Part4
167 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 07:54:56.15 ID:
fNXhvYIy0
彼女は膝を抱えてちょこんと座った。 なんて可愛らしいんだ。
そして地面をぽんぽんと叩き、横に座るように促した。
いいいいのか? いいのか!? かかかっかか彼女の横に座っちゃっていいのか!?
いや彼女がそう言っているんだ、お言葉に甘えて座るべきだろう! そうだろう!
この巡ってきた奇跡ともいえるチャンスをみすみす逃してなるものか!
ただし息子よ、出来るだけ冷静であれ。 興奮しては、また彼女を失望させてしまう。
大きく深呼吸し、緊張しながら、彼女の横に、座った。
彼女「……なんで正座なんだ」
俺「いややっぱり貴女や彼に申し訳ないと」
彼女「だから、もういい」
169 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 07:58:13.28 ID:
fNXhvYIy0
正座を崩し、胡座をかく。 草木がさらさらと揺れる。
彼女はそれを毟り、そして手を放して宙に舞わせた。
彼女「解せんな。 お前ほどの実力があれば騎士団に入ることも容易いだろうに」
俺「まぁ、契約の延長じゃなく、正式に入団の勧誘も何度かはあったけど……」
彼女「ならば何故。 傭兵で埋もれるには勿体無い。 金にも困るだろう」
俺「そうなんだけどなぁ。 ……騎士様の前で言うもんじゃないけど、面倒臭そうだし」
彼女「面倒、か。 ……そうか。 そうだな」
妙に納得したようにうんうんと頷く。
「本当に、面倒だ」と呟き、そしてまた草を毟って放すを繰り返した。
170 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 07:59:31.46 ID:
fNXhvYIy0
そのままぼーっと何も話さないまま時間が過ぎた。
彼女は膝を抱える腕に顎をのせ、飽いた左腕では未だに草を毟り続ける。
俺はそんな彼女の様子を見て、可愛いなぁとずっと思っていた。
空には星が目立ち始めた。 彼女は「さて」と立ち上がる。
彼女「そろそろ、戻るか」
なんでも最近夜になると狼が現れ、商人が襲われる被害が続出しているらしい。
彼女は町に向かって歩き始めた。 俺も立ち上がり、尻についた草や土をぱっぱと掃う。
171 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:07:42.17 ID:
fNXhvYIy0
夜の街は仕事終わりの男たちで賑わう。
そんな中を彼女と並んで歩いているのだ。 これは大きな進歩と言えよう。
俺「えっと、宿、この辺なんだけど」
ここで彼女が「酒を飲みに行かないか」と言ってくれる事を期待していたが、
興味無さ気に「そうか」と言われるだけだった。 そうだった、期待してはいけないんだった。
小さくなっていく彼女の背中を見て、ある事を言い忘れていたのを思い出した。
俺「昨日、奢ってくれてありがとう」
彼女は立ち止まってこっちを見た。
そしてしばらく考えた後、小さな声で、だが確実に、こう言った。
彼女「また、奢ってやる」
かくして、俺は彼女の「飲み友達」の称号を得たのである。
176 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:50:20.26 ID:
fNXhvYIy0
旦
ボサボサの頭をした男と決闘をした夜以来、そいつとはよく共に酒を飲む仲になった。
頻度は週に一度程度。 あらかじめ都合の良い日を伝え、その日に会う、という感じである。
もちろん急に仕事が入る場合もあり、そのときは素直に「すまんかった」と言う他無い。
酒は基本的に、私がキープしている樽から注いで飲んでいるが、ある日あいつはビールを頼んだ。
私にはビールを飲んだ経験が無く一口だけ貰ったことがあるのだが、どうも口には合わなかった。
酒を飲んでいる間、あいつは私に、自身の経験を色々と話して聞かせた。
女に振られて家出したこと、初めて傭兵として戦った時のこと、
戦から逃げるつもりがいつの間にかしんがりになっていたこと、
クマに襲われ食料全てを奪われたこと、それが原因で死に掛けたこと――
177 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:51:32.42 ID:
fNXhvYIy0
そのような話の流れで「貴女はどこの生まれなのか」と訊かれたことがある。
