Part1
男「ひと味違うバレンタイン」
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1 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 18:54:43.71 ID:
WHLsH0iX0
約7000文字
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バレンタインデー当日 学校 教室
女「……ねえ」
男「ん?」
女「放課後、屋上の扉の前に独りで来て」
男「え!?」
女「私、待ってるから」
男「お、おう!?」
女「あと誰にも言わないで」
男「わ、わかった!?」
先生「お〜い、席につけ、六限目の授業を始めるぞ!」
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2 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 18:59:04.80 ID:
WHLsH0iX0
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授業中
先生「次は教科書の八十一ページの例題から──」
女「……」
男「……」
え!? え!?
マジで?! そういうこと!?
ホントに!?
俺の学校の屋上への扉は、基本的に施錠されている。
なので屋上への階段を登り切っても、あるのは開かない扉と小さな踊り場があるだけだ。
そんな場所に用がある奴はまずいない。
しかし逆に言えば、多数の生徒で賑わう学校内に置いては、数少ないひと気の無い場所とも言える。
男女がバレンタインに、秘密で、そしてひと気のない場所。
もう決まったようなもんだ。
チョコだ。
チョコレートしかない。
彼女がチョコをくれるなんて、そんな素振り全然なかったのに。
明るくて話しやすくて可愛くて、教室の中でも席が近いこともあってよく話す方だし。
彼女からチョコ貰いたいとは思っていたけど、まさか本当に貰えるなんて。
今日は髪型のセッティングに時間をかけた甲斐があった。
いや当日だけカッコつけても、女子はチョコレート用意できないけど。
まあ気分的にな。
3 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:00:09.79 ID:
WHLsH0iX0
先生「よし、次は八十ニページ、この問題をといてみ──」
問題! そう問題はこれからだ。
すなわち、義理なのか? 本命なのか?
教室内で義理チョコを渡す。別に不思議なことでも難易度が高いことでもない。
現に他の女子が義理だと言って、仲の良い男子にチョコを渡しているのを見た。
教室内では、義理チョコなら渡しても良いというような、渡しやすい空気が出来ていた。
にも拘らず渡さなかったということは、義理チョコではないということ。
つまり
本 命。
男「……へへへ」
先生「……男? どうした?」
男「え!?」
いつの間にか周りはみんな問題を解いており、俺の机の脇から怪訝そうな顔の先生が、こっそりと話しかけてきた。
先生「体調でも悪いのか?」
男「いえ」
先生「なら問題といとけ」
男「はい」
え〜と
女「……八十ニページ」
男「あ、ありがとう」
女「ふふ」
なんで彼女はいつもと変わらないんだよ。
いやなんかこの子からチョコ貰えると考えると、元々可愛いけど普段の三倍ぐらい可愛くなってる気がする。
あ〜もう、なんか俺ばっかりドキドキして、ずるくないか。
これってやっぱりそういうことなんかな?
先生「ここは期末テストに出るからな! 分からないところは質問するように!」
いかん。
今は授業に集中だ。
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4 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:01:57.40 ID:
WHLsH0iX0
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先生「はい、今日の授業はここまでだ! そのままホームルーム始めるぞ!」
女「……」
男「……」
先生「といっても特に連絡事項はない! 掃除当番はサボらないように! 以上!」
先生「号令!」
「起立」
「礼」
「「ありがとうございました!」」
先生「はい解散! 帰る奴は気を付けて帰れよ!」
男「……あのさ?」
女「私、先に行くね」
男「あ、うん」
男「……」
男「……いくか」
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5 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:03:14.09 ID:
WHLsH0iX0
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俺は廊下を歩いて目的地に向かう。
彼女を待たせるわけにはいかないからな。
だが目的地に着く前にシュミレーションだ。いやシミュレーションだっけ。
とにかくイメージトレーニングだ。
チョコを貰ったら、取り合えずありがとうってお礼を言おう。
それで付き合うとかそういう話になったら、突然過ぎて考えられないから時間をくださいって言おう。
すぐにでも付き合いたいけど、がっついていると思われたくないし。
頭の中ぐちゃぐちゃですぐに答えを出すのは、不誠実な気もする。
良し、これで完璧だ。
階段の前で、少しだけ立ち止まる。
男「ふ〜」
この上で彼女が待ってる。
男「……」
良し、行こう。
屋上への階段を一段一段、幸せを噛みしめる様に上る。
付き合ったら遊園地とか行きたいな。ふたりで。
いや小さな公園とかでも、きっと楽しいから行きたいな。ふたりで。
大したことないようなことも、ふたりでならとても素敵なことのように感じられた。
俺の人生は今日という日のためにあった気がする。
いやきっとそうに違いない。
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6 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:05:02.09 ID:
WHLsH0iX0
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屋上の扉に背中を預けるようにして、彼女は独り待っていた。
女「……あっ、やっときた」
彼女は俺を見つけると、少しだけ咎めるようなことを言って微笑んだ。
男「ご、ごめん、待った?」
女「いいよ、呼び出したの。こっちだし」
男「……うん」
平然と。
平然と。
何でもないように。
何でもないように。
女「……ちょっと待って」
男「……うん」
やばい。
無理。
可愛い。
恥ずかしい。
好きです。
結婚してください。
死ぬ。
あ!
