Part6
92 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:27:05.51 ID:bAq3pyUe0
「話は終わり。違う人間なら、あたしの所へ会いに来ること。約束よ。絶対だから」
「そんでその女連れてきなさい。信じてるけど、あたしも見てみないと気が済まない」
「それにね。あたしはあんたに教えたでしょ。他人の為にやり直せる人生を、って」
「親のいうこと聞いて実行する子供が、親不孝者って思う?鳶が鷹を産んだんだから」
「ほら行ってこい不細工。あたし卒業式行かないから。泣くとこみられたくないもの」
僕は涙を拭い、母に礼を告げた。今までありがとうございました、と。
帰ってこれる保証はない。どうなるかだってわからないのだ。だから。
「僕は、あなたの事を、最高の母親だと思います。生まれてきてよかったと思います」
「僕は、さようなら、なんて言いません。だって、別れの挨拶でしょう?」
「だから」
「行ってきます。お母さん」
「行ってらっしゃい、馬鹿息子」
93 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:27:46.52 ID:bAq3pyUe0
午前八時に到着し彼女の姿を探した。だが、彼女はどこにも居なかった。
そのまま開会式だったり挨拶やらでそのまま九時。しかし現れない。
十時。十一時。それでも、現れない。彼女は、何をしているんだ?
十一時半過ぎ。
長々としたPTAの挨拶途中に僕は腹が痛いを席を立ち、僕は走った。
一周目と二周目の挨拶はこうも長くなかった。難易度の差なのか?
「よわくて」とは周囲の環境も恐らく入っているのだろう。くそ。
どこにいる?田舎の学校だ、そこそこには広い。彼女はどこにいる?
一室一室見回っていたら時間がない。だが、見落としがあってもいけない。
彼女の名前を叫びながら一階から四階、渡り廊下からプールも走った。
まさか、彼女は学校には来ていない?そんなことがあってたまるものか。
校庭は見渡せばどこにいるか分かる。見渡せば。そうだ。屋上しかない。
十一時五十八分。
僕は走った。間に合ってくれ。僕は彼女に一言言うだけでいいんだ。
好きだと。僕は君が好きだと。付き合ってほしい、それだけでいい。
僕が消え去る、その一瞬までもを賭して。
94 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:28:41.42 ID:bAq3pyUe0
あと 104 秒です。
ニア ・おわる
あと 82 秒です。
ニア ・おわる
あと 65 秒です。
ニア ・おわる
あと 48 秒です。
ニア ・おわる
あと 30 秒です。
ニア ・おわる
あと 15 秒です。
ニア ・おわる
95 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:29:38.96 ID:bAq3pyUe0
あと 12 秒です。
ニア ・おわる
僕は屋上へと続く階段を登りきり、ドアを開け放った。
直射日光が僕の目へと入ってくる。前が見えない。
あと 8 秒です。
ニア ・おわる
ああ、誰かが振り向いた。彼女でなければ、僕は。
目をこらして、手で光を遮り、僕は前を見てみる。
あと 3 秒です。
ニア ・おわる
彼女だ。彼女。ああ、僕は大きく息を吸い込んだ。
叫ぶだけだ。想いが伝わってくれれば。それだけで。
「僕は、君が――――――――――」
96 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:30:17.81 ID:bAq3pyUe0
あと 0 秒です。
ニア ・おわる
G A M E O V E R
97 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:30:59.48 ID:bAq3pyUe0
「残念ながら、坊ちゃんの三周目はここで終了となります」
「僕は。間に合わなかった。そういうことになるのですか」
「ええ。最後まで言えておりません。でも察したでしょう」
「情けない話です。僕は、やはり弱かったということかな」
「そういうことでございます。では、次の選択に移ります」
「………」
「聞いておられますか。次の選択に移るのです。坊ちゃん」
「ううむ。わたくしの主人とは思えないですな。本当に…」
「本当に、素晴らしい」
「わたくしは、あの結末が、気になってたまらないのです」
「ですが、わたくしが直接手を貸すわけには参りませんで」
「ならば」
「貸せないのなら、わたくしが、返せばよいのですから」
98 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:31:42.74 ID:bAq3pyUe0
