Part4
101:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 14:52:41.91 ID:
IY97jrkv0
集まりやすいだろうということで、吹き抜けの中央広場
その三階にある八畳ほどの部屋。
この部屋は少々吹き抜け側に出っ張っているので目立つ。
男「こんばんは」
お嬢さん「あ、こんばんは」
芸者「やっほー。きたきたこれでそろったかな」
童「……」
男「あれ、もう一人いらっしゃるのでは」
芸者「いやそれがねー、あの人誘ったんだけど、やっぱりこなくてー」
お嬢さん「あはは……、まあ、あの人はこういうお誘いにはあまり」
芸者「付き合い悪いんだからねー、もう」
芸者「そうだ明日あたり皆で突っ込んでやろーか!」
芸者「こっちからいくと結構突っぱねないし」
お嬢さん「そうですねえ……、たまには」
男(いったいどんな人なんだろーか……)
103:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:01:21.51 ID:
IY97jrkv0
やはり複数人で食事をする、というのは素晴らしい。
俺はあまりこういう経験が無かった。
男「あ、そういえば。芸者さんとかは、ここで働いてるんです?」
芸者さんはいつの間にかアルコールに手をつけていた。
そのスピードが非常に速く感じられたので、心配しいしい話題を振ってみる。
芸者「おわ、それ聞いちゃう?」
男「え、なんでですか」
芸者「あははー……、まあいっか。隠してたわけじゃないし」
芸者「いや実は私もねー、おにいさんやお嬢さんと一緒なのよ」
男「え!? と、ということは、つまり」
芸者「そうそう、現実を逃避して、ここにきたわけー」
芸者「童ちゃんもだよねー」
童「こく」
105:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:13:47.76 ID:
IY97jrkv0
男「はあ……、そうでしたか。そっか、なるほど」
男「この館の支配人とメイドさん以外は、つまりそういうことなんです?」
お嬢さん「私たちの知る限りでは、そうですね」
男「なるほど」
男「では、あと一人というのも」
芸者「そうだよー。あと一人も私たちとおんなじー」
男「そうでしたか」
俄然、あうことが楽しみになった。
男「明日、行くんですか?」
芸者「んー、そうだねえ、行ってみようか?」
お嬢さん「くす、そうですね」
106:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:23:27.28 ID:
IY97jrkv0
8
「あ。お、おはようございます……」
「昨日は早く寝てしまいましたが、大丈夫でしたか……?」
「え、まだ寝る!? もう結構な時間ですよ!?」
「あ、う……お、おこってます……?」
「あ、あの、すいません、私……」
「あう」
「え、と……」
「……!!」
「あ、あの、あ、あの」
「ありがとうございます……」
108:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:28:17.15 ID:
IY97jrkv0
翌朝、十時ごろのことである。
今日も朝食はお嬢さんととったのだが、そのあと。
とても重大なことにきづいてしまった。
男「まずい……、風呂に、風呂にはいって……なかった……!!!」
いやなにがきっかけで思い出したというではなく。
というか、四日目にしてやっと気付いたのが遅すぎただけ。
男「まずい、変なにおいしてなかったか……!?」
四日間そもそも正常でなかったゆえ仕方なかったにしろ、
さすがに自室でひとりもんどりうった。
男「あれ……? においが、あんまり……」
男「自分のにおいだからなれたのか? いやしかし」
男「メイドさん! メイドさんはおらんかね!」
109:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:30:48.43 ID:
IY97jrkv0
メイド「はい!! メイドさんここに!!」
メイド「おっとここにも!!!」
メイド「よばれてとびでて!!!」
メイド「ででーん!!!!」
どこから沸いて出たのか一声かけただけでこの集まりようである。
男「す、すまない、たいへんもうしわけないのだが」
男「俺、へんなにおいしてないか……?」
メイド「へんなにおい?」
メイド「してる?」
メイド「雄のにおいすらしない」
メイド「さかってない」
メイド「結論は?」
メイド「「「しない!!!」」」
男「うーん……、あてにしていいのかこれ」
112:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 15:37:00.40 ID:
IY97jrkv0
男「ま、まあいいか……。メイドさん、俺に浴場をおしえてほしい」
メイド「えっ欲情!」
男「ちがう風呂場だ。湯殿だ。浴室だ。とにかく体を洗いたいんだ」
メイド「ははあ、なるほど!」
メイド「旅館なめてますね!」
メイド「旅館といえばお風呂!」
メイド「お風呂といえば旅館!」
メイド「え、お風呂といったらトルコじゃない?」
メイド「あ、たしかに」
男「全然たしかじゃない」
男「それはおいといて、ぜひともその旅館自慢のお風呂を教えて欲しい」
メイド「「「らじゃー!!!!」」」
117:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:07:52.24 ID:
IY97jrkv0
と言ってつれてこられたのは
男「ああ、秋の間か」
メイド「夜なら夏の間か冬の間なんですけどー」
メイド「昼前のこの時間だと、桜か紅葉かなーって」
メイド「話し合いの結果、紅葉を推してみる、ということに!」
男「なるほど」
観音開きの扉が開かれて。
男「やはり圧巻な」
さっと吹いた乾いた風に、ぶるっと身震いするのも一瞬。
