Part4
69 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:28:58.90 ID:
uZZDdnDw0
野球界には“シュートを投げるのは肘に良くない”という定説がある。
しかし、“カミソリシュート”と称されたシュートの使い手・平松政次、稲尾和久らは、その説に対してこんな事を述べている。
「シュートが肘に悪い? 冗談はよせ」
では、どのようにリリースしていたのか?
「手首や肘を捻らず、左肩を早く転回させることで腕を遅らせ、
ボールの表面を人差し指で押し込むようにしてシュート回転を与えていた」という。
そう、現代では“ツーシーム”と呼ばれる握りで、内角に鋭く食い込む直球(シンキング・ファスト・ボール)そのものである。
大昔に“癖球を投げる”と噂されていた一部の投手達も、
現代に於けるツーシームやワンシームといったムービング・ファスト・ボールを投げていたのではないか?と考えられている。
野口さんは自身が離脱する事態を想定していた。
だからこそ、城ヶ崎さんの人差し指にアルミホイルを巻き付けて投球練習、リリースの感覚を養わせたのである。
[
写真を見る]
城ヶ崎(直球と同じ感覚で、人差し指で縫い目にプレッシャーをかけ……回転数を殺す!)ボシュッ!
男子A「ぐうっ!」ガシッ
【弱々しいキャッチャーフライ】
71 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:32:42.87 ID:
uZZDdnDw0
七回表、女子チーム最後の攻撃。
たまえ、かよちゃん共に凡退に終わり、2死から城ヶ崎さんを迎える形となった。
捕手役の男子Bが再び立ち上がり、
男子B(今度こそ敬遠だ。絶対に気ぃ抜くなよ!)
城ヶ崎「また歩かせるつもり?」
男子A「……」
男子A「わりーな、B」
男子B「???」
ガシャンッ!
男子Aの投じた渾身のストレートが、球審(男子E)の頬をかすめて、後方の金網にめり込んだ。
城ヶ崎「……そうこなくっちゃ」
72 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:35:39.86 ID:
uZZDdnDw0
男子B「おい、A! ふざけんなよ!」
男子A「B、座って構えろ」
男子B「おまえ正気か!?」
男子A「いいから座れ」
男子B「うっ……でも」
男子A「座れ」
男子B「……わかったよ」
73 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:36:20.05 ID:
uZZDdnDw0
城ヶ崎(まっすぐ……!)
ベシッ!【右方向ライナー性ファール】
カウント
【S1‐B1】
城ヶ崎(微妙に逃げた……今のは真っスラ? 今までのヌキスラ(緩い球)含めて2種類あったのね)
城ヶ崎(でも、速球系は強く振り抜いて飛ばしたことで使いづらくなった筈)
男子A(これで奴は緩いのを頭に浮かべるかな。お次は……)
内角低め、パーム
ポシッ 【詰まり気味に引っ張ってファール】
【S2‐B1】
74 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:38:20.73 ID:
uZZDdnDw0
パァンッ!
内角高めの直球、ボール
【S2‐B2】
男子A(布石は打ったぜ。大好きな外で思いきり引きつけてぇだろ?)
城ヶ崎(外から内連投の目付けで、次は……)
男子A(今度のは目一杯インステップで、ワンテンポ溜めてから……)
城ヶ崎(速球っ!)
男子A(そのオープンじゃ絞りにくい、内角ボールゾーンからかすめるように入る真っスラだ!)
城ヶ崎「くっ……」
ボスッ!【内野フライ】
男子A「しゃあッッッッ!!」
75 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:41:17.51 ID:
uZZDdnDw0
男子D「凌いだな」
男子E「ナイピー!」
男子B「だけど、もう最終回だぜ! どうすんだよ!」
男子C「このままじゃ公園使えなくなっちまう!」
男子A(ああ、元々そういう趣旨だっけ……)
城ヶ崎「いよいよラストよ! 締まっていきましょ、さくらさん!」
まる子「バッチコーイ!」ズキンッズキンッ
76 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:43:28.55 ID:
uZZDdnDw0
七回裏、男子チーム最後の攻撃。
男子C「うぁら!」ブンッ【空振り】
男子A(焦って早打ちになってんじゃねーか?
……捕手がボール逸らしてるっ!)
男子A「C、走れ! 振り逃げできるぞ!」
まる子、一塁に送球しようとするが間に合わず。
【無死1塁】
男子F(俺じゃミートするのは無理だ。選んでかないと……)
バッシィイ!
