Part1
お嬢さん「現実逃避、しませんか?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349467180/
1:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 04:59:40.06 ID:
IY97jrkv0
男「……現実逃避でございますか」
お嬢さん「そうです。お金や時間、才能や人間関係、何でもいいのです」
お嬢さん「それら気の疲れる現実から、さらっと逃避などしませんか」
男「そりゃあ出来たら楽だがね」
男「できないからこそ現実なのだよ」
お嬢さん「いいえそれができるのです」
お嬢さん「イヤなこと、全て気にせず楽しく気楽に過ごせます」
お嬢さん「そうですね……、貴方のさまざまな欲求も、きっと満たされるはずですよ」
お嬢さん「ですからどうぞ、一つ頷いてみてはいかがでしょう」
男「なるほど夢でも見ているのだな」
男「いいよわかった、俺も疲れているようだ」
男「それなら眼が覚めるまで少しの間、現実逃避、付き合うのも悪くない」
3:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 05:14:45.48 ID:
IY97jrkv0
お嬢さん「そうですか。よかった……、ほっとしました」
男「ほっとした?」
お嬢さん「いえいえこちらの都合です」
男「お、おう」
男「……ところで、ここはどこでしょう」
お嬢さん「ここは貴方の部屋ですよ」
男「残念ながら、俺の部屋はこう綺麗ではない」
お嬢さん「ああ……、そういう意味ですか、ごめんなさい」
お嬢さん「ここは、現実逃避をした貴方の部屋です」
お嬢さん「現実の、貴方の部屋ではなく」
男「ああ、もうそういう状態」
ならさっきの確認は事後承諾でございましたか。
5:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 05:28:57.06 ID:
IY97jrkv0
お嬢さん「ところでお腹は空いていらっしゃいますか?」
男「ん、少しは」
お嬢さん「それはよかった。おそらくもうそろそろお給仕がいらっしゃると思うので」
お嬢さん「ぜひ召し上がってくださいましね」
男「……おう」
「それでは私はいったん下がります」とお嬢さんは言うと、楚々な動きで部屋をでた。
ぱたん。
男「うーむ……?」
男「なんだ、これは」
全くわけが分からない。
夢の中とは思うのだが、この小奇麗な茶室風の部屋も、先の清楚なお嬢さんも、
どちらも見覚えがないのである。
夢というのは、一度見たものを投影すると聞いたような。
男「まあ、食事が出るなら待ちますか」
7:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 05:35:51.61 ID:
IY97jrkv0
数分後――
メイド「おおー! おきておりましたか! どうもどうも!」
やけにテンションが高いメイド――服装的に、おそらく――がいらっしゃった。
メイド「どうですいい目覚めですか!?」
メイド「あ、ご飯たべますよね?」
メイド「わー頭がぼさぼさですね!」
メイド「なんかおめめぱっちり! どうしたんですか!?」
それも複数人。
誰が何を喋っているのかも分からない。
おめめぱっちりなのは驚いているからなんだよ。
男「えーと、君たちは」
メイド「「この旅館のメイドさんズです!!」」
旅館にメイドさんかー、そうかー。
こういうのも和洋折衷、と言うのだろーか。
8:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 05:50:18.33 ID:
IY97jrkv0
男「え、旅館」
メイド「はい旅館ですが」
メイド「それ以外のなにがありますかね」
男「いやむしろその選択肢が思い浮かばなかった」
メイド「お給仕がいるのに旅館以外なわけないじゃないですかー」
メイド「あー分かった! あれですよ、きっとこの人ここに来る前はボンボンだったんです」
メイド「なるほどー、いつもメイドさんやら女中さんやらが近くにいらっしゃったと」
どうしてそうなった。
メイド「なんとうらやましい! 金持ちめ!」
メイド「ご飯食べます?」
男「いや、金もちではないが、あはい食べます」
メイド「はいどーぞ、あーん!」
男「いやいやいや、あーんはさすがに」
メイド「えー、さいきんはやってるみたいなんですけどー」
どこでだよ。
9:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 06:04:46.71 ID:
IY97jrkv0
男「ふむ、おいしかった」
さくっと食事を食べきると、いつの間にか寝ていた布団はどこへやら。
仕事の速いメイドさんたちである。
男「それで、旅館というのは」
メイド「旅館しりません? 泊まるところですよ」
メイド「自宅は飽きた! 羽を休められる場所はどこだ!」
メイド「そうだ京都へいこう!」
メイド「的な」
男「いやそういう話ではなく、えーと」
たしかに考えてみると、どういう質問をしてよいものか。
男「これ夢でいいんだよね?」
メイド「「さ〜?」」
本当に分からないような顔でした。
11:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 06:21:26.64 ID:
IY97jrkv0
メイドさんたちは食器を片付けると、やはり姦しいまま部屋から出て行った。
男「お、俺は頭がおかしくなったのだろうか……?」
真剣に寒気がした。
このままではピンクの象も見かねない。
男「そ、そうだ、一度外にでてみよう」
四畳半の個室では、状況把握もなにもない。
俺は近くにおいてあった羽織をひっかけると――ちなみにこの時着ていた服は簡素な浴衣――意を決して襖のほうへ。
がらっ。
男「な……」
ああ驚くことなかれ、俺。
出た部屋の先には回廊が、渡り廊下のように壁もなく、先へ続き。
その周りに広がった景色は、
男「こいつはあ、なるほど」
男「現実逃避か」
美しきかな柳暗花明、一面一色山野の春景色。
それはまるで、いやそれこそまさに、
非現実のようだった!
12:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 06:31:39.59 ID:
IY97jrkv0
――というのは実はまだ良かったのである。
男「あれは……?」
渡り廊下の続く向こう、木々に隠れて下の方は見えないが、
男「わ、わあ」
高く高く、木々よりも高くそびえ立つ、それは館。
おそらくあれが、メイドさんたちの言っていた旅館なのだろう……か?
男「なんちゅーまあ」
壮大な夢を見ているな、というところでとりあえず気持ちは落ち着かせつつ。
男「さてこれはどうしたものかな」
男「こ、怖くはないが……」
足が竦んで、すぐには動かなかった。
13:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 06:42:00.66 ID:
IY97jrkv0
?「おやおやこれは! 既に散策にでるおつもりでしたか」
男「おわ!?」
突然声がかかったので、あわてて見上げていた視線をおろす。
?「あこりゃどうも失礼」
支配人「わたくしここの、支配人にございます」
男「あ、ど、ども」
支配人「ははは驚きますよね。あんなでかいの」
男「ええ、まあ」
支配人「まあまあ見た目だけです見た目だけ。中はたいしたことも無く」
支配人「……でかくてたいしたことがない、ふむ」
男「な、なにか」
ちょっと嫌な気配。
支配人「ふふ、いえいえ何も」
支配人「お出かけになるのなら、ご案内でもしましょうか」
男「お、お願いします」
14:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 06:51:38.76 ID:
IY97jrkv0
支配人と名乗った男は、とても紳士的であった。
支配人「はあ、なるほど。混乱しておられますか」
男「そりゃ寝ておきたらこれですから……」
男「夢にしては、さっきからどうにも質感があるというか」
男「あきらかに非現実なのに」
支配人「でしょうねえ」
男「何か知っておられますか」
支配人「現実を逃避したからでは?」
男「いやそれはそうだけども……、でもそれは事後承諾的な――」
支配人「まあまあ。そのあたりは追々ということで、ね」
支配人「まずは当館自慢の景色を楽しんでみては」
男「うーむ」
15:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 07:01:27.24 ID:
IY97jrkv0
支配人「おやご不満ですか」
男「そりゃ腑には落ちませんよ」
支配人「しかたありません。では男性客には取っておきの」
支配人「女子、というのをご提供いたしましょうか」
男「は? え、どういう」
支配人「これも当館自慢でして」
支配人「ここのメイドさんは、中々に粒揃いの美少女たちにございます」
支配人「その中の一人をですね」
男「あーあーあ! いい、そういうのはいい!」
支配人「おや、女性には興味がない? どなたでも選んでいただいて良いのに」
支配人「珍しい方です。……でも嬉しい」
男「え?」
支配人「私が人肌脱ぐ時が来たようですから」
すっと支配人は来ていた服に手をかける。
俺はそっとその手を止めたのだった。
16:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 07:12:14.60 ID:
IY97jrkv0
支配人「しかしですね真面目な話」
支配人「あの子たちはおそらく頼めば断りませんよ?」
男「仕事だからですか」
支配人「いえいえここは決して娼館ではありません」
支配人「ただそもそも彼女達、けっこう色好きでして」
男「はあ……」
男(ち、ちょっと興味がなくも……ないかなー?)