相手はただの傭兵であるし、別に隠す必要性も見られなかったので正直に言った。
私「どこで生まれたのかは知らん。 物心ついたときには奴隷として売られていたからな」
ボサボサ頭「え、うそ、奴隷? 意外だなぁ」
私「だからろくな教育も受けなかった。 まだ、字を書くのは慣れない」
これは言うべきことじゃなかった。
前にポケットに忍ばせたメモに書いた字を、酷く馬鹿にされたような気がした。
尤もこいつに悪気は無かったようなのだが。
また、お互いに全く話さないという日もあった。 ただ共に酒を飲む、というだけの。
いやむしろ日数的にはそっちの方が多かったように思う。
こいつも無言の間を無理やり埋めようとするタイプの人間ではないらしい。
178 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:52:30.64 ID:
fNXhvYIy0
旦
あれ以来彼女とは週に一度、多くて二度ぐらいの頻度で共に酒を飲むようになった。
もちろん彼女は騎士で忙しくて当然だから来れない日もあったが、それでも俺は嬉しかった。
常ではないが定期的に、彼女を間近で見ることができるのだから当然である。
本当に、彼女の守護神だとかサポーターだとか言っていた日が懐かしく思える。
彼女は傭兵である俺に気を使ってか、彼女の酒を振舞ってくれていた。
しかし流石に毎回は悪いと思い、ある日自分の金でビールを頼んだら、
飲んだことが無いらしい彼女が興味を示し、なんと、俺のジョッキで、一口、飲んだのである。
不味そうに顔を顰めたがそんなことはどうでもいい。 彼女に「これって間接キスだよな?」って言ったら
……どうなるの?
とりあえず、その日彼女が帰った後、そのジョッキを買い取った。
これも家宝にします。 ありがたや。
179 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:54:28.87 ID:
fNXhvYIy0
店員の姉ちゃんに「お二方はお付き合いになられてるのですか?」と訊かれたときは心臓が出かけた。
そうであれば心底嬉しいのだが彼女に失礼があってはいけないと、断固否定させてもらった。
彼女自身も「そんなわけあるか」と全く動揺せずに吐き捨てたし、俺に気など無いのだろう。
そうに決まっている、うん。 ……うん……。
彼女は「会話に間があるとどうしても埋めたくなる派」の人間ではなく、無言の時間も愛した。
何を喋ればいいのか解らない俺にとってそれ以上のことはないが、流石に毎回はどうだろうと思い
たまに、俺の経験してきた事を話した。 もちろん彼女の後を付いて歩いたことは話さないが。
多分、俺の話をちゃんと聞いてくれていたと思う。 「難儀だったな」と言ってくれたり、笑ってくれたりした。
尤もそれは鼻笑いや嘲笑いばかりであったが、たまに見せる笑顔が、たまらなく可愛かった。
180 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:55:41.09 ID:
fNXhvYIy0
一度だけ、彼女の話を聞いた。
驚いたことに彼女は正規軍騎士で貴族という身分でありながら、出身は逃亡奴隷だったのである。
だから字を書くことが出来るようになったのは最近の事なのだそうだ。
書類などの文章は側近に任せ、サインだけは自分で書くという。
俺「へぇ、でも前貰ったメモ見る限り上手だと思う、可愛かったよ丁寧で」
ポケットに入れられたメモには、アルファベット一字一字丁寧に行書体で書かれていた。
俺は素直に褒めたつもり、だったが――飛んできたのは右ストレートであった。
彼女「う、うるさい! 自分の名前ぐらいは、筆記体で書けるっ」
初めて、顔を赤くした彼女を見た。 ムキになるその姿たるやまことに可愛らしく――
俺はその日息子との拮抗に負け、数年ぶりに床オナをした。
自身の不甲斐なさと後悔で枕を濡らした。
181 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:57:22.00 ID:
fNXhvYIy0
しかし、幸せの日もそう長くは続かなかった。 俺の財布が悲鳴をあげたのである。
基本、飲む酒は彼女が買い溜めたものであるから酒場ではあまり金を使わないが、
長きに渡る宿代とママに返すための積立金、そして路銀のことを考えると
これ以上遊んでは暮らせないのである。
その旨彼女に伝えると、「そうか」と素っ気なく言われただけだった。
彼女の俺に対する思いを知った気がする。 なるほど、やはり俺は所詮その程度か。
……ア、アタイ、寂しくなんか、ないんだから、ね……!
