いに、男は腰の剣を抜いた。
瞬間。
針を刺す様な気が、僕を襲う。
「……へえ、驚いた。魁夷な風体に似合わない、綺麗な殺気だ」
「失礼ながら、力を試させて頂きます。魔王様の御前に立てるだけの力を、お持ちかどうか」
いやいや。呼ばれたから来たんだよ?それでなんで試されないと、と文句を言おうかと思ったけど、相手の目を見て諦める。ダメだこりゃ。
そして男は殺気を途切れさせず、大きな身体には似合わない、短めの剣を重心低く構えた。さっきから敬語も似合わないし、似合わないだらけだなこの人。
「…しょうがないなあ。お手柔らかに頼むよ?これでも僕、か弱いオンナノコなんだから」
「……牛魔の跡目、紅孩児………何れ程の兵(つわもの)か。いざ!」
『紅孩児伝〜The Devil's Blood〜』
867: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/20(木) 19:17:11 ID:kNC9uH3bo.
「佳く、来た」
玉座から、頭上に声を掛けられる。僕は首を上げず膝をついたまま、口を開いた。
「はっ。平天大聖が一子、紅孩児に御座いまする」
「うむ。頭を上げよ」
嗄れた、しかし通りの良い声が響く。
「…しからば。此度の謁見、元来ならば父、平天大聖が赴かねばならぬ処、此の様な若輩の身で代えた事、平に御容赦願います。……混世魔王様」
………混世魔王。坎源山(こんげんざん)に居を構える大妖怪。ウチのクソ親父と同じく『魔王』の名を持つ、バケモノだ。
「よい。大力王……いや、今は牛魔王と呼ばれているか。大所帯を束ねる身、身軽には動けぬであろう。王とは不自由なものよ」
黒い肌に、白い髪と髭。僕ら妖魔は見た目が老けてても実年齢は解らないけど、部屋全体を包む重い妖気が、かなり齡を重ねたそれだと確信させる。ま、この人父上より年上だって知ってるけどね僕。
「用件の前に、紅孩児。それは何の手土産だ?」
「……いえ、これは手土産ではなく、手打ち。無礼者は、混世魔王様の側近には相応しくないかと」
色々似合わないだらけだった男の首を、玉座に向かってゴロンと転がす。
「は、ははははは!おお、飛天か!試す相手を、見誤ったな貴様!ははははは!」
飛天って名前だったんだこの人。スゴいな名前まで似合わないよフルコンプだよ。
「気に入った!我が旗下に欲しい程よ!他家の跡継ぎであること、実に惜しい!」
………まあこうなるって思っててやってるんだけどさ。いや気に入らないでよ。部下殺されてるんだよ?僕だったら『なにしてくれてんのさ』って怒るトコだけどな。
親父もそうだけど、この『強いやつならなんでも好き好き』な感覚、わっかんないなぁ。
……とっとと終わらせよ。
「して、御用命は。我ら牛魔、盟友である貴方様の御為ならば、犬馬の労も厭いませぬ」
どうせシノギを分けろとかでしょ。若しくは露骨に銭の要求か。いつも親書でやり取りしてるのに呼びつけたトコを見ると、後者かな。
暴れてもらっても困るから、ある程度は聞き入れてあげないと……
「なに、主らに何か動いて貰おうと云う話ではないのだ。……ただ、邪魔をしてくれるな、と」
……ん?
「お話が、呑み込めませんが」
「………孫悟空を、殺そうと思うてな」
……呑む前に、話が変わってきたね。
868: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/20(木) 19:24:33 ID:JmqaZECoQM
「……この疵(きず)、幾百年経てども癒えず。腸は時に比して尚煮える」
皺だらけの手で両の眼を覆う魔王。……盲目っぽいね。飛天さんだかの首を見分けたのは、妖気の残り香を嗅いだか。
「光を失った事に怒りは無い。この疵は儂を強くした。……怒りを覚えるは、奴に、あの猿に恐怖した己よ」
出逢ってからの悟空の動向は、ストーカーばりに調べて知っている。その前の話か。なにこの人までやっつけちゃってたの悟空。さっすがあ。
「奴めは、主の父が義妹。主は奴の義姪になる。盟友の親族を手に掛ける事となるのだ。直接報告せねば、礼を失すると思うてな」
……まるで、もう殺したかのような言い方をする。うん、ムカつく。
「……御承知とは推しますが、今や孫悟空は、かの玄奘三蔵が一行。その弟子達の武名、天下に鳴り響いております。我ら牛魔も手を焼いた相手で御座います故、如何に混世魔王様と言えど、一筋縄では行きませぬかと」
さて、どう答えるか。
「………今の貴様らは、私腹を肥やす事しか考えぬ、単なる商人に成り下がったも同然。武において儂に意見する程度に無いわ。しかもその三蔵とやらと、共闘すらしたと聞く。下等な人間等と馴れ合うようになっては……」