男「い、いやいやだめだ」
俺は煩悩を振り払うように首を振ると、
支配人「やはり男の子でございますな」
と支配人は笑った。
17:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 07:28:34.64 ID:
IY97jrkv0
となんだかんだと話しているうちに、
回廊を渡りきって、
支配人「到着ですね」
支配人「こちらが本館でございます」
男「お、大きい……」
見上げれば首が痛くなるほどに、高い。
さすがに雲のかかるほどではないが、
十……いや十五階はあるだろうか。
支配人「さあどうぞどうぞこちらへ」
観音開きの扉を開けて、
本館へと俺は足を踏み入れた――ら、
メイド「あ、支配人さんー!」
メイド「おやお客さんもー!」
メイド「仲良くお散歩ですかー!?」
やっぱりテンションの高いメイドさんたちに迎えられたのだった。
18:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 07:38:07.55 ID:
IY97jrkv0
中に入ってみると、
そこは天井が二階までが吹きぬけた、直線の廊下。
左右に襖が連なっているが、
ちょっと開いているところを覗くとこれがまた広い座敷。
支配人「このあたりは宴会場ですねー」
男「……なるほど」
メイドさんたちが、その廊下を座敷をわたわたと走り回っている。
掃除。たぶん。
支配人「まずはフロントまで行きましょうか」
男「え、ええ」
圧倒されて、非現実がどうとかすっかり忘れて、
俺はおずおずとその背を追った。
20:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 07:53:46.81 ID:
IY97jrkv0
支配人「はい、ここがフロントです」
男「思ったよりも遠かった……!」
このフロントにたどり着くまでおよそ15分。
支配人「無駄に大きくなってしまったもので。ははは」
男「これは一人で歩いたら迷いかねないような」
支配人「そうですねえ」
支配人「ですが迷ったとしてもメイドさんたちがおりますからご安心を」
男「あ、そ、そうか」
支配人「とりあえず慣れるまでは、このフロントを基点にしていただければ」
男「……わかりました」
22:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:01:05.13 ID:
IY97jrkv0
はあ、と気が抜けた。
ここまでの距離もさることながら、
途中にあった天井まで吹き抜けの、おそらく中央広場の大きさに
すでに圧倒されて気力はなく。
男「あの、どこか休めるところはありませんか」
支配人「おお、これは失礼。疲れに気付かず」
男「ああいや、気持ち的に」
支配人「なるほど。であればそうですね。ちょっと手の空いてるメイドさん!」
パン、と支配人が手をたたくと。
メイド「はいはーい!!」
メイド「あいてます!!!」
メイド「超手すきです!!!!」
メイド「めっちゃ暇です!!!」
またわらわらと。
24:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:06:36.79 ID:
IY97jrkv0
支配人「うーんそんなに暇になるほど仕事ないですかね?」
メイド「「「ぎくっ」」」
支配人「はいはい、仕事のある人は持ち場に戻る」
メイド「ううー! チャンスがー!」
メイド「恐怖政治!」
メイド「ぱわはら!」
支配人「お仕置きですかねこれは」
メイド「「「それはやだー!!!」」」
とまあ楽しそうなもので、散り散りに。
そうして最後に一人。
メイド「あ、わたし本当に手すきなんで……」
支配人「おおよかった。一応サボりではない子がいましたか」
支配人「ではこのお客さんを、疲れの癒せる場所にご案内してあげてくださいな」
メイド「はーい」
25:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:21:04.79 ID:
IY97jrkv0
メイド「まだお風呂って時間じゃないですよねー」
男「そうだね」
メイドさん――茶髪のロングであった――についていきながら、
ふとその言葉で思い出す。
男「時間か、忘れていた。今何時だ?」
メイド「1時半ちょいすぎですかね」
男「……そうか」
先ほどおきてから体感で2時間かかってない程度。
となるとおきたのは正午くらいだったか。
おそろしい寝坊であった。
26:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:24:45.42 ID:
IY97jrkv0
メイド「んー、どっこがいいかなあ」
男「色々あるのか」
メイド「まあこれだけ広いんで」
メイド「どんな感じがいいです? まずは布団とベッドなら」
男「何故その二択」
メイド「そりゃあ、ねえ」
メイドさん、なぜか頬に朱を差した。
メイド「しっぽりいきましょう」
男「まてまてまてしっぽりはいかない。ゆっくりしたい」
メイド「ええー。一人で?」
男「一人で」
メイド「異議申し立てです!!」
男「却下します」
29:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/06(土) 08:34:56.84 ID:
IY97jrkv0
メイド「そっかー、自分でするタイプかー……」
男「ものすごい誤解だが」
メイド「まあいいです。じゃあその気になったら呼んでください」
メイド「待機してますんで」
男「してなくていいです」
メイド「わーつめたい」
メイドさんはちょっとむすっとしつつ、
メイド「それじゃこのあたりどうですかねー」
と到着したのは、中庭らしき場所を見下ろせる一角。
ちょうどバルコニーのようになっていて、座り心地のよさそうなイスが一つ。
男「おー、これはゆっくりするにはいいな」
メイド「お気に召しましたか」