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お嬢さん「現実逃避、しませんか?」
Part2


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:38:08.13 ID:IY97jrkv0
男「気に入ったよ」
メイド「ふふ、気が合いますね。ここ、私のイチオシなんで」
メイド「サボるときは良く使うんですよ」
男「サボるのはどうなんだ」
メイド「まあなんだかんだ暇ですしー」
男「ふむ……、しかしサボるとお仕置きというのがあるのでは」
メイド「あーあれは……あれは……」
男「お?」
メイド「あれは……いやだあ……」
メイドさん、きゅうにしゅんとうなだれる。
いったい何があった。

31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:58:41.77 ID:IY97jrkv0
メイド「それじゃあ私、戻りますんでー」
メイド「またなにかあったら呼んでくださいー」
男「わかった。……つれてきてくれて、ありがとうな」
メイド「いえいえこれしき」
と多少不満なのか半分棒読みながら、
そう言ってメイドさんが頭を下げたのをみて、
俺はふう、と呼吸を整える。
男(さて……、少し休憩をしてからしっかりと――)
男「!?」
なにか、なにか額に。柔らかい感触が!
メイド「うふふっ」
男「な、な、な、何を!!!」
額に口付けを食らった!?
メイド「お預けくらっちゃったんでー、これくらい許してくださいよう。えへ」
男「こ、これ、これくらいってお前なっ!」
とあわてる俺をよそに、
メイドさんは「またよろしくおねがいしますねー!」と言って走り去ったのであった。

32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:11:07.95 ID:IY97jrkv0
男「うーむ……」
まだ額にあの感触がのこっているな、とさすりさすり。
男「まったく」
あまりこういうのは、得意ではない性分であった。
恥ずかしいというか。
男「ま、まあ、忘れよう」
男「それより落ち着かなきゃ」
そうしてやっと深く息を付いて、何度か深呼吸。
ようやっと落ち着きを取り戻す。
男「えーと……」
男「ああそうだ。これは本当に、夢なのか」
正直なところ、そうとは思えない。
が、だからといって何が分かるではない。
男「うーむ……」

34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:15:10.35 ID:IY97jrkv0
男「少し……、寝よう……」
落ち着いたら、どっと疲れが押し寄せてきた。
たった二時間程度の時間ではあったが、
あまりに非常識的な情報が多すぎる。
男(頭が……、疲れているな)
常識で考えようとして、何か色々疲れてしまっているようで。
男(ああ、いい香りだ)
ここはちょうど良い具合に植物の香りが漂ってきて、
リラックスをするにはもってこいの場所であった。
男(一度寝れば……、きっと)
なんでもかんでも、
きっと解決しているはずだ。

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:25:17.67 ID:IY97jrkv0
10
「ど、どうも、先日は……」
「あ、い、いえ、違うんです、問題があったとかでなく」
「ではなく、そ、その突然なのですが……!」
「ここに私を置いてくださいませんか……っ?」
「あ、ああ変な人ではないですよ!」
「あすいません、落ち着きます……、一度お会いしてますもんね」
「その、あの、色々と、ありまして……」
「え!?」
「い、いいんですか!?」
「あ、で、でも、大丈夫ですか? 本当に?」
「そ、そうですね、私から言い出して……」
「……」
「あ、ありがとうございます!!」

38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:29:09.63 ID:IY97jrkv0
男「……んぁ……」
男「はっ!」
眼がさめる。
男「あ……」
男「あー……」
そこは寝たときと変わりなく、室内バルコニーのイスの上。
男「なんて……、こった」
正直寝ればさめると、思っていた。
結構心底から。
だってそうだろう。
夢というのは、夢の中で寝てさめてまでも続くものではないはずなのだ。
男「くそ……」
その落胆は、思ったよりも大きかった。

39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:35:12.87 ID:IY97jrkv0
窓が近くにあるわけではなかったが――たんに閉切られただけかもしれないが――
明かりがともっているところを見ると夜だと分かった。
男「深夜……か……?」
昼間のように少々浮ついたような空気の無いところをからして、おそらく。
人の気配もなかった。
男「どうしよう……」
一瞬考えてから、
男「あ、部屋に戻ればいいのか」
と気付いてすぐ、
男「道がわからない……!!」
俺は頭を抱えたのであった。

