子供「願い事を枝に結ぶよ」クリスマスツリー(それ七夕じゃない?)
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Part2
16:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:55:03 ID:ShZYRrGQ
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2013年12月24日
──私に結ばれる願いのリボンは、年々増え続けている。
今年からは『直接結びに来られない人』を対象に自治体がリボンを預かり、高所作業車で上の枝まで余すところなく飾りつけられた。
なんでもその数は2000本を超えたとか、私としてもすごく誇らしい。
12月の初めにイルミネーションと一緒にその作業が行われて、それからひとつひとつ願い事を読んでいたら意識しない内にイブ当日になっていた。
噂では数年先くらいに駅前周辺の再開発が計画されているみたい。
この広場も、ここから見える街並みも模様替えされるのかもしれない。
今の景観も好きだけど、ちょっと楽しみに思ったりしてる。
17:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:55:39 ID:ShZYRrGQ
『いもおと げんき うまれますよおに』
女の子だというのは判ってるんだね。がんばれ、新米お兄ちゃんかお姉ちゃん!
『100倍返しだ!』
これだけリボンが増えると、願い事じゃないネタが書かれたものも多くなる。楽しいからいいけどね。
『おじいちゃんが110歳まで長生きできますように』
お爺ちゃん、ほんとに100歳突破してたんだ!
『あやかしうおっち ほしい』
お正月にはアニメが始まるって街頭TVで言ってたね、人気なのかな?
『贅沢言わない、年下で可愛い彼女が欲しい。できればJK』
そろそろ理解して。
18:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:58:27 ID:ShZYRrGQ
夜も9時を回る頃、遅ればせながらリボンを結びに訪れる女性がいた。
ほとんどの枝はたくさんのそれで埋まっている。
それでも僅かに隙間の多いところを探して、彼女は赤いリボンを結んだ。
私はその女性に確かな見覚えがある。
でも彼女が一人でここを訪れる姿は、今まで見た事が無かった。
『幼馴染みが元気に新年を迎えられますように。それと来年はもっと会えますように』
そっか……去年、二人の願い事は『新生活が上手くいきますように』と『彼が浮気しませんように』だったっけ。
離れているのは寂しいね、元気だといいね。
そして貴女も、元気で待っていられますように。
19:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:59:11 ID:ShZYRrGQ
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2015年12月24日
──今年のイブはイルミネーションと共に、別の明かりが駅前に瞬いている。
とは言っても、それは鑑賞用の照明ではなく安全を確保するための『灯火』と呼ぶべき赤い光。
再開発工事が、まずは駅の建物から着工したからだった。
ちょっと雰囲気を損なってる気もするけど、人が怪我をしないために必要な措置なんだから仕方ない。
たぶん全ての工事を終えるには数年でも要するんだろう……綺麗になった街並みを見られる日が待ち遠しいな。
近くが工事中とはいえ、願い事のリボンは今年も変わらず枝に揺れている。
去年は赤が1173本、緑が962本で赤の勝ちだった。
今年も日付が変わったら数えよう──私がそうやって楽しんでいるだけの事だけど。
20:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 10:59:52 ID:ShZYRrGQ
『らぐびーせんしゅ に おれ は なる!』
すごかったよね、がんばれ未来のラガーマン。
『おじいちゃんが天国から見守ってくれますように』
おじいちゃん……
『あやかしウォッチしんうち ほしい』
ほんとにブームになったね、もらえるといいね。
『もう、誰でもいい』
……涙拭けよ。
『来年も、たくさん彼に会えますように』
知ってる、このリボンはあの女性のもの。そして──
『幼馴染みへのプロポーズが上手くいきますように』
──本人が結んだんじゃないけど、上の方の枝にこんなリボンがある事も。
21:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:00:41 ID:ShZYRrGQ
イルミネーションは夜11時まで、10時を過ぎる頃には人通りは減り始める。
その時間帯にここを訪れるのはイブの夜なんか関係ないサラリーマンか、或いは仲睦まじいカップル達。