とにかく、一ヶ月もの間居座ったこの町を誰の見送りもないままで旅立った。
182 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:58:16.38 ID:
fNXhvYIy0
旦
ボサボサの頭をした男はまた稼ぐために町を出て行った。
あいつは傭兵であるし当然の事だと思い、出て行くことを告げられた時も大して反応しなかった。
私には引き止める理由はないし、宿代をだしてやる義理もないのである。
あいつが居なくとも私の生活が変わるわけではない。
面倒な仕事を坦々とこなし、時間があればいつもの酒場のいつもの場所で酒を飲む。
どこかで大きな戦でもない限り、その繰り返しである。
183 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 08:59:41.59 ID:
fNXhvYIy0
この日の夜も晩餐会があった。
息苦しくなるような衣装を身に纏い、息苦しくなるような場所で、抜け出したい衝動に駆られる。
主催者――国王陛下の乾杯の音戸の後、配られたワインを飲むフリをする。
私が兵団の隊長となり、爵位と騎士の号を得る際の祝勝会で、同じように渡された酒を
毒見として飲ませた使いが目の前で痙攣を起こして死んで以来、こういう場所では飲まないことにしている。
女でありながら騎士という身分を認めたがらない老害大臣達の白い目、
わらわらと集まり婚約とダンスを求め、断る毎に聞こえる貴族御曹司の陰口、
それに嫉妬した、着飾ることしか脳の無い貴族令嬢の嫌味――
いつまで経っても慣れることができない。
本当に、面倒で、つまらない。
185 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:01:17.45 ID:
fNXhvYIy0
私にとって、この狭い路地にある酒場は唯一心の休まる場所だった。
この、少し汚くて、泥臭い雰囲気のこの場所が、自分を懐かしい思いにさせた。
そんな場所にあの男を誘うようになった理由は、自分でもよく解らない。
ただの気まぐれだったのか。
――いや。
あいつには、気を使わないで済む。 傭兵だから――だろうか。
よくは解らないが、あいつの話を聞けば、あいつが居れば、
私の中の言い表せないような怒りなどのもやもやが和らぐような、そんな気がした。
そんなことを考えてしまうのは、慣れないビールを飲んでいるからだろうか。
目の前の席には今、誰も居ない。
188 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:13:05.45 ID:
fNXhvYIy0
旦
九月、リンゴが旬を迎え美味しい季節です。
この町を経って五ヶ月、よう生き残ったなぁと自分でも感心する。
とりあえず前と同じ宿に部屋を確保する。
店主曰く、この五ヵ月の間にライバル店が出没したこと以外
この国や町、及び軍に大きな変化は特には見られなかったとの事。
よし、ならば彼女に会いに行かなければ! というか会わないと死ぬ!!
定期的に彼女に会って話すという事が当然になっていたお陰で、
この町を発ってから「彼女に会いたいバイタリティゲージ」は一週間で頂点に達してしまい、
頭がどうにかなってしまいそうだった。 今正気なのは彼女の使ったジョッキがあるからに他ならない。
歩くときも食べるときも寝るときも彼女を思い浮かべ、
そればかりか仕事場でも彼女を思い浮かべたもんだから危うく命を落としかけた。
そんなこんなで危ない橋を何度か渡り、今回は金銭的危機には陥らないほどの金を稼いできた。
192 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:18:19.25 ID:
fNXhvYIy0
足早に例の酒場へと向かった。
今日彼女が来るとは限らないが、可能性が無いわけではないのだ。
いつもの席に座り彼女が来るのを待った。 久々に会うからかは解らないが、
初めて彼女とここで待ち合わせた時のように、ドキがムネムネして破裂しそうだった。
店のドアが開く度に彼女ではないかと振り向く。
しかしそこにあるのはオヤジの姿ばかりで、今日はもう来ないかもなと諦め最後の酒を注文した。
その時、カランと来客を告げるベルが鳴った。
足音が聞こえる。 この足音には確か聞き覚えがある。
それは何歩か歩くとぴたりと止まった。
数秒静止した後、また動き出し、歩く度にそのテンポは速くなった。
そしてまた、真後ろで止まった。
振り返ると、恋焦がれた愛しい女性が、目の前に居た。
195 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:24:22.19 ID:
fNXhvYIy0
彼女「お前、いつ帰ってきた」
俺「今さっき」
彼女「……くたばったと思っていた」
俺「御覧の通り、脚もついてますぜ」
彼女「……そうか」
196 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:30:30.87 ID:
