勇者「あ、あああああなたが魔王ね!!」
魔王「・・・1人でのこのこと殺されに来るとは殊勝な事だ。
ふむ、まさか勇者がこんな歳若い娘とはな・・・ククク」
勇者「う、うるさい!ここで会ったが百年目!世界に平和を取り戻すために
あなたを倒してみせる!」
魔王「いいだろう。倒せるものならしてみるがいい。・・・さぁかかってくるがよい!」
勇者「言われなくとも!てやー!!!」
ズルッ
ドテッ
勇者「ふぎゃっ」
魔王「えっ」
555: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:23:11 ID:g.AV2R2.bU
側近「…という、事でですね。まぁそんな後ろ向きに考えないで下さい。僕らは大丈夫ですから」
勇者「…」
側近「ちょっと、聞いてるんですか?阿呆の勇者さん」
勇者「ふえっ!?…あっ!は、はい!聞いてます!!」
勇者(きゅ、急に口調変わるから吃驚した…)
勇者(今のって、もしかして、素の口調だったりするのかな…まさか、ね)
556: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:23:29 ID:g.AV2R2.bU
側近「解呪するから宜しく、なんて魔王様に言ったら反対されますからね。コソコソとやらないと」
勇者「えっ?…ど、どうしてですか?」
側近「…僕らが消えるからですよ。あの人は何処までも大馬鹿野郎ですよ。世界の人々と魔物、どっちが大切なんだか」
勇者「どちらも…だと思いますけど…」
側近「…全く、アンタ達2人は本当似た者同士だ。優しすぎますね」
側近「そんな我儘、通用出来たらどんなに良い事か」
勇者(…何だかんだで側近さんも優しいと思うけど)
557: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:23:44 ID:g.AV2R2.bU
勇者「…側近さん」
側近「何でしょうか」
勇者「その呪い、本当に私でも解けるんですか?」
側近「だからアンタにしか解けないんだってば」
勇者「こんな弱い私でも?今の私でも?」
側近「…この解呪の方法に必要とする魔力は並大抵のモノじゃない。それこそ、魔王様と同等くらいの力が要ります。同等とは行かなくても、近い程の魔力が」
勇者「…それって、今の私の力じゃ」
側近「無理ですね。確実に」
勇者「…」
558: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:23:59 ID:g.AV2R2.bU
側近「地道にレベルを上げるか、何処かの師に弟子入り志願するか、…無理矢理にでも魔力を上げるか」
勇者「無理矢理?」
側近「薬漬けとかですね」
勇者「いっいいい嫌!それは嫌です流石に!!」
側近「じゃあどちらかですね」
勇者「…どちらか」
559: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:24:15 ID:g.AV2R2.bU
魔王さんの呪いは私にしか解けない。
私にしか出来ない事。私だけが。
結局、私は強くなれなかった。最後まで魔王さんやみんなの足を引っ張っただけの存在だった。
…少しは成長したと思いたい。
でも、さっきの魔物だって、幾ら剣を振るっても全然歯が立たなかった。
其処か魔物に捕まってしまって、それで魔王さんに助けて貰って…。
魔王さん達には迷惑かけてばかりだな。
今度こそ強くなって、魔王さん達にお礼をしたい。
今度は私がみんなを助ける番だ。
弱くても良い、死んでも良い、やらないで泣いてめそめそするだけはもう嫌?
そうだね、その時はそんな考えしか出来なかった。
でも、今は
勇者「私…強くなります。強くなって、魔王さんを助けます」
勇者「一人で」
560: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:24:32 ID:g.AV2R2.bU
側近「へぇ…言いますね。てっきり、名のある師に弟子入りしに行くのかとばかり」
勇者「もう誰にも頼りません。自分自身の事だから、私は自分の力で強くなります」
側近「勇者さんの力だけでねぇ…。何年、何十年かかるんですかね」
勇者「分かりません」
側近「いい加減ですね。こうしてる間にも魔物は凶暴化しているかもしれないと言うのに」
側近「もしかすると、あと何年かしたら僕の自我も無くなって、獰猛化するかもしれませんね」
勇者「その時は…」
勇者「その時ですよ」
側近「ははっ、本当にいい加減だ。それでも勇者かよ」
561: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:24:49 ID:g.AV2R2.bU
勇者「私はみんなを救いたいです。魔王さんやお兄ちゃん達…勿論側近さんも」