朱色の葉群れがさあっと眼前を通り過ぎて現れたのは、遠く色づく紅の偉観。
見まごうことなく、それは秋。
男「いや春夏と見てきたが、秋もまた素晴らしいなこれは……」
118:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:16:29.95 ID:
IY97jrkv0
紅葉で敷き詰められた回廊を抜け、秋の間の屋敷へ。
お嬢さん「どたどたと……何事です?」
男「あ」
お嬢さん「……え」
襖の間から顔を出したお嬢さんと、目が合った。
お嬢さん「わあっ」
お嬢さんは俺を確認するやいなや、その見目好いかんばせをひっこめた。
お嬢さん「わ、わ、すいません、はしたないところをっ」
男「い、いや、べつにいつもどおりの……」
メイド「バカですねー、お嬢さんのような奥ゆかしい女性は、ちゃんと人前に出る時は準備してるんですよ!」
メイド「いつもどおりじゃあないんです!」
男「あ、ああ、そうなのか……、すまない」
先に伝えておいてくれと思わずにはいられなかった。
120:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:21:39.33 ID:
IY97jrkv0
男「と、というかいいのか、ここは彼女の場所だろ」
メイド「お風呂は皆自由につかってますよ!」
メイド「私有地はお部屋のみでございます!」
メイド「実は春の間のお風呂も普通に使われていたり!」
男「気付かなかった……っ」
メイド「まあそれぞれの季節風呂があるというのはうちのウリなんで!」
メイド「超ファンタジックですけれど!」
男「本当だよ」
俺は適当にメイドさんたちをあしらいつつ、
男「す、すまなかった。……風呂を少し、お借りしても良いだろうか」
お嬢さん「え、ええ、ももちろん、こほん。……ぜひ使ってくださいな」
挙動不審だったお嬢さんは、咳払い一つで冷静を取り戻した。
男「では、お言葉に甘えまして……」
124:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:30:14.65 ID:
IY97jrkv0
男「お、お前らな……」
そんなわけで落葉舞う情緒豊かな露天風呂に入ったわけだが。
メイド「いやー、しかしお風呂に誘われるなんて」
メイド「ねー、ほんとびっくり」
メイド「こんな一気にまとめてね!」
メイド「いやしかしこういうところが男らしさというものでは!」
メイド「どーかなー!」
男「だれも誘ってなどいないだろう……!」
メイド「ええ今更そんなこといってー」
メイド「女に恥かかせようってんですか!!」
メイド「ほらほらどうですどうです、結構いい体じゃないですか?」
一応体にバスタオルは任せているのだが、
にしても体のラインがくっきりと浮き出るのはどうしようもなく。
なんだかあからさまに見せようとしているのも数名。
男「ぐう……」
こう、いろいろと、ね。大変。
129:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:46:14.16 ID:
IY97jrkv0
俺は体を湯で何度か流してから、すぐに風呂へと逃げ込んだ。
メイド「はーんにげちゃったー」
メイド「お背中洗ってあげようと思いましたのにー」
男「お前らこれ……、サボりにはならんのか……!」
メイド「接待は仕事ですが!」
メイド「間違いなく!」
メイド「異議なし!」
多勢に無勢。
俺がなんと言おうと意味はなく。
と、風呂場の縁、俺の目線の先に一人のメイド。
縁に腰掛け、体を曲げて、これみよがしに柳腰の曲線美を見せ付ける。
その体はそれだけで男を脅迫するような妖艶さ。
振り向き後ろには待ち構えていましたと、また一人。
そもそもここのメイドたちはそれぞれがそれぞれおそろしい美女ぞろい。
ちょうど少女と女の中間のような年頃が多くそれがまたなんとも。
もちろん容姿がというだけでなく、体付き一つとっても文句のつけようはない。
それにもかかわらず、この媚態。
俺とて我慢にも限界があるとは、おもわないかね。
132:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 16:51:33.65 ID:
IY97jrkv0
メイド「うーん、じらすうー」
メイド「ね、ね、いいの、きて?」
男「く、しかし……っ」
メイド「ほおらあ、もーっ」
くいくいと内股をくねらせるそれがまたなんと艶美な。
そのときであった。
お嬢さん「あの……、大丈夫ですか」
男「はっ」
その肉付きの良い雪肌の太ももに、いまにもすがりつきかけていたのを必死にとどめる。
男「いやっ、なにも!」
136:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:03:49.11 ID:
IY97jrkv0
メイド「くっ!」
メイド「あとすこしだったのに……!」
メイド「なしくずせたのに!!」
お嬢さん「……貴方たちはまた人がいやがっているというに」
お嬢さん「やりすぎですよ。ほら、今帰れば言いつけませんから」
メイド「「「ぐううう」」」
メイドさんたちは無念そうな声をもらしながら、しぶしぶと退散していった。
たたた、とお嬢さんがかけよってくる。
お嬢さん「大丈夫ですか」
男「ぐう、う」
頭が、くらくらと。
お嬢さん「ああ、これは……。んん、も、もうでてください」
細い腕が、俺を引っ張っているような気がする。
朦朧とする意識の中での、見間違いだったろうか。
お嬢さんはバスタオルを、まいていたような。
138:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:09:02.85 ID:
IY97jrkv0
男「む……」
目が覚めるとそこは四畳半の和室。
男「俺の部屋か……? あれ……」
男「いや、なんか、あれ……」
おぼろげな視界に、人影が?
