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よわくてニューゲーム
Part5


70 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:07:36.55 ID:bAq3pyUe0
「最後に」
「よわくてニューゲームを選択し、幸せになったものは、いません」
「誰もが不幸に人生を終えるのです。やり直し地点までそれすらも」
「………」
「ありがとうございました」
「色々、考えてみます」
「はい」
「それでは、さようなら」
「ええ」
「行ってらっしゃいませ」
「坊ちゃん」
ドアが閉まる音が聞こえる。僕はその扉をじっと見つめていた。
帰ろう。そう思い背を向けたとき、彼の呟き声が聞こえてきた。
「ご学友は、彼の人生を確定させてほしい。そう仰りました」

71 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:08:25.42 ID:bAq3pyUe0
その後の僕を待っていたのは精神的な疲労ばかりであった。
学校に行っても何をしても僕にはやる気というものが沸かなかった。
それは当然とも言える。どちらにせよ、もう一度やり直すのだから。
これは現実であって現実ではないのだ。やる気など沸くわけがない。
言うなれば、平行世界の一部と言ったところだろう。
故に僕はどんどん暗い人間になっていくことになるのも必然であろう。
以前気にかけてくれていた国語教師すらも僕を見て溜息を漏らすのだ。
そう言えば彼は彼女の事について解決したのだろうか。恐らくまだだ。
そういうわけで表面的には変化がなく、内面的に堕落していった。
ただもちろん母への感謝の念だけは欠かさず忘れずに心の中にある。
しかしその他に関してのやる気などとうにどこかに置き忘れていた。
ああこのまま死んじゃってもいいんじゃないかなあ、とも思った。
そして僕の悩みと言えば最後の選択をどうするかについてである。
そこで再び思い出したのが執事の言っていた余命のことだった。
思い出したのが中学三年生の冬を超えた一月末のことである。

72 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:09:04.75 ID:bAq3pyUe0
その後には既に顔も頭も心も何もかもダメな男へと僕は変貌していた。
ただ日々教科書を開き勉強しているふりをしているだけのダメ人間である。
その姿をみて「すごいねえ」という母の笑顔に泥を塗っていると気付いた。
受験など意味を成さない。母はどこかやる気のなさを察していた気がする。
そこでも気になっていたのはやはり彼女のことであった。
卒業前日になった今も、告白する人間が後を絶たないのである。
しかし彼女は頑ならしかった。好きな人がいるとのことだった。
そりゃあ大層イケメンな存在なのだろうと落胆せざるを得ない。
しかしどうにも風の噂と言う名の盗み聞きだと普通の男らしいのである。
残念ながら僕は最底辺の男な故に該当しない。つまり失恋したのである。
何も努力せずに失恋に涙を流すあたり僕は相当ダメな人間だと言える。
しかしようやく失恋を味わった。これも次の人生への教訓になるだろう。
と、ここで僕は「失恋した」と感じている僕がいることに気がついた。
つまりは、日々彼女との会話を楽しみ、恋に焦がれていたということになる。
ああ、今になってわかるこの感情。来世では僕は彼女に出会えるのだろうか。
次に出会えたら僕は君に相応しい男になりたいものだ。そして、また、君に。
君に。僕は。君に。君。僕。また。大人。僕は。
君に。彼女に、告白。するんじゃ、なかった、のか。僕は。ああ。僕は、全て、思い、出した。

73 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:09:49.08 ID:bAq3pyUe0
『いらっしゃいませ。なにぶん、広い屋敷ですが、こちらへどうぞ』
『ええ。ううん。広い家だなあ。ここって、本当に人生をやり直せるのですか』
『はい。嘘は申しません。新規契約の方でよろしかったでしょうか?』
『ああ。はい。では、あなたは、人生を三回やり直すことになる。よろしいですか』
『大丈夫です。僕は、後悔してるんです。告白しなければよかった、って』
『というと、失恋なされた。それに、その筒。もしや。ご卒業おめでとうございます』
『ありがとうございます。卒業式で告白して、ふられてしまって。いい思い出です』
『心中お察し致します。ですが、本当によろしいのですかな。契約しても』
『ええ。自分勝手ですが、僕は彼女と青春したかったんです。同じ高校へも行けなかった』
『彼女は頭がよかった。それに、大人になってからなら付き合う。そう言っていました』
『でも。僕たちが付き合いはじめるのは、時間に追われた社会人になってからなんです』
『それに。僕がいい男になる頃には、もっといい男と並んで歩いているんじゃないか、って』

