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男「僕の声が聞こえてたら、手を握ってほしいんだ」
Part2


23 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:04:59 ID:vduQb7aE
「ちょっと待って」彼女は訝しげな視線を僕にぶつけた。
「つまり、前から小指の感覚がなかったの?」
「え、いや。まあ、一、二週間前から」
「なんでそのとき病院に行かなかったの?」
「病院が嫌いだから、です」僕は病院と怒った彼女が苦手だ。
いまの状況は、はたから見れば修羅場にでも見えるのかもしれない。
「はあ」彼女は呆れとも怒りとも取れるため息を吐き出した。
「まあいいや。どうせ治療方法はないんだし、行っても仕方なかったよね」
「そういうことにしておいてください」

24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:05:39 ID:vduQb7aE
「じゃあ、次の質問ね。君、これからどうするの?」
「どうするって」
「もし身体が駄目になったら、
仕事もやめなきゃいけないし、介護も必要になるんじゃないの?」
「ああ」確かにそうだ。「全然考えてなかった」
「どうする? ホスピス行く?」
「それだけは絶対にいやだ。
それに、僕が一年と五日後に死ぬと決まったわけじゃない」
「そうね」彼女は弱々しく微笑んだ。「君は死なない」
「そうだ」僕は無理やり笑顔を作った。「僕は死なない」
結局、僕らは何も答えを出さずに店を出た。馬鹿だ。大馬鹿野郎共だ。

25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:06:20 ID:vduQb7aE
その後、僕は彼女に自宅まで送ってもらい、
彼女は「次の休みにまた病院に連れて行くからね」
という捨て台詞を残して帰っていった。相変わらず、お節介なやつだ。
言い忘れたことがあったが、わざわざ車を止めてまで
伝えるようなことでもないので、そのまま黙っておくことにした。
どうせ、いずればれるだろうし。
僕は感覚のなくなった左腕を子どものようにふりながら、遠ざかる彼女を見送った。
遠方で沈んでいく太陽が、いままで見たことのないような鮮やかな光を放っているように見えた。

26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:16:08 ID:vduQb7aE

「で、どうだったの。結果は」
彼女は待合室のソファに座りながら、聞き飽きたフレーズを口にした。
彼女も言い飽きたんじゃないかと思う。
この病院の待合室も、他と変わらず閑散としていた。
「どこに行っても同じだよ。
今更、『助かりますよお!』なんて言われたら、
『うわ。こいつ藪医者なんじゃないか?』って疑うよ」
「そっか」彼女はため息を吐き出しながら項垂れ、ゆっくりと立ち上がった。

27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:17:08 ID:vduQb7aE
五月三日。僕らはきょう何件目かの病院を訪れていた。
ゴールデンウィークの真っ最中に病院を梯子している男女は
めずらしいんじゃないかと思う。彼女はわざわざ貴重な休日を割いて
僕を病院に連れて回ってくれているのに、
期待しているようなことはいまのところ何も起きていない。
どの医者も「残念ながら」という言葉から話を始めるのだ。
病気の発覚から約一ヶ月が経ち、僕の病状はゆっくりと悪化してきている。
左腕は完全に使い物にならなくなり、ついに先日腐り落ちた。
隻腕ってなんかかっこいいなとか思っていたけれど、不便でしかない。
そこで、ようやく僕は自らの置かれた状況を、なんとなく理解し始める。

28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:17:44 ID:vduQb7aE
霧のように曖昧模糊な存在だったそれは、
死という輪郭を持って僕の前に現れた。
いや、それは最初から目と鼻の先にあったが、
僕が今ごろになって気づいただけなのかもしれない。
最近は右足が重く感じるし、夜もあまり眠れなくなった。
心音がうるさくて、睡眠どころじゃない。怖いのだ。
それに、僕の内側の風船はものすごい速さで膨張している。
破裂するのも時間の問題じゃないかと思う。
仕事も辞めた。
おかげで膨大な時間を手に入れたが、何か大事なものを失った気がする。
そして、もともと狭かった交友関係の輪は更に狭まった。
フラフープからドーナツだ。仕舞いには指輪だ。
当たり前だが、給料も貰えなくなった。
少ない貯金で一年を乗り切れるような気はしないが、仕方ない。
奇病なのに死因は飢餓とかにならなきゃいいな、と他人事のように思った。

