Part12
770:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 06:44:50.76 ID:
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一度たどり着けて、今はいけない。
ということは、その二つの時点で、差があるということ。
変わったものは何か。
あそこを目的とするか、しないか。
いやしかしこれだと、あそこを目的として行ったメイドさんが
たどり着けたことと矛盾する。
では、俺だけが違ったものはなにか。
脱出しようとしていた、こと?
いやもしそうだとしても、何故?
思い出せ、なにか……
男「……あ……」
>支配人「ここは現実逃避をする場所です」
>支配人「ですから、本心から現実に帰りたいと思わなければ」
>支配人「それは叶わない、というだけの話です」
もし、もしこれが仮に出口につながるものだったとしたら……
>支配人「正確には、出口につながる道を発見しました」
>支配人「しかし、出口までは手が届かなかったのです」
男「……!」
これで説明が、つく……!!
771:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 06:51:52.48 ID:
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しかし、説明はつくが、
それはつまり。
男「……俺が、本心から現実に帰りたい、と思っていない、から……?」
何をばかな。
今まさに帰りたいと、望んでいて、
だからこうして必死に探しているんじゃないのか?
男「違うのか……?」
カタギ「……」
カタギ「さ、帰った帰った」
カタギ「自分のことは、自分でなやめ」
そうして俺は、カタギさんの部屋を追い出され、
すごすごと冬の間をでたわけだが。
男「どういう、ことだ……?」
俺は、自分のことがわからなかった。
772:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 07:08:25.51 ID:
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春の間の、部屋に戻る。
お嬢さん「あ、おかえりなさい」
お嬢さん「どうしたんです……?」
お嬢さんは帰ってきた俺のすぐ横につくと、
いたわるように背をさすってくれた。
男「……わからない、どういう、ことか」
俺はつぶやくようにして、状況を伝えた。
お嬢さん「……そう、ですか」
男「帰りたい、こんなにも帰りたいのに」
男「十日で記憶が消える生活なんて嫌だ」
男「それを何年も続けてきたという事実が心底たまらない」
男「なのに、どうして……」
お嬢さん「ゆっくり、ゆっくり考えましょう。ね、……ね」
779:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 07:24:17.03 ID:
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俺が出口を見つけても、たどり着けなかったというのなら。
俺は今までなんども、この問いを考え、
そして、答えを見つけられなかった……?
男「ここまで、なんとかきたのに……」
ここまでたどり着くことができたのは、
きっと恐ろしく貴重なことなのだ。
……やっとここまできたのに、
最後の最後が解けやしない。
男「……」
お嬢さんはとぽとぽとお茶をついでくれたが、
すぐには手もつけられなかった。
お嬢さん「……」
男「十日間の記憶を、俺はそんなに忘れたかった、ということだろうか……」
お嬢さん「ですが貴方は、いまそれを覚えていないのでしょう……?」
そう、覚えていない。
覚えていないのに、それは帰る帰らないの今の気持ちに影響するのだろうか。
潜在意識がどーでこーでこーなった? みたいな?