頭の感触は、いったい。
男「あ……」
男「あ」
ピントがあって、ようやっと理解する。
俺を覗き込んでいるその人影は、お嬢さん。
ついでに頭に接触しているものも把握できてしまった。
お嬢さん「お目覚めですか」
男「こりゃ、どうも……」
まだ頭はくらくらするが、
ぱたぱたと仰がれる扇子のおかげで幾分かは楽なよう。
つまりこれは、膝枕。
140:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:15:56.11 ID:
IY97jrkv0
男「面目、ない……」
メイドの誘惑にたぶらかされて、これである。
お嬢さん「ほんとですよ、まったく」
男「……」
開く口も無い。
ぱたぱたぱた。
お嬢さん「事情は概ね、聞きました」
お嬢さん「あの方たちに押し切られてああなったと」
男「ぞろぞろとここまで全員が付いてきた時点で、気付くべきだった……」
お嬢さん「とはいえ案内が一人でも、似たようなことにはなっていたでしょうに」
しばし考えて、反論はできない。
結局それでも風呂場までは入って来たに違いない。
お嬢さん「まあ、今回のことは仕方ないとします。次からは、ないように」
ぱたぱたぱた。
男「はい……」
141:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:20:12.25 ID:
IY97jrkv0
男「も、もう、大丈夫だ」
お嬢さん「顔色よろしくありませんが……」
男「いや、うん、大丈夫」
俺が悪いというのに、このまま仰いでもらい続けるわけにもいかなかった。
お嬢さん「お部屋まで付き添いましょうか」
男「いやいや、本当、大丈夫だから」
男「安心してくれ。部屋をでてすぐメイドさん捕まえて、そのままつれてってもらうよ」
お嬢さん「そのままさっきみたいにならないでくださいね」
男「いやきっと、さっきのは彼女達もテンションあがっちゃってただけだし……」
一対一だと意外と穏やかではあるのは、一日目のメイドさんが証明している。
男「それじゃ」
お嬢さん「……お気をつけて」
142:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:24:35.51 ID:
IY97jrkv0
部屋をでたところで。
男「ああ、これ結構引きずってるな……」
額に手を当てて、立ち止まる。
頭がまともに働いていないのをはっきりと理解した。
男「はやく部屋に、帰ろう」
それだけが頭にあった。
だから、ふらふらと。
俺はメイドさんを呼ぶことをわすれ、
足の向くままにあるきだしてしまったのだった。
男「ええ、と、あっち、だったかな」
144:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 17:37:27.23 ID:
IY97jrkv0
意識は覚醒すら半ばのようなまま、おぼつかない足取りを一歩、また一歩。
ふらりふらりと進む先は、どこか明かりの届き難い場所へ。
男「ええと……」
見たことのない、怪しげな空気のただよう廊下に入っているような気はしないでもなかった。
しかしいつのまにか地に伏した判断力は、鎌首をもたげる気配はなく。
ふらり、ふらりと。
だから、ふとした拍子にたどり着いたT字路で、
おんもらと暗闇の立ち込める廊下を見ても、
さほど危機感というものは感じなかった。
ただ明かりのついた道に進むだけ、というところまでで。
ギシ。
すくなくとも、明かりのついた場所に人の気配はなかったのである。
ギシ。
音がしているのは、聞こえていた。
男「なん、だ」
だから俺は気になって、いや普段ならば気になってもさっさと逃げるのに、
判断力のない俺はこのときばかりはゆっくりと、T字路の、暗闇の方へ、目を向ける。