74 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:10:28.37 ID:bAq3pyUe0
『ははあ。なるほど。確かに、時間の流れは人を変えてしまいますから。確かに』
『僕と彼女は、似たもの同士だと思っていました。でも、やっぱり色々違うんです』
『ほう。どのように、でございましょうか』
『まず、僕は普通だ。でも、彼女は綺麗だし、頭もいい。しかも、いい女です』
『いい女。それは、素晴らしい。しかし、それがわかるあなたも、また、いい男なのでは』
『そんなことありません。僕は好きな人と一緒になりたい。即物的な願いでしょう』
『どうでしょうか。それは、普通の事なのではありませんでしょうか』
『時間はあっても、ないようなものなんだ。辛いよ。だから、僕はやり直すんだ』
『初恋の人なんだ。成就させたい。きっと迎えに行くんだ。ただそれだけなんです』
『両親も普通同士だったから出会えた。そう言ってました。なら、僕も強くなりたい』
『それで。他人の特別になりたいんです。最高の親なのに、僕は裏切ってしまうんだ』
『…僕が選ぶのは「つよくてニューゲーム」です。ありがとう。僕に協力してくれて』

75 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:11:12.97 ID:bAq3pyUe0
『あ、そうだ』
『あなたは、どうして他人の人生をやり直させる協力をするのですか?』
『わたくし共は、人生を悔いるものがいないように。その為でございます』
『そうですか。なら、僕の居なくなった後、僕の家でも使ってください』
『ご家族は?』
『いつまでたっても新婚のようなんだ。この前、旅行に行ってしまって』
『左様でございますか。なぜ、わたくしに、家を貸していただけるのですか』
『だって、人が幸せになる可能性が、少しでもあがるんですよ。これって』
『こんなところでやるより、ずっと人も集まるし、多くの人が幸せになる』
『幸せは分かち合わないと。独り占めなんて、いけないことだと思いますし』
『…では、ありがたく頂戴致します』

76 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:12:07.36 ID:bAq3pyUe0
僕は執事に目を覆われ、ゆっくりとまどろみの中に落ちていった。
ゆっくりと、ゆっくりと。現実から乖離していくような感覚があった。
そして完全にこの世界から外れてしまう直前に、彼の笑い声を聞いた。
『………』
『ふ、ふ、ふふ。ふ、ふふふ、ふ、ふふ…ふ、ふふふ』
『…面白い。普通だと言うのに、全くもって、あなたは普通を逸脱していますねえ』
『似たもの同士でない。あなたは、そう言いました。どこがでしょうか。わかりませんねえ』
『寸分違わず、鏡写しに、何もかも。全くもって、同じじゃあ、ありませんか』
『自分の為と言いながら、あなたは、他人の為に人生をやり直すのです』
『誰かの特別になる為に。他人の幸せを願う為に、わたくしに家を引き渡す、などと』
『女の為。他人の為。積み上げてきた人生を崩して。何もかもを捨てて。ああ、面白い』
『相思相愛ではございませんか。ああ、これは口止めされていたのでしたか』
『さようなら』
『…次に家に帰ってくることがあれば、わたくしはお迎えしましょう』
『おかえりなさいませ、と』

77 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:12:35.43 ID:bAq3pyUe0
ニア・ニューゲーム
  ・つよくてニューゲーム
  ・よわくてニューゲーム

78 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:13:45.91 ID:bAq3pyUe0
  ・ニューゲーム
ニア・つよくてニューゲーム
  ・よわくてニューゲーム