29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:19:05 ID:vduQb7aE
ガラス戸を押し、病院の外に出た。
すでに太陽は完全に姿を隠し、暗い空では
月がアスファルトを睨みつけるように光を投げている。
足元の石畳は虫塗れの街灯に照らされ、不気味に浮き出ているように見えた。
もう五月になるというのに、空気は未だに冷たい。いや、僕の感覚がおかしいのか?
全身に叩きつけるいやな風が、僕を震えさせた。
「また、明日にしよう」僕は言った。
「そうだね、帰ろう」と、彼女。「あ、晩ご飯はどうする?」
「僕は、まあ適当に」
「なにそれ、わけ分かんない。いっしょに食べに行こうよ」
「そうできたらいいんだけど、恥ずかしいことにお金がね」
さすがに夕食の分くらいは持っているが、先のことを考えると懐が寒い。

30 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:19:48 ID:vduQb7aE
「仕事、辞めちゃったのよね。うーん」
彼女は腕を組んで思考を巡らせた。
ここで「奢ってあげよう」とは言わないのが彼女だ。
僕は彼女のそういうところが気に入っている。
「お!」しばらくすると、彼女は目を輝かせ、「いいことを思いついた」と言った。
『いいこと』というのは、思いついた本人にとっては素晴らしいアイデアなんだろうが、
周りから言わせて貰えば大抵の場合、それは『いいこと』ではない、と思う。
しかし今回は例外だった。「わたしの家で食べよう」
「それはつまり、どういうこと?」
「わたしが料理を作って、わたしと君がそれを食べるってこと」
「それは嬉しいけど、きょうは君も疲れてるだろうし、悪いよ」
「いいよ、わたしが好きでやってるんだし。じゃあ決定ね」
彼女はそう言うと、軽やかな足取りで車に向かった。
揺れる長いスカートが、ものすごく邪魔そうに見える。

31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:20:40 ID:vduQb7aE
僕も彼女の後を追うように、のろのろと歩きだした。右足が重くて、歩きづらい。
彼女に追いつくと、いつものように車の助手席に座り、シートに凭れた。
彼女はいつものように運転席に座り、エンジンをかけた。
スピーカーから聞こえてくる男性の声も、いつもと変わらない。
変わっていくのは、僕の見た目だけだ。
いつかは怪物のようになってしまうのかもしれない。
もしくは、脚も、腕も、全部腐って、
延々と涎を垂らし続ける達磨みたいになってしまうのかも……。
「どうしたの? 顔色悪いよ。窓開けようか?」
「ああ、いや」彼女の声により、意識が妄想の世界から帰ってきた。
なんてことを考えてたんだ、僕は。
「君がほんとうに料理できるのか心配していたんだ」
「失礼な。できるよ」彼女は少しふくれた。「心配して損したかも」
「心配してくれてありがとう」僕は窓に映る彼女の顔を見ながら言った。
返事はなかった。

32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:21:46 ID:vduQb7aE

彼女の家は、十階建てマンションの十階にあった。
僕はここで、エレベーターのありがたさを改めて思い知る。
彼女が鍵を挿し、扉を開けると、まず最初に感じたのが甘い匂いだった。
なんだか落ち着かない匂いだ。でもやっぱりこの娘も女の子なんだなと、しみじみ思った。
靴を揃え、彼女の後を追い廊下を渡ると、リビングにぶつかった。
リビングの中心辺りにはローテーブルとソファーがあったが、
僕はとりあえず、ローテーブルの脇の床に腰を下ろした。

33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:22:40 ID:vduQb7aE
リビングの隣はキッチンだ。そこから彼女の鼻歌が聞こえてくる。
部屋を見渡しても、どこもかしこも小ざっぱりしていて、やはり落ち着かない。
女の子らしいといえばそうなのかもしれないが、何か僕のイメージとは少し違っていた。
僕の中の『彼女像』は、子どものときの無邪気な彼女のままで止まっていたのかもしれない。
当たり前だが、彼女は歳をとり、大人になったのだ。
僕はどうなんだろう。なんとなく、そう思った。
思考がふたたび妄想の世界に飛び込もうとしたところで、キッチンから彼女の声がした。
「どうしたの、ぼーっとして。
そんな猫みたいに背中丸めてないで、もうちょっと寛げばいいのに」
「無茶言うなよ、寛げだなんて。僕は女の子の家に上がり込んで、
いきなりリビングで寝転び出すような男じゃないよ」僕は適当なことを言い、
それから真横に身体を倒し、絨毯の上に寝そべった。
「馬鹿じゃないの」彼女は微笑んだ。
「ちゃっちゃと作るから、そこで寝転んでて」
「うん」僕はなんだか嬉しくなった。「ありがとう」、と言うと、
「どういたしまして」と素っ気ない返事が返ってきた。
僕は余韻に浸り、甘い匂いに包まれながら、いつの間にか微睡んでいた。
落ち着かないとか思っていたのは何だったんだろうか。