「わたくしは、あくまでも、厳正たる存在でなければなりません」
「そして使命と言えば、人生を悔いることのないように。それです」
「そして坊ちゃんは、他人の幸福を願われました。ただひたすらに」
「そう。わたくしの幸せを願った」
「家を貸す。坊ちゃんは、確かにわたくしにそれを譲渡致しました」
「貸し『与えた』のです」
「わたくしは以前、言いました」
「―――――等価交換です。万物でも、それに然り、と」
「万物」
「では、わたくしは、坊ちゃんの求める何を返せばよいのでしょう?」
「わたくしは執事でございますゆえ、求めるものも把握しております」
「時間」
「わたくしの力では、せいぜい、少しの時間でございますけれども」
「これは、決して、神に背いているのではございませんよ。ふふふ」
「神の構築したルールに則り、わたくしはルールを乗っ取るのです」
「では、良い余生を。後ほど、お待ちしておりますので」
99 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:32:44.08 ID:bAq3pyUe0
あと 0 秒です。
ニア ・おわる
G A M E O V E R
あと - 秒です。
ニア ・おわる
あと 600 秒です。
ニア ・おわる
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:33:11.40 ID:hgVRjy0Eo
うおおおお!
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:34:34.68 ID:RyQpV4Qco
ほお
102 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:35:55.02 ID:bAq3pyUe0
「――――――――――好きだ」
「付き合ってほしい。僕と付き合ってほしい。君が好きだ」
「僕は合計四十五年も生きた。十分大人だって言えると思う」
「大人になった。君もだ。君ももう、四十五歳くらいだろ」
「あなた。ああ。もう、全部思い出してしまったのかしら」
「そういうことだよ」
「僕には時間がないんだ。答えが聞きたい」
「わたしにも、時間なんてないわよ。あと十分くらいかしら」
「僕と同じだ。余命十分。なんだかロマンティックだと思う」
「じゃあ、答え合わせをしましょうか。何から話せばいいかしら」
103 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:36:41.51 ID:bAq3pyUe0
「わたしはあなたをふった後に、あなたがあそこへ入っていくのを見た」
「都市伝説なんて、嘘だと思った。でも万一。そう思って止めに行った」
「わたしはそれより先にあそこへ行っていて、彼に待たされていたのよ」
そして後から僕がきて、手短に「要件」という名の契約を済ませた。
彼女は驚いただろう。先回りしたのに既に僕は契約済みなのだから。
「もうあなたには会えない。わたしのせい。そう思ったら、後悔した」
「あんな事言わなければ。好きだったのに。付き合っていたなら、と」
「だから、わたしも彼と契約したわよ。あなたとの約束を守るために」
けれど、ここからが誤算だったというわけだ。予想が正しければ、だが。
彼は言っていた。僕らはすれ違ったのだ、と。彼女の一言を待っていた。
「わたしは、挫折を知らなかった。何も知らない、ただの箱入り娘よ」
「あなたはわたしのせいで挫折を知った。同じ立場になろうと思った」
「だから、わたしは選んだの」
「よわくてニューゲームを」
104 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:37:36.12 ID:bAq3pyUe0
「二周目。わたしは最後の最後。選択を迫られる直前になって、あなたに気付いた」
「人も違うし、顔も違う。何もかも違う。それはわたしも全く同様の条件だったわ」
「親に暴力は振るわれて、いじめられて。でも、そんなとき、あなたに出会ってた」
「でも、そんなあなたをわたしは好かなかった」
「その辺は、きっと今になって、少しだけ理解してくれているとは思うのだけれど」
「まあ、言い訳できないほど、ひどかったもんなあ。あんなの、僕じゃないと思う」
「三周目。つよくてニューゲームを選んだ。あなたはよわくてニューゲームだった」
「あなたはわたしが声をかけて友達になっても、わたしの事に気が付かなかったの」
「小学校に上がってもそう。何もかもを忘れているようだった。ちょっと傷ついた」
「でも、わたしもそうだったもの。ごめんなさい」
「いいよ。ぼくだって忘れてた。なんていうか、お互い様なんだって」
「彼の言ってたすれ違い。やっぱり、この事だったんだよ」