側近「それは無理な願いですね。魔王が居なくなれば魔物は消滅する。それは変えられない理だ。法則だ。ねじ曲げられない、絶対に」
側近「大体、僕達を救うと言っても、どうせ魔王城のヤツだけでしょ?それはエゴってものですよ」
勇者「…大切な人を救いたいという気持ちがエゴというなら、エゴで良いですよ」
側近「そう」
側近(まぁ…僕もそう変わったものじゃありませんが)
562: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:25:07 ID:g.AV2R2.bU
側近「それじゃあ勇者さんは魔王様の呪いを解くという事に了承したと、そういう事でいいんですね?」
勇者「はい。…この魔導書、お借りしますね」
側近「あげますよ。どうせ僕には扱えませんし」
勇者「…ありがとうございます」
側近「…強くなるって事は、いつかは旅立たれるという事ですよね?」
勇者「はい。明日の朝にでも」
側近「…結構行動派なんですね」
勇者「へへ。意外ですかね?」
563: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:25:24 ID:g.AV2R2.bU
魔王「…」
魔王「マジかよ…」
魔王「アイツら独断で俺の断りも無く勝手に決めやがって…」
魔王「…俺が、迷惑です、とか言ったらアイツらどうする気なんだ…」
魔王「お節介にも程があるだろ…」
魔王「…それは俺も同じか」
魔王「ホント、馬鹿ばっかりだな」
魔王「しかし、アイツ一人でねぇ…」
魔王「何か、一生この呪いと過ごさなければいけない気がしないでもないんだが…」
564: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:25:42 ID:g.AV2R2.bU
魔王「…コレ以上、魔物達が凶暴化しない為にも」
魔王「俺も何かをするべきなんだろうか…」
魔王「しかしな…どうしたってこれは抑えられない…」
魔王「…」
魔王「仕方無いな。凶暴化した魔物は俺が片付けていってやるか…。数が多いだろうからアイツの旅と同じく果てしないだろうな」
魔王「…まさか、人間に戻れる日が来るかもしれないなんてな」
魔王「あの魔導書を発見した側近には感謝しないとな」
魔王「それと、謝罪を」
565: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:26:04 ID:g.AV2R2.bU
−−−
朝
戦士「は、はぁ!?旅に出るぅ!?ちょっと待てよ!聞いてねえぞそんなの!!」
賢者「言ってないからな」
戦士「うるっせえ!お前には聞いてねえ!勇者本気か!?しかも一人って…オレもついてく!」
勇者「駄目。コレは私の戦いだから。戦士くんは付いて来ないで」
戦士「えっ…」
魔法使い「戦士はいいとして、本当に一人で大丈夫なの?遠足じゃないのよ?死ぬかもしれないのよ?」
勇者「大丈夫。大丈夫だから。そんなに心配しないで。…ちょっと時間かかるかもしれないけど、必ず帰ってくるよ。世界も救うから」
戦士「ちょっと時間がって…どれくらいだよ…」
勇者「分かんないよ。そんなの」
566: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:26:21 ID:g.AV2R2.bU
魔法使い「賢者…」
賢者「…俺も、昨日聞いた時驚いた。勿論反対したよ。一人じゃ危ない、俺も付いて行くって。だけど、何度言っても聞き入れてくれなかった。もう何を言ったって無駄さ」
魔法使い「…むぅ。…勇者、危なくなったら絶対に帰ってきてよ?貴女の身に何かあったらあたし…」
勇者「大丈夫だよ、魔法使いちゃん。安心して。私、絶対にやり遂げてくるから」
戦士「…大丈夫か?」
勇者「大丈夫だってば。もーしつこいなー」
戦士「だ、だってよ…」
勇者「だってもじゃないの。私が大丈夫って言ったら大丈夫なんだから」
戦士「それが信用出来たら苦労しねえよ!!お前弱いんだからさ!!」
勇者「ひ、酷い!」
賢者(いや、事実だ)
567: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:26:44 ID:g.AV2R2.bU
勇者「…よいっしょ、と」
賢者「荷物大きいな」
勇者「えへへ…。必要なもの詰め込んでたらこんなになっちゃった…」
賢者「要領が悪いな」
勇者「なっ」
賢者「そんなに大荷物だと敵から狙われやすいぞ?」
勇者「その時には盾にするから大丈夫だよ」
賢者「そういう問題じゃないだろ…」
568: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:27:01 ID:g.AV2R2.bU
勇者「じゃあ、行ってきます!」
賢者「…あぁ」
魔法使い「気を付けてね」
戦士「う…」
勇者「あ…忘れてた。…戦士くん」
戦士「…何?」
勇者「…」スタスタスタ
バチンッ!