34 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:23:52 ID:vduQb7aE
目を覚ましたのは、それから三十分くらい経ってからだった。
「ほら、起きて。冷めちゃうって」
ゆっくりと瞼を開く。細長い視界に映ったのは、彼女の白い足だった。
彼女は僕の隣に座りながら、僕の頬をぺちぺちと叩いているようだ。
ものすごくいやな夢を見ていたが、そんなことはどうでもよくなった。
「ねえ、痛いんだけど」僕は床に顔をへばりつけながら言った。
「あ、起きた? ほら、晩ご飯冷めちゃうよ」
「うん、ごめん。あと、そろそろ頬を叩くのをやめてくれないかな」痛い。
「だってこうしてないと、君、また寝ちゃうでしょう」
「よく分かってるじゃないか……」僕はゆっくりと身体を起こした。
右腕だけで起き上がるのは未だに慣れない。
ほんの数秒だが、いままでよりも少し時間がかかってしまう。

35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:24:35 ID:vduQb7aE
「君の寝起きの顔、おっさんみたいだね」
彼女は吹き出した。「二十代には見えないよ」
「うるさいな」僕はテーブルの上に目をやった。
「で、君は何を作ってくれたのさ」
「スパゲッティです」
「それは素晴らしい」味は大丈夫なのか、と密かに思ったのは内緒だ。
しかし、実際に口に入れてみると、称賛の言葉しか出てこなかった。
「美味い」
「参ったか」彼女は誇らしげに言った。可愛らしいハムスターのようだ。
「参った参った」

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:25:14 ID:vduQb7aE
「ちょっと気になってることがあるんだけど」
彼女は唐突に言う。「いま訊いてもいいかな?」
「ん、ほうほ」僕は不細工なハムスターらしく麺を頬張っている。
すぐに咀嚼し、飲み込む。「何?」
「なんでそんなに病院が嫌いなの?」
「なんでって、昔いろいろあったんだよ。あんまり言いたくないな」
「良いじゃないの。君とわたしの仲じゃない」
どういう仲なんだ、と思ったが、黙っておくことにした。
代わりに、僕は渋々と昔話を始めた。
「……昔ね、脱水症状だったかな? まあ、詳しいことは忘れたけど、
身体の調子がものすごく悪かったことがあってさ。
それで、そのときに近くの病院に行って
点滴をしてもらったんだ。わざわざ手の甲に注射器を刺して、大げさなんだよ」

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:26:09 ID:vduQb7aE
小学二年生の頃だ。
喚き散らす僕を母が押さえつけ、医者が手の甲に注射器を刺した。
痛くて堪らなかった。
部屋中の人間が敵に回ったように見えたのを未だに憶えている。
そこで僕は、子どもながらに「もう二度と点滴なんて受けるものか」という
ちっぽけな決意をしたが、このあとも
二回ほど手の甲に注射器を突き刺すことになった。現実は非情だ。
脳のほぼ真ん中に近い位置で、その記憶は居座り続けている。
さっさと消えてほしい苦い思い出だ。
「それで?」
「え、いや。……それだけです」
彼女の期待を裏切るようで、何か悪いことをしているような錯覚に陥った。
同時に、ものすごく恥ずかしい。視線は自然と下に向かっていた。

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:26:58 ID:vduQb7aE
「え?」彼女は呆れを隠しもせずに言った。
必死に笑いを堪えているようだが、口元が緩んでいる。
「それはつまり、点滴が怖いってこと? だから病院が嫌いなの?」
「そうです、そうですよ」僕はいじけた子どものようにぼそぼそと言った。
「え? ほんとうにそれだけなの?」
「そうだよ! わざわざ確認しないでくれ! だから言いたくなかったんだ!」
「え? え? 病院嫌いって、え? 点滴が怖いからなの? 女の子かよ!」
彼女は吹き出した。仕舞いには腹を抱えて床に転げた。
僕はそれを横目で見ながら、やけくそで冷めたスパゲッティを頬張った。
彼女の分も勝手に食べてやった。
悔しいが、美味い。