まる子「くぅうっう……!」
たまえ「まるちゃん!」
一同「さくらさん!」
77 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:45:33.49 ID:
uZZDdnDw0
一同「さくらさん、大丈夫?」
まる子「だ、だいじょぶだよ! ちょっとよそ見しちゃってさ!」
たまえ「まるちゃん、手を見せて」
まる子「ええ? だいじょぶだって」
たまえ「いいからっ!」
グローブを外したまる子の手のひらは赤く腫れ上がっていた。
野口さんと城ヶ崎さんの剛球をぶっ通しで捕っていたのだ。
当然と言えば当然だ。
たまえ「今までポケットに突っ込んで隠してたね……! 何で言わないの!」
まる子「大袈裟だね。このくらい……」
たまえ「バカッ!!!!!」
一同「!?」
78 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:46:45.96 ID:
uZZDdnDw0
たまえ「深刻な後遺症になったらどうするの!!
まるちゃんはよくても私が許さないよ!」
城ヶ崎さん「穂波さん……」
まる子「ちょっとくらいさ」
一同「……」
まる子「ちょっとくらい、あたしにも格好付けさせとくれよ……」
たまえ「もう、じゅうぶん格好ついてるよっ」
まる子「もう最終回なんだし、右手で捕ってみせるよ」
たまえ「まるちゃん……」
男子A「……おい、左用グラブ持ってこい」
79 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:49:25.88 ID:
uZZDdnDw0
男子軍からサウスポー用のグローブを借りて試合再開。
男子D「おっしゃ、打ち頃!」パカンッ【2ランホームラン】
男子B「もうスタミナ切れか?」バシンッ【ソロホームラン】
男子A「……」パコンッ【ランニングホームラン】
かよ子「ひええぇぇぇ」
たまえ「城ヶ崎さん……」
城ヶ崎(やっぱりダメ……いくら逆の手と言っても、無意識にセーブしちゃう……)
その後、女子軍はさらなる得点を許してしまい、21対18と猛追撃を食らってしまう。
80 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:52:11.63 ID:
uZZDdnDw0
男子達「勝てる勝てる! このままサヨナラだぁー!」
まる子「大丈夫だよ城ヶ崎さん、思いっきり投げちゃってよ」
城ヶ崎「くっ……そう言われても……」
男子A「B、キャッチャーやれ」
男子B「おう!……って、はああ!?」
城ヶ崎「!?」
男子「代わってやれ」
男子B「おまえ正気かよ!?」
男子A「やれ」
男子B「……わかったよッ!」
城ヶ崎「あんた……」
男子A「勝ち逃げするんじゃねーよ」
81 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:53:33.33 ID:wSljhq840
フラグが立つのか?
82 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 00:55:31.97 ID:
uZZDdnDw0
男子B(まあいい、Aが何と言おうと、Aの得意なコース要求してやる)
男子A「B……」
男子B「なんだよ」
男子A「お前は指示するなよ。あいつ(城ヶ崎)自身の意思でやらせなきゃ意味ねえからな」
男子A「わかったな?」
男子B「……わかったよッ!」
男子A「ってなわけで、来やがれ!」
城ヶ崎「ふんっ……臨むところよ!」
85 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:05:42.39 ID:ODL0TJ/O0
盛り上がって参りました
86 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:07:46.67 ID:
hbDtxyyuO
男子B「ええい、この際やけくそだ……締まってくぞぉぉお!」
城ヶ崎「ふふふっ」
男子A「……何だ?」
城ヶ崎「ううんっ、何でもない」
一同「バッチコーイ!!」
城ヶ崎「……野球も悪くないかもね」ボソッ
87 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:10:26.18 ID:
hbDtxyyuO
ズパァン!
胸元を抉る内角高め
【S0‐B1】
男子A(やっぱり、あくまで真っ向か)
城ヶ崎「せえぇいっ」ドシュッ
男子A「ぐっ!」
ドパァン!!
内角低めツーシーム、空振り
【S1‐B1】
男子A(外か?)
男子A(いや、こいつは性格的に考えて逃げねえ。
終始一貫して内角……そうだろ?)
城ヶ崎「ふえい!」ビシュッ
男子A(内っ……!)
ガッシィン!
真後ろへの強烈なファールチップ
【S2‐B1】
88 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:13:16.85 ID:
hbDtxyyuO
男子A(遊び球は無い。全部ストライク狙いで来てやがる!)
城ヶ崎「そぉりゃああああああ」ピシュ!!
男子A(速っ……!)
(球じゃない!?)
そのボールは、地面に吸い込まれるように打者の視界から消えた。
遅い、只ただ遅い、チェンジアップ!
【空振り三振】
男子達「まだだA、走れ! 振り逃げできる!」
男子B(もたつく振りして時間を稼いでやれば……)
男子A「……」
男子B「なぜ走らねぇぇぇ!」
男子A、タッチアウト。
89 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:15:58.75 ID:
hbDtxyyuO
ボテッ!