戦士「いっ!!?」
魔法使い「!?ゆ、勇者!?平手打ちって…!?えっ…!?」
569: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:27:24 ID:g.AV2R2.bU
勇者「ごめんね。どうしても、許せない事があったから」
戦士「は?はぁ!?どういう…!」
勇者「スライムさん達、忘れないでね」
戦士「へっ…!?」
勇者「じゃあ、今度こそ行ってきます!」
戦士「お、おいっスライムさん達って…!!」
魔法使い「…行っちゃった」
賢者「足速いな」
戦士「なぁ!?スライムって何!?」
賢者「忘れたのか?薄情者め」
魔法使い「万死に値するわ」
戦士「はぁあああ!?」
570: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 01:27:45 ID:g.AV2R2.bU
魔法使い「…っていうか、あたし達はお咎め無しなのかしら」
賢者「…まぁ実際に手を出したわけじゃないし」
魔法使い「あたし達全員の分のが戦士への平手打ちに込められていたとしたら…」
賢者「戦士、悪かった」
戦士「だから、何がだよ!」
賢者「…後で、話してやるよ」
賢者「話した後は、花を供えに行こう」
571: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 03:04:40 ID:g.AV2R2.bU
−−−
一人旅も楽じゃないな。想定の範囲内ではあるけれど、思うのと実際に感じるとのでは全く違う。
最初は、かなり苦労した。旅をし始めて、そう言えばと気付いたけど、料理もまともに作った事が無かった。はじめの頃の料理なんて酷すぎて泣きたくなるくらい。
今はもう大分上達した。最近では少し工夫なんかもしたりする。
と言っても、野宿だとそんな手間のかかる料理なんてしている暇なんて無いけれど。
魔法も沢山覚えた。火もマトモに出せなかった頃が懐かしく感じる。成長したんだなぁ私も。
旅の行く先々で、困難にぶち当たったり、おかしな人にも出会ったり、…あぁ一つ村を救ったな。
勇者らしい事もした。うん、本当に成長したと思う。…大分、時間かかったけれど。
強くなった。そう、私は思っている。まだまだ精進しなくちゃいけない所は山程あるけど、あの頃のいつも泣いていた私では無くなった。
未だに初対面の人と話す時は緊張しちゃうけど。根本的な所は変わっていなくて逆に安心する。
全てが全て変わったら、私が私じゃなくなるもの。それは、怖いから嫌。
「…見えてきた」
この旅の終着点が見えた。
アレだ。久しぶりだな。
「少し、廃れてる、な」
久しぶりに見た魔王城は少し暗かった。
572: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 03:04:56 ID:g.AV2R2.bU
側近「…おやっ、お久しぶりですね」
側近「えぇ…見ての通りですよ。自我は保っていますけど、少し身体に異変がね」
側近「…心配ですか。変わったと思いましたけど、やっぱり根本は変わっていないんですね。安心しました」
側近「…そうですか。いいえ、謝らないで下さい。分かっていた事です」
側近「世の中、全てが上手くいく程甘くありません」
側近「ハッピーエンドには犠牲がつきものですよ。…え?違う?」
側近「えぇ。ありがとうございます。魔王様だけでなく、僕達の為にも頑張ってくれて」
側近「大丈夫です。此処で消えても悔いはありませんよ。もう、こんな身体ですし」
側近「やっぱり、魔力が少ないと駄目ですね。凶暴化はしなかったから良かったものの、これじゃあ折角の男前が台無しですよ」
側近「…泣かないで下さいよ。僕が泣かせたみたいじゃないですか。…はい、はい」
側近「…こちらこそ、ありがとう」
側近「お元気で」
573: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 03:05:15 ID:g.AV2R2.bU
魔物の凶暴化というのは全員が全員そうなる理由では無いみたいだ。
魔力が元々少ない奴や運の悪い奴は急激に増えた魔力に耐え切れなくて身体に異変を起こし、前の身体を保てなくなって、肉塊へと変貌する。そんな奴も中には居た。
全部が全部そうなら勝手に自滅してくれて助かるんだろうけど、それは一部らしい。
基本はみんな凶暴化、獰猛となる。
この城の奴等も大分やられた。自我を最期まで保てない奴は、自我が切断される前に俺が殺した。そう言われていたからだ。
俺の魔力は尚も増え続けていくばかり。凶暴化も肉塊にもならないからそれはそれで良いんだろうけど、やはり軋む。身体のあちこちで悲鳴をあげてやがる。
人間から魔物になるにはリスクが大きすぎると、ぼんやりとした頭で思った。
簡単に死ねたらどんなに楽な事か、死ねない身体のくせに何度も死のうと思った。
でも、いつも寸前でやめた。今此処で死んだら、アイツに申し訳立たないから。
だったら死のうだなんて思わないで下さい、とアイツなら言うだろうな。
しかし…さっきから何やら外が騒がしいな。
招かれざる客人でも来たか?今日はもう頭が重たいからこのまま寝ておきたかったんだが。
「…折角、来たのにお出迎えは無いんですか」
「…悪いな。どうやら風邪を引いたみたいだ。明日にしてくれ」
「何を馬鹿な事を」
574: ◆Gw31v9ceXw:2012/2/27(月) 03:05:36 ID:g.AV2R2.bU
勇者「…来ましたよ。魔王さん。お久しぶりですね」
魔王「…そうだな。何年ぶりだ?10年か?20年か?…30年?」
勇者「5年ですよ。時間の感覚狂ってますね。ちゃんと頭のネジ回しといて下さいよ」
魔王「手厳しい発言だ。お前はそんな辛辣な言い回しをする子じゃなかったろうに」
勇者「5年も旅をすれば変わりますよ、多少は。…多少ですけれど」
勇者「大分待たせちゃいましたね。ごめんなさい」
魔王「いいよ。…いや、良くないか。俺の仕事が増えたし」
勇者「仕事?」
魔王「何でもない」
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