Part17
173:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:29:00.67 ID:
F106sh6go
二年がたち、三年がたち、やっと五年がたった。
先の見えない、とても長い時間だった。
楽しみといえば、
毎日とっかえひっかえメイドさんであそぶこと。
とはいえ最初はサルのようだったものの、
最近では、そんなに目新しい感じもなくなってきて、
正直面白みはへっていた。
男「ーー」
ある日唐突にそれに飽きた。
俺はまた、行ったりきたりを繰り返す。
自分が何をしているかわからなかった。
分からないことがストレスだった。
しかし考えようにも何も考えられなかった。
分からず壁に頭を打ち付けてみたりした。
男「ー-」
分からなかった。
176:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:36:55.92 ID:
F106sh6go
十年がたったころ、俺はもう、おかしくなっていた。
ある日あまりの退屈さに、
だんだんと頭をたたいたり、
変な方向に身体をまげてみたりした。
腕で強く壁を殴ると、間接が一つふえた。
痛かった。
調子にのって、そこをぐりぐりとやってみると
紅いものがでてきた。
ぼたぼたと。
男「ーー」
気がちがっていた。
いやもうそんなものも忘れたようだった。
男「ーー」
数日後には直っているその腕を見て、
嫌悪感を覚えた。
またどたばたと、身体を打ちつけた。
177:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:46:27.22 ID:
F106sh6go
二十年が過ぎた頃、俺はもう動かなかった。
まだ気の違ったように動いていた方がマシだったような気もする。
これだけたつと、旅館の客はほぼ入れ替わっていた。
彼らは十年やそこらで大体帰る。
もちろん長く居座る人も、逆にすぐに帰る人も、いたが。
メイドさんの機能も、付いたり消えたり色々変わった。
何年かに一度のその変化を確認するのは、
そこそこに興味があった。
男「ーー」
時間はとてもながかった。
まだ、まだ、ずっと、先。
178:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:48:37.97 ID:
F106sh6go
それからの日々は、何も変わらない。
時々メイドさんと遊んでみたり。
時々自殺を図ろうとしてみたり。
時々制御不能で客に手をだしてしまったり。
でも基本的には
ずっと廊下を歩くか、座ってじっと壁を見ているか。
ここのしみの数すら、概ね覚えたような気がする。
三十年。四十年。五十年。
まだ、まだ、まだ。
179:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:52:24.87 ID:
F106sh6go
六十年だか、七十年だか、もう支配人の言葉もまともに記憶していなかったが、
とにかくそれくらいがすぎたころ。
男「ーー」
記憶にある人間が、やっとやってきた。
童「ーー」
彼女はこちらを見るのだが、
その目は俺をまったくうつしていない。
男「ーー」
口だってひらかなかった。
男「ーー」
でも何故か、うれしかった。
180:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 00:58:36.90 ID:
F106sh6go
童ちゃんがきて、十三年後。
さらにもう一人、見知った人間がやってきた。
カタギ「ーー」
とても冷たい目をしていた。
男「ーー」
もちろん意思疎通などできないし、
それをしようなどとも考え付かなかった。
ただ知っている人間がいるな、と思っただけ。
頭の中は、もうほとんどからっぽだった。
何も思ってすらいない。
俺は今日も延々と、廊下を歩き続ける。
ひたすらに。
ただひたすらに。
181:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:04:52.24 ID:
F106sh6go
そうして。
拷問のような、生き地獄のような、そんな数十年を経て。
長い長い、長すぎる時間を経て。
気を違えながら、何をしているのかもわからないまま。
男「ーー」
男「ーー」
俺はついに、俺自身と、対面した。
俺はいつのまにか記憶というものすら薄れさせてしまっていたから、
最初は何か分からなかった。
とはいえ気づいた後も、俺は別段かわることはなかった。
なにせ何も考えられない。
俺がいる、という認識をしただけだった。
184:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:08:37.82 ID:
F106sh6go
しかし俺は、俺の元へとなんどもやってきた。
最初はとても短い間隔だった。
男「ーー」
俺は本能的に、廊下を進もうとする俺を、跳ね返した。
男「ーー」
気力もなにもとうになかったが、
これだけはやらなければとおもった。
どうしてかはわからなかった。
とにかく通してはいけない気がした。
男「ーー」
俺は色々と叫んだりわめいたりするのだが、
何を言っているかはわからなかった。
186:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:12:56.36 ID:
F106sh6go
そして。
やっと。
お嬢さん「ーー」
お嬢さんがやってきた。
俺が着てから一年くらいだったとおもう。
俺は今までで最高に嬉しかった。
しかし、どうして嬉しいかはわからなかった。
お嬢さんはすぐに立ち去った。
それから何年かは、時々やってくる俺との戦いだった。
ただ、戦っているというつもりはなかった。
通してはいけないと思っていただけで。
男「ーー」
次第に頻度は、すくなくなっていった。
187:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:20:46.84 ID:
F106sh6go
ある日。
男「ーー」
お嬢さん「ーー」
二人が同時にやってきた。
俺は本能的に、立ちふさがった。
何かしなきゃいけないような気がしたが、
わからなかった。
男「ーー」
わめいているが、聞こえない。
聞こえたところで、思考できないのだから大して意味はないのだが。
お嬢さんと俺は、二手に分かれたりして突破しようとした。
しかし突破させるわけにはいかなかった。
なぜ?
