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花道×晴子

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Part1
72 :桜恋 1 :2009/06/29(月) 21:20:59 ID:vwEFjNGa
白や淡紅色の、春の象徴。
満開に咲いている光景を見ると、その存在感に圧倒される。
そしてなぜか、期待に胸を膨らませる。なにか、楽しいことが起きるのではないかなって。
春の訪れを知らせてくれる桜は、私にとってそんなイメージ。
「あは。またきてる。」
玄関のドアを開ける前に、ポストを見るのが習慣になったのは、いつからかな。
見慣れた白い封筒裏の差出人の名前も、私にとってそんなイメージ。
・・・桜木花道。
キャプテンだったお兄ちゃんが引退して、
入れ替わりに私、赤木晴子が湘北バスケ部のマネージャーになりました。
リハビリ中の桜木君に、その事を知らせたかったのと、バスケ部の状況を知らせたかったのと、
あとは・・・。ううん、とりあえずその大きな2つの理由があって、お手紙を出しました。
それから、桜木君からお返事が来るようになって、私も出して。
桜木君の手紙って、人柄がにじみでてるっていうか、読んでてすごく楽しいの。
今度の手紙も面白いな。
「また桜木から手紙か。」
「あっ、おかえりなさいお兄ちゃん。桜木君、リハビリ順調みたいよ。」
「そうか!」
一瞬明るくなったお兄ちゃんの顔が、急に険しくなった。
制服のままダイニングテーブルでくすくす笑ってたからかな・・・?
「きっ、着替えてくるわねっ。」
「待て、晴子。」
「なに?」
「なんだ、その・・、お前たちは・・・。」
「なぁに?」
「ぶっ・・・、文通を、しとるのかっっ?」
真っ赤な顔して、こぶしを握りながら、お兄ちゃんは言った。
「あははは。やぁね、お兄ちゃんたら。そうね、してるかな。」
「晴子、悪いことは言わん。もう止めておけ。」
「どうして?」
「無駄な期待を持たせるだけだからだ。」
「期待って?」
「・・・。」
「変なお兄ちゃん。」
部屋に行く私にお兄ちゃんは何も言わず、ただ、ずーんって感じでたたずんでいた。

73 :桜恋 2:2009/06/29(月) 21:23:02 ID:vwEFjNGa
制服から部屋着に着替えて、手紙の続きを読んでいたら、こんな文字が飛び込んできました。
『・・・最後に、ビックニュースがあります!このままいけば、半月後位には戻れそうです!!』
驚いて、反射的にカレンダーを見た。半月って・・・。
『天才桜木、帰還予定日!!!!』と書いてある赤い大きな文字の日付と、
今日の日付を指折り数えて確認したあと、大きな声でお兄ちゃんの名前を呼んだ。
『桜木君、こんにちは。手紙読みました。
嬉しい知らせに、今日届いたお手紙だけど早くお返事を出したくて、もう書いてます。
明日には、ポストに投函するつもり。
さっきお兄ちゃんに伝えたらとても喜んで、すぐ三井さんたちに電話してたみたい。
みんな、楽しみに待っています。
・・・それで、私からひとつ、提案があるんだけど、いいかな。
授業も少し遅れちゃっただろうし、戻ってくるまでの間だけでも、
私とでよかったら、一緒に勉強しませんか?
お返事待ってます。         晴子。』
その返事を桜木君は電話でくれて、久しぶりの声に話がどんどんはずんでいたら、
廊下を通りすがったお兄ちゃんの眉間に、深い皺がよってた。・・・うるさかったかな。
とにかく私は今から、桜木君のいるリハビリセンターの近くの図書館に向かっているところです。

