Part5
147:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:49:48.46 ID:
IY97jrkv0
男「誰か、いるのか……」
人が歩いているような、そんな。
ギシ。
男「……だれ、か……?」
暗闇から、ゆっくりと光の当たるところに這い出てきたものはやはり人影。
男「……なっ」
しかしながらぽうと浮かび上がったそれを、俺はしらなかった。
ぞくっと背筋に粟が立つ。
ギシ。
腕を力なくおとし、左右にふらふら、髪はぼさぼさ。
顔はうつむきかけで、そこには目と鼻にだけ穴の開いた仮面をつけていた。
仮面「――」
その身なりからおそらく男。
まるで亡霊のように、そこに生気はない。
寒気に、俺は強く身震いをした。
149:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:58:44.93 ID:
IY97jrkv0
?「バカやろう、そっちはいくな」
そのとき強い力で肩をつかまれた。
?「そいつはだめだ」
かなしばりにあいかけていた俺は、後ろに転倒しかける。
?「こっちに呼ぶなこいつを。おい、メイドいるか、メイド」
パンパンと乱暴に手をたたく、また腹まで揺るがすような大声で叫ぶ。
メイド「はいただいまー!」
現れたメイドは一人。
?「こいつの相手。はやく」
メイド「あらまあこんなほうまででてきちゃっていけませんねえ」
?「じゃあ任せた。お前はいくぞ、あっちだ」
男「え? え……?」
俺はわけの分からないまま連行されるのであった。
151:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:08:12.32 ID:
IY97jrkv0
腕をがっしりとつかまれて、ぐいぐいと引っ張られていく。
男「わ、ちょ、あるけます、あるけます!」
俺がそういうと、怪訝そうな目を向けてから手を解いた。
男「あの、貴方は」
カタギ「カタギさん」
男「は?」
カタギ「一度で覚えろガキじゃねえんだ」
男「あ、す、すいません、カタギさん」
しばらくあるいて、中央広場。
カタギ「ケガねえか」
男「い、いえ」
カタギ「よし。そんだけ歩けるなら、そのまま帰れるな」
男「は、はい……」
152:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:15:16.15 ID:
IY97jrkv0
そのガタイ、その風貌。
どうみても筋者というか、まず小指が無い。
いやあの状況ではとても心強かったわけではあるのだが。
男「あ、あの、メイドさんは……!」
カタギ「相手をさせた、それだけだ」
男「ち、ちょっとまってくださいよ! あの変なのの!? 相手ってなんですか」
カタギ「ああまた一からか面倒だ」
カタギ「いいかよく聞け。あいつは理性を売った」
カタギ「だから本能だけで動く。もう人じゃねえ」
カタギ「逆に言えば本能を満たさせればなんとでもなる」
カタギ「お前もみたがあいつは男だ。人間の」
カタギ「女を与えて果たさせりゃある程度落ち着くし誘導もできる」
カタギ「それと。ここのメイドどもも人じゃねえ、人形だ」
カタギ「感情移入だけは絶対するな」
男「え……、あの」
160:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:40:58.19 ID:
IY97jrkv0
男「言っている意味が、よく……」
支配人「はい、そのあたりで」
カタギ「ん、お前……」
支配人「帰りましょう、お客さん。今日は疲れたでしょう」
支配人「うちの子たちがご迷惑おかけしたようで」
支配人「それとカタギさん。貴方は唐突に1か0かの話をしだす。だめですよ」
支配人「まあ、後はお任せください」
カタギさんは軽く支配人を目で威圧した後、背を向けた。
支配人「あなたの帰路は私が保証しましょう」
支配人「それと少し補足を、しないといけませんね」
161:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:48:57.32 ID:
IY97jrkv0
支配人「まずうちの子たち、メイドさんたちのことですが」
支配人「彼は人形と言いましたが、それはある意味で間違っていない」
支配人「しかしながら彼女達にはまぎれもなく、それぞれの感情がある」
支配人「貴方も知っていますね?」
支配人「ですからその点、ご注意を」
支配人「また彼についてですが、悪気があるわけではないのです」
支配人「ただとでも、不器用なだけで」
男「……すいません、どうも、下手を踏んだようだ」
支配人「なに、女性に対して意地を張るのは悪くありません」
支配人「その結果なら、ね」
支配人は、くすくすとわらったのであった。
162:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:52:59.43 ID:
IY97jrkv0
7
「あははあ、なんだか今日は優れず……」
「すいません、ご飯つくってあげらなくて」
「ああいえ、そんな」
「あ……」
「おいしいです」
「ふーふーしてください」
「あは、やったあ」
「これであしたにはすぐ回復しています」
「ほんとですよう」
163:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 18:57:35.10 ID:
IY97jrkv0
翌朝
男「いてて……」
まだ頭に鈍痛が残っているなか、起き上がる。
メイド「あーおきたー!」
メイド「おきたー!」
男「ああこりゃ、どうも」
メイド「元気ないないだとききました」
メイド「仕方が無いので癒しにきました」
男「えっ」
メイド「いいえ本当は昨日私たちがやりすぎゃったせいだったので」
メイド「ごめんなさいのご奉仕に」
男「いや、そんな」
メイド「「「なんでもしますから!! いってください!!!」」」
166:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 19:05:14.83 ID:
IY97jrkv0
男「なんでもするの? ほんとに」
メイド「え、えっと、はい」
メイド「震えるねこちゃんですお慈悲を、にゃんにゃん」
可愛い。
男「あーそれじゃあマッサージとか」
メイド「マッサージですか!」
メイド「なんと!」
男「どうだ?」
メイド「ベリーグッドです!」
メイド「健全なのに肌と肌のお付き合い!」
男「あほなこといわない。そいではたのむよ」
168:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 19:10:21.92 ID:
IY97jrkv0
メイド「さあ寝転んでください」
メイド「馬乗られ好きな感じで?」
男「いやそういうんじゃないが」
俺はうつぶせに横たわると、
一人のメイドは背に、もう一人は太もも当りで馬乗りに。
メイド「はあ尻に敷かれて快感なんて、罪な人」
メイド「お嬢さんもびっくり」
いやたしかにこのやわい感触は何物にも変えがたくはあるが。
男「え?」
ぐいーっと肩と腰の辺りを同時にもまれていく。
メイド「じつはお嬢さんからご招待ありまして」
メイド「今度はお昼ご飯をどうですか、だそうでーす」
男「そ、そお、か」
なんか強くなったような。
というか押すたびに反動で動くお尻の感触が。うむ。良い。
170:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 19:23:21.92 ID:
IY97jrkv0
そうして体がすっきりとほぐされた後、俺はお嬢さんと共に昼食をとった。
お嬢さん「昨日は、無事に?」
男「お、おう、帰れたぞ」
お嬢さん「本当ですか……?」
男「ぶ、ぶじに。うん。本当に」
お嬢さん「……、くす」
お嬢さん「まあ、貴方がそういうなら」
男「……おう」
男を立ててくれたのだろうな、と思った。
173:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 19:35:18.92 ID:
IY97jrkv0
昼食を終えて、俺は少し散策をすることにした。
昨日の夜はなんやかんやとあって、
あの方――おそらくカタギさんのところへはいけていない。
だから今日の夜いくこととなった。
それまでの間、少し時間をつぶす意味でも。
男「ん……?」
その時ちょうど前方に、見覚えのある。
男「あ」
それは一人のメイドさんだった。
メイドさんは何人も居て、誰が誰だか分からないが、
しかしながら彼女だけは覚えていた。
茶髪の、ロング。
初日に案内をしてくれた、あのメイドさんだった。
303:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:56:22.34 ID:
RfWIzW8F0
男「ちょっとそこのメイドさん」
メイド「はいはいー?」
男「ああやっぱり君だな。この前はありがとう」
メイド「このまえ、ですか?」
男「ほら、この前。中庭バルコニーに案内してくれたろ」
メイド「ああ、私のお気に入りの」
男「そうそう」
メイド「……。……案内?」
男「え。うん」
メイド「いえ、していないと、思いますが……?」
男「してない……?」
メイド「……はい」
309:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:06:35.34 ID:
RfWIzW8F0
そのあと何度か聞いてはみたが、芳しい答えはなく。
男(覚えて……いない……?)
いや間違いなく彼女なのだ。
男(これは……)
ふと昨日の話に出てきた言葉がよみがえる。
男(……人形、だから?)