男「……」
なんと曖昧な。
781:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 07:34:53.72 ID:
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気づけば夕暮れも終わりかけの、夜の帳もおりる頃。
男「……もうあと何時間かすれば」
男「今日が……おわるな」
男「十日目が……」
俺は、もう考えるのも疲れてきていた。
お嬢さん「大丈夫です、まだ時間は……」
男「もう、疲れてしまったよ」
ああ、こうして、俺はまた。
お嬢さん「まだ時間はありますから……、きっと、きっと」
男「あと数時間で、何ができるって、いうんだ?」
お嬢さん「いいえ、大丈夫ですから……」
お嬢さん「そうだ、少し横になっては」
お嬢さん「きっと考えすぎて、頭がこんがらがってしまっているのですよ……」
男「……、そう、だな。うん、もう、そうするよ」
俺はきっと、もう、これで。
次の俺がまた、頑張ってくれる、だろう……。
784:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 07:52:00.47 ID:
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1
「明日は、お仕事、早いんですか?」
「そうですか、分かりました」
「え、身体?」
「大丈夫ですよ、結構元気です」
「あはは、はい」
「ふふ、心配されてうれしいです」
「じゃあお昼頃、はい、電話ください」
「わかりました」
「だめですよ? お仕事中に電話なんかかけてきちゃ」
「ぎくって顔しないでください」
「そんなに心配しないでも」
「あはは」
787:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:11:01.87 ID:
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男「ん……」
目が覚めたとき、
お嬢さん「おはようございます」
にっこりと、微笑むお嬢さんの顔が、すぐそこにあった。
男「ああ……」
それがとても俺を穏やかな気持ちにさせてくれた。
これは、夢だろうか。
俺はもう、十日の夜に、寝たのだ。
記憶など、あるはずもなく。
男「お嬢さん……」
お嬢さん「はい」
彼女が居てくれることが、うれしかった。
ここ何日かずっと居てくれて。
真実を知ってから不安定になりかけていた気持ちも、
彼女が居てくれたから、安定していた。
男「お嬢さん」
お嬢さん「ふふ、どうしたんですか」
788:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:13:25.39 ID:
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お嬢さん「どうしたんです、そんな」
お嬢さんは、俺の頭をなでた。
くすぐったくて、なんだか、気持ちよく。
男「……」
あれ?
時計が、目に入ったような気がした。
男「……あの、今、何時ですか」
お嬢さん「午前二時、ですが」
あれ?
男「……あれ?」
いやいや。
いやいやいやいや?
この時間、あれ?
……あれ!?
792:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:17:16.22 ID:
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男「夢じゃ……ない……? もしかして?」
お嬢さん「はい、夢ではありませんよ」
お嬢さん「あ、この場所という意味でなら、分かりませんが」
男「い、いやいやそういう意味でなく、寝ぼけてないか、と」
男「あれ!?」
男「午前二時……、え」
男「十日目、おわってる、よね……?」
お嬢さん「いいえ、まだですよ」
お嬢さん「貴方にとっての十日目は、まだ」
男「ど、どういう……」
お嬢さん「貴方が最初に起きたときの時間、覚えておりますか?」
>先ほどおきてから体感で2時間かかってない程度。
>となるとおきたのは正午くらいだったか。
男「正午……だった、ような」
お嬢さん「ふふ、そうです」
お嬢さん「貴方の時間は、正午で一周期、なのですよ」
795:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:28:34.61 ID:
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男「な……」
お嬢さん「だから言ったでしょう、まだお時間ありますから、って」
お嬢さん「本当にギリギリだったら、横になっては、なんて」
お嬢さん「いえませんよ」
ぽかんと、したあと。
男「はぁああーー…………っ」
すごい勢いで安堵のため息がもれた。
男「なんでいってくれなかったんだ……」
お嬢さん「焦って混乱しかけていましたから」
お嬢さん「おきてもまだ時間があると分かっているよりも」
お嬢さん「分かっていないで寝たほうが、いったん気持ちをリセットできるかな、って」
お嬢さん「どうです、少しはすっきりしました……?」
ああ、この娘さんは……。
男「心臓がばっくばっくいってるよ……、ったく……」
でもこれは、効き目あり。
797:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:36:07.44 ID:
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男「まったく……」
お嬢さん「ふふ」
何度か深呼吸をして、落ち着ける。
男「とにかく……、あと十時間は猶予がある、ってことでいいのか」
お嬢さん「はい、そのとおりです」
男「……わかった」
それでも十時間。
昨日考えてわからなかったことが、果たして今分かるか、とは。