「僕らは、互い違いを選んでいたんだ。互いが互いを思った為にできた、すれ違い」
105 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:38:34.67 ID:bAq3pyUe0
「そして、いつか。あなたに、聞いたでしょう。人生をやり直せたら、って」
「でも、あなたは強かった。何もかもを忘れていた。とっても幸せそうだった」
「わたしはあなたを愛してた。だからこそ、わたしはそのままにしようと思った」
「でも、その前にわたしは最後にあの部屋へ行って、思い出を回想してたのよ」
「懐かしかった。涙が零れた。一つ一つ、あなたとの思い出を噛み締めていた」
「そしてあなたと永遠に別れる決心をした。そんなときに、後ろから足音よ」
「そこに恐らくあなたが来た。急いでわたしは逃げ帰った。本当に驚いたわ」
「で、思い出させてはいけない。そう思った。だからあのマンションに通った」
「次の選択を迫られて、全てを思い出す前に、あなたの人生を確定させるために」
「わたしに近付いて思い出さないように。そう思って、あなたを避け続けていた」
「僕は、君に嫌われたと思ってたよ」
「そんなこと、あり得ない。わたし、あなたのこと、愛しているもの」
「最後の最後まで、聞き届けては貰えなかった。けれど、あなたは思い出した」
「思い出して。神様にまで背いて、ここに来た。そして約束を果たしてくれた」
「なら、今度は、わたしがあなたに告白しないと」
「わたしは、あなたのことが、好きです。だから、わたしと、付き合ってください」
106 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:39:38.39 ID:bAq3pyUe0
あと 124 秒です。
ニア ・おわる
107 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:41:27.80 ID:bAq3pyUe0
「よろしくお願いします」
こうして、僕らは晴れて美女と野獣のような関係の恋人となったのである。
しかし残っているのは次の選択についてである。だが、もう決まっている。
僕らは互いに人生の酸いも甘いも噛み分けたことになるというわけだ。
十五歳の身体で精神年齢四十五歳である。おじさんとおばさんである。
僕らの選択のすれ違いから、最終的に幸せを掴み取ることができた。
もし僕が彼女と同じ選択をしていれば、最終周ではどちらも他人だ。
そして彼女が僕の事を覚えていたからこそ全ては成立に至ったのだ。
それにしても思い出してみれば彼女のぼろがかなり出ているのである。
同様に執事の発言もかなりぼろが多いのである。気付かない僕も相当。
僕は最後に弱さを知り、全てを知っている彼女がいたからこうなった。
彼女が僕の為に行動し、それに違和感を覚えなければこうはならない。
僕のような不細工が言うのもなんだが、非常にロマンティックである。
「あなた、本当に不細工ねえ。もうちょっとなんとかならないかしら」
「僕は仮にでも彼氏なんだけれど。オブラートぐらい知ってほしいな」
「仮にじゃなくてわたしの彼氏よ。でも、わたし、このままじゃ嫌よ」
「僕だって嫌だよ」
108 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:42:15.25 ID:bAq3pyUe0
あと 58 秒です。
ニア ・おわる
109 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:43:08.38 ID:bAq3pyUe0
残りの言いたいことと言えばこの現実はそろそろ終わりを迎えるということだ。
せっかく晴れて恋人同士になったのにすぐ終わりである。出番が少なすぎる。
感動の一瞬は本当に一瞬だったと嘆く他ない。三文小説でもこれはないのだ。
「わたし、もう、精神年齢すごいわよ。もう、なんていうか。すごい」
「君にしては随分語彙がすごい。もう言葉にできないほどにはすごい」
女性に精神年齢であろうとも年齢を聞くのは野暮というものだ。
僕のようないい男はその辺の分別がついているのだと言いたい。
「でも、この現実が続いても、結局同じ高校でもないじゃない。そんなのつまらない」
「それに、数年間は話してないし、デートもしてない。こんな青春は消えるべきなの」
「だからこそわたしは次の人生に賭ける。相思相愛以心伝心。やることわかるかしら」
「いくら僕が馬鹿でもその辺は分かるよ。君って割と尽くすタイプなのかもしれない」
「そうよ。尽くすわよ。けど、浮気したら殺すわよ。割と本気。次はやり直せないわ」
あまりに恐ろしい。僕も彼女も次の人生はやり直せない。いや、それが普通なのだが。
家に帰って包丁で腹部に穴を開けられればそこから魂も抜け出るというものである。