薄ら笑いを浮かべて吐くその台詞を、ピーッという間抜けな機械音が遮った。
「…何の音だ?」
「ん?小型の録音装置。なんと通信機能まで付いてる優れものだよ……って、そっちが主か。牛魔傘下、摩雲カンパニーの技術力は大陸一ってねー。……あー、テステス。虎力さんどーぞー?」
眉間を歪ませた混世魔王を無視して、返信を待つ。もう敬語も良いや。
869: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/20(木) 19:26:28 ID:JmqaZECoQM
『ふわぁい、こちら虎力。あによ』
……寝てたな。
「予定大幅へんこーう。ココ潰すからさ、城、占領しちゃって?」
途端、『はぁ!?ふざけんな!』だの『聞いてない!』だのと大音量の怒声を浴びる。寝起きで元気だこと。
「怒んないでよ虎力さん。……牛魔が虚仮にされた。幹部連を黙らせる為に言質もとったよ。やらないと、流儀に反する」
少し間をおいて、ムスッとした了解の返事と溜め息が返ってきた。なんやかんや言っても忠臣なんだよね。彼女のそーゆーとこ、好きだな。
「……さてと」
通信機を懐に仕舞い、玉座に視線を向ける。
「声調を変えて気付いたぞ。うつけ牛の子は、娘であったか」
ふふん、動じないか。妖気に揺らぎも感じられない。てゆーか声でも男に間違われるのか僕。どんだけ。
「…占領部隊より先に終わらせたいからね、とっとと死んでもらうよ。座ったまんまで良いの?おじいちゃん」
「…………嘗めるなよ、小娘」
ごう、と音を立て、圧に押される。
押し返す。
「……ほう」
「嘗めてるのは、そっち。牛魔が流儀において、お命頂戴仕っちゃうよ?」
拝啓、愛しの悟空。
君のせいで、今日のこーちゃんのお仕事は魔王討伐です。
870: 名無しさん@読者の声:2014/11/20(木) 20:46:59 ID:pmZEHZJ8Ik
め、珍しくこーちゃんがかっこいい…
871: 名無しさん@読者の声:2014/11/21(金) 01:43:23 ID:.5uph4r0TI
こーちゃんの魔王討伐はっじまーるよー!
872: ヨシュア【ファンブックおまけラノベみたいな・中編】 ◆.frSdr10QQ:2014/11/24(月) 20:17:48 ID:cD0UJg150s
たん、と後ろへ跳ぶ。取り敢えず遠距離で様子見しますか。僕は慎重さが売りだしね。
「どう殺すね、小娘」
「そうだね……じゃあ小娘らしく、女の子っぽい技から出そうかな?」
愛槍、火炎槍の切っ先を下に。そして円を描くように、石畳の床を斬りつける。
刃より散った火花が、消えずに空中を漂う。
「炎術・花火弁(はなびら)」
僕の周りを舞う火花達が、その姿を楕円に変え、未だ立ち上がりもしない魔王に襲いかかる。
「焔の花唇……か。視えぬが、げに美しき花なのであろう」
よし余裕ぶっこいて避けない。花火弁は火花を『楕円の刃』に変える術。魔王だろうと冥王だろうと、細切れになっちゃえば終わりだね。
「しかし、脆弱」
数にして五十はあるであろう炎の円刃は、音もなく全て、奴の身体に、皮膚に刺さった。
……肉には届かずに。
「……おじいちゃん、体硬いねぇ」
「この図体で、乙女の柔肌であったら滑稽であろ。……風と音から察するに、長物を扱うか。ふむ」
お、立ってくれるみたいだ。ま、油断されっぱなしもあんまり気持ちの良いもんじゃ無し……って、うわ。背ぇ高っ。僕の三倍はあるんじゃない?
「刃を交えてみたい。近う」
「嫌だね」
どこに隠していたのか、刀身だけで僕の身長を悠に超える柳葉刀を携える魔王。あんなのとチャンバラは……まだ、御免被るね。
「もう少し、僕の火遊びに付き合ってもらうよ」
「不良娘の素行を正すも、爺の役目か」
…人をどっかのガングロみたいに言わないで欲しいんだけど。
873: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/24(月) 20:19:11 ID:cD0UJg150s
「煙燻らせ、螺旋と成し」
火炎槍の先に炎を灯し、白煙を渦巻かせ。
「尖る螺旋、羽虫を穿つ」
ドリル状になった火煙を、槍先より放つ。
「炎術・火槍火(かやりび)」
さっきは質より量、今度は量より質の攻撃。さあ、どう迎え討……
「憤っ!!!」
空気を揺さぶる程の大喝は、火煙の槍を霧散させた………って、うええええ?気合いで……いや、額に当たってる!頑丈にも程があるでしょ?