毎年のこの時間が、なんとなく『祭りのあと』みたいな気がして切なくなる……まあ本当のクリスマスは明日なんだけどね。
一年に一度、私が心待ちにしている冬の晴れ舞台。
来年も来る事は解ってるのに、それでも終わるのは寂しいんだよ。
もちろん、どの季節だって人の営みを愛おしく見守る事は私の幸せなのだけど。
こんなにたくさんの人に親しんでもらえている、それだけで特別な事なのに。
これは幸せ過ぎるモミノキの贅沢な想い。
ただの我儘だ……って、解ってる──
22:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:01:12 ID:ShZYRrGQ
──でも、この時の私には『解っていない』事があったんだ。
23:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:01:51 ID:ShZYRrGQ
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2016年12月24日
──私は、このツリーの精。
ある街の駅前広場に植えられたモミノキに、いつしか宿った木の精霊。
時季には街路樹と共にイルミネーションの飾り付けをされて、地域で一番大きなクリスマスツリーになる。
いつからか『願いのクリスマスツリー』なんて呼び名がついて、たくさんの人々が願い事を書いたリボンを枝に結んでくれるようになった。
願いを叶える力なんて無いけれど、それが私の自慢であり誇りだったんだよ。
みんなの願いを、せめて一緒に祈ってた。
……だけど今年はそれができない。
いつもと同じように願いのリボンは12月の初め頃からその数を増していったけど。
私はそれらを読むことさえ許されなかった。
24:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:02:27 ID:ShZYRrGQ
駅周辺の再開発工事は着実に進み、とうとう今年の11月には広場の工事も半面は完成した。
広場の新しいエリアには、ステンレスの管でできたオブジェがあちこちに作られている。
ひとつひとつ違う造形をしたそれらは、私に代わる『リボンを結ぶ先』として設けられたものだった。
今年のリボンはそこに揺れている。
足場や高所作業車を使って大掛かりな準備をしなくても、人々がリボンを結べる金属の枝。
剪定や水遣りを施さなくても姿が変わらず、管理の手間がかからない人工の木々。
来春に着工する残り半面の広場改修工事で、私は伐採される事が決まっていた。
今年の私はイルミネーションこそ纏っているけれど、周囲は赤いパイロンで囲まれ『人避け』が施されている。
悲しくはある、寂しくもある。
でも『より便利で手軽にイベントを楽しむ事』が人々の願いであるならば、私は受け入れるべきだと思った。
25:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:03:59 ID:ShZYRrGQ
時刻は夜7時を回った。
私は最後のイブの光景を目に焼きつけようと思った。
枝にリボンが無い事は切ないけれど、行き交う人々の顔には変わらぬ笑みが浮かんでいた。
「──入っても大丈夫かな?」
「良くはないだろうけど、入るしかないよ」
その時、私は自らの足元に周りを気にしながら近づこうとする人影がある事に気づいた。
数はふたつ、私はその青年と女性の顔に確かな見覚えがある。
「見つかったら怒られるだろうな……」
「僕らも怒ってるし、文句言ってやりゃいいんだ」
「ささっと結んじゃおう、早く」
…モゾモゾ
シュルッ、ギュッ…
26:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:04:31 ID:ShZYRrGQ
赤と緑のリボンを結ぶ彼らの指には、銀色の指輪が着けられていた。
20年近くも前、私に初めてのリボンを結んだ二人。
あの男の子と女の子が大人になって、こうして『最後のリボン』を結んでくれている。
私は堪らなく嬉しかった。
でも、それは本当に最後のリボンとはならなかった。
「──誰か先に入ってね? ね?」
「ウッソ、先越されたしー」
「チョーウケルー」
また他の人影が近づく、手にはそれぞれリボンを持っている。
三人とも少し派手目な女性で、私の枝に赤のリボンが増えてゆく。
27:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:06:47 ID:ShZYRrGQ
やがてここに人の姿がある事に気づいたのか、広場にいる他の人達も少しずつ私の周りに集まり始めた。
「やっぱり、同じこと考えた人いるみたい」
「よし、俺らも行こう」
「パイロン除けちゃっていいんじゃない? まだここが工事されてるわけじゃなし」
「私、この枝にしよ!」
「ずりぃ! 真正面じゃんか!」
「こっちこっち! この枝なら届くよ!」
「一人でたくさん結んでもいいのかな?」