男「いや? まて」
今のやりとりで、俺、何を思ってた。
男「……、……」
まて、そっちか、もしかして、そういう。
いやいや。
まさか。
そんなばかな。
799:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:40:04.48 ID:
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ここ数日間。
ずっと俺は、彼女に癒され続けてきて。
それはとても、心地よかった。
間違いない。
ちらっと、お嬢さんを盗み見る。
まだ十四か、五か、もしかしたらそれより下か。
そんなまだ身体の成熟していない女性だけれど、
考えてみれば、心持は俺なんかよりも全然大人で。
いやなにを考えている。
お嬢さん「どうしました?」
男「あ、いや、あの」
あわてふためく。なにもないのに手が宙をかく。
さすがにここまできたら、
ああ。
男「そういう……、こと、か」
俺が本心から帰りたいと思い切れなかったのは。
つまり。
802:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:49:58.34 ID:
oVyIEMwx0
男「お嬢さんが、いたからだった、か……」
お嬢さん「え?」
男「いや、謎が、解けた」
男「俺が本心から、帰ろうって、思い切れなかった理由」
男「君がいたからだ」
いやなにをさらっと言っているのかと自分でビンタをいれたいのだが。
お嬢さん「え、あ……あの、それ」
男「……な、なんだ、その」
男「いや、こほん……」
男「その、すまない。単刀直入にいうと、どうやら」
男「……俺は、君のことが」
好きに、なった。
お嬢さん「……っ!!」
お嬢さん、その小さな口を、手で覆う。
目がくりくりとして、あっちやこっちを視線がふらふら。
お嬢さん「な……、な……」
805:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 08:55:22.05 ID:
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お嬢さん「……」
お嬢さんは、んっ、んっ、と何か喝を入れるようにしたあと。
お嬢さん「……それでは、それでは貴方が、帰れないでは、ありませんか」
お嬢さん「……貴方の気持ちは、嬉しいです」
お嬢さん「けれど……、正午を過ぎれば、消えてしまう」
お嬢さん「また、最初に戻ってしまう」
男「……それは……、……」
痛いところである。
お嬢さん「……よく考えてください。どちらが、大事ですか」
お嬢さん「ちゃんと比べてみてください」
お嬢さん「わかりますよね……?」
もちろん、それは良く分かっている。
だが、このよく分からない気持ちを。おそらくほれてしまったということを。
どうしていいかなんて、分かるはずもないだろう?
807:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 09:00:19.00 ID:
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これこそ混乱である。
自分の気持ちを、どう扱えばいいのかが分からないのだ。
男「……いや」
その思考の中で。
その拍子で。
男「お嬢さん、妙案が」
お嬢さん「……はい?」
男「一緒に、逃げよう」
お嬢さん「……っ!!!」
男「もし俺の、思い違いでなければ」
>男「七年……」
>男「正直、あきないか? 何もすること無いだろう」
>お嬢さん「……それは」
>お嬢さんが、その朱唇を一瞬噛んだ。
>お嬢さん「いえ、そんなことは、ありませんよ」
男「お嬢さんも、ここを、脱出したいんじゃ、ないのか……?」
808:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 09:05:55.62 ID:
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お嬢さん「……、それは」
男「たぶん、あの時だって」
>お嬢さん「本当は、隠し通したかった」
>お嬢さん「いいえ、このまま言わなくてもよかったのです」
>お嬢さん「問題は、なかった」
>お嬢さん「けれど、でも……。あんな風にされて、私」
>お嬢さん「もしかしたら、もしかしたら大丈夫かも」
>お嬢さん「って、思ってしまったんです……」
>お嬢さん「私は、弱い人です……」
男「本当は言わなくてもよかったことを、言ったのは」
男「もしかしたら大丈夫かもというのは」
男「その衝動が、抜け出したいという気持ちが、あったからではないのか……?」
お嬢さん「……、……」
お嬢さんは目を背けて。
お嬢さん「でも……、やっぱり、それは……」
男「違うのか?」
お嬢さん「……、……いいえ。いいえ貴方の、貴方の言う、とおりなのです」
811:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/08(月) 09:14:31.24 ID:
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男「なら……」
お嬢さん「……過去に。過去に、一度」
お嬢さん「貴方は私にこうして手を差し伸べてくれたことが、ありました」
お嬢さん「私は、無知な私は、純粋にうれしくて、その手をとったのです」
お嬢さん「しかし、その時は脱出できなかった」
お嬢さん「なぜなら、出口には問題があったから」
お嬢さん「貴方は私をかばって、その時大怪我を……おったのです……っ」
男「出口に、問題……?」
お嬢さん「だから、だから、もう、そんなものは、私はみたくなくて」
お嬢さん「だから一緒には、……っ」
男「それは、なんなんだ、いったい、なんなんだ」
お嬢さん「出口には……」
彼女はそうして、ぽつりと一言。
男「ああ……」
そういうこと、か。