fNXhvYIy0
正直、彼女が俺のことを覚えているとは思わなかった。 彼女にとって俺など、
飲み仲間にしたってモブキャラであるから、五ヵ月も出番が無ければ記憶から失せてしまうと思っていた。
彼女はいつも通り、俺の向かいに座った。
その顔は相変わらず美しく、可愛らしかった。 髪はまた短く切ったようだ。
彼女「……右目」
俺「え、あぁ、矢がズチュッと」
彼女「痛くないのか」
俺「もう結構前の事だから」
彼女はまた「そうか」と言って、鼻から大きく息を漏らした。
もしかして、心配してくれたのだろうか。 だとしたら大変喜ばしいことである。
199 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:37:26.08 ID:
fNXhvYIy0
旦
店に入った瞬間、鼓動がドクンと鳴ったのが分かった。
いつもの席に、見覚えのある頭。
――まさか。
足を早め、その後ろにつくと、そいつは振り返った。
相変わらず髪をボサつかせた男は、相変わらずの笑顔だった。
私「お前、いつ帰ってきた」
ボサボサ頭「今さっき」
200 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:42:14.56 ID:
fNXhvYIy0
右目は矢で射られたらしい。
騎士団という集団の中で隻眼だというのであれば仲間内で補うことはできるが、
あいつのような個人の傭兵の場合助けてくれる者などいないだろう。
これはかなりのハンデになってしまっているのではないか。
しかし元気そうで何よりであった。 思わず深い安堵の息が漏れる。
……私は安心しているのか、この男が帰ってきて。 何故だ? ……分からない。
とりあえず、ビールを二つ注文した。
すると男は驚いたような顔を見せ、ビール苦手じゃなかったかと訊いた。
私「最近、美味いと思い始めた」
嘘である。
203 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:48:25.79 ID:
fNXhvYIy0
ジョッキを掲げ、コゥンというぐぐもった音が鳴る。 乾杯。
四分の一程度飲み、一息をつく。 慣れはしたが、やはり美味いとは思えない。
私「で。 どこに行っていた」
ボサボサ頭「地方貴族同士の小競り合いとか色々。 某有名傭兵団に当たっちゃって困ったよ」
私「それでその目か」
ボサボサ頭「負け戦確定して逃げようと思ってたら流れ矢が」
なんとも下らん理由で右目を失ったものである。
運が悪かったなとしか言いようが無い。
205 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:56:20.43 ID:
fNXhvYIy0
血の滲むような特訓のお陰でスラスラと筆記体で文章を書けるようになったとか、
話したいことはあったが、結局は何も喋らなかった。
いつものように、無言で酒を飲みチーズとつまむだけだった。
しかし、それでもよかった。
こいつと居るだけで、この五ヶ月で荒んだ私の心は綺麗に洗われるような気がした。
何故そう思えてしまうのかは分からない。 分からないが――
私「久々に会えて嬉しかった」
去り際に言ったこの言葉は、私の素直な気持ちであろう。
207 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:58:06.87 ID:
fNXhvYIy0
旦
彼女とは特に会話はなかった。 まぁ、いつも通りである。
この五ヶ月でどんなことがあったか彼女に聞きたいと思っていたが、
彼女を見るだけで俺の心はふくふくと満たされた。
しばらく飲んだ後、彼女は「明日も早くから仕事がある」と言って席を立った。
彼女と別れるのは残念だが、今日偶然にも会えただけでも良しとしよう。
彼女「久々に会えて嬉しかった」
彼女が横切るときにそう言った。
その言葉の意味を理解するのにはしばらく時間を要した。
208 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:59:09.03 ID:
fNXhvYIy0
俺「旦那ァ、久々に会った子が『会えて嬉しかった』って言ったんだ。 どう思う?」
宿屋「誰だそりゃ」
俺「え、あー……お店の娘なんだけど」
宿屋「そりゃただの営業だな、またお店に来てくださいねー(はぁと)っていう」
俺「いや、言いなおそう。 その子とは飲み友達だ。 お姉さんがいっぱい居るバーじゃない」
宿屋「ほー? でもどっちにしたって社交辞令だろうよ」
俺「しゃ、社交辞令……」
宿屋「お前みたいに収入の安定しない根無し草に脈があると思うな。 期待するだけ無駄だ無駄」
俺「そっか……そうだよなぁ……」
209 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 09:59:46.36 ID:
fNXhvYIy0