いつのまにか私の足元には、ちょっとした人集りができていた。
赤も緑もリボンは次々と結ばれ、数を増してゆく。
それらに書かれた、願い事は──
28:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:07:29 ID:ShZYRrGQ
『モミノキを無くさないで』
『伐採断固反対!』
『私はこのツリーに願掛けをして試験に受かりました、絶対に切って欲しくないです』
『現在署名活動中、市役所に叩きつけてやるからな』
『童貞貫いても魔法使いにはなれなかった、せめて願う先だけでも残してくれ』
『ツリーを きらないで ください』
『せめて移植を』
『伐採反対/駅前商店街有志一同』
『モミノキを保存するためなら管理のボランティアにも参加する意思があります』
29:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:08:04 ID:ShZYRrGQ
──涙を零せたらいいのに、私はそう思った。
利便性や維持費用を度外視しても私を必要としてくれる人々は、こんなにもいたんだ。
みんな笑顔で、でも真剣な目でしっかりとリボンを結んでゆく。
その少し向こうで、不意にギターがコードを奏でた。
「メリークリスマス、ちょっと歌っていいですか?」
その姿は街頭TVで何度も見かけた──ううん、私はそれよりも前から彼らを知ってる。
この街で歌い始めて、もっと大きな街へ巣立って、そして帰ってきた。
「おい! あれ『かぼす』じゃね!?」
「嘘、地元のスターじゃん!」
「ちょっとちょっと、私ファンなんですけど!」
「これ撮影して拡散してもいいのか!?」
30:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:08:49 ID:ShZYRrGQ
人集りは一層大きくなった。
二人はギターを構え直し、ハーモニカもセットして微笑んだ。
「どうも、地元に帰ってきました」
「この駅前は僕らにとって活動の礎になったところです」
「本当、よくこの木の下で歌ったんですよ……それで」
「噂で駅前が再開発されるって、そしてこの木が伐採されるって聞いて……今年のイブは絶対にここで歌おうって思いました」
バックボーカル担当がギターの弦を弾く。
聴いた覚えのない、静かで優しいアルペジオ。
「僕らはこの木に、ずっとここにあって欲しい。……その想いを込めて書き下ろした曲です」
それは、私のために書かれた曲だった。
「曲名は『大きなスギの木の下で』です。じゃあ、聴いて下さい──」
──モミノキなんだけど。
31:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:09:45 ID:ShZYRrGQ
……………
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2017年12月24日
──私は、このツリーの精。
ある街の駅前広場に植えられたモミノキに、いつしか宿った木の精霊。
時季には街路樹と共にイルミネーションの飾り付けをされて、地域で一番大きなクリスマスツリーになる。
いつからか『願いのクリスマスツリー』なんて呼び名がついて、たくさんの人々が願い事を書いたリボンを枝に結んでくれるようになった。
願いを叶える力なんて無いけれど、それが私の自慢であり誇りなんだよ。
みんなの願いを、せめて一緒に祈る事……そのくらいしかできないけれど。
だけど本当は私が祈ったりしなくても『みんなの願い』は、とても強い力を持ってる。
私は、このツリーの精。
みんなの願いに救われて、ここにあるんだよ。
32:
◆itGDhio2Ao :2017/12/06(水) 11:10:25 ID:ShZYRrGQ
【おわり】
33:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/12/06(水) 12:48:15 ID:dw1uhlr2
とてもよかった
乙
34:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/12/06(水) 13:55:07 ID:gnVqAglo
暖かい気持ちになった、乙!
願い事の遍歴も一名を除いて素敵なものばかりだな
35:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/12/06(水) 14:37:43 ID:vll1WJb2
彼の願いは俺達を笑顔にしてくれただろ……!
36:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/12/06(水) 15:25:11 ID:asUJ8jXo
ほっこり
39:
以下、名無しが深夜にお送りします :2017/12/07(木) 09:07:17 ID:3t0TZ0.s
泣けたぜ
乙