「……ほほう、中々の威力。痛みを感じたのは、実に久方ぶりだ」
額に出来た小さな小さな傷を擦り、魔王が嘯く。
「火遊びとやらは、もう打ち止めか?」
「まさか。まだまだアップの段階だよ」
互いに、にやりと口角を上げる。真似すんな。
「炎術・火斬亡(ひきりなし)」
「懲りもせず、また焔か」
炎の斬撃を弾き飛ばし、眼前に魔王が迫る。
「一太刀にて、斃(くたば)ってくれるなよ」
「勿論。喰らわないからね」
図体の割に疾いけど、見切れない程じゃない。振り下ろさされる刀を躱し、燃える切っ先を喉元に突き立てる。
「迷わず急所か。好ましい」
金属音が響く。……ふざけてるね。硬いとかのレベルじゃない。
「…なに?鉄か何かで出来てるのかな、その身体は」
石床に斬り刺さった刀を、ゆっくりと抜く魔王に、再び距離を取りつつ訪ねる。
874: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/24(月) 20:21:52 ID:cD0UJg150s
「鉄如きならば、貫けぬ貴様ではあるまい。両の眼を潰され、得た力が此の頑強よ。如何に気配を読もうと、聴覚を研ぎ澄ませようと。視覚に勝ろう筈も無し。敵の攻め手、全ては読めぬ」
…その通りだ。人間ならいざ知らず、元々感覚全般に優れる僕ら妖魔にとって、視覚を排除して得られる利なんて少ない。
「故に儂は、あの猿めが姿を隠してからの五百年。その全てをこの躯の強化に努めた……」
明らかな殺意が飛んできた。思うより先に、僕の身体が『避けろ』とアラームを鳴らす。
「二度と、もう二度と恐怖を感じぬ為に!」
「……っ!!!」
ガラガラと壁石が崩れ落ちる。これだけの衝撃で倒壊しないって事は、古そうに見えて、ちゃんと防御呪を施してあるんだね。
「大した身の熟しだ。焔に頼るばかりの木偶では無かったか」
斬撃は、避けた。二の手から繰り出された拳も、避けた。
…ほんの肩先に掠っただけで、これか。これが、魔王か。
「高が小娘とは言え、惜しいな……殺すには、惜しい」
炎も、刃も通さない身体。全身が凶器。これが、魔王か。
「妾として、飼うてやろうか。くく、それもいい」
軽口を叩きつつも、凍えそうな殺気を止まず放出し続ける、これが。
石床が、チリ、と音を立てる。
「……なんだ、この熱は」
炎の刃にも、燃える切っ先にも怯まなかった魔王が、初めてその顔を強張らせた。
「………こんなものが、魔王か」
異様な熱気を孕んだ、たかが小娘の一睨に。
875: 名無しさん@読者の声:2014/11/25(火) 00:49:21 ID:unmLT9hqu.
C!
本筋読み終わったばっかりでサイドストーリー今追ってますが三蔵一行とか描いても宜しいでしょうか?
876: ヨシュア【ファンブックおまけラノベみたいな・後編】 ◆.frSdr10QQ:2014/11/27(木) 19:20:52 ID:fr1T4ByreU
「……ずあぁあっ!!」
僕が呟くや否や、刀を構え飛び込んでくる魔王。間違ってはいない。不可解な現象に対し、冷静に対処……と言えば聞こえは良いが、一旦間を置くのは凡夫のそれだ。賢者ならば、後手を取る前に動くべき。だけど。
ひび割れた壁を背に座り込んだまま、魔王の柳葉刀を火炎槍で受け止める。ぶつかる刃の音は、部屋中に。
響かない。
「……っ!!?」
盲目の魔王には、何が起きたかが解らない。刀が軽い。折られた?いや、合する手応えすら無かった。
「……刀身を…斬られた…?」
ギィン、と、断たれた刃先が床へと落ちる。
「摂氏千度、青銅を熔かし」
ゆっくりと起き上がる僕に、魔王が後ずさる。
「摂氏二千度、白金を熔かす」
否。僕は刀身を斬ってなどいない。この火炎槍が刃に触れたなまくら刀が、勝手に『熔けた』だけのこと。まるでアイスクリームのように。
「摂氏五千度、およそ下界で熔かせぬ金鉄無し」
槍先を掠めた石床が、ドロリと熔け消える。
「三昧真火・裏奥義。聖嬰火炎槍(せいえいかえんそう)。この躯の中に燃える真火、その熱を全て槍先に。…最高値は、摂氏二万度だよ」
炎そのものである宝槍、火炎槍だからこそ出来る術。と言うか僕は、この槍を介してしか炎を使えない。
「……三昧真火………忌術中の忌術……!!」
そう、狂う程の苦痛に耐え得た、忌まわしき炎。呪われた炎。火炎槍というフィルターを通さずして体外に出そうとすれば、消し炭となるのは、僕のこの肉体だろう。
「君が五百年、悟空に『殺されないよう』、鍛えている間」