まずい!
言おうとしてたこと、全部とんだ!
7 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:07:06.56 ID:
WHLsH0iX0
女「……これ」
彼女は鞄から、綺麗に包装された長方形の赤い箱を差し出した。
箱にはピンク色のリボンが巻かれており、リボンと箱の間には真っ白な手紙が挟まっていた。
男「……お、俺でいいのか?」
女「うん、他にいないし」
男「……じゃあ──」
俺はそれを受け取ろうと手を伸ばした時、初めて気が付いた。
男「その指?」
女「あ、うん。チョコ作るときちょっとね」
絆創膏のついた彼女の小さな手からチョコレートを受け取る。
手作り。
手作りチョコ。
俺、もしかして明日には死ぬんじゃないかな。神様!
そうだ!
お礼を言うんだった。
男「……あ、ありが──」
女「お願い! それをイケメン君に渡して欲しいの!!」
男「え!?」
イケメン?
渡す?
何を?
これを?
手作りチョコを?
誰に?
イケメン?
何でここでイケメン?
これをイケメンに渡す???
8 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:09:18.52 ID:
WHLsH0iX0
女「……本当は昼休みに直接、渡すつもりだったの」
男「……」
女「……でもどうしても……どうしても渡せなくて、それで男君ならバスケ部で一緒だから」
あれ?
女「……部活終わったあとに、こっそり渡して欲しくて」
なんで?
女「部活が終わるまで待ちたいのだけど、今日は用事があって……」
どうして?
女「他に頼める友達もいないし」
友達……友達……友達……
女「男君?」
不安げな彼女の瞳が覗き込んでくる。
友達……いや、なら俺は!
男「ま、まかせとけ!!」
女「ほんと!?」
男「ああ、それで渡すとき、なんかアピールあるか?」
女「別にないよ」
男「けどさ、俺がこの手紙を読むわけにはいかないだろ?」
女「やめて!」
酷く焦った声を彼女があげる。
女「それ、のり付けしてるから、イケメン君が読む前に読んだら分かるんだからね!」
男「ああ、うん、悪い。最初から読むつもりないよ」
彼女は俺の返事を聞いてホッとして、自分の言ったことの意味に気付いたみたいだった。
女「ご、ごめんなさい。頼んでいる立場なのに疑うようなこと言って」
男「いや、せめて義理なのか、本命なのかを確認したいと思ったんだ。もう大体わかったけど」
男「好きな人への手紙を、誰かに読まれるのは嫌だよな。うんうん」
女「……」
恥ずかしそうに彼女は俯いた。
男「よしわかった! 本命チョコだって言って渡して、真剣に考えてくれって言っとく!」
女「……お願いします」
男「ああ、イケメンと二人の時にバッチリ渡しとく!」
女「ありがとう。男君と友達で良かった」
男「ああ、俺は頼れる男だからな」
女「ふふ、そうだ! これあげるね」
男「これは?」
女「義理チョコ。といっても手作りチョコの材料の、板チョコのあまりだけど」
男「ありがとう。運動した後は筋肉がカロリーを求めるから助かるよ」
女「あはは、なあにそれ? でもこっちこそありがとう」
男「おう!」
9 :
◆2oYpLZIXqc :2018/02/11(日) 19:11:08.99 ID:
WHLsH0iX0
女「……私、もう行かなくちゃ」
男「おうチョコは任しとけ!」
女「本当に本当にありがとう。またね!」
男「ああ、またな」
そう言って彼女は重い荷物を下ろしたかのように、軽やかな足取りで階段を駆け下りていった。
男「……」
男「……」
男「……ああぁあぁ〜!」
静まり返った空間で独り、溜息と悲鳴の入り混じった奇声を上げる俺。
友達。義理チョコ。
死ぬ。なんかもう死にたい。
消えてなくなりたい。
誰か俺を、俺を素粒子レベルで分解してくれ!
俺が死ぬのは明日じゃなかったのか! 神様!
男「……」
男「…………」
男「………………」
男「……部活、行くか」
階段を上るときは、ふたりですることばかり考えていたのに。
下りの俺は、どこまでも独りだった。
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