期待するだけ無駄、か。 そうだ、そうなんだが。
そんな希望の全く無い状態から、今の彼女の飲み友達というポジションまで辿り着けたという事実が
俺にもうちょっと先まで行けるのではないかという甘い期待を持たせてしまっている。
自惚れるな。 調子に乗るな。 付け上がるな。
自分に言い聞かせながら、今日も――今回は四日ぶりに、店に入る。 と。
珍しく彼女が俺よりも先に席について、テーブルに伏していた。
寄ると、俺に気付いた彼女は、とても疲れたような顔をあげた。
そんな彼女の顔も色っぽ――ではなく。
俺「何かあった?」
211 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:07:00.46 ID:
fNXhvYIy0
訊いても、彼女は「いや」とかぶりを振るだけだった。
こんな疲れた表情は見たことがない、何かあったに違いないが――
彼女が言いたがらないのなら無理に訊くこともあるまいと、黙って席についた。
しかし、どうも酒も進んでいるようには見えない。
こんな所に寄らず、はやく帰って寝たほうがいいのではないかとさえ思う。
チーズをつまみながら、ちらりと彼女を見る。
やはり、何か話しかけたほうがいいのだろうか。 しかし何を言えばいいのか――
彼女「なぁ」
俺「あ、はい」
彼女「お前は次、いつ町を出る」
俺「……はい?」
214 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:12:18.81 ID:
fNXhvYIy0
ななな何故そんなことを知りたがりますか!
そりゃ、こっちに金があってこの町に彼女がいるのなら一生ここに居たいけども
そんな事を彼女に言うわけにはいかんだろう。 俺は彼女のことをどうしようもない程に
好きだけれども、彼女にそんな気があるわけないから、そんな事を言ったら引かれる。
俺はやっと掴んだこの「飲み友達」というポジションを手放したくはないのだ。
とは言っても、もし彼女が俺を嫌い、もう一緒には飲みたくない、
さっさと町から出て行けと言うのであれば、彼女の望んでいることであるし、大人しく従う他ない。
俺「……この町は料理が美味い、特に今は秋だから、まぁ金の続く限りは。
あ、でも、もし出て行けと言うのであれば、その……いつでも出て行けます、はい」
彼女「そうか。 ……なら、出て行って欲しい」
俺「あ、…………は、」
彼女「それで、私も連れて行って欲しい」
216 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:18:53.26 ID:
fNXhvYIy0
すみませんちょっといみがよくわかんないです。
ワタシモツレテイッテホシイ? watasimo tureteittehosii? 私も……
……
俺「っはあぁぁあああ!!?」
彼女「おい静かにしろ」
俺「あはい」
俺「え、ちょ、っと、え、つまり、一緒に旅を……え?」
彼女「ああ」
俺「え、お、おお……ま、まずはおお落ち着くぁwせdrftgyふじこ」
彼女「お前が落ち着け」
217 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:24:02.16 ID:
fNXhvYIy0
酒を一気に飲み、一息ついて、まず落ち着く。
危ない危ない、紳士たるもの常に冷静であるべきだ、落ち着いて考えよう。
まず。 彼女は確実に、共に旅をしようと――そう言った。
俺「話が見えない。 どうしてそんな事を」
彼女「……私は、疲れたんだ」
俺「疲れた?」
彼女「あそこでの生活が嫌になったんだ」
218 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:28:03.13 ID:
fNXhvYIy0
旦
今日は珍しく、全くと言っていいほどにすることが無かった。
午前の鍛錬が終えてから軽く汗を洗い落とし、部屋に戻る。
側近に訊いても提出すべき書類があるわけでも誰かに会う約束があるわけでもなく、
本当に、何も無かった。 面倒は面倒だが無かったら無かったで困るものである。
本棚から適当に一冊選び、ソファに腰掛けパラパラと捲る。
これは最近読んだばかりだな、と思っていると、ドアが開く音が聞こえた。
王子「うわぁ〜、せんまい部屋ァ」
ずけずけと入ってきたのはこの国の王子であった。
219 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:30:08.00 ID:
fNXhvYIy0
双子の弟で、王位継承位第二位の17歳の少年である。 ろくに勉強しようともせず、
甘やかされたこいつは随分と我侭に育ってしまった。 御聡明な兄とは正反対だ。
私「殿下。 こんな狭い部屋に何の御用で」
王子「別に用は無いんだけどさぁ」
王子は部屋をきょろきょろと見回した。 勲章を流し見、そして壁に掛けられた剣の前で足を止める。
実際に手に取り、しげしげと見つめ、そして振りかぶってみたりする。