74 :桜恋 2:2009/06/29(月) 21:24:24 ID:vwEFjNGa
学校近くのバス停から直通が出ていて、約束の時間より早く着いたので
待ち合わせの図書館に行く前に、初めてのこの町を少し散歩してみようって思いました。
ふわっと前からくる潮風と磯の香りや、ちらほら増えてくるお土産屋さん。
海岸に近い町が持つ独特の風景を眺めながら、緊張している自分に気がついていました。
なじみのない場所だから・・・だけじゃなくて、久しぶりに桜木君に会うから。
桜木君、元気だったかな。会ってどんな話しようかな。変わったりしてないかしら。
変わらず、大好きかな・・・・・・。バスケットのこと。
「ハルコさんッッッ!!」
聞きなれた声に振り向くと、そこには懐かしい赤い髪の、見慣れた笑顔がありました。
「お久しぶりっす!!ハルコさん!いやァ〜、道端で再会を果たすとはまさに運命!!」
「桜木君、久しぶりね。あは。元気そう。」
「あったりまえです!不死身の男、桜木花道!!元気いっぱいです!」
「うふふ。良かった。ほんとに良かったわ。」
桜木君はニコニコの笑顔で、両手を大きく回しながら私の隣に並んだ。
髪が、少し伸びていてなんだか以前より引き締まった感じがする。ちょっと痩せたのかしら。
気づかれないように小さく深呼吸をしてドキドキとうるさい胸に手を当てた。
「・・・好きっすか?ハルコさん。」
「とっととととつぜんなぁにっっ?!桜木君たら!!」
「ぬ?嫌いでしたか?クレープ・・・。」
「・・・えっ??」
桜木君の指差す方向を見ると、縞模様の屋根の小さなクレープ屋さんがあった。
「よくこの前通るんすけど買ったことなくて。ハルコさんはクレープ好きっすか?」
「えっ、ええ。すすす好きよう、チョコバナナとかっ・・・。」
「おっ!チョコバナナっすね!買ってきます!!」
小走りでクレープ屋さんに向かう桜木君の背中を見ながら、大きなため息がでた。
だって私ったら、すっごい恥ずかしい勘違いしちゃったみたい。
でもそれは、ほんとはずっと気になっていること・・・あの日から。

75 :桜恋 4:2009/06/29(月) 21:28:00 ID:vwEFjNGa
「お待たせしました!」
ふと振り向くと、目の前がクレープで埋まりました。ほんとに買ってきてくれたんだわ。
「わぁ、ありがとう。いくらだったの?」
「いーんすよ、俺の分も買ってますし。」
「じゃあ・・・、ごちそうになるわねっ。」
「うっす!」
なんだか楽しいな。桜木君も元気そうだし、きてよかった。
あら・・・?違うわ、私ったら。勉強しにきたんだわ。
「そうよ!桜木君、勉強をしなくっちゃ!!」
「あ、はい。図書館なら、そこですが?」
またもや、桜木君の指差す方向を見ると、レンガ造りの四角い建物があった。
うう〜・・・なんだかおかしいわ・・・。
「い、いきましょ、桜木君っ。」
「あっ、ハイ。でも、食べてからの方が・・・。」
「そっ、そうねっ、そうだわっ。ちょっと座ろっか・・・。」
うう〜〜・・・ほんとになんだかおかしなかんじ・・・。
図書館の脇にある花壇のふちに2人で座って話をしていたら、ちょっと落ち着いたみたい。
それからずっと図書館で今までのノートや参考書を開きながら、私達は閉館までずっと勉強をしました。
頭を掻いたり大きな声を出したりして、桜木君、やっぱり勉強に困ってたみたい。
ちょっと図々しいかなって思ったけど、役に立てたのかな。
「それじゃあ、また・・・明日、でいい?」
バス停まで送ってくれた桜木君に、次の約束の確認をいれた。
「あ、ハイ。・・・でもよく考えるとハルコさん、部活はいーんですか?」
「うん、あのね、安西先生とバスケ部のみんなには、実はもう了承済みなの。」
いつもなら部活のある時間。桜木君が気にならないはずないのに、私ったら言い忘れちゃってた。
「な〜んだ!そうっすか!!ハッハッハ〜!あいつらめ!」
「うん!頭も身体も完璧になって帰って来い!なんて言ってたわよ。・・・でも、連日続いたら桜木君が迷惑かな?」
「いいえ是非とも!!よろしくお願いします!!」
「あは、良かった。また明日ね。」