40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:39:03.05 ID:IY97jrkv0
男「め、めいどさんよーい……」
明かりが行き届いているとはいえない廊下を、
俺はゆっくりと歩き進める。
男(大声なんて出せないしな……)
男「めいどさーん……、いませんかー……」
小さな声で呼んでみるが、やはりおらず。
男「支配人さんでもいいんですがー……」
おらず。
男「フロントに戻ろうにも……」
男「何も考えずにメイドさんについてきちゃったからそれすらも分からない……」
男「俺のバカ……!」
正直ちょっと、こころぼそく。

41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:49:37.56 ID:IY97jrkv0
その時突然目の前が真っ暗になった。
?「だーれだ!」
男「!?」
びくぅっと飛び上がる。
?「だーれだ?」
もう一度聞かれて、隠したものが手の平だと気付いた。
人がいたことに、心底ほっとした。
男「メイドさんか」
?「ぶっぶー」
おや、違うようで。
男「それだと分からないな」
?「じゃあふりむいて」

42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 09:58:05.51 ID:IY97jrkv0
女性の手の平の感触であったので、支配人ではなく。
となるとお嬢さんかなと――声が違うようだったが――思いつつふりむくと。
男「……」
?「……」
男「だ……、だーれ、だ……?」
本当に誰か分からなかった。
?「ぷっ……!」
女性であった。間違いなく。
男「む……」
ただメイドさんの服は着ておらず、少々派手目な和服すがた。
胸が大きなことが一目で分かった。
男(え、襟が、はだけかけてるが……)
聞き返してしまった俺が面白かったのか、
彼女はしばらくくすくすと笑った。

43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:02:14.68 ID:IY97jrkv0
?「初めてだもんねわからないよね、ごめんごめん」
男「い、いえ……。えっと」
芸者「ああ、私ね。芸者さん、って呼ばれてる」
男「芸者さんですか」
なるほど旅館だし、芸者もいますか。
芸者「ね、おにいさん。迷子でしょう」
男「分かりますか」
芸者「そりゃあ後姿がびくびくしてたもの!」
芸者「きっと誰でも分かるよねー」
男「お恥ずかしい限りで」
芸者「あはは。……ね、なんでさっきから目そらし気味?」
男「いやあ……」
ちらっちら見える胸元が気になって、とは言えず。

44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:09:39.79 ID:IY97jrkv0
芸者さんに手を引かれて、歩き出す。
芸者「おにいさんの部屋って、春の間だっけー?」
男「え? あ、た、たぶん?」
男「見た目は春でしたね」
芸者「じゃあそうだー。ここからだとちょっと遠いね」
男「ど、のくらいですかね」
芸者「んー、といっても15分かからないくらい?」
芸者「なれない人が歩いたら、遠いって感じ」
男「な、なるほど」
男(手を握られてるのが気になって上手くしゃべれん……!)

46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:13:36.77 ID:IY97jrkv0
芸者「夜一人だとここ怖いよねー」
芸者「一応夜のみまわりメイドさんズもいるんだけどね」
男「そそ、そうなんですか」
芸者「……」
男「……?」
芸者「そうか、おにいさんはこの胸が気になっている!」
男「は!?」
いや確かに気になるけども。
実はそれ以前の話でございまして。
芸者「あははー、男の子だなあ」
芸者「触る? 触っちゃう?」
男「い、いいです、いいです近づけないでください!」

47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:24:09.77 ID:IY97jrkv0
そんなふうに弄ばれつつ、
春の間――というらしい――の前で芸者さんとは別れた。
男「ここの女性はみんなああなのか……」
ぼやいて、観音開きの扉を開き、回廊へ。
そのまま部屋へと俺は戻る。
男「ふう……、やっと落ち着いた」
今気付いたが、部屋にも時計があった。
時刻は二時を少し回っている。
男「結構おそいな」
男「まあ、これで心置きなく寝れる」
実は座りながら寝ていたので、少々腰が痛かった。
男「あれ。布団敷いてある……」
男「あ、そうか、旅館だからメイドさんのだれかが」
男「助かる……」
俺はそうして、その日を終えたのだった。