「じゃあ、わたしの方が多分先だろうし。お先に。行ってきます彼氏」
謎の語尾を残して彼女は先に消えてしまった。完全に消失と言っていいくらいに。
本当に神の意図であるから、神隠しである。見てはいけない世界を見た気がする。
ああ僕もそろそろ消えるようだ。後数秒だろうか。僕は大きく息を吸って言った。
「行ってきます彼女」
110 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:44:12.90 ID:bAq3pyUe0
あと 0 秒です。
ニア ・おわる
G A M E C L E A R
111 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:44:51.05 ID:bAq3pyUe0
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
「ただいま」
「わたくし、感涙しておりました」
「互いが互いの幸せを、互いの人生を賭した結果の結末が、このようであるとは、と」
「お母さんが言った通りだ。ちょうど四十五歳になって僕はもてたってわけか」
「そして、唯一の。よわくてニューゲームをクリアした方と言えましょう」
「ありがとう。またいつかコーヒー飲みたいな。僕のこと忘れないでほしいな」
「もちろんですとも。けれど、もう、二度と会うことはございませんことを祈ります」
「さすがにもう踏んだり蹴ったりボールにされたりは勘弁だ。最後は幸せだったけど」
「では、そろそろお時間となります。あなたの想い人は、先に向かわれましたよ」
「うわ照れるなあその言い方。ちょっとテンションあがってきたかもしれない」
「ああそうじゃないや。選ばないとね。まあ決まってるんだけど。これにする」
「ほう」
「また、珍しい選択ですな。どうして、こちらを?」
112 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:45:47.41 ID:bAq3pyUe0
「そりゃだって、僕はどこだって彼女がいるから。彼女だって。やばいな」
「そうじゃなくて。僕はどこでだってやっていけるんだ。いい男だから」
「親孝行の結果がこれだよ。どの親も、僕の事を愛してくれてたんだから」
「だから、僕はどこに行ったって後悔しないわけなんだ。完全な未知だ」
「それに、忘れてたら忘れてたで、それはまたありじゃないかと思えるんだ」
「もちろん、親のことは絶対忘れない。でも、その他の事はいいかなって」
「というと、あの、想い人のことでございますか。それまた、どうして」
「だって、またやり直せるんだ。好きになるってことを、最初から全部を」
「僕は弱くも強くも普通でもある。人生経験豊富なわけだし、大丈夫だよ」
「じゃあ、そろそろ僕は行ってくる」
「そんで、やり直してくるよ」
「初恋を」
113 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:46:14.49 ID:bAq3pyUe0
ニア・ニューゲーム
・つよくてニューゲーム
・よわくてニューゲーム
114 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:47:02.98 ID:bAq3pyUe0
おわり
115 :
◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:47:52.41 ID:bAq3pyUe0
「よわくてニューゲーム」は以上です。
読んで頂いた方、本当にありがとうございました。
html化依頼を出してきます。
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:48:15.29 ID:hgVRjy0Eo
乙!
今まで読んだSSの中でトップクラスの面白さだった!
本当に乙!
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:50:41.92 ID:6lfEc3VDo
乙!
とても面白かった
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:52:14.09 ID:EbTGUjsZo
乙乙!
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:54:11.98 ID:Lt00sdR4o
乙
本当に素晴らしいSSだった
まさか45歳でモテるが伏線とはね
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/03(水) 00:05:27.31 ID:Fqlbqhfoo
乙!
ガッ!と読めた良作でした!