76 :桜恋 5:2009/06/29(月) 21:30:13 ID:vwEFjNGa
それから毎日、私達は図書館で勉強をしました。
私のつたない説明でも、真剣な顔して一生懸命聞いてくれてたみたい。
そんな桜木君の表情がなんだか印象的で、ううん、ほんとは表情だけじゃなくって、
桜木君の首筋とか、広い背中とか、してくれた事や、話した会話。
桜木君のことばかり、家でも学校でも思い出しちゃって・・・。
これって変だわ・・・。変よ、わたし・・・・・・。
「ぜったい変よ・・・。」
「ぬおッ?!答え、変でしたかっ??」
いけない。声に出しちゃった。桜木君が私の顔を覗き込む。
その近さにびっくりして、ここが図書館だというのも忘れて大きな声が出る。
「ちちちちちがうのっ!あっ、答えはあってるの!でも違うの!」
「???ハルコさん?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
「????」
私ったら、自分から勉強しようって言ったくせに、上の空になってる・・・。
いけないわ、晴子。このままじゃ、桜木君にも迷惑だわ・・・。
不思議そうにしながらも参考書に目を戻してくれた桜木君の顔を盗み見て、私はある決心をしていた。
「・・・あの、ハルコさん。お疲れなのでわ?」
いつものようにバス停まで送ってくれている途中で、桜木君はそう私に訪ねてきた。
「連日、こうして付き合ってもらっていますし、いや、俺は嬉しいんですが・・・。」
やっぱり、さっきの事気にしてるみたい。そうじゃないの。勉強のことじゃなくて・・・。
「ねぇ、桜木君・・・・・・。」
いつも帰り道は、夕暮れの差し掛かった時間。薄暗いこの時なら、きっと私の顔をじっくり見られることはない。
言わなくちゃ・・・、ずっと、聞きたかったこと。ほんとはずっと、気になっていたこと。
私は、2、3歩と離れて前に進み、言葉を出した。
「あの日、山王戦のあの日言った言葉は・・・、バスケットのことだけですか?」

77 :桜恋 6:2009/06/29(月) 21:32:05 ID:vwEFjNGa
山王戦のあの日、倒れた桜木君は起き上がって、私にこう言った。
『大好きです。今度は嘘じゃないっす。』
がっしりつかまれた肩の感触を、まだ覚えている。
あの言葉は・・・、バスケット、のこと・・・・・・?
「・・・あのコトバ・・・・・・。」
街路灯の影で、桜木君の表情を覗くことができない。ただ、大きな身体は立ち止まり、まっすぐ私を向いていた。
視線の強さを感じて逃げたくなるような感覚に襲われる。・・・けど、その口が開き出すのをを願ってもいた。
「ハルコさん・・・。オレは、バスケットが大好きです!」
聞きたかった答えはいつもよりも低い声で、そのせいかとても重い衝撃を、私の胸に与えた。
それは、凄く嬉しい答えのはずだった。なのに、このショックはなんだろう・・・。
動かしている意識はないのに、足はゆっくりとあとずさり、この場から遠ざかりたがっている。
でも、私の動きとはうらはらに、桜木君はゆっくりと近づいて来ていた。
街路灯の光の下に、赤い髪が揺れる。同時に、大きな手が私の手を包み、一段と距離を縮めた。
「きっかけは、ハルコさんです・・・!バスケットより先に、ハルコさんを好きになりました!!」
ひゅうっと、心に風が吹いたような気がした。あとずさっていた足の動きが止まる。
桜木君は耳まで真っ赤にしながら、怒ったような顔をして、私からじっと目をそらさなかった。
掴れた手からその熱がどんどん流れ込んでくるように、私の顔も熱くなっていくのがわかる。
「・・・・・・桜木君。」
「・・・・・・ハイ。」
「・・・・・・バス、着ちゃう。」
「・・・・・・ハイ。・・・・・・え゛???」
緩んだ指の隙間から手を逃し、私はとっさにバス停に向かって駆け出した。
「はっ、ハルコさんっっっっ!!」
「ごめんなさいっ!桜木君っっ!!」
駆け込み乗車したバスの窓から、桜木君を見る勇気はなかった。
逃げ出してごめんなさい、本当にごめんなさい。
胸に手を当てる。ドキドキして、張り裂けそう。顔が熱くって、焼けちゃいそう。
・・・だけど、