紅の刃を、宙に泳がせる。
「僕は五百年、悟空と『殺し合えるよう』、強さを求めた」
愛しの女性を、脳裏に映す。
「恐怖なんかで強くなれるワケ無いでしょ。人はね、愛で強くなるんだよ」
「ぬ……ぐああぁぁぁぁぁぁあっっ!!!」
果たして、僕の愛は。
魔王の咆哮を掻き消し、その心臓を貫き熔かした。
877: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/27(木) 19:23:54 ID:fr1T4ByreU
「………ガフッ……はぁ……はぁ……」
……生きてるか。術で気血を巡らせてるのかな、しぶといコトで。
「たかが小娘に負ける気分はどう?臆病な魔王様?」
魔王の肌が真黒から浅い灰色へと変わっている。成程、身体の異常硬化は、妖力に因ったものか。
「………よもや……今生で、二度も…敗れよう……とは……」
二度、か。一度目は悟空に。二度目は、悟空に植え付けられた恐怖に敗けた、ってところだね。やーい二連敗。
「……牛魔の跡目……この混世を降したのだ………今日にでも、好きに魔王を名乗るが良い……」
……魔王、ねえ。
「僕に流れる半分は、言うまでもなく魔王の血だけども」
くるりと、玉座に背を向け。
「もう半分は、悪鬼羅刹の血。ちなみにどちらかと言えば、母親似だしね」
振り向かず、扉へと進み。
「……精々が、『悪魔』くらいじゃない?僕は」
静かに、広間を後にした。壊れた玩具に用は無い。
「………殺さぬ、か。…………く、くく……甘い悪魔も居たものよ……」
「おつかれ」
中央階段を降りたところで、虎力さんに声を掛けられる。制圧早いなあ。強くなったね。
「うん、ご苦労様。あれ、みんなは?」
数人の兵しか連れてない。え、何もう定時でほとんど帰っちゃった?
「羊力は投降兵の処理。鹿力は、相手がちょっと強かったからね。タイマン後のお昼寝」
なーる。ほぼ降参したわけだ、人望あんま無いのね、魔王さん。
878: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/27(木) 19:25:28 ID:fr1T4ByreU
「で?ボスは殺ったの?」
「ん〜………あ、そこのキミ、新人?」
真新しい鎧を着けた、まだ子供みたいな兵士に声をかける。
「は、はっ!今回が初陣で御座います!若君様!」
やー、初々しいね。まあそのうち先輩連中に毒されて、酒と女とギャンブル漬けのロクデナシになっちゃうんだろけど。
「…この階段を登って、真っ直ぐ廊下を進むとね、突き当たりに広間があるんだよ。そこで大柄なおじいちゃんが寝てるからさ。その首、刎ねてきちゃって?」
「ちょっ!紅孩児、はぁ!?」
新人君が、僕の命令より虎力さんの大声にビクッとした。結構部下には厳しいらしいからねー。
手をヒラヒラさせ、そんな彼女を宥める。
「初陣の記念だよ。大将首、あげる」
「は、ははぁっ!畏れ多くも謹んでっっ!」
拝礼し、キビキビした動きで階段を駆け上る新人君。うーん、100点満点だね。
「……アンタ………」
「大丈夫大丈夫、ホントに死にかけの瀕死状態だから。なにもしかして彼、虎力さんのお気に入り?浮気しないでよぉ」
呆れた顔も可愛いなあ、虎力さん。
「そうじゃなくて……アンタ性格悪過ぎ。なんで自分でカタつけないのよ」
えーとね、それはね。
「……敗けて満足、みたいな顔されて、ムカついたんだもん。怨まれないと、殺り甲斐、無いじゃない?」
「……本音は?」
「なんとなく♪」
ふふ、敵わないな虎力さんには。
879: ヨシュア ◆.frSdr10QQ:2014/11/27(木) 19:31:49 ID:fr1T4ByreU
「うわぁヒドっ。悪魔か。……たまに、牛魔王様より、奥方様より。アンタのがよっぽど怖い時があるわ、紅孩……」
ポフッと、虎力さんの胸に埋まる。やわらかい。
「……なに?セクハラ?訴えるべき?」
…裏奥義は、実は滅茶苦茶疲れるんだよね。僕も、体力的には、瀕死も良いとこ……
「…今回だけ……許してよ……」
眠い。あ、ダメだ。
「……少しだけね」
やさしいなあ。……おやすみなさい。
「……まったく。寝顔だけは私より幼いクセに」
「……んぅ………ごくう……」
「……私の名前を呟かれてもキモいけど、胸貸しといてコレはなんかムカつく」
……ねぇ、悟空。
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