よく、分からない。
ただそこで終わってしまうのはシャクであった。
というのも昨夜の件で、
この旅館が少々歪であるのは理解している。
分かっていて振り回されるだけというのは、いやだった。
男「ふむ……」
ふと、思いついた。
微々たることかもしれないが、出来そうなことはないでもない。
俺はその日夜まで少しの間、その下準備にいそしんだのであった。
311:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:18:27.18 ID:
RfWIzW8F0
夜
冬の間の前で四人。
お嬢さん「ここですよ」
あの方、というのに会いにいくためである。
芸者「わー、扉空ける前から寒そう」
といいながら、観音扉を押し開ける。
男「わ」
突然の光に、一瞬目がくらむ。
男(雪の反射か……)
やはり一面雪化粧。
月の光に照らされてキラキラと。
枯木と小川がなければ地形も把握できないような、そんな真っ白な。
冬の世界。
312:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:24:36.39 ID:
RfWIzW8F0
他の間と同じく回廊を進み、冬の間の屋敷へ。
その一室。
芸者「私たちがきたよー」
といって押し開けると、
カタギ「……」
その部屋の片隅、小さな机の前に
本を片手にした男ーーカタギさんが、座っていた。
カタギ「断りくらいいれたらどうだ」
芸者「メイドさん経由でいかなかった?」
カタギ「その前に、そもそも良いか悪いかの確認をしろというんだ」
カタギ「伝えられたのは、『今日くるらしいですよ』なんて決定事項だけだった」
芸者「だって聞いたらダメっていうじゃないのー」
カタギ「……、……ふん」
313:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:29:42.01 ID:
RfWIzW8F0
カタギさんはそうは言いつつ、
座布団を五枚ほどひいては真ん中に机を持ってきてくれた。
芸者「いっぱいお酒はもってきたから」
カタギ「どうせお前が先につぶれる」
芸者「そんなこたあないよ、今日はかなりイケるんだから」
カタギ「飲み比べで負けた覚えが無いがね」
芸者「やってみなきゃ。ねー童ちゃん」
と芸者さんは童ちゃんの頭をなでるが、
童ちゃんは特に何も言わずされるがまま。
ここでお嬢さんが俺に耳打ちをしてきた。
お嬢さん「芸者さんと、カタギさん、あれで仲いいんですよ」
男「……なるほど、そういう」
315:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:44:27.57 ID:
RfWIzW8F0
そうしてはじまったのが、酒盛りである。
といってももっぱらアルコールを煽っているのは、
カタギさんと芸者さんであったが。
童ちゃんはちょこんと、芸者さんのひざの上に座っている。
俺とお嬢さんは二人とのやりとりを見つつ、
なんだかのんびりと。
何か特別な会話があるわけでもなく、
たわいなく飲み交わしているだけというのに。
それはとてもしっくりときた。
芸者「ね、どう、私ちょっときょう、つよいんじゃなあい」
カタギ「いつもとおなじだ」
芸者「そーんなことないよお」
お嬢さん「飲みすぎでは」
芸者さんはうつろうつろのとろけた目。
その目はとても、色香のある。
部屋は暖房がきいているのか、
とても暖かかった。
318:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 04:55:21.36 ID:
RfWIzW8F0
そのたけなわも過ぎた後。
カタギ「ったく、結局こうなる」
芸者さんは酔いつぶれ、
童ちゃんはいつのまにか眠ってしまっていた。
カタギさんはすぐに布団をしくと、
手際よく二人を寝かせた。
言いつつ俺も、そしてお嬢さんも、うつらうつら。
お嬢さんが肩に、よりかかっていた。
カタギ「おい、お前ら」
男「ん……、あ、あ、すいません、まかせきりで」
カタギ「お前男ならもうちょっとしゃきっとしておけ」
カタギ「おいお嬢、起きてるか。布団しいてあるから、そこまで自分でいけるか」
お嬢さん「ん……あ、す、すいません」
お嬢さんはふらふらと、布団へ倒れた。
いつもの折り目正しい姿とはうってかわって気の抜けた動き。
それはとても、かわいらしく思えた。
321:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 05:02:55.91 ID:
RfWIzW8F0
女三人、すっかりすやすやと。
カタギ「人の部屋というのを分かっているのかこいつらは……」
男「いつも、こんなかんじなんですか」
カタギ「……」
カタギさんは一瞬俺の目を見て、変な間を空けてから。
カタギ「そうだ」
なんだろう、今の。
カタギ「……女の寝てる部屋にいるのは、よくねえな」
322:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 05:13:49.18 ID:
RfWIzW8F0
もう、と湯煙。
酔い覚ましがてらと来たのが、冬の間の露天風呂。
男「これは風情のある」
白い世界を見下ろす位置にある、岩でできたその湯船。
俺とカタギさんはふたりで、そこにつかっていた。
カタギ「今日は雪が降っていないから、よく見える」
と、カタギさんは上を見上げて。
男「ほお……」
満天の星空、である。
露天風呂で見上げる冬の夜空ほど、情趣に富んだものはそうそうない。
カタギさんはどこからもってきたのか、
木舟を浮かせて徳利におちょこ。
カタギ「飲むか」
男「いただきます」