78 :桜恋 7:2009/06/29(月) 21:34:22 ID:vwEFjNGa
ほんとはずっとその事が聞きたくて、手紙を書き始めた。
でも、便箋を開くたび、どうしてもその言葉だけ、書くことができなかった。
理由は・・・、理由は、とても、ずるい理由。
考えないように、そのずるさから目をそらすように、桜木君の明るい手紙を待っていた。
「はっきりしなくちゃ・・・。」
見慣れた帰り道の町並みのはずなのに、その日は色濃く鮮やかな風景に感じていました。
「あんれ〜〜〜?晴子ちゃん?!今日は花道んとこ行かねーの??」
そぉーっとバスケ部の練習を覗いていたはずなのに、宮城先輩に気づかれました。ぎくっとして、大きく肩が揺れちゃった。
「あっ、あははははっ。ちょっと、部の方も気になっちゃいましたっ!」
「おー、えらいねー。マネージャーの鏡だねぇ。」
「あは・・・ちょっと、ここから見ててもいいですか?皆には内緒で・・・。」
「いーけどさ。・・・あー、花道元気かい?」
ぎくっとして、また肩が揺れる。あれ・・・?なんか、顔も熱くなってきちゃった。
そんな私の様子を見たからか、宮城さんの口角がにぃぃ〜っと上がりました。
「まー、あいつは晴子ちゃんの顔みたら百人力だろうな。」
「そんなっ!そんなこと・・・。」
「あるよ。俺もアヤちゃんの顔みたら百人力だもん。」
「み、宮城先輩・・・。先輩が、バスケットを始めたきっかけはなんですか?」
「ん?ガキの頃から得意でさ、でも、高校までやるとは思ってなかったよ。」
「え?意外です・・・。」
「うん、ちょっと迷っててさ。でも、アヤちゃんがマネージャーだったから。」
「彩子さん?誘われたんですか?」
「いや、一目惚れしてさ。どっかで聞いた話でしょ?」
私が、返答に困ってもじもじしていると、宮城先輩は笑って、
「まー、運命ってやつよ。じゃあね。」
・・・と、言って、練習に戻って行きました。
運命ってやつか・・・・・・。
そうか、そうよね。なんだか背中を押されたような気がして、気合を入れて足を向けた。
体育館脇にある水道場に。そこにいる、ずっと見続けていた背中に。

79 :桜恋 8:2009/06/29(月) 21:36:12 ID:vwEFjNGa
「るっ・・・、流川君!!ちょっと・・・、いいですか・・・?」
背中は一瞬動きを止めて、腕で顔をぬぐい、振り向いた。
「マネージャー。何?」
その顔は浴びていた水しぶきのせいか、汗のせいか、それとも私の錯覚のせいか、
光を反射してキラキラ輝いて、とてもきれいでした。はぅぅ・・・。
「あ、あのねっ。手短に・・・、聞いてほしいことがあるのっ!」
「・・・どーぞ。」
ううう〜・・・、よく考えたら、ちゃんと会話するの初めてかも。落ち着くのよ、晴子!
「わっ、わたしねっ、ずっと流川君に憧れてて・・・
ちゅ、中学生のとき初めて流川君のプレイを見て、ほんとに凄くて、
それから、バスケットが大好きになりましたっ!ありがとう・・・。」
「・・・。」
「そ、それだけです・・・。ほんとにどうもありがとう。それじゃ・・・。」
「赤木晴子サン。」
「はッ・・・ハイ?!」
「・・・マネージャー、これからもヨロシク。」
それだけ言うと彼はまた、水道の蛇口をひねって、何事もなかったように水を飲み始めていました。
「・・・はいっ!」
ああ、知っていてくれたんだ・・・。私の名前・・・。
振り向いてほしかったんじゃなくて、私は、私のことを知ってほしかったのかもしれない。
だって、それだけでこんなに嬉しい。ありがとう、流川君。ずっと、見ていました。遠くから。
さようなら、流川君・・・。
そのまま、私は校門前のバス停へと走りました。あの、海沿いの町へ続くバス停まで。

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