冬田「きゃっ!」
城ヶ崎「冬田さん、落ち着いて! 間に合うわ!」
冬田さん、慌てず処理して打者走者アウト。
これで2アウト。
90 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:17:09.09 ID:
hbDtxyyuO
ーー男子軍ベンチ。
男子達「まだだ! じっくり見てけよー!」
男子A(くそっ、何でだ。決めつけた俺も俺だけどよ……。
何故あそこでチェンジアップを……温存してたってのか?)
まる子「2アウトだよみんなー! あと1人あと1人!」
男子A「!!」
男子達「よしよし、選んでいけー!」
男子A(そうか、あの時……)
男子A(オカッパを気遣って手を抜いた時、コツを掴んだのか)
ズパァァンッ!
【空振り三振】
ゲームセット。
91 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:20:40.46 ID:
hbDtxyyuO
21対18で女子チームの勝利。
一同「やったやったぁあーー!」
冬田「一時はどうなることかと思ったけど!」
笹山「私たち勝てたのね!」
かよ子「疲れたぁぁ〜!」ヘトッ
まる子「みんな、かっこよかったよ!」
たまえ「まるちゃんもね!」
城ヶ崎「みんな! 本当に、本当にありがとう!」
女子一同、それぞれ手をつないで飛び跳ね、喜びを分かち合った。
男子A「おい」
一同「あっ……」
92 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:22:17.50 ID:
hbDtxyyuO
男子A「見ての通りお前らの勝ちだ。正直完敗だったぜ」
男子A「約束どおり出ていくよ。二度と此処には近付かないようにする」
男子A「それと……」
地面に膝をつくと、静かに頭を下げようとする男子A。
しかし、咄嗟に伸ばされた城ヶ崎さんの双手によって止められる。
城ヶ崎「何やってんのよ!」
男子A「何って、どげz」
城ヶ崎「バッカじゃないの!? なに本気にしてるのよ!」
男子A「……」
93 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:25:48.85 ID:
hbDtxyyuO
城ヶ崎「私たち、使用権利なんてどうだっていいの!
此処はみんなの場所なんだから、みんなで譲り合って使えばいいのよ!」
男子A「……」
男子A「ああ、本当、その通りだよ」
城ヶ崎「わかってくれれば良いのよ。それに……」
男子A「??」
城ヶ崎「野球、楽しかったし! ねっ、みんな!」
一同「うん!!」
男子A「……」
94 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:27:22.03 ID:
hbDtxyyuO
男子A「う、うううっ……ぐすっ!」
まる子(あらら、この人は……。泣いちゃったよ)
笹山「泣かないで……」
男子A「俺、女には出来ないって、バカにして……!」
一同「大丈夫だって! 過ぎたことなんだからさ!」
男子A「本当に、ごべんな゙っ……!」
男子達「ごめんなさい!!」
95 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:30:32.31 ID:
uZZDdnDw0
後日、学校の教室。
まる子達は校庭でトレーニングを続けている男子A達を眺めていた。
まる子「折角の休み時間だってのに、何本ダッシュすりゃ気が済むのかね」
城ヶ崎「男子A達、野口さんに師事したそうよ」
たまえ「へぇ〜、野球うまいもんねぇ」
冬田「メモに練習メニューがびっしり書かれてるんだって」
かよ子「大変だぁ〜」
笹山「野口さんも乗り気だし、良い事ね」
男子A「コーチ……ダッシュの次は何だって!?」
男子B「タイヤ引き……」
男子達「うわああ〜……」
野口「クックックッ!」
96 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:31:51.76 ID:
uZZDdnDw0
余談だが、この男子A……。
将来、高校で甲子園を経験した後に投手としてドラフト2位でロッテに入団する。
故障に悩まされる時期もあるが、数多の輝かしい成績を記録し、チーム優勝にも大いに貢献。
選手として晩年を迎え、引退を表明した後、会見の席でこんな質問が寄せられた。
“長い野球人生の中で、最も記憶に残った人物は誰でしたか?”
少し間を置いてから、Aは微かな笑みを浮かべて、答えた。
「城ヶ崎」
直後、記者たちが眉をひそめたのは言うまでもない。
完
97 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:34:30.95 ID:ODL0TJ/O0
乙
98 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:34:41.86 ID:
uZZDdnDw0
一時はどうなることかと思ったが、何とか全部投下できた
見てくれた人ありがとう
99 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 01:35:09.09 ID:wSljhq840
乙
103 :
以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/08/18(月) 02:00:21.73 ID:LE2GhPdr0
なにこの心温まる話
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