48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:30:30.75 ID:IY97jrkv0
翌朝。
さすがに昨日は寝てばかりだったので、
今日の朝は早い。
男「んー、よし」
一応期待はしないでもなかったが、
やっぱり事態はかわっておらず。
男「なに悩んでも仕方ない」
男「大丈夫。今日からは正常運転だ」
昨日の今日ではあるが、
今が非常識なことは理解したつもりだ。
男「腹を据えればなんとかなる」
男「現実逃避なぞさっさとやめて、家に帰ろう」

49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:46:31.74 ID:IY97jrkv0
しばらく思考してみたが、考えはまとまらなかった。
メイド「おはようございますー!」
メイド「おやおきておりますね!」
男「おはよ。もう朝食の時間かなにかか……?」
メイド「いえまだですけど、それにつきまして」
メイド「実は貴方にご招待がありまして!」
メイド「招待に答えるならラウンジで!」
メイド「ここで食べるならそれもOK!」
メイド「どうします!?」
男「招待……? ふむ」
俺を誰が招待するというのか、うーむ。
男「いやわかった、ラウンジってとこに、連れてってくれ」

50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 10:55:21.28 ID:IY97jrkv0
そうしてつれられてきたのは、古民家風のラウンジ。
檜でつくられているらしい。いい匂いだ。
男「ああ、これはどうも」
お嬢さん「あ! よかった、来てくださいましたか」
男「誰かと思ったら、昨日のお嬢さんか」
お嬢さん「はい、私です。ごめんなさい、突然」
お嬢さん「あどうぞ腰掛けてください」
男「ありがとう」
男「一人で食べるよりは二人のほうがいいから」
お嬢さん「そうですか」
お嬢さんはなんだか嬉しそうである。

51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 11:06:15.95 ID:IY97jrkv0
お嬢さん「その……」
お嬢さん「……色々と気になることがあると、思うのですが」
男「いいよ。食事が終わってからにしよう」
お嬢さん「すいません」
男「謝らなくても。何か速いうちに伝えておくことでも?」
お嬢さん「……いえ、そうでは。では食事が終わってからで」
男「うむ」
朝食の間交わした口数は少なかったが、
そう悪い空気でもなかったのでよしとする。
ちらと食事をする彼女の横顔をみると、
まだあどけなさののこる、幼い娘であることに気が付いたのだった。

53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 11:20:22.46 ID:IY97jrkv0
食事が終わった後、俺はころあいを見計らって聞いてみた。
男「ここは、いったいなんなんだ?」
お嬢さん「ここは、現実逃避をするための場所です」
お嬢さん「そのための、旅館です」
男「それは分かってる。夢ではないのか?」
お嬢さん「それは私には、なんとも……」
お嬢さん「い、いえ、言えないとかではなく、本当にわからないのです」
男「ふうむ、そうか……」
男「では君は? 君はこの館の関係者ではないのか」
お嬢さん「いえ、それは違います。私は外の人です」
お嬢さん「……私も貴方と同じです」
お嬢さん「現実逃避をするために、ここにやってきました」

56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 11:35:57.97 ID:IY97jrkv0
俺と……、同じ?
男「なら君が俺をここに連れてきた人、ではないのか」
お嬢さん「はい、私ではありません」
お嬢さん「私は貴方に、現実逃避をするのか否か、確認しただけで」
男「……何故君が、確認を」
お嬢さん「二つ理由があります」
お嬢さん「一つは、確認の理由ですが」
お嬢さん「ここに来た人は、現実逃避をするくらいです」
お嬢さん「よほどの思い悩むことがおありです」
お嬢さん「ですから、ここならばその現実から逃避できるのだと」
お嬢さん「お伝えしたくて」

59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 11:38:07.24 ID:IY97jrkv0
お嬢さん「もう一つは、私が確認をした理由ですが」
お嬢さん「これは貴方をあの部屋に運び込んだのが、私だったからです」
男「運び込んだ……?」
お嬢さん「はい。正確には、メイドさんのお力も借りましたが」
お嬢さん「貴方はあの日、既に館内部で倒れておりました」
お嬢さん「既に、連れられてきたあとでした」
お嬢さん「だから私は貴方を部屋へ運び込み」
お嬢さん「これは身勝手なのですが、気になって、私は目の覚めるまで近くにおりました」
お嬢さん「そうして目が覚めたとき、先の理由で、聞いたのです」
お嬢さん「現実逃避、しませんか。と」