素人が剣を振るというのは流石に危なっかしくて見ておられず、王子に近付いて注意する。
私「無闇に触れては危険です、お止めください」
王子「だいじょーぶだよ、剣ぐらいちょっとは習ってんだからさぁ」
220 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:36:04.80 ID:
fNXhvYIy0
王子は、近付いた私の顔をじっと見る。
身長は私と同じぐらいか少し大きいぐらい。 顔はまだ青臭い。
王子「ここまで近くで見るのは初めてだけどキミ、可愛い顔してるんだね」
私「……勿体無いお言葉で」
相手をするのは面倒臭い。 さっさと帰ってくれないか。
そう思うも、王子は帰るような素振りは見せない。
私の周りをゆっくりと歩き、私の身体を嘗め回すように見る。 嫌な目つきだ。
決していい気分はしない。 王子でなければとっくに剣の錆になっていたろうに。
王子「よし、決めた」
背後から声が聞こえたと同時に、太股に気色悪い手がねっとりと触れるのを感じた。
223 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:43:36.72 ID:
fNXhvYIy0
王子「キミはボクの所有物だ」
私「……戯れ事はお止めください、殿下」
王子「ふざけてなんかないよ」
尻を撫で回していた手は徐々に前に移動し、そして私の陰部へと到達した。
私は思わず腰の短剣に手を伸ばす。
私「殿下。 私にも限度が御座います。 それ以上続けると言うのであれば――」
王子「どうなるの?」
ぱっと私から手を放す。 そして私の前に歩み出てナスビのような顔を近付けた。
王子「ねぇ、どうなるの? ボクをそのナイフで殺そうって言うの? ねぇ」
225 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:48:01.77 ID:
fNXhvYIy0
王子「いいよ、別に。 でも王子であるボクに少しでも傷つけたりしたらどうなると思う? ねぇ」
王子「それに本当は感謝してほしいんだよねぇ、王子であるボクに相手してもらえるんだから。
……将来、兄上にもし不幸があったら、次の王の座はボクのものになる。
その時、もしかしたら王妃にキミを選ぶかもしれないんだよ? そういうのも捨てちゃうワケ?」
私「そのようなものに興味は御座いません」
王子「……いいのかなぁ。 キミがもし、すこしでもボクに反逆の意を見せたりしたら――
ボク、凄く怒るだろうね。 何をするだろう? 例えば、キミの属する騎士団を潰しちゃうとか?」
私「……! 卑怯なッ!!」
王子「何とでも言えば良いよ。 よく考えてよね、ボクはどっちでもいいから。
キミが大人しく言うことを聞いて、ボクのオモチャになるか、
反発してキミ個人としてのプライドを守る代わりに、キミの大切な恩人や仲間がいる団を潰すか」
王子「キミなら分かるよね。 どっちが利口な選択か」
私は血が滲むほどに下唇を噛締め手を握り締め、王子は目を細め口の端をつり上げた。
短剣から手を引いた瞬間押し倒され、私の唇はあっけなく奪われてしまった。
224 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:46:38.23 ID:c0PfHZgf0
やっちまなーつか俺がやる
226 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:48:21.24 ID:nBrR9aPX0
いや、俺がやる!
228 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:51:25.10 ID:43hYGA8j0
最後までしたというなら、今から王子を殺しにいく
231 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:54:18.59 ID:
fNXhvYIy0
抵抗する唇を貪り、強引に舌をねじ込み、絡ませる。
離すと、間には白い糸が引いた。
憎たらしい程に可笑しそな顔の王子が馬乗りにして見下す。
王子「弱いモンだねぇ騎士団の隊長さんも! たった一言で!」
王子「最初から決まってるんだよ、選択の余地がないことなんか!」
私の腰から短剣を抜き取り、服の端に切れ込みを入れる。
王子「権力の前じゃ、キミみたいなたかが平民の人間なんかさぁ!!」
そして力任せに引き裂き、乱暴に服を剥ぎ取り、私の上半は裸を露にした。
232 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:54:44.00 ID:c0PfHZgf0
ちょマジでやめて
233 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 10:55:52.19 ID:MQWE04010 ?2BP(0)
やめろおいおおおおおおやめてくれ・・・・・