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:37:15 ID:fda7aQIA

「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」僕は立ち上がった。
時計の針は午後九時を指し示している。
カーテンは閉じきっているので外は見えないが、おそらく真っ暗なのだろう。
「どうやって帰るの?」
彼女は膝を抱えながらソファーに座っている。
「どうやってって、電車しかないだろう。
懐が寒いって言っても、流石に電車賃くらいはあるよ」
「ここから駅までは遠いよ? 大丈夫? 怖くない?
注射器持った医者がうろついてるかもよ? ふふ」
「おちょくってるのか? それともあれか。君が駅まで送ってくれるのかい」
「やだ。めんどくさい」
「だよね」

43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:39:00 ID:fda7aQIA
「泊まってけばいいじゃないの」
「どこに」
「ここに」彼女は床を指差した。
「それはちょっと」
「いやなの?」
「いやじゃないけど、ほら。着替えとか布団とかないしさ」
「そのままでいいじゃない。布団なら、わたしのがあるし。
わたしはソファーでも寝られるよ」
「ちょっと待ってくれ。そういうことじゃないだろう。
それに僕だってソファーで寝られるよ」
「病人は病人らしく布団で寝なさいよ」無茶苦茶だ。
「いやいや、君の布団で僕が寝るってのか。
それはまずいだろう。じゃなくて、君に悪いだろう」
「何がまずいのよ。
わたしがいいって言ってるんだからいいのよ。はい、決定ね」

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:41:16 ID:fda7aQIA
駄目だ。勝ち目がない。僕はため息を吐いた。
彼女は昔から自分の考えは曲げない人間だった。
そして僕は押しに弱い。
「分かった、分かったよ。きょうはここに泊まらせてもらうことにする。
でも僕はソファーもしくは床で寝るよ。ここだけは譲れない」
「うーん。そこまで言うならいいけど、理由を聞きたいかな」
「理由って、当たり前だろ。寝られるわけないだろ」
「だから、なんで寝られないのって訊いてるんじゃない」
「なんでって、男はみんなそうなんだよ」僕は適当なことを言った。
「ほー」彼女は膝を抱えたまま、ソファーの上で前後に揺れ始めた。
「男だって。女の子みたいなのにねえ?」そして小さく吹き出した。「点滴って。ふふ」

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:41:59 ID:fda7aQIA
「その話はもういいだろ」
「そうだね」彼女はまだにやついている。
「じゃあお風呂にでも入ってさっさと寝よう。
きょうは疲れた。身体が重い。あ、先に入る?」
「僕は別に入らなくても大丈夫だけど」
「君は良くてもわたしは良くないの。あ、いっしょに入ってあげようか?」
「馬鹿じゃないのか」心臓が爆発するかと思った。
「冗談よ」彼女は廊下のほうに歩いていった。
結局、彼女が先に入り、あとで僕が入ることになったらしい。

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:44:42 ID:fda7aQIA
片腕を失ってからは、ほとんど湯船に浸かっていない。
左腕がもげた断面は腐った木のようになっていて、
水につけると木屑のようにぼろぼろと、
かつて肉だった焦げ茶色のものが皮膚の内側から毀れ落ちてしまう。
痛くはないが、見ていてあまり気持ちのいいものじゃない。
それでも湯船に浸かっていいのだろうか。
という旨を風呂上りの彼女に話すと、「断面にこれを巻け」と言って、
輪ゴムとビニール袋を渡された。腕に袋を被せて、ゴムで止めろということらしい。
なるほど、これなら大丈夫だなと思ったが、自分ひとりではなかなか巻けない。
僕は不器用だ。なので嫌々ながら、彼女に巻いてもらうことにした。
彼女にこんなの見せたくなかったけど、仕方ない。

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:45:38 ID:fda7aQIA
僕はシャツを脱ぎ(これも地味に時間がかかる)、上半身裸になった。
彼女の視線は、かつて僕の左腕があった場所に伸びている。表情は明るくない。
なんだか申しわけない気持ちになった。
「ごめんよ、変なの見せちゃって。気持ち悪いだろ」
「いいよ、べつに。お風呂が腐った肉片塗れになるよりはマシよ」
「そう言ってくれるとありがたい」
「ねえ、ほんとうに痛くないの? これ」
彼女はおどおどとしながら、僕の左腕の断面を覆うようにビニール袋を巻きつけた。
「大丈夫だよ」
「それならいいんだけど」それから、ビニール袋の上に輪ゴムを巻きつけた。
ぱちん、と心地良い音が鳴る。「はい、できた」
「悪いね」僕は暗い廊下を歩き、風呂場に向かった。