わからない。
強引に突破しようとした俺を、
俺はちからづくでねじ伏せた。
俺は俺に、ナニヲしているのだろう。
そもそも俺は、……何故ここにいるのダろう。
何も分からなかった。
188:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:28:54.18 ID:
F106sh6go
またしばらくは、こなかった。
芸者「ーー」
記憶にあったような顔が、また増えた。
男「ーー」
引き続き、俺はこの廊下を歩いていた。
それから数年、ほぼ何もなかった。
たまに廊下の先が何故か行き止まりになってたりするくらいが、
変化だったろうか。
じっと、じっと、ただ、俺は壁を眺め続けていた。
そして、その日。
189:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:32:12.96 ID:
F106sh6go
男「ーー」
また、俺とお嬢さんが二人でやってきた。
俺はまた立ちふさがった。
行かせるわけにはいかない。
男「ーー」
俺は近づいてきた俺を突き返す。
また二手に分かれた。同じ事をやっていたような。
俺はすぐにお嬢さんを追った。
行かせるわけにはいかない。
俺がすがり付いてきたが、どうでもよかった。
意外と、粘り強い。
だが、大したことはない。
そのときだった。
カタギ「ーー」
いつもと展開が、違った。
190:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:34:24.60 ID:
F106sh6go
蹴り飛ばされたのか、転がっていた。
俺はすぐに立ち上がったが、
カタギ「ーー」
銃口を向けられていた。
反射的に、危機感を感じて一瞬うごけない。
その間に、カタギさんはなにかしゃべっていた。
男「ーー」
俺が、逃げ出した。
お嬢さんの元へ。
まって。
いかないで。
男「ーー」
カタギ「ーー」
カタギ「ーー」
なにか、破裂したような。
腕が、いたい。
イタイ。
191:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:41:00.07 ID:
F106sh6go
お嬢さんと俺は、二人で走り出していた。
俺は胸の奥から吹き経つ、
まるでマグマのような荒く、烈しい焦燥感に駆られた。
男「ーー」
いかないデ。
カタギ「ーー」
マッて。
しかしカタギさんに組み伏せられた。
俺は死んでもいいという思いで、体中を振り回した。
彼らを行かせてはならなかった。
絶対に行かせてはならなかった。
何故か行かせてしまったら、
俺が受けつづけた拷問は、
全て意味がなくなると、思った。
腕は引きちぎれていいと、身体がどうなってもいいと、
死に物狂い。
まっテ。
まっテ。
192:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:48:15.21 ID:
F106sh6go
死力を尽くし、俺はカタギさんからどうにか脱出した。
片腕は既におかしな方向に折れ曲がっていたが、
そんなこと気にもせず。
マって。
追いかけた。
全速力で。
あらんかぎりの力で。
カタギ「ーー」
マッテ。
男「ーー」
限界などとうに超えて、
体力など気にもせず、
筋肉が壊れるほどに、足で床をたたいて、
わきめもふらず、まっしぐらに。
カタギ「ーー」
そして、追いついた。
俺は、すぐさま飛び掛る。
一瞬見えた、お嬢さんの怯えた顔など
なにも気にせず。
193:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 01:55:32.81 ID:
F106sh6go
俺は俺に飛びついたが、
向こうの俺もまた、必死だった。
取っ組み合いをするうちに、
すぐにカタギさんに蹴飛ばされた。
男「ーー」
痛みはあったが俺はそれでも、
立ち向かおうと。
カタギ「ーー」
ーーッ!!!
足に、激痛。
血が、どくどくと。
既に腕からの大量の出欠と合わさり、
視界がブレた。
足を動かそうとしても、うごかなかった。
まって。
マダなの。マダなの。
マダ、なにモ、でキてないノ……。
身体が一瞬、動かなくなった。
194:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 02:00:20.91 ID:
F106sh6go
死ぬと、感じたその時だった。
脳が、少しずつ、クリアに。
男(あれ……?)
思考能力が、少しずつ、復活し。
男(こ……れは……)
すぐに状況を、理解する。
俺は今まさに、死に体の。
ああ、ああ。
男(あの時の……)
ああああ……。
男(くそ……、くそ……)
俺は何とかまだ動く左腕で、力の限り身体を這わせた。
男(いましか……いましか……)
カタギ「こいつ……」
カタギ「いかせねえぞ」
だん、と俺の腕はカタギさんに踏みつけられた。
195:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 02:05:33.76 ID:
F106sh6go
カタギ「なんでこいつ、こんなに必死なんだ……」
お嬢さん。お嬢さん。お嬢さん。
男「……あぁあ……、ああ」
男(声……が……)
うめき声しか、でない。
男(たのむ……でてくれ……)
男(お願いだから……!!)
男(たのむ……!!!)
男「ぉ……で、も……」
何十年も、もう百年近くもの間。
封印されていた、この、言葉。
仮面「あい、し……で」
コレだけを言うために。
仮面「……いだ……」
ああ、いまやっと
言えた……。
196:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/10(水) 02:13:43.02 ID:
F106sh6go
すっと、あっけなく消えていく意識の中で。
俺は最後まで、お嬢さんを、見つめていた。
伝わって、伝わって。
目が、閉じる。
身体が、動かなくなる。
カタギ「なんて言った?」
男「……いえ、俺も……」
お嬢さん「……、……」
けれど俺は、このとき、意識の全てが消える寸前で、気づいた。
>一つは、「気付いたよ」と書かれたメモ。意味は不明。
ああ。
彼女は。
気づいて、くれたんだ……。
ああ。
よか、った……。