79 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:15:35.76 ID:bAq3pyUe0
『本日よりこちらでお世話になります。坊ちゃんのお世話をさせていただきます』
『そういえば、見たことあるな。つっても、思い出したの、最近だけどな』
『見ろよ。前の俺とは、ずいぶん違うだろ。ずっと前より格好よくなったはずだ』
『恐らく殆どの女性は、あなたを見て、振り向き、好意的になるでしょう』
『もうなってる。気分がいいのは、最初だけだ。少しうんざりもしてきたんだよ』
『頭もいい。顔もよくなった。喧嘩だって負けない。なのに、何でなんだ』
『難しいことでも話せるように経済学書だって買い漁って読んだ。すげえだろ』
『友達だっている。金もある。何もかもあるのに、あいつだけが居ないんだ』
『ああ。あの、女性の事でございますか。あの方とは、今どうなっておりますか』
『俺の事、やっぱり、覚えてねえみてえでな。辛い。でも、俺はすぐに分かった』
『記憶引き継いでるからだろうな。でも、癖とか仕草とか、まんま、あいつだった』
『俺。絶対。今度こそ、あいつと一緒になるんだ。待ってろ、すぐに見せてやるぜ』

80 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:16:22.66 ID:bAq3pyUe0
『最近、あの方のお話も、もう、なされなくなりました。どうなさいましたか』
『どうもねえ。告白してくると思って待ってりゃあ、来ねえし。もう卒業前だ』
『勉強だって教えてやった。困ったことがありゃあ、助けもした。何でなんだよ』
『しかも、あいつは前より随分と暗くなっちまった。あんなのあいつじゃねえよ』
『あいつには、友達も、金も、家族だって居ない。なんでこんなふうになっちまった』
『なんなんだ。でも、俺はあいつが好きだ。この想いだけは変わらねえんだ』
『何もかもあいつじゃない。でも、俺はあいつが好きだ。どんなに変わっても』
『癖とか仕草。それを見てると、思い出すんだ。笑って話してた、あの頃を、全部』
『でも、なんでだ。明日は、卒業式だぜ。明日、俺はあいつに告白する。絶対に』
『…それで。やっと、俺はあいつと一緒になれるんだ。幸せは、もう、目の前なんだよ…』

81 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:17:26.23 ID:bAq3pyUe0
『…ふられちまった。あなたは、弱い人の気持ちがわからないのよ。そう言われたよ』
『それは』
『いいんだ。慰めなんて、いらない。俺は確かに、そうだった。今になって気付いたよ』
『してやってる。やってる。押し付けがましいことばっかりだ。自信過剰のクソ野郎だ』
『この家も、貸してくれてありがとうな。最後に、あんたの飯、食わせてくれねえかな』
『あと、コーヒー。あんたの淹れるコーヒー、俺。正直言うと、かなり好きだったんだぜ』
『もう、時間ねえんだ。頼むよ。最後の願い。ああ、遺言ってやつかな。だせえな、俺』
『この家は、つよくてニューゲームのオプションでございます。あまりお気になさらずに』
『それでは、何かしらお作りいたしましょう。何か、召し上がりたいものはございますか』
『スイッチ。電灯のスイッチ。どこだ。ああ、ここか。しばらく入ってねえからわかんねえ』
『食堂。こんなふうになってたのか。いつもあんたに任せっきりだ。俺も何か、やってみたい』
『やべえ。皿欠けちまった。悪い。わざとじゃねえんだが、ああ、すまん。悪かったよ本当』
『最後の晩餐なんだ。冷蔵庫のもん、全部使っちまおうぜ。そんで、俺らで食っちまおうぜ』
『わたくしは、食事は必要ありません存在でございます。しかし、お付き合いいたしましょう』
『ありがとう。よかったらさ、俺のこと、忘れないでほしいんだ。こんなクソ野郎でもさ』
『かしこまりました。わたくしは、あなたの執事でございます。いつまでも、お呼びしますよ』
『坊ちゃん、と』

82 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:18:40.60 ID:bAq3pyUe0
『飯。最高に美味かった。もう、俺は決めたよ。何もかもを。俺に賭けるよ』
『俺は、弱いやつの気持ちが分からない。だって、今の俺は、強いんだからな』
『だから、俺は弱くなる。どこまでも誰よりも弱くなる。最底辺になるんだ』
『俺はきっと、何もかも忘れるんだろう。でも、それでダメなら、俺はダメだ』
『あいつに相応しくない。その程度の愛だった。そういうことになるんだから』
『いつ思い出すかもわからない。でもさ。俺は、俺のことを信じてるんだぜ』
『誰よりもあいつの事が好きだ。それだけは、俺は誰になっても変わらない』
『絶対に幸せにするんだ。隣を歩ける大人な男になるんだ。人生を賭けてな』
『この親も、俺に大事な事を教えてくれた。今になって、やっとわかったよ』
『もう、ありがとう、って言えねえけどな。ごめんな、親父。お袋も、だ』
『あんたも。ありがとう。こんな俺に、ずっと尽くしてくれてて。ありがとう』
『あなたという存在にも、わたくしは心惹かれてたまらないのです。素晴らしい』
『わたくしは、あなたの幸せを、心から願っております。では、選んでください』
『あなたの人生を賭けた選択を。見せてください。何もかもを賭すだけの結末を』
『ああ』
『俺が選ぶのは』
『よわくてニューゲーム』

83 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:20:00.73 ID:bAq3pyUe0
ニア・ニューゲーム
  ・つよくてニューゲーム
  ・よわくてニューゲーム

  ・ニューゲーム
ニア・つよくてニューゲーム
  ・よわくてニューゲーム

  ・ニューゲーム
  ・つよくてニューゲーム
ニア・よわくてニューゲーム

84 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:21:27.39 ID:bAq3pyUe0
あ。ああ。あ。あああああ。僕は、僕は。僕は彼女と人生を歩むために、選んだ。
あああ。彼女に相応しい男になる為に。大人な男になって、約束を果たすために。
何もかもを捨てて、全て、彼女の為に。選んで。選んで、もう、僕は、ダメだ。
どれを選んでも、僕はダメだった。もう、何を選んでも、結果は変わらないんだ。
ああああああああああああああ。僕は。何をしていた?思い出せるチャンスはあった。
いくらでもあったじゃないか。思い出せば思い出すほどそれは奇妙だったじゃないか。
僕は自転車に飛び乗りあのマンションへと向かった。彼は全てを知っていた。
僕を坊ちゃんと呼ぶ理由も。躊躇いもなく僕にコーヒーを差し出した理由も。
彼は先生には聞いていたじゃないか。何を飲むかと確認していたはずだった。
彼は僕が忘れているか確認していたのだ。「まだ、ご存知でない?」とも。
あの部屋。あの部屋は。一周目に僕が住んでいた、普通の家じゃないか。
人にぶつかりそうになりながら僕はあの部屋を目指した。六階。七号室。僕の家を。
僕は激しくドアを叩く。いるんでしょう。入りますから。僕はドアノブを捻った。
「…おかえりなさいませ。坊ちゃん」
「ただいま。あなたは、二周目の、僕の執事だった」
「あなたは何もかもを知っていた。どうして、僕の前に現れなかったのですか」
「それは、これが、よわくてニューゲームだからでございます」
「人間の最下層。最底辺。何もかもが劣っている存在を望まれたものですから」

85 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:22:23.92 ID:bAq3pyUe0
「しかし」
「坊ちゃんはこのままでは幸せにはなれません。不幸せのまま、人生の選択を迫られるのです」
「坊ちゃんは…ああ。ちょうど、今から二十四時間後に人生をやり直すことを選ばれた」
「残り86400秒。86399秒。刻一刻と時刻は迫っております。もう、お時間は残ってはいません」
「なら、助けてくれないか。僕を。彼女と。一緒になりたいんだ。頼むよ。お願いだ」
「なりません。わたくしは、厳正たる存在でなければなりませんので。申し訳ございません」
「そんな。僕の執事なんでしょう。助けてください。お願いします。何でも。何でもするから」
「いいえ。直接手を貸すなど、わたくしには出来ないのです。そう決まっておりますゆえに」
「それでも幸せになりたいのなら。わたくしから、一言。あなたがたは、すれ違ったのです」
「それでは、そろそろお時間です。次にお会いするならば、最後の選択のときなのでしょう」
「行ってらっしゃいませ。坊ちゃん」

86 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:22:56.51 ID:bAq3pyUe0
 あと 86262 秒です。
 ニア ・おわる

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:23:15.20 ID:MwYGNuVL0
みてるぜ
超おもろい

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/02(火) 23:24:24.10 ID:6lfEc3VDo
すごく面白い

89 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:25:05.79 ID:bAq3pyUe0
僕は彼に抱えられて外に出された。固く扉は閉ざされた。人の気配もしない。
彼は消えたのだろうか。分からない。けれど、僕はもう会えない気がした。
時間はない。残された時間は二十四時間を切っている。全てを覆さないと。
家に戻り、僕は布団の中で考えた。彼の最後の言葉。すれ違ったのだ、と。
あなたがた。
あなたがた、というと。やはり、彼女の事なのだろうが。
ならば「すれ違った」とは、何のことを指しているんだ?
すれ違った。確かに僕たちは、今現状すれ違っていると言っていい。
ならば、どうしてすれ違ったんだろう。そう。あの日からなのだ。
そうだ。彼は言った。「人生を確定させてほしい」と言っていたと。
確定。
彼女は毎日あそこへ通っていた。なぜ?要求が通らなかったからと言える。
なら、どうして要求が通らなかった。契約の内容に反する事柄だから、か?
そう考えれば、何が契約内容に反する?三回やり直す点に関してか?
まずはそう考えてみよう。ならば、どうなる。彼女はそういうことか。
となれば、合点はいく。彼女だった。僕より前にあの部屋に居たのは。
だって、僕は思ったはずなんだ。あの人の名前の画面を見て、驚いた。
「…そこに、僕の名前もあったからだっけ」そう思ったはずなんだ。
そりゃあ驚かざるを得ないよ。僕の名前もそこにあったんだから。
それに「つよくてニューゲーム」を選んだ、彼女の名前もあったんだから。

90 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:26:00.78 ID:bAq3pyUe0
「ねえ。お母さん。僕。話があるんだ。これが最後になると思う」
僕は早朝に起床し、帰ってきた母に対して開口一番にそう告げた。
母は「ふっ」と軽く息をはき「どっか、遠い所でも行くの?」だ。
最後まで、僕の母は僕より一枚上手ないい女だなあと思っている。
「お母さん。違うかな。あなた、かな。ごめんなさい。親不孝で」
「事情はわかんない。まだ卒業式まで、時間あるでしょ。教えて」
僕はこれまでの事を歪曲も誇張もせずに全て主観的に語っていった。
「すごいねえ」とか「こわい」とかいうあたり、お母さんらしい。
「僕には、他に四人も親がいるんだ。信じられないことだけど、本当なんだ」
「もしかしたら、あなたの本当の子供じゃないかもしれない。ごめんなさい」
「僕は、帰ってくるかもしれないし、帰ってこないかもしれないんです。僕」
「僕は僕じゃなくなって帰ってくるかもしれない。そうしたら、本当の子供が」
「いいのよ。子供はあんただけ。他に誰もいない。弱くて不細工なあたしの子」
「なのに、誰よりも強い、あたしの子だから」

91 : ◆hOVX8kZ7sLVS :2013/07/02(火) 23:26:30.14 ID:bAq3pyUe0
「あんたがあたしみたいな母親でも、いたって覚えててくれれば、それでいいのよ」
「美人で性格もいい器量よし。たまにあばずれで、酔っぱらいのあたしのことをね」
「あんたが忘れても、あたしが覚えてる。あんたは、あたしの特別な子なんだもん」
「僕は。僕は、忘れません。育てていただいたことも。料理の味も。何一つだって」
「でも。僕は、何一つ、恩返しができなかった。やっとこれからだって思ったのに」
「馬鹿ねえ。あんたやっぱりあたしの子だわ。いい男なのに、本当に馬鹿なのよね」
「あんたが生まれた時点で、十分恩返しになってんのよ。くさいこと言わせないで」
「何度人生やり直したって、あんたはあたしの子供なの。だから、胸を張りなさい」
「あたしが、育てたのよ。いい男に決まってる。あんたを振る女は、ろくでなしよ」
「一つだけ、あたしの願いが叶うなら。あんたは、嫌かもしれないけれど」
「また、あたしの